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12日目:出来る新人は探偵にもなれる

 さつまいもを食べ終わった僕たちは、軽く店頭を冷やかしながら珈琲を探す。


 朝市で塩を売っている店があったけど、ここでは胡椒やハーブとブレンドしたものが売られていて、リアルで言うところの塩胡椒っぽい。胡椒って、剣と魔法のゲームだと高価な物なことが多いんだけど、中世ヨーロッパ時代の史実に基づいているらしい。アナトラ世界では普通に胡椒が流通しているので、気軽に買うことが出来る。

 他にも、朝市で仕入れたばかりの果物をスムージーにして売っている店があったり、その隣の店では簡単なコインケースをその場で作って、名入れサービスをしてたり。足踏みミシンという存在を初めて見たよ。

 変わったお店だと、染料を調合している店があって、画家さんや陶芸で色付をしている人たちが注文してたりする。あとは仕入れた布に、柄になるよう色を染めて売る店とかあって、思わず色染めの工程を見学してしまった。絞り染めとか言葉では知ってたけど、実際染めてるところ見る機会なんてないもんね。

「テトも白いから染まるかもねー」

 しろがいいのー。

「ナツもなんなら染まるぞ?」

 だめー! ナツもしろがいいのー!

 テトがイオくんに一生懸命にゃあにゃあ言ってるんだけど、和むね。


 やがて通りの中央辺りに差し掛かったとき、どこからか珈琲の匂いが漂ってきた。

「お」

 と真っ先に反応したイオくんが、周辺を見渡す。

「この辺に焙煎所がありそうだ」

「いい匂い。んー、でもそれらしい店がないね」

 近いことは分かるんだけど、どこからこの匂いがやってくるのかよくわからない。もう少し先かな? と思っていると、テトが僕を見上げる。

 このにおいのがほしいのー?

「そうだよ。イオくんが好きな珈琲って飲み物だね」

 あまいー?

「うーん、甘くないけど、甘くも出来るよ」

 んー。んとねー。こっち!


 すんすん匂いを嗅いでいたテトは、尻尾をぴんと立てながら歩き出した。

「イオくん、テトがわかるって」

「有能」

 だよねー。猫ってリアルでも匂いに強かったっけ? 犬のほうが得意なイメージだけど、きっと人間より嗅覚が鋭いんだろう。

 テトについて行くと、大通りにつながっている名もなき細い路地へと足を踏み入れる。僕たちが入るとき少し違和感があったから、案内されるかショップカード持ってないと来れない場所なのかも。並んでいる店は、手前からガラス細工を使った小物の店、布の端切れを使ったパッチワークの店、そして手前から三軒目が珈琲豆の店だ。

 ここ!

 テトが店の前でお座りして、褒めて褒めてという顔をする。僕が撫でる前に、今回はイオくんが「良くやった!」と力いっぱい褒めた。わしゃわしゃと撫でられたテトは、ちょっとびっくりした顔をしてから、僕の前までとことこやってきて、ほめられた! と報告する。

 なんでテト、イオくんに褒められると毎回僕に報告するんだろう。かわいいからいいんだけど。謎。

「褒められてよかったねー、テトえらい!」

 と僕もついでに褒めたところ、でしょー? とドヤ顔をするので、やっぱ僕に似てきたなこの子。


 こーひーおいしい?

「うーん、人によって好みは分かれるかなあ。イオくんは苦いの好きだからねえ」

 にがい……、ナツすき?

「…………の、飲めるよ!」

 好きか嫌いかって話だと、嫌いではない、って感じの位置付けになるね……。美味しくて飲んでいると言うより、珈琲を飲んでいるという事実に満足できる感じというか……。

「あ、でも甘くすると美味しいから! あとでイオくんに出してもらおうね!」

 わかったー。

 テト、僕が好きなものは美味しいと思っていそうなところがある。まあ僕の好きなもの甘いものが多いからな……。


 珈琲屋さんは、「ビスト珈琲直売店」となっていた。シンプルに黒地に金の店名が刻まれたプレートを表に出していて、店自体の色合いも真っ黒だ。

 イオくんが嬉々としてドアを開けて中に入るのに続くと、店内はより珈琲の匂いが充満している感じだった。嗅覚の良いテトは大丈夫かなとちょっと心配したけど、全然平気らしく、店内をきょろきょろしている。

 くろーい。

 だそうだ。そうだね、店内も黒基調だね。

「ナツ、なんかリクエストあるか?」

「も、モカ! あれならブラックでも飲めるはず!」

「正直に本音を言うと?」

「イオくんの作るカフェオレ美味しいのでお任せで、ドヤ顔は許されます!」

「知ってた」

 ニッと笑うイオくんである。ブラック珈琲飲むと満足感はあるけど、美味しいかと問われると僕にはまだ早いと言わざるを得ないからなー! 


 このお店では、カウンターで好みの味を告げると店員さんが合いそうな豆をいくつか紹介してくれるらしく、試飲もさせてくれるらしい。その代わり、購入は1キロからなので、お店とかでたくさん使うところ用の店って感じだ。

 スーパーで売ってる珈琲の袋、あれが200グラムだもんね。1キロって言うとあれを5袋ってことだから、結構な量だ。でもインベントリに入れておけるから、時間が経って酸っぱくなることはない!

