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エクスプレス/ニート


遠くに行きたいニートの話


吾輩はニートである。名前はまだない。


あっ嘘です!滅茶苦茶名前あります!!鈴木です!鈴木と申します!!あ、そんなゴミを見るような目で見ないで!謝りますから!石投げないで!家に落書きもしないでー!!!


えー、ごほん、、大変失礼致しました。取り乱しました。いや、ホントすみません、、調子に乗りました。反省してます。もう二度としません、、いや、本当何でもするんで、、まじで。本当に、、

えー、それでは改めまして鈴木と申します。新卒で極々普通の一般企業に就職して2年。社畜として頑張っていましたがだんだん疲れてしまい色々悩んだ結果、仕事を辞めて実家に帰り暫くは色んなバイトを転々としながら生活していましたがそれも長くは続かず今は引きニートをしております。朝寝て夜中に起きカップ麺を食べながら深夜アニメを見てネットに批判を書き込み評論家ぶった日々を過ごしていたらいつの間にか引きニート歴が5年目に突入していました。

外に出ず働かずともご飯が出てくる生活は楽ではあるものの決して辛くないわけではなく孤独と恐怖と後悔でいっぱいいっぱいで壊れてしまいそうでした。そんなある日、あ、これ齧る脛失くしたらヤバいことなる、このままじゃ駄目だ外出なきゃ、、と思い立ち漸く外に出る決意をしました。そして特急列車に乗って今は移動中でございます。久しぶりに乗ったからか変なテンションになっております。ご容赦くださいませ。ってかどこ行こう。適当に切符買って始発乗ったけど行き先考えてないな。とりあえず遠くに行こうってことしか決めてない。どうしたものか、、、



 特急に飛び乗って今、、

とても久しぶりに穏やかな時間が流れている気がする、このままどこ迄行けるかな。どこにも行けないかもしれないけれど、、、



ピンチです。誰か助けて下さい。

えーあれから適当な場所に降りて定食屋さんに入ってみたのですがコミュ障発動したので逃げ出したい!今すぐに!早急に!迅速にぃぃぃ!!何で定食屋に入ったしちょっと前のオレ、田園風景に惹かれて降りなければ良かった!もうやだこの空間耐えられない、いっそのこと殺してくれ、、!



「ごめんなさいね〜。お待たせして。ご注文何にします?」


え、あ、う、店員来たんですけどどどどうしよう!ちゅちゅ注文注文えっあ注文しなきゃ、、

「え、あ、あの、この焼き、サバ定食を、、」

「はいはい。焼きサバ1ね。ちょっと待っててくださいね〜」


、、ミッションコンプリートぉぉお!死ぬかと思ったぁぁ。何とか耐えたぞ。頑張った。偉いぞ僕!水が旨い!



「ご馳走さまでした」

遠出で疲れた身体に沁みるぜ、、速攻で平らげちまったぜぇ、、大変美味しかったです。えぇはい。

にしても自分と全く関係ない他人の話はご飯のお供に最適ですね。良いBGMになりました。最近入った新入りが使えないとか大学生の息子が部屋から出てこず引きこもってて困ってるとかもうすぐ孫が産まれるとか親の介護の話とか、、皆さんたくさん悩まれてるようで働くって生きるって大変そうだなと思いました。他人事ですみません。他人だけど。、、とは言え引きこもりの少年は気になるので助けてあげたいなーとか思ったり思わなかったりするんですけど、、、関わりたくないなとも思うけども。



幾分か逡巡してみたがこんなどうしようもないこんなクズの代表で社会のゴミ以下な引きニートの分際ではどうしてやることも出来ないと結論に至ったため密やかに速やかに定食屋を脱出しようかと思います。とにかく早く立ち去ろう。逃げよう。そうしよう。

