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橋の彼方  作者: 千里空
深い闇へ
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深い闇へ

K

船着場から離れた途端、回りは例の如く虚ろな白に包まれた。水面に映る自分とボートの影は波のせいで歪んで見えた。視界に入る物は精々それだった。

緩やかに進んでいると思っているが、どれだけ進んでも回りの景色に変化がなく、水の流れも至って穏やかだった。さっきから同じ場所に釘付けされたようにさえ思った。

陸から離れたのは初めてなので新鮮な体験ではあるが、世界のルールに逆らえないとでも告げられたように、また終わりのない迷宮に閉じ込められた気がする。このままでは川を彷徨う幽霊みたいな伝説そのものになりそうで、ぞっとした。

しかし今更戻る気はしない。今は前へ進むことしかないのだ。ネガティブな考えを振り払って漕ぐことに専念した。

かなりの距離を進んだような気もするが、変わらない景色では確かめようがなかった。疲れも感じなかったし光加減は常に一定だしどれぐらい過ぎたかも分からい。一旦手を止めて、懐中時計を取り出して見た。針は前と同じ所を指していた。体感的に長いというだけで、大した時間は過ぎていないかもしれない。

出口に辿り着けるとして、その後は何するだろう。

唐突に考え始めた。

橋の彼方へ行くのだ。

今まで考えていた向こう岸のそれが正解でない場合は?

分からない。ただ向こう岸に答えがあるような気がした。昔の自分の残滓がそう言っているようだ。

それだったらここへ来ること自体、元の自分が”向こう岸”に辿り着けたことにならないか?

……

自分の中で対立した二つの意識に分かれたように、押し問答を繰り広げた。答えを見付けるための一歩を踏み出そうとすれば、疑問は足が地面に着く前にやってきた。

そして前触れもなく、「死」を考え付いた。

カイトによる、ここでの「死」は消えると同義で、与えられた時間を消費し切った後にやってくるのだ。つまり自らの意志で「死」を選ぶことはできないということだ。何もかもが自由な世界の中で、死することと出ることだけは不自由なのだ。あるいは両方とも同じ意味で、繋がっていたかもしれない。

幽霊というのが現世に思い残りがあるから、肉体が消え、魂だけの存在になってもなお現世に留まり続けるらしい。今の自分は幽霊以下の存在なのかもしれない。思い残す物の正体は掴めず、ただこの曖昧な世界を彷徨い続ける不毛な何かに過ぎない。

それがとても耐えなかったのだ。

その時、緩やかだった波が一気に動き出したように、ボートもそれにつられて揺れてきた。波がどんどん大きくなって、揺れも激しくなった。次第に漕ぐ余裕もなくなり、縁に掴まらないと水に落ちてしまいそうだった。もう漕がなくても、ボートは流されたまま勝手に進むようになっていた。

一体何が起きている?

ふと頭を上げて前を見た。そこに見慣れた虚ろな白は見えず、代わりに完全なる闇が待ち受けている。後ろに振り返って確かめようとする瞬間、今まで立っていた地面が急に抜けたように、虚空な闇に包まれて落ちていった。

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