「好みとしては苦みの強い、香りがいいやつだな。カフェオレに向いてる豆があったら」

「それでしたらこちらの……」

「…………産地は……なのか」

「はい。…………ですので、栽培地も……」

 なんか小難しい話してるので僕は店内を見てようっと。

 そうそう、昨日シエラさんに聞いたんだけど、契約獣は基本的にお店に入っていいんだって。入っちゃだめなところは、ちゃんと店の外に契約獣の入店お断りの張り紙とかをしているらしいので、それだけ確認すればいいらしい。

 つまりテトは、基本的にどこのお店に入っても怒られないのである!


「樽がたくさん並んでるねー、これ全部珈琲豆なのかな?」

 おまめー?

「そう、珈琲って豆を焙煎して……砕いて? お湯を注いで作るんだよー」

 かふぇおれ? っていうのはなにー?

「カフェオレは、苦い珈琲に砂糖とミルクを入れて甘くしたやつだよ」

 おおー。

 テトよく分かって無さそうだけど、とりあえず甘くするということは理解したようだ。えーとこれは……ヨンドから運ばれてきた豆か。産地がヨンドなのかな? あ、でもこっちにサンガ産のもある。これがナナミ産で、こっちは……クルム産だ。地図で言うと北の方の街ばっかりだな。栽培に適してる土地ってことか。

 えーと確か珈琲は高地で栽培されるんだっけ? なんか山の名前地とか結構豆の名前になってたし。あ! そういえばヨンドへ行くには山を登るって……つまり、ヨンドは高地だから、珈琲栽培に適してるってことだ。サンガもイチヤに比べたら高いところにあるし、ナナミとクルムも高地なのかなあ。


 僕がそんなふうにナルバン王国の地理について考えていると、暇そうに尻尾をぱたぱたさせてモンブランの歌を歌っていたテトが、急にぴんっと尻尾をまっすぐにした。

 ん? なんだろう、なにかあったのかな?

 しばらくキョロキョロしていたテトは、そのままたたたっと店の出入り口へと走っていき、体当たりでドアを……ちょ、テトそれは乱暴! 待って待って外に出たいなら僕が……筋力5だから無理だった! イオくん! イオくーん!

「何やってんだお前ら……」

 テトがドアを壊さないように必死で抱きついて止めてた僕、救世主イオくんの声が聞こえて全力で感謝。

「何か急にテトが外に出たがって! ちょっと開けてもらっていい?」

「あー、いやちょっと待て。――ビスト! すぐ戻るから一旦外に出る。準備しておいてもらえるか?」

「構いませんよ。お取り置きしておきますね」

「すまん、助かる」

 そとー! はやくー! とおくいっちゃう!

「なんかよくわかんないけど遠く行っちゃうから早く開けろって!」

「おう」


 イオくんが店のドアを開ける。飛び出すテト、続くイオくん、そして遅れる僕である。……俊敏っ……!

 こっちー!

「イオくんテトに付いてって! イオくんの位置ならミニマップで分かるから!」

「分かった。無理すんな」

 びゃっと人混みに飛び込むテトと、それを危なげなく追いかけるイオくん。ぐ、ぐぬぬ。絶対、絶対振らないからな俊敏……っ! もうここまで来たら意地があるんだ!

 走ってもどうせ追いつけないので歩きにして、人とぶつからないようにだけ気をつけてミニマップ上のイオくんのアイコンを追いかける。しばらくするとアイコンが止まった。問屋通りの最南端くらいの位置で、サウザン川のすぐ近くだね。

 早足で人混みをすり抜けてそこへ向かうと、テトとイオくんの姿があって……あ、あれは!

「ナル!? どうしてここに!?」

 ハイデンさんの契約獣のナルが、テトに前足で抑えられてジタバタしている。

 こらー。だっそうしたらだめー。クルジャこまるー。

「チュー! チュチュ、キュッ!」

 えー。ばしょわかんない。

「チュ!」

 ナツー、びょういんどこ? いきたいってー。


「ナツ、こいつら何言ってるかわかるか? テトがナル見つけて飛びかかったから、とりあえず逃げないよう確保したんだが」

「脱走してきたらしいよ。病院行きたいって」

「あー。ハイデンか」

「……午後の予定、お見舞いにしても大丈夫?」

「ああ、気になってたしな」

 ハイデンさんの名前を聞いて、ナルはぴたっと動くのをやめた。それから僕とイオくんを見上げて、「チュ……」と何やら懇願する表情。ハイデンさんが心配すぎて脱走してきた結果、ここに迷い込んだということだろう。

「ナル、病院の場所は僕たちはわかんないけど、分かる人に聞くから、一回シーニャくんのところに戻ろう?」

「チュ……」

「お見舞いに行きたいって言ってからじゃないと、シーニャくんもクルジャくんも困るよ」

「キュウ……」

「ハイデンさんが心配なのも分かるし、僕たちもお見舞いに行きたいと思ってたから。一緒に行こうか」

 まあ、今回お目当ての珈琲豆は、すでに買えたも同然だし。その後の予定は別に決めて無かったから、ちょうど良いか。時間もまだ10時半くらいで、十分余裕がある。


「ね? 僕たちと一緒に行こう」

 のってくー?

「連れて行くのは構わんぞ」

 ナルは僕、イオくん、テトの顔を順番に見てから、「チュ!」と鳴いた。テトが足をどけるとペコっとお辞儀をしている。うーん、リスもかわいい! シーニャくんのところで回復したからか、毛並みもふわっとしてるし。

 元気になったこの子を、無事にハイデンさんに会わせねば!

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