「あ、ああの!お金、こここに置い、と、きまふね!ご、ちそうさまでした!」

「は~い。ありがとうね~」


こうして定食屋を無事脱出した私は駅に戻りすぐに来た電車に乗りこれまでのことを思い返していた。朝日も昇らない内に家を出て、寒い暗い中始発を待って唯々ぼんやりと外の景色を見ながら電車に揺られた。体がバキバキだな。足痛いな、疲れたな、、人生色々あったなぁ、、再就職先見つからなくて鬱々としてたらバイトでミスしまくって若い雇われ店長に怒鳴られたり理不尽なことしか言わないお局様に意味不明に怒鳴られたり前職でノルマ終わらなくて一人残業してたり残業し過ぎて上司から怒られたり体調悪いのに誰にも言えなくて逆に迷惑かけたり、、社会人時代良い思い出なさ過ぎて笑える、、、学生時代は普通だった気がするんだけどなぁ、、友達もそれなりにいたし毎日のように皆で馬鹿騒ぎしたな、、勉強会したり休みに集まって徹夜でゲームしたり学校サボってゲーセンやカラオケ行ったり、、試験惨敗過ぎて救済レポートに助けられたりサークルの仲間と旅行行ったり、、楽しかったな、、



 足音が聞こえる。誰かの声が聞こえる。懐かしいような気がする。その声の方に進みたいと思った。何も知らない子供のふりをして、、



子供の頃両親に連れてってもらった遊園地でトイレの流し方が分からなくてトイレから出られなくなったことあったな、駄々捏ねまくって買ってもらった自分でおもちゃを壊したのに人のせいにして叱られたこともあった、小学生の時流行った雑巾がけリレー楽しかったな、、勝ちまくってハンデつけられたけど、、いつも誕生日には母さんが大きなハンバーグ作ってくれて、父さんはケーキ買って来てくれて、嬉しかったな、美味しかったな、、あぁ色々あったな。どうしようもない人生だったけど、迷惑かけてばかりで恥の多い人生だったけど恵まれた人生だった。

もし、叶うなら、、いや、叶わなくていい叶わなくていいから、永遠に覚めない夢をどうか、ください。




包丁はトントントンと軽やかな音をたて大鍋はコトコトと優しく朝を知らせる。あぁ、朝が来たのか。起きなくては――――


「あらお父さん珍しいテレビなんかつけて」

「おい、あいつはどうした?」

「あいつじゃないでしょう。息子に対してまったくもう•••今日はもう起きてるみたいよ。物音がするもの」


 今朝のニュースです。

本日明け方Y県•••にて男性の•••警察••身元を調査中•••


「あらやだ事件?怖いわね~」

「母さん」

「あらどうしたの?お腹空いた?」

「俺大学行ってくる」

「え?大学?今日?え?え?本当に?いつ?」

「今から行ってくる」

「え?今から?あらあらどうしましょう。送っていこうか?無理してない?」

「大丈夫だから心配しないで」

「そうは言っても~お店お休みしようかしら」

「大丈夫だから」

「え~でも••」

「おい」

「••何父さん」

「これ持ってけ」

「あらお父さん。お弁当なんていつの間に用意したの?ねぇ、やっぱり心配よ。お母さんも着いてこうか?」

「おい」

「なに?お父さん今それどころじゃ•••」

「仕込み」

「え?お店開けるの?今日くらいは休んでいいんじゃない?お父さんだって心配でしょう?」

「いいから仕事だ。お前は早く行け」

「うん」

カバンを持ってドアノブに手を掛ける。母はまだ喋っているけど振り向かなかった。

「父さん弁当ありがとう、母さん心配してくれてありがとう。俺、行ってくる」




お昼時―――。その店は忙しさのピークを迎える。女将は狭い店内を忙しなく動き回り大将は険しい顔で鍋を豪快に振るっていた。駅近だからか田舎にあるにもかかわらずこの店はなかなか人気のようで二人組の男はなかなか話し掛けるタイミングを掴めないでいた。その内の一人は若く如何にも新人といった雰囲気の男で少し不安げにそわそわしていた。そしてもう一人は白髪交じりの髪を少し掻きながら周りを見渡した。


「は~い。焼きそば大盛りと焼きサバ定食おまち~あっそっちのお客さん注文?焼きサバ定食2つと唐揚げ定食1つね~は~いちょっと待って下さいね~お父さん、焼きサバ2唐揚げ1お願い」

