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橋の彼方  作者: 千里空
深い闇へ
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軋轢

一樹

午後、六限目が終わった頃、日差しは柔らかくなった。生徒会室の窓からグランドが見える。僕は窓際に座り、漫然と部活動に勤しむ陸上部やサッカー部の生徒達を眺めていた。

汗まみれしながら苦しい呼吸を繰り返し、それでも強くなるために耐え続けている姿は眩しかった。青春の二文字を如実に表現していると思う。それをどこか羨ましさすら感じた。

子供の頃を思い出す。僕も無邪気に外を駆け回る時期があった。まだ世界に対し好奇心をいっぱい持っていた頃、ちょうど僕より二つ年上の友達に連れられてそこら中自由に探険し回った。もし僕達は普通の家庭に生まれ、普通の兄妹や幼馴染として共に生きていけたら、あの人達みたいに、どこかの輪に入り、共に青春を堪能していけるだろうか。

しかし、人は自らの生まれが決められない。意味のない仮設だ。現状が不満なら、自分の手で変えていくしかない。抗いたい物が大きいほど、それに伴う苦痛も必然的に大きい。グランド中を走り回る彼らのように、僕も何かを得るために強く辛抱しないといけない。道のりは気が遠くほど長く、しかし諦めたら僕はただの操り人形に成り下がってしまう。

光一を待ちながら、考えがどんどん海の底へ沈んでいくように、暗闇へゆっくりと潜っていった。

「遅れてすまん」

ドアが開けられたと同時に、光一の声が聞こえた。

窓から離れ、自分の席に着いた。彼のことだ。もう成果はあったんだろう。

「主犯は分かった。かなり派手にやっているからすぐに割れた。まぁ、想像してた通り、こっち側の人間だね」

光一は三人の生徒の写真を机の上に並べた。どこかで手に入れたかは知らないが、問う気はなかった。三人の顔は見覚えがあった。社交パーティーで何度も顔合わせた機会があった。確か小田綾子に龍造寺光華に伊吹雫、ちょっとした有名な企業の重役の娘達である。

「何故美雪をイジメた?」

「ちょっとね。龍造寺という子の彼に一悶着があったそうだ。その彼が女たらしでね、色んな女の子にちょっかい出していた。お前の妹さんにしつこく口説いたところ、ひっぱたかれたらしい。やられた当人は面子が丸潰れになったし、彼女として当然面白くなかっただろう。彼がちょっかい出した子に片っ端からイジメをやってたらしい。色んな意味で滅茶苦茶なカップルだね」

「そんな下らない理由で美雪が酷い目にあったの?」

「イジメなんて大抵下らない理由が発端さ」

「まぁ、犯人が分かったら結構だ。もう一つの件は成果あった?」

光一の眉の間は「川」字になって、残念そうに頭を振った。

「きっぱり断られたよ。お前、こうなるって知ってて黙っていたんだろう」

「まぁね。あの子は難しい性格しているから。説得できたら越したことはないと思っているよ」

光一は苦笑した。

「こう言うのは失礼かもしれないが、妹さんはあのことがなくても十分イジメの対象に成りうる。彼女はいつも一人ぼっち、どの輪にも入らないし、好意を持って接触しようとする者をも拒絶する。イジメに持って来い(まと)だ。むりろ今までイジメされなかったことが不思議だった」

「他人と関わりたくないだけでイジメられるというのが、余程おかしいと思うけどね」

「そう不貞腐るな。お前の言っていることは正論だと思う。しかしここは学校、嫌でも他人と同じ空間を強いられる。幾ら他人と関わりたくなくても、少し歩み寄る振りをして、協調性を見せないと弾かれる。そういうやつはまっ先に叩かれる。己の身のために賢くなれということさ」

それは本人だって分かるはずだった。そんなに器用に生きていられるならここまで拗れたりはしない。彼女なりの信念を持って、孤高を目指しているんだろう。

「今はそれに論じる場合じゃない。イジメのことをなんとかしないとだ」

「彼女が変わらない限り、今後は同じ羽目になることだって十分有り得る。加害者が違う人間になっただけさ」

「それは僕らがどうにか出来ることじゃない。仮にそうなったとしても、その時のことその時考えよう。今の方が大事だ」

ここへ来て光一は難色を示した。

「悪いけど、俺はここで降りるわ」

僕は信じられない表情で彼を見た。

「俺はできる限りのことをした。お前の妹ということで肩入れしようと思ったけど、あんな鉄壁は手に負えない。無駄なことをして、龍造寺達の恨みも買いたくない。非情だと思って構わん。後お前がなんとかして」

申し訳なさそうに光一は言い、ここを去ろうとした。

「感謝しているよ。情報持って来てだけでも」

光一は振り返り、一目僕を見た。

「友達としてのアドバイス。お前が本当に彼女を守りたいというなら、いつまでも安全圏で見守るものじゃない」

それを言い残して、彼は出ていった。

独り残された僕はただ苦笑いしかなかった。全身の力が抜けたように、椅子のもたれかかって、目を瞑った。瞼の裏に、微かな夕暮れの赤色が差した気がする。

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