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12日目:エーミルさんは恋愛中

いつも誤字報告ありがとうございます。

 モーンブラーン♪ モーンブラーン♪ おーいーもー♪


 テト、いつの間にか歌が合体している。まあ良いんだけど。

 ナルと合流してから、ひとまず珈琲店に戻ってイオくんの買い物を済ませることにした僕たちである。今はテトの上にナルが乗っかってかわいいONかわいい状態なので、道行く人たちがすごく微笑ましい視線を送ってくれている。テトは上機嫌で歩いてるけど、ナルは若干申し訳無さそう。気にしなくていいよ……。

 たまにチュ? とか鳴いてるナルに、おいしいののうただよー! とか答えてるテト。なんとなく会話は想像出来た。


「よし、じゃあ、豆買ってくるからここで待っててくれ。すぐ戻る」

「はーい!」

 はーい!

 イオくんがさっきの店に戻って、どうせすぐに買い物は終わるので、僕たちは外で待機。イオくんがカウンターで話をしていた犬系獣人さんが、この珈琲直売所の店主さん、ビストさんなのだそう。ドーベルマンを思わせる黒髪に黒耳の、きりっとした顔立ちの人だった。

 獣人さんはベースになっているのが犬系なら筋力、猫系なら俊敏、狐系なら魔力、蜥蜴系なら物理防御が伸びやすいステータスになるんだけど、それはトラベラー達の話。住人さんだとほとんどヒューマンと変わらない。ちょっとだけ耳が良いとか鼻がいいとかは個人差であるらしく、ビストさんは鼻の良さを活かして香りの良い珈琲を作ることが目標なんだそう。

「こだわりのある人ってどこにでもいるよねえ」

 こだわりー?

「そういえばテトなんで語尾伸ばすの?」

 シーニャのまねー。

 なんて話をしながらイオくんを待っていた僕たちに、「ナツさん?」と声がかかったのはその時だった。


「はい?」

 顔を上げると、声を掛けてきたのは金髪の女性だった。すっきりと短くした髪にモデルさんのように高い背丈、姿勢の良い立ち姿……格好いい感じの女の人だ。

 ……さっき僕の名前呼んだのこの人だと思うんだけど、会ったことあるっけ? ミニマップで<識別感知>を使ってみたところ、住人さんらしい。……覚えがないんだけど……。

「えっと……?」

 思わず困惑を表情に出してしまったのを見て、女性が慌てて口を開く。

「ああ、すみません。私です、普段は甲冑を着込んでおりますのでわかりませんよね。エーミルです」

「エーミルさん!?」

 あ、なるほど! そういえばエーミルさんはいつもフルフェイスの兜をつけていたから素顔を知らない。よくみたら耳がエルフの尖った耳だし、この声は確かにエーミルさんの声だった。

「こんにちは! 今日はお仕事休みですか?」

「はい、こんにちは。今日明日は休みなので買い物にきたのですが、ちょうどいいところでお会いできました。ナツさん、先日は家の父が大変失礼を……」

「あ、いえ、あの、強烈なお父さんですね……」

 神妙な顔で頭を下げたエーミルさんは悪くないと思うけど、つい本音が出てしまう。あの様子では、エーミルさんは恋人が出来てもとても紹介とか出来ないのでは、とイオくんとも話したっけ。


「本当に、私ももう45歳になるのですが、いつまでも過保護で困ったものです」

 深々とため息をついたエーミルさんである。

 ジンガさんと話したとき、サザルさんが50過ぎて独身だとうるさく言われる、みたいなこと言ってたって話があったけど、そもそもエルフさんの年齢ってどういう感じなんだろう?

「エーミルさんはエルフですよね。すみません、僕もエルフではあるのですがトラベラーなのでちょっとこちらの事情がわからなくて。エルフさんって寿命が長いんですか?」

「はい。ヒューマンの寿命が大体80年とすれば、エルフの寿命は平均で大体220~230年くらいになります」

 おお、思ってたより長い。ヒューマンの3倍近く長生きするんだ。

「そうなんですね。ということは、ヒューマンの感覚だとエーミルさんは今20歳ちょいくらい……?」

「まあ、だいたいそのくらいですね。ちなみに、平均寿命で言うと鬼人が100年、獣人が130年くらいです」

 そうなんだ。鬼人さんってなんか日本人的には長生きしそうなイメージがあったけど、ヒューマンと同じくらいなのか。誰かが鬼人さんとヒューマンが結婚するケースは多いって言ってたけど、寿命が近いところも影響してるのかな。

 獣人さんも130年ってことは結構長生きだけど、人類のなかではエルフさんが飛び抜けて長寿って感じみたいだね。半分妖精類だから長生きなんだろうなあ。

「父も、アレでもう100歳を超えているんですけどね」

 と軽く首を振るエーミルさん。なんかこう、苦労が見えるね。


 エーミルさんも珈琲を買いに来たんですか、と問いかけようと思ったその時、店の扉が開いてイオくんが中から出てきた。僕たちを見て、エーミルさんに視線を向けて、その表情がちょっと強張ったので、慌てて先に口を開く。

「イオくん! エーミルさんです!」

「……おお、誰かと思えば」

「こんにちは。先日は父が失礼を」

「いや、俺は特に。ナツが絡まれていたから、ナツが許すならそれでいい」

 許します許します。

 まあ強烈なお父さんはともかく、エーミルさんには悪い所なんてないので! と僕が頷いていると、店の中からビストさんがひょいと顔を出して、ぱあっと表情を明るくした。

「ミル、来てたのか。どうぞ中へ!」

「ビスト」

 ……エーミルさんの表情もほんのり柔らかくて明るいものに……こ、これは……! ラブだ、ラブの波動だ! この2人もしや恋人同士では!