「はいよ」

「女将さーん。いつものよろしくー」

「はいは~いしょうが焼きのご飯大盛りね~あ、いらっしゃ~い。こちらの席にどうぞ~」


「センパイ、何か忙しそうっすね••」

「そうだな。とりあえずメシ食うか」

「そっすね!俺、腹減りました!」

若い男は待ってましたと言わんばかりにメニューを開き何にしよっかな~。あ、センパイは何にします~?と楽しげに聞いた。そしてセンパイと呼ばれた男はまるで子供のようにはしゃぐ姿にため息を吐きしょうが焼き定食と小さく呟いた。


「ありがとうございました~」

店が落ち着いた頃漸く男たちは動き出した。

「あのーすみません」

「は~い。お冷や?」

「あ、いえ••我々こういう者でして」

そう言って男たちは懐から警察手帳を取り出し女将に見せる。すると女将は目を丸くしあら?警察の方?警察がウチに何か•••?と不安げに尋ねる。

「お忙しいところすみませんねぇ。この男に見覚えがないかと思いまして••おい、写真」

「はいっす。ちょっと見辛いかもしれないんですけど、この写真に写ってる黒色のダウンを着てた男知らないですか?」

「あら、この人•••」

「し、知ってるんすか?!」

「う~ん••もう少ししっかり見たいからちょっと貸してもらってもいいかしら?思い出せるかも」

「はい、どうぞ。」

「見たことがある気がするのよね~」

「どんな些細なことでも構わないので思い出したことがあれば仰ってください」

女将はエプロンのポケットから老眼鏡を取り出しまじまじと写真を見つめる。そして暫くすると何かを思い出したようにハッと顔を上げた。

「あ!この人この前ウチに来ました」

「本当ですか?!この前っていつですか?」

「えぇ、そうよ。あのお客さんだわ。ウチは地元の常連さんばかりで見慣れない人だったから覚えているわ。確か•••3日前の今くらいの時間だったかしら」

「3日前ってことはセンパイ••「そのお客さん何か言ってなかったですか?様子が変だったりとか••」

「変わったことね~あ!」

「何かあったんですか?」

「このお客さんねテーブルに手紙みたいなの置いて行ったのよ。息子さんに渡して下さいって書いてあったわ」

「手紙?••内容は?」

「それが読んでないのよね~。息子のインターネットのお友達か何かだと思って、勝手に読むのは悪いと思って息子にそのまま渡したわ。ご飯食べた後暫くボーッとしたかと思ったら急にリュックサックから紙を取り出して真剣に何か書いてたみたいだから手紙はきっとそれね。あ、あとお金多く置いていってたのよ。お釣り返したいんだけど連絡ってとれます?ってかあのお客さん何かあったの?」

「その手紙は今どこに?」

「••多分息子が持ってると思うけど」

「それでは息子さんはどちらに?」

「今は大学に••」

「何時頃のお帰りか分かられますか?」

「さぁ?この前大学復帰したばかりで忙しそうにしてるから••それで何があったの?」

女将は質問にスルーされたことに少し苛立ちを見せ不服そうな顔で再度質問する。刑事たちは顔を見合せ仕方ないといった風に口を開く。

「亡くなられたんです」

「―――え?」

「発見されたのは一昨日の明け方。場所はY県の湖の近くでした。身元を証明出来るものは何も所持していなかったので、最寄り駅から順に駅近にある店一つ一つに聞き込みしていたところだったんです。良かったです。知ってる人がいて」

「亡くなった?」

「はい。事件性があるのかどうかさえも分からない状況なので情報が欲しいのです。――息子さんが戻られましたら連絡をください」

刑事たちはそう言って財布を取り出し女将に勘定を促す。帰り際名刺を渡し何か思い出したことがあっても連絡くださいと圧をかけるように言い放ち店を後にしようとした時――ガチャッとどこからかドアが開くような音がした。そして小さくただいまと声が聞こえた。刑事たちは声のした方へ体ごと視線を向けた。

