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橋の彼方  作者: 千里空
深い闇へ
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通学路

一樹

早朝の電車の中で、窓ガラス越しに外の景色を見ていた。朝早く家を出たから、通勤ラッシュの前に電車に乗り込んだ。そのおかげで、座って流れて行く早朝の町の景色を見る余裕ができた。

美雪は少し離れた所に立ちながら本を読んでいた。同じ家を出て、同じ車両に乗っても、彼女が隣に来ることは決してない。あのクリスマス以来、僕らはずっとこの距離だった。

僕から何か話をしようとも、返事は返ってこない。道端に転がる石のように無視し続けてきた。そのことがかなり応えって、僕も声をかける勇気を失った。

きっと何か口に出せない理由があったんだろう。そう思い込んでいる自分がいる。口を効いてくれない以上、その理由も知る(よし)もないが。

回りは眠たげな目をしている学生とサラリーマンが疎らにいる。そんな中で本を読んでいる彼女はやや目立つと言っても過言ではなかった。もちろん、彼女が目立つのはもう一つの理由があると思う。

中学生になってから彼女の身長もかなり伸びたし、たった二年もの間に稚気がすっかり抜けて、大人になりかけた姿になった。母譲りの顔立ちと物静かな雰囲気と相まって、クール美人のようなイメージを持たせた。そんな彼女に、密かに恋心を抱いている男子もいるだろう。しかし彼女は男子どころか、女子の輪にも入らず、誰とも仲良くなることはなかった。学校ではずっと一人ぼっち、その意味でも目立っていた。

学校というのは小さな社会だ。目立つことは厄介事にも繋がる。そんな彼女に何かしてやりたいのが山々だけど、まともに会話できない今の関係じゃあとても無理である。

悶々と考えていると、僕らの降りる駅の音声をアナウンサーが流していた。

駅の構内を出て、南に五分歩いた所で今僕らが通う中学校に到着する。近所で結構有名な私立校で、半分ぐらいはどこかの金持ちの子供で、もう半分は成績優秀な特待生で成り立っているらしい。この付近では一番進学率高いと誇っている。

中学校に入る際、父からの言い付けがあった。生徒会長になりなさい、と。

「学校というのは社会の縮図と言っている人もいるが、所詮子供のこっこ遊び程度だ。しかし、子供の遊びでも、選挙活動という物は一応体験できるから、学生のうちにそれがどういう物かを身に覚えるといい。お前はいずれ私の後を継ぐ者だから、もちろん生徒会長を目指すべきだ」

父の言い付けに従い、一年から生徒会に入った。僕は新入生代表だったから、わりと入るのが簡単だった。一学期から普通に活動し、生徒会の運営について学び、二学期からの生徒会選挙に立候補した。普通は二年生が生徒会長を立候補するが、僕は父の名を借りて、学校では上辺を取り繕って人良さそうな役を演じてきたから、案外あっさりと一年のうちに生徒会長に当選した。

こうやって電車で学校に通うのもその演出の一環である。登校の途中、自然と他の生徒と一緒に歩いて挨拶し、他愛ない話をする。そうしている内に、回りの人が段々増えていくような気がした。

そしていつの間にか、美雪の姿が見えなくなった。

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