 僕は慌ててステータス画面を開き、住人情報を確認。ビストさんは19歳……さっきの話だとエーミルさんはヒューマン換算で20歳くらいだから、年齢的にも釣り合いが取れる。なるほど!

 これはお邪魔せずにとっとと退散したほうがいいね。



 そそくさと退散してギルド前通りまで引き返し、シーニャくんのお店へ向かいながら僕は大きく息を吐いた。

「びっくりしたー! エーミルさんとビストさん、どう見ても恋人同士だよね?」

「そうだろうな。なんでナツがそんなテンション上がってるんだ」

「恋バナには多少興味があります! というか、エーミルさんのお父さんが過保護っぽかったから、ちょっと心配だったんだよね。隠れて上手く恋愛してるみたいで良かったなって」

「あー。アレも事情がありそうだよなあ」

 多分クエストなんだと思うんだけど。後で首を突っ込んでみるのも良いかもしれない。多分あの人をどうにかしてビストさんとエーミルさんとの仲を取り持つとかそういう感じの何かがあるはず。エーミルさん良い人だから、幸せになってくれると嬉しいんだけどな。


 ナツー、あまいのかってー。おみまいにはあまいのってクルジャいってたー。

 憩いの広場前に差し掛かったときそんなことをテトが言い出したので、イオくんに伝えてお菓子を買ったりしながら、11時前にはシーニャくんのお店に到着。

 野菜を使ったクッキーのお店が出ていたので、病人に少しでも栄養になるようにそれを選んでみたよ。かぼちゃクッキーは多めに買っておいたので、あとでテトにも食べさせてあげたい。あとは定番の人参、ほうれん草のクッキーと、ナルの希望でナッツのクッキー。10枚くらいで1袋だったから、他の人達の分も……10個くらい買っておけば良いかな?

 そうそう、問屋通りで梱包材を買えたんだよ。と言っても紙袋だけど、ないよりあったほうがいいから10枚ほど購入しておいた。早速これが役に立つね!

 で、たどり着いたシーニャくんの店では、案の定クルジャくんとシーニャくんが必死にナルを探していて……。

「お、おばかー!!!」

 とシーニャくん渾身のお叱りを受けたナル、大反省中である。


 もともと妖精類であるシーニャくんは契約獣への愛が深いからねー、涙目で心配したことを叱ってくるシーニャくん相手に、さすがのナルもしゅんとしおれている。

 僕たちはクルジャくんにすごく感謝されて、ひとまず接客用のソファに落ち着いた。

「テト、おおきくなった、ね」

 でしょー! ほめられたよー!

「明日には、ナツさん1人なら、乗せられるかな?」

 ナツといっしょにとぶのー。

 お茶を出しながらクルジャくんとテトが微笑ましい会話をしている。そっかー、飛ぶのかー。なぜか自慢気に羽を広げてばさばさしているテト、どうやらアピールのようです。

「クルジャくん、病院の場所教えてもらっていいかな? 僕たちもお見舞いに行くから、ナル連れて行くよ」

「あ、はい。助かります。この店、従業員が、少ないので。手が、足りてなくて……」

 クルジャくんはさらさらと手元のメモ用紙に地図を書いてくれた。それを受け取った瞬間、ショップカードとしてメモの姿が変わる。……変換されることとかあるんだ? 初めてのパターンだ。


 病院の場所は、あの高級お宿の「緑水亭」のある川南通りを南に進んで、突き当りの大通りが「病院前通り」なので、そこを西方向へ。城壁近くの結構広いスペースが「サンガ総合病院」、となっている。

 ナルは南方向だってことだけ、どこかで聞いたんだそうだ。問屋通りも、南方向に伸びてるもんね。

「ありがとうクルジャくん。あ、そうだ、ちょっと気になったこと聞いても良い?」

「はい、なんでしょう、か」

「あのさ、エルフさんと獣人さんって結婚できるの?」

 ……イオくんがじとーっとした目で見てくる。いや、分かってるよ僕だって下世話だって。ただ純粋に気になっただけなんだよ、この世界結婚事情とかどうなってるんだろうって!

 クルジャくんは僕の質問が予想外だったみたいで少し考えてたけど、やがて「えっと」と口を開いた。

「分類の、ことは、わかりますか?」

「人類とか妖精類とか?」

「はい。基本、分類が同じ、なら、結婚は、できます。子孫も、残せるので」

「おお。じゃあエルフは……半妖精類で半人類だったっけ」

「はい。エルフは、妖精類とも、人類とも、結婚は可能、です」

「そうなんだ! よかったー」

 エーミルさんはどうやら悲恋系ではないようだ。安心した僕に、クルジャくんは不思議そうに首をかしげる。どうしてそんなことを? って顔だ。

「あ、ごめんね急に。友達の話なので」

「そう、ですか。ナツさん、誰かと、結婚するのかと」

「しないよ!?」

 あ、そういや僕もエルフですからね、はい。違います。

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