「あら、帰ってきた」

「息子さんですか?」

「えぇ。今呼んできますね」

「お願いします」

女将が去った後新人刑事はふぅと息を吐いた。死体が発見されてからずっと最寄り駅から1駅1駅ずつ駅周辺を地道に聞き込みしてきたのだ。それがやっと進展するかもと安堵した。

「安心するのはまだ早いぞ。安心するのはこのヤマ終えた後だ」

「はいっす!あーやっと聞き込みが終わるー」

新人の聞いてない様子に先輩刑事ははぁ••とため息を溢し髪を掻いた。そして程なくして女将が息子を連れて戻ってきた。

「お待たせしました~」

「••何か俺に聞きたいことがあるって聞いたんですけど」

「すみませんねぇ。帰ってきて早々――我々こういう者でして••」

女将の時と同様に警察手帳を見せると息子は少し不安そうにいいえ••と呟いた。そして写真を見せこの男を知らないかと尋ねるとうーんと考え込み出した。

「••見覚えない、ですかね?」

「うーん。多分知らない人ですね。この人の名前は?」

「すみません。分からないんです。名前も何処から来たのかも全く••」

「そうですか••えーと手紙のことでしたよね?ここじゃあれなんで俺の部屋でも良いですか?手紙、部屋に置いてあるので」

「えぇ。構いませんよ」


「――あの手紙の人、亡くなったって本当ですか?」

部屋に入るや否や質問を投げ掛けられ刑事たちは面を食らった。といっても質問の内容にではない。少年の顔色は白く、とても不安そうな、今にも泣き出してしまいそうな――そんな表情をしていたのだ。そんな様子に刑事たちは面を食らったのだ。そして、やはりあの男と知り合いだったのか、手紙にはとんでもないことが書かれているのではないかと逡巡した。暖房も入ってないのに背中に汗が流れた。

「すみません。これだけは先に聞いておきたくて••」

「•••お知り合いだったんですか?」

「あ、いえ••母はネトゲの友達だと思ってるみたいですけど知らない人です。まぁ、俺が覚えてないだけかもしれないですけど」

「そうですか」

先輩刑事は考える。この少年に伝えるべきか否か。もし男の死体が他殺だった場合、手紙を受け取ったこの少年は何か秘密を握っている可能性が高い。それならばどう伝えたものか―――

「Y県の湖の近く、林の中で首を吊った状態で発見されました」

「あ、おま••「発見したのは偶々そこに立ち寄ったという地元の人でした。死亡推定時刻はおそらく5時半頃―死因は首吊ったことで全体重で頸部に圧迫されたことによる縊死。所持品は死体の近くに置いてあったリュックに入っていた財布と複数枚のA4サイズのルーズリーフそして首を吊るために用意したと思われる縄と鋏、――財布には身元が分かるような物は何もなかった為他殺と自殺の両方を視野に入れて捜査していますが今のところ自殺の線が濃厚と我々は考えています」

先輩刑事の制止の声を無視して新人刑事は淡々と状況を説明した。説明を終えると先輩刑事に勝手にすみませんと謝罪し息を吐いた。

「おまえ、また••勝手に•••」

「あーすみません。教えた方がいいと思って••でもまぁ大丈夫ですよ」

「大丈夫って何で分かる」

「勘っす!」

新人刑事のあっけらかんとした態度に先輩刑事は勘って、おまえなぁ••とため息を吐き髪を掻いた。―――そして暫く静かな時が流れた。時計の針がチクタクと動く音と微かに電車が止まる音が聞こえ少年は決意を決めたような顔をし刑事さん••と語り出す。

「――手紙はルーズリーフ2枚を手紙のような形で折られていました。母が言うにはテーブルにお金と一緒に置いてあったそうです。息子さんにお渡し下さいとメモも一緒に添えて••1枚目には自分は引きニートだと、口論の末に人を殺したこと、自分もこれから死ぬと書かれていました。そして2枚目には引きニートは楽なようで辛いことであり毎日全てから逃げたくて仕方なくなるのだと、引きニートには決してなってはいけないと諭すようなことが書いてありました」

