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橋の彼方  作者: 千里空
神の子供たちはみな踊る
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美雪③

雨の音が聞こえる。先程まではひりひりと太陽に焼かれたような気がするが、気が付くと暗くなって気温も何度か下がった。

何故こな場所にいるんだろう。ずっとぼんやりしたせいか、ここまでの経緯はあまり思い出せていなかった。

古びた神社の軒下で、二人で雨宿りしている。手は繋いだままだ。あの場所に行った記憶がある。その後は延々と出口のない思考を繰り返し、気が付けばこんな場所まで連れられた。多分雲行きが怪しくなり、彼が手を引いて誘導してくれた。

雨が大地を強く叩き付ける音を聞いて、現実に戻った。

引越しの話を聞いて以来、ずっと考え込んでいた。いくら考えても訳が分からないし、答えなんて当然出るはずもない。あるのはただ漠然とした不安と、一人で取り残された恐怖だった。

果てのない砂漠の真ん中で彷徨っていた旅人のような心境だった。目に入る物は砂と無限に思われる空だけ、行き先が分からなくて、ただ絶望に立ち尽くすしかない。

お母さんのいない未来、光や晶のいない未来、わたしのことを好ましく思わない家に一人だけ取り残される未来。暗闇しかない未来だと思った。想像するだけで、ぞっとした。

それを体が冷えたと勘違いしただろうか、一樹は私の肩を抱き寄せて密着してくれた。心の冷えが原因だったか、彼の温もりは凝り固まっていた心を少し解ほぐしてくれた。

蝉の声は雨の音に取って代わるだけで、夏の喧騒は相変らずだった。外の世界は雨によって隔絶され、ここにいるのは私達だけ。雨が止まいないように、と、これほどまでに願ったことがなかった。人生の中で一瞬を切り取り、それを永遠にするとしたら、今の瞬間であってほしい。

けど、それは儚い夢に過ぎない。やがて雨は止み、夢の終わりもやってくるだろう。その先はまた暗闇が待ち受けている。叶わないことを夢想して、これから残酷な現実と向き合わなければいかない自分にとってそれは毒でしかない。

「雨は嫌い」

雨に八つ当たりした。

「僕は好きかな。涼しくなるし」

明るく振舞おうとした一樹は、嫌いじゃなかった。

「砕けそうだから。何もかも」

「砕けるのは雨の方だろう」

「そうだね。バカみたい」

この対話自体もばからしい。でも言葉に意味を求めるじゃなく、言葉を発することで行き場のない感情をどこかへやってしまいたいから。

不意に、一滴の雫が頬へ伝わった。空から降ってきた無数の雫の一つと思いきや、口の中へ流れ込んで、塩味をしていた。何の涙か自分さえも分からない。

やがて、雲が薄くなり、空はだんだん元の色に戻った。雨上がりの世界は一時静寂になり、清々しいと思えるほど、それでいて虚しいとも思った。

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