あの場所へ
K
足元から石畳みの硬い質感が伝わってきた。大地を踏み付ける度、己の脳はそれに合わせて足音の幻聴を聞かせてくれた。建物から離れた途端、霧はすぐさま回りの景色を飲み込み、空中にぼやけた影だけを残した。
一人で歩くと、話できる相手もなく、回りは静まり返っていて、虚空の中を延々と歩くような錯覚しかねない。気が狂いそうだったから、自分の歩く音を想像していた。
ここはどこも同じような景色が繰り広げられ、行きたい場所を予め決めないと延々と霧の中を彷徨うことになる。だからカイトみたいな案内役が必要で、各所の座標を教えてくれるというわけだ。一度行ったことある場所は自分の中で座標として認識され、そこへ行きたい時は頭の中でその場所を思い浮かべると自然に辿り着ける。
最初に彼と出会ってよかったと思った。でないと俺はどれぐらいわけの分からない霧の中を彷徨っていたんだろう。
無論、カイトとは四六時中一緒に居るわかじゃない。カイトと共に行動しない時は自分なりにこの町を散策し、知り合ったやつと他愛ない話をするだけだ。暇を持て余す中、焦れったい感じがどうしても拭えなかった。
満たされていない魂が精一杯の声で叫んでいるようだ。早く見付けないと、欠けた物を。
空を見上げ、案の定霧のせいでよく見えなかった。この霧の彼方で、果たして本当の空はあるだろうか。思わずそう考えてしまう。青い空と眩しい太陽が恋しく思った。ここでは見たことのない景色なのに、知識として知っているのがとても不思議だった。
ここはあまりにも色彩に欠けている。どうしてここに暮らす人々はそれを気にせずにいられるだろう。俺は色のある世界が恋しくて、取り戻したいと思っている。
きっとその世界はここではなく、あの始まりの橋の彼方にあると思った。
「橋の彼方」
何故かその言葉に引っかかる。自分の住んでいる棟の客間に掛けているあの絵と同じように、人を惹き付ける何かがある。
もし自分の探す物はその先にあれば、それをよく調べないといけない。最初に立つあの場所を、だ。あの時は気が動転して、注意深く観察はしていなかった。だからもう一度あそこを調べれば何か分かるかもしれない。
もやもやした気持ちを晴らしたくて、あの欠落した橋を目指して歩き出した。