少年は慎重にハキハキとした声で語り真っ直ぐな目で刑事を見た。その目はとても力強く先程の不安そうで泣きそうだった少年と同一人物と思えない程で刑事たちはまたしても面を食らった。

「••その手紙は今何処に?」

「此方です」

そう言って少年は鞄の中から手紙を取り出しいつの間にか手袋を嵌めていたらしい先輩刑事に渡した。読んだら捨ててほしいって書いてあったから本当は捨てるつもりだったんですけど••と呟きまた不安そうな顔をした。

「何で捨てなかったんですか?」

「何で?•••何でだろう••多分捨てちゃいけないような気がした、から?」

「そうですか••ってか先輩、俺にも手紙読ませて下さいよー」

「手袋」

「このとーりバッチリっすよ!」

「証拠品になるかもしれないからくれぐれも丁重に扱えよ」

「分かってますよー。もー先輩は心配性だなー」

「おまえには前科があるから言ってんだよ••」

手紙を新人に渡すと先輩刑事はすみませんねぇ騒がしい奴で••と少年に向き合った。そして雑談を始めた。定食がおいしかったからまた来たいとか女将さんの働き振りが素晴らしかったとかどこの大学に通っているのかとか聞く人が聞けばまるで事情徴収のようだったが明るく柔らかく親戚のおじさんのように親しげに刑事が聞くため緊張感と不安が和らぎ少年の顔色が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。そして淡々とした話し方から少し砕けた話し方に変わり聞かれたことにすらすらと答えた。その様子に新人刑事は感心すると手紙に向き直り一字一字決して見逃さまいとしっかりと読み始めた。


手紙を読み終えた新人刑事は少しガッカリした。一字一字しっかりと読んだが手紙には彼が一番求めていた男の身元が分かるものは何一つ書いておらず全て少年が言っていた通りの内容だったからだ。落胆した表情のまま先輩刑事に目配せをすると先輩刑事は呆れたように小さく息を溢し頭を掻き少年に聞く。

「それにしても何で男はたまたま立ち寄った定食屋の見ず知らずのあなたに手紙を残したのでしょうねぇ」

「あ、そういえばそうっすね!何でですかね?何か心当たりはありますか?」

「え?俺に聞かれても••」

少年は困惑そうにしつつも真剣に考える。何で手紙を見ず知らずの俺に残したのか、手紙の人と自分に何か共通項は••少年はう~んと考え込むが暫くするとあっと声を上げいや、でも••とまた考え出した。

「何か思い付きましたか?」

「え?あ、いや、でも••」

「どんな些細なことでも構いません。何か気づいたことがあれば仰って下さい」

「••手紙の人と俺の共通項について考えてみたんです。もし手紙に書いてあったことに嘘がないとしたら俺とこの人は元引きこもりだってとこが同じだなって思って•••でも、そんなことじゃ理由にはならないですよね•••?」

「引きこもり?」

「はい••俺、大学でちょっと辛いことがあって3ヶ月ぐらい部屋に引きこもってゲームばかりしてたんです。何度か大学行こう、部屋を出ようって思ったけどなかなか踏み出せなくて••もういっそこのまま大学辞めて引きニートしようかなって考えてたんです。でも、そんな時にこの手紙を読んで変わろうって思ったんです。このまま引きこもってたらもしかしたら俺も誰かを殺してしまうんじゃないかって怖くなって••」

「そうだったんですね••大学で何かあったか聞いても?」

刑事が尋ねると少年はえーあー••と歯切れが悪そうに頬を掻いた。

「あっ言い辛かったら無理しなくて良いですよ」

「い、いえ大丈夫です。何かのお役に立てるなら話します。••と言っても全然大したことじゃないんですけどね。サークルで盗難騒ぎがあった時犯人って疑われて誤解はすぐ解けたんですけどそこからその話がサークル以外の人たちにも広まって尾ひれが付きまくり大学中で犯罪者って言われて行き辛くなったってだけで••」

