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橋の彼方  作者: 千里空
神の子供たちはみな踊る
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光①

アキラのことをずっと妬ましいと思っていた。

僕達は双子なのに、なぜ彼だけが健康的な躰を持ち、外を自由に歩けるだろう。運命とか神とか信じていないけど、こうなってしまうのが偶然だったとしても、理不尽過ぎると僕は思う。

さっきのことだってそうだ。美雪がイジメられたのを見て、一樹はまっすぐに彼女の元へ飛び出した。僕には無理なことだった。相手は三人いるから、一樹だけじゃ勝てっこないだろうから、アキラを呼んだ。こういう時ほど自分の無力さを実感させられた。僕の代わりにアキラが解決していく様をみて、薄っぺらい紙のような翳りが一重重なっていくような気がした。

生まれた時、僕の分の元気まで奪ったではないか。そんな暗い考えもした。それはただ醜い嫉妬であることは自覚している。だから僕は自分のことを嫌った。

本当のこと、僕は別に彼のことが嫌いだと思っていない。

客観的に言えば、彼はいい兄だった。外の世界の出来事を沢山僕に教えてくれた。自分が何を見て何を感じたか、誰と仲良くなれたか、どういった遊びをしたか。そういうのを毎日のように飽きもせずに聞かせてくれた。責任からか同情からかは分からないけど、例え想像しかできなかったとしても、そういう話は僕にとって有難かった。

いつかは自分でそれらを確かめていくと夢想していた。

今頃彼はお母さんとお話しているんだろう。お母さんは僕達に優しいから、皆お母さんの側にいたいと思っている。独占したいと言っても過言ではないくらいだ。

お母さんに甘えたい、しかしそれを他の人に見せるのは少々嫌なわけで、お母さんのところへ行く時大抵一人だけという状況だった。

今ころ何の話をしているんだろう。きっと今日の出来事で持ちきりになっているはずだ。忘れるにもあまりに強烈なことだった。なら、あの事はきっと話してもらっていないだろう。

僕は偶然それを知ったけど、それはきっと大人の事情とか、知られてはまずいこととか、そういう込み入った話だった。

その日のことを思い出す。

僕の躰の具合がよくない日だった。薬を飲んだ後、意識の糸がかろうじて切れていない状態で寝ていた。その日お母さんが看病してくれた。

どれぐらい経つかは分からないけど、和彦のおじさんが来て、何か用事があるようで、お母さんと廊下で話した。

最初はよく聞こえなかったけど、いつもの商談話ではなく、少し気にしていた。

「あの人からはもう何も奪われたくないの」

いつもは違ってやや強気な口調でお母さんは言った。

「俺もこれ以上やつに加担したくはない。今度こそけじめ付けようと思う。協力してくれないか、静流さん」

「本当にいいの?あなただって無関係じゃないわよ。無事で済ませると思わないし」

「俺のことを気にしないでくれ。犯した過ちに責任を取るだけだ。静流さんは巻き込まれた部外者だから、ぜひこのチャンスを捕まえて、幸せを取り戻してください」

お母さんは長いため息をついた。

「ごめん……いえ、ありがとう。私は何をすればいいの」

「あいつにとって今は大事な時期なんだ。選挙が間近にあるからメディアへの露出は増えている。まずは俺らが握っている証拠をマスコミに流し、輿論で叩く。証言を取る時に静流の出番もあると思うので、そん時は頼む」

「わかったわ。それで…」

……

その後の話はよく覚えていなかった。

この家は歪な関係で成り立っていることは薄々気付いていたが、歪みの実態までは分からなかった。皆平気な顔で日常を過ごしていたが、水面下で何かが動き始めていることだけははっきりであった。

嵐の予感がした。自分達も決して蚊帳の外ではないと思った。

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