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橋の彼方  作者: 千里空
君の知らないところで世界は動く
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花畑

K

視界は暗闇に埋め尽くされていた。目を開けても閉じても同じ光景を見ている気がした。まるで宇宙が誕生する前の虚空の中を漂っているみたいに、現実と夢との見分けが付かなかった。五感は健在だ。体は電波受信の悪い機械みたいに、外界からの刺激をぼんやりと感じている。先刻までの出来事ははっきりと覚えている。

どれぐらい経ったか、上に微かな光が見えた。深海魚の如くその光に惹き付けられるように、それを目指して浮かび上がっていく。光源に向かって進み、暗闇が段々遠ざかって行き、やがて海面に上がったように、視界は懐かしい白に埋め尽くされた。

そこでようやく気付いた。ああ、これは瞼の裏で見た景色だ。

ゆっくりと目を開けて、先ず目に映るのは木目調の天井だった。下敷きが柔らかいベッドであることは遅れて気付いた。

ベッドから起きて、回りを見回した。知らない部屋だった。

境目の森にある丸太小屋と似た建物である。違いと言えばあそこよりここはもっと繊細的な雰囲気だった。整然と並ぶ調度品は家主の性格を垣間見る。ベッドのすぐ側に机が置いている。机の上に原稿用紙と木製の筒型ペン立てがあり、ペン立ての中はお洒落な万年筆と鉛筆は何本置いてあった。右側の壁に俺の身長ぐらいのクロゼットがもたれ掛かっている。向こうの壁に色々花の絵画が飾っている。色鮮やかのあれは自分の住む棟の客室を思い出させた。ただここにあの奇妙な絵はなかった。

部屋中に花のいい香りが漂っている。男の部屋にない独特な雰囲気からすると、おそらく家主は女性であろう。しかしその家主はどこにも見当たらなかった。

そもそも、自分はどうしてここにいるんだろう。暗闇に落ちる前は果てしない川の上を彷徨っていたのに、気が付けば知らない所のベッドの上で寝ていた。

意識を失っている間、何かがあったと考えるべきか。あの暗闇は夢で見た景色なのか?夢など一度も見たことがないはずだ。相変らず訳の分からないことばかりだ。

謎だらけの世界で更に謎が増えたような気がする。しかしここに留まっても何も分かりゃしない。なのでベッドを降りて、外を出ることにした。

ソファーとテーブルが置いている簡素な居間を通し、内側からドアを開いた。外の景色が目の前に広がり、今まで見たどの景色とあまりにも違い過ぎてびっくりした。

一面の金色の向日葵の海が目の前にあった。この白い空間を照らす太陽のように、生気に溢れている。その生気に当てられたように、例の霧が畑に侵入出来ず、遠く周りを囲んでいるだけだった。道理で視野がやけに広いと思った。それはとても新鮮な景色だった。

花畑に道辻があり、真っ直ぐなあれは花畑を四等分に分けた。小道は二三人が並べて通るくらいの幅があって、両側に人よりやや高い向日葵が生えていた。辻の真ん中、花畑の中心でもあるそこに、己の存在を誇示するように、白く丸いテーブルが置いてあった。違和感を覚えなくもないが、この世界じゃむしろあって当然のような物だ。

不思議や興奮の気持ちを胸に、その小道に沿って花畑に踏み入れた。足元は土が乾いて固まってできた道、両側は真っ直ぐに伸びる緑の茎がずらりと並んでいた。身長と同じぐらいの茎の狭間に暗い影が沢山できて、遠くから見る金色の花の海とは違う圧迫感があった。緑と黒が織り成す生命の流れを掻き分けて進んでいるようだ。息が詰まりそうな程の命の濃さが、今まで見てきた静寂な世界とは大違いだ。

花畑の中心にあるテーブルの前に着くと、回りに置いている四つの椅子に気が付いた。交差する四つの道の真ん中の位置にあり、何かの法則の元に置いてあったじゃないかと懸念している。テーブルの上にカゴがあって、カゴの中はバゲット二本置いてあった。その隣はティーセットが一式あって、ティーカップの中は冷めた紅茶が半分残っていた。

あの部屋と同じように、生活の気配がする。

主を探すように回りを見回した。そのうち、左手側から物音がして、そこに目を向けた。向日葵を掻き分けて、若い女性が目の前に現れた。

「あら?」

その疑問めいた声と共に、二人の視線がぶつかった。

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