少年は罰が悪そうに答える。

「だけじゃ、ないじゃないですか!」

新人刑事は驚き目を尖らせ少年にどうして誰かに相談しなかったんですか!これ立派な名誉毀損ですよ!!と詰め寄る。少年は想像もしていなかったことを言われえっと••あの••と戸惑い慌て先輩刑事に目で助けを求める。それに気づいた先輩刑事は新人の襟首を猫の首根っこを掴むかの如く引っ張りその辺にしとけと諭すがでも、先輩、だって••と新人は反論した。

「でももだってもねぇよ。刑事が感情的になってどうする。いつも冷静に考えて行動しろと言ってるだろ。本当すみませんねぇ」

そう言って新人の頭を下げさせる。新人は頭を抑えられると自分の行動を反省したのか勢いよく顔を上げ配慮が足りなかったことを少年に謝罪し頭を下げた。少年は刑事に頭を下げられ慌ててすぐ頭を上げるように促した。

「嬉しかったです。そんな風に言ってもらえて••」

少年そう言って少し照れくさそうにはにかんだ。その姿を見て刑事たちはホッと肩を撫で下ろし話を手紙の男に戻す。もし少年の言う通り手紙を残した理由が同じ境遇だったからだとしたら男は何故少年のことを知っていたのだろう。でもどうして―――。

コンコンガチャ。突如ノックの音が部屋に鳴り響き扉が開いた。男たちは一斉に振り向くとそこには女将がおぼんを片手に立っていた。

「すみませんね~何もお構い出来なくて。貰い物ですけど良かったらお煎餅とお茶をどうぞ~」

「あ、いいえーお構いなくー」

「それで?何か調査に進展はあったの?」

「母さん••今大事な話してるから」

「何よ~私だってあのお客さんのこと気になるしいいじゃな~い」

頬を膨らませ口を尖らせる仕草に少年はため息を吐き母がすみませんと刑事たちに軽く頭を下げる。その姿に刑事たちは感心ししっかりした息子さんですねと女将に告げた。それに気を良くしたのか女将はみるみるうちに上機嫌になりそうでしょう!そうでしょう!うちの子しっかりして良い子なのよ~小さい頃からしっかりしてて賢くてね~と親バカ全開で子供のことを語り出した。少年は慌てて止めようとするが女将の口は止まらずマシンガントークを繰り広げやがて少年は諦めて顔を真っ赤にして俯いた。

「大学もね難関の国立大学を一発合格でね~それ でね~•••本当に頑張り屋で••真面目で良い子だから部屋から出てこなくなった時は何があったのかってもしかしたら大学内でいじめが起きてるんじゃないかって心配で心配で••大学に電話しようかって何度も思ったわ。でも、お父さんがあいつの人生なんだから信じて待っていてやれって言うから聞きたい気持ちを堪えて待ったの。本当に良かったわ••あなたがまた前に進めるようになって••本当に、本当に良かった」

瞳にうっすら涙を浮かべ声を震わせながら語るその姿はとても弱々しく少年は眉を下げ小さく心配かけてごめんと溢した。

「いいのよ。あなたがまた前を向けたならそれでいいの。でもこれだけは覚えていて。お父さんもお母さんもいつだってあなたの味方だから」

「母さん••ありがとう」

微笑ましい親子の姿に少し暗かった部屋の空気が明るくなるのを感じ新人刑事は二人の様子をニコニコと見つめる。

「いいっすねー。親子愛って••。先輩、俺実家帰りたくなってきたっす」

「お前何の目的でここに来たか忘れてるだろ」

「え?いやぁ••忘れてないっすよ。身元不明の男について操作しに来たんすよね!ここまで長かったっすねー」

もう既に全部終わった気でいる新人にはぁとため息を吐き先輩刑事はあーごほんと咳払いをし親子の注目を集める。はっと二人の世界から戻った親子はす、すみませんと照れ臭そうに刑事の方へ向き直る。

「我々はそろそろ署に戻りますね。手紙は暫くお預かりしますがよろしいですか?」

「あ、はい。どうぞ」

「ありがとうございます。おい、行くぞ」

「はいっす!」


「それではお忙しいところを長居してしまいすみません。何か思い出したことがあれば連絡ください。あ、あぁ••手紙のことでお二人には近いうちに署に来てもらうことになると思うのでその時はご協力お願いします」

帰り際靴を履きながら刑事たちは言う。少し遠くからはテレビの音が聞こえる。N県で夫婦が撲殺されたらしい。それをボンヤリ聞き流し刑事たちは定食屋を後にした―――。



刑事が来た日から一週間くらい経った頃、僕たち親子は警察署を訪れていた。昨日警察から電話があり例の手紙に関わった二人(つまり僕と母)に署まで来てほしいと言われたからだ。今日は特段予定は無かったので僕と母は車で署まで行くことにした。受付を済まし案内された通りに向かうと何か慌ただしそうに刑事たちが動き回っていた。その中にはこの前の刑事たちもいたがとても話しかけられる雰囲気ではなかったので二人で隅の方で待っていると新人刑事の方が僕たちに気づいたのか手を挙げた。

「あ、来てくださったんですね!お待ちしてましたー!」

お待ちしてましたなんて雰囲気じゃないけど••と僕は思ったが忙しなく動く人の波をすり抜けてやって来たので口を噤んだ。

「ご足労頂いてありがとうございます!いやーバタバタしちゃっててすいませんねー」

「い、いえ••こちらこそお忙しいところにすみません。何かあったんですか?」

「えぇ、まぁ••とりあえず移動しましょっか!先輩!空いてる部屋使いますねー!」

彼は歯切れの悪そうに言い淀み話を変えるように大声で一際忙しそうに話している集団へと言葉を投げ掛ける。その中にはこの前来た先輩刑事の姿もあった。彼はこちらを一瞥し僕たち親子に気づくと、いらしてたんですね。お忙しいところをありがとうございます。今日はそいつに担当させますので••と淡々と言って去って行った。


別室に案内された僕たちは指紋を取り新人刑事からいくつか話を聞いた。あの手紙からは3人の指紋が検出されたこと。一つはY県で見つかった死体の男のもので残り二つの指紋を照合するために手紙に触った僕たちに来てもらったとのこと。そしてあの手紙は死体の男が書いたものでほぼ間違いないとのこと。彼の身元が分かりしかもN県で起きた夫婦惨殺事件の犯人である可能性が高いということ。そのせいで今署内がバタバタしているとのことと僕たちが聞いたらいけないようなことまでたくさんの話を聞いた。

「僕たちにそこまで話して大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫。その内ニュースになる筈だから!あ、でもニュース出るまでは他言無用でお願いいたします」

それでいいのか、警察••と僕は思ったが聞いてしまったものは仕方ないと諦めはい、分かりましたと苦笑いで返した。

「あ、そうだ。女将さん」

「はい。何でしょう?」

「息子さんの話って結構お店でしたりとかします?」

「え?えぇ、まぁ••ウチは駅の近くにはあるけど来るお客さんはほとんど昔馴染みの地元の人ばかりだから••この子も小さい頃から可愛がってもらっててね~。よく元気にしてるか?とか聞かれるのよね~」

「あぁやっぱり、そうでしたか••」

それが何か••?と聞こうとすると彼はスッキリした顔で僕の目を見て喋り出す。

「ずっと疑問だったんです。何で男は手紙を残したのかって••。捜査していく内にいろいろ男のことが分かってきて君が言う通り引きこもりという共通点が理由じゃないかってことになったんです。でも、そうなると新たな疑問が浮かび上がって••何で男は君のことを知っていたのかって―――」


帰りの車の中――。車内は暗い空気に包まれている。刑事の話を聞いた母は急に黙り込み顔を真っ青にしてしゃがみ込んだ。ぶつぶつと何かを呟き出し様子が明らかにおかしいので僕たちは帰路につくことにした。あれから母はずっと俯いていて涙を流している。僕は母に何と声をかけて良いか分からずただ黙ってゆっくり運転する。家に帰ると父がキッチンで料理をしていた。

「あれ?父さん休みの日に料理してるの珍しいね。どうしたの?」

父は無言で僕たちに席に着くように促す。僕は終始俯いている母の手を取りゆっくりと座らせ自分も席に着く。僕たちが席に着くと父は湯気が立ち込める豚汁をことん、と二つ置きぶっきらぼうに食えと言い放った。僕は父の行動に戸惑ったが美味しそうな匂いのする豚汁にお腹が鳴りいただきますと二人で静かに食べ始めた。父の作った豚汁は具材が少なく味付けが薄く感じられ、よく母が作るものとは違っていた。ちらりと母を見ると無我夢中で豚汁を食べておりもうすぐで食べ終わりそうだった。食欲はありそうな母に僕はホッとし豚汁を啜った。


「ごちそうさまでした」

二人で手を合わせ完食する。その頃には母の顔色はすっかり良くなりほんの少し目に光が戻っていた。 そしてゆっくりと口を開く。

「懐かしいわね、この豚汁••。昔、お父さんがこのお店開いたばかりの頃、メニューを考えてたときに作ったやつ••具材も少ないし味も薄いからお客さんからこんなのに金払えるかって怒られたのよく覚えてるわ。あの頃は全然お客さん来なくて来ても不味いって怒られて••お父さんもわたしもどうしたらお客さんに食べたいって思わせるようなメニューが作れるかって研究したりしたわね•••」

「えっ••」

僕は驚いた。父が開いたこの定食屋は僕が産まれた時には凄く繁盛していて父も母もいつも忙しそうにバタバタしていたからだ。僕が目を丸くし驚いて二人を交互に見ていると母は悲しい表情になり、またゆっくりと言葉を続けた。

「わたしね、怖くなったの。あのお客さん、わたしの余計なお喋りのせいで、死んじゃったんじゃないかって••わたしが息子のことを誰にも言わなければ、あのお客さんは犯罪を犯すこともなくて、誰も死ななかったんじゃないかって••」

再び涙を流す母に父は背を向けたままだった。僕はどうしていいか分からず母の手を握りしめた。唯々力強く違う、と大丈夫だと言い聞かせるように―――。




定食屋の息子さんへ


わたしはニートです。しかも引きニートってやつです。突然のお手紙大変失礼します。貴方様に引きニートについて教えたく勝手ながら手紙を書かせていただきました。

引きニートは楽です。好きな時間に起きて好きな時間にご飯を食べて好きな時間に寝る。時間に囚われることなく自由に安全に生きられる。勉強やノルマなんてものはなく、同僚や上司とのいざこざすらもなくてすごくすごく楽です。

ですが、引きニートは苦しいです。辛いです。楽な筈なのに毎日罪悪感と孤独に震え、早く抜け出さなきゃって思えば思う程外に出るのが怖くなって狭い部屋に引きこもって動けません。今日こそは、明日こそはってドアを開こうとすると動悸がして目の前が真っ暗になりそれが毎日続くと、もう何もかも面倒になって全部にイライラして両親に当たってしまようになります。前に進まなきゃいけないのに、早く抜け出して働かなきゃいけないのに、両親をこれ以上苦しませたくないのに、怖い、寂しい、ごめんなさい、辛い、苦しい、どうして、どうして、どうして。

わたしは人を殺しました。些細なことで口論になりカッとして気がついたら目の前には頭から血を流し動けない二人の男女がいて自分の手には血塗れの木刀がありました。ここで漸くわたしは家を出ました。遠くに行きたいと思ったからです。

わたしはこれから死のうと思います。もう疲れました。歩くことも止まることも疲れました。引きニートにはこれしかないのです。

急な手紙に加え長文大変失礼しました。ご両親に鯖味噌美味しかったですとお伝え下さい。ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。それでは頑張って。

はじめまして。水無月なな子と申します!友人に勧められ小説を書くことになりました。色々初めて過ぎて不恰好な文章で誤字脱字も多く読みづらいかと思いますが生暖かい目で読んでくださると幸いです。ってかタイトル詐欺感半端ないな。何でこうなったし…それに頭の中で思い描いた文章にならなかったし悔しいことこの上ない!次はもっと上手くやりたいです。長くなりましたがまだまだ未熟な私ではありますが精進して参りますので今後ともよろしくお願いいたします。

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