11日目:イオくんの特殊スキル
読み返したはずなのに前の話でとんでもないミスしてました。
誤字報告いつも本当にありがとうございます。
「【ダークアロー】!」
「【強撃】! ナツ、そろそろ自爆くるぞ、ランス用意!」
「了解!」
さて、リバーイービル戦なんだけど。
最初に強いの1匹相手にしたからか、その辺に群れているレベル10~13の個体を各個撃破するなら、全然難しくない。盾にダメージ与える系のアーツはやっぱり使ってくるらしく、イオくんはせっかく良い盾をもらったのに初心者の盾に付け替えて対応していた。耐久力が減っちゃうのはもったいないもんね。
「よし、たため! 【連撃】!」
「【サンドランス】!」
HP1割くらいなら、僕の【サンドランス】とイオくんのアーツで畳み掛ければ倒しきれるので、結構柔らかい敵だ。そしてドロップ品は「リバーイービルの毛皮」と「貝の欠片」、たまに「白光貝」という綺麗な貝殻が落ちるんだけど、<鑑定>によればこの白光貝は装飾品としても染料としても人気のあるものらしい。
「魔石出た?」
「1個出たな」
「これで3つ目か。結構戦ったんだけどなー」
職業レベルは結構順調に上がったんだけど、魔石が思ったよりドロップ率低かった。僕はスキルで補強されてるはずなので、その僕でも20戦近くして3つ目だ。いや、もっと凄くドロップ率低くてそれこそ100戦とかしないと落ちないような超レアアイテムもあるかもしれないんだけどね。イビルドッグが火の魔石を落としてたけど、そっちはそんなにドロップ率渋い感じしなかったんだよなあ。
「っと、<剣盾連動>スキルがMAXになった。スキル組み直したい」
「いいよー。そろそろ夕方だし、街に戻る?」
「あー、プレイヤーレベルがあと少しなんだよな。レベル13のリバーイービルあと2匹くらい倒せれば」
「じゃ、そこのセーフエリア行こう」
ちなみに僕たちがレベリングしている間、テトはホームで日向ぼっこしながらお昼寝している。
えーと、スキルは……結構使ったからかいつの間にか<原初の呪文>のレベルが2に上がってるのと、<節制>がレベルMAXで発展スキルが出ている。<節制>はMP10%節約スキルなんだけど、地味に<原初の呪文>にも影響があって凄く助かってるから、これの発展スキルは欲しいね。
えーと、攻撃系アーツの使用MPを20%下げる<攻撃節制>か、全ての魔法系アーツの使用MPを15%今下げる<強節制>。これはどっちか片方しか取れないっぽいので、無難に後者を取得。
あとは<ヘイト低下(小)>がMAXになってるから、<ヘイト低下(中)>を取得。……溜まったSPの分だけどんどん減っていく……。早く次の転職してSPたくさんもらいたいところだよ。
「SPが増えないー」
「お前SP20のスキル2つも取ってるからなあ」
「あ、<闇魔法>のレベルが上がったから【カオスギフト】って魔法が増えたよ。敵にランダムなデバフを5秒間与えるってやつ」
「おお。5秒か、パラライズより長いな。ランダムって所がネックだが」
「狂化とかあったらちょっと迷うよねー。使ってみるけど、効いたらラッキーって感じかな」
混乱系で暴れられたりすると、それはそれで使いづらいんだよね。あと、毒無効とか麻痺無効とか、無効のスキルを持っている敵にそのデバフは強制付与出来ないし、耐性がある場合も確率になっちゃうから、ちょっと運要素が強い。
「イオくんは? 何か覚えた?」
「<剣盾連動>が<剣盾マスタリー>になった。剣術系スキルと盾術系スキルの切り替えがスムーズになったり、今まで剣術系アーツと盾術系アーツを連続で出そうとすると微妙なラグがあったのがなくなるらしい。多少、威力も上がる」
「お、いいじゃん!」
「あと俺にも出たぞ赤文字スキル」
「えっ見せて見せて!」
特殊スキルだ! どういうのかなーと思って横からイオくんのステータス画面を覗き込んだところ、イオくんが指さしたスキルは<守護の心得>というものだった。
「えーと、取得条件は?」
「条件は、一定時間同じ人間とパーティーを組み続け、一度も解散やメンバー変更をしていないこと。かつ、前衛として後衛を守り、一度も後衛を死なせていないこと」
「おお……一定時間ってどのくらいかな。僕たち開始からずっと組んでるけど、このスキル出たのは今だよね?」
「多分プレイ時間だな……リアル時間で10時間か、ゲーム内経過時間で150時間か。どっちだろうな、掲示板に投げてその辺は任せよう。でもこれ注意書きで、以降パーティーの解散やメンバー変更、後衛が一度でも死んだ場合はリセットされ、このスキルは次に条件を満たすまで使用不可となるって書いてあるんだよな」
「えー……」
使用不可ってことは、SP消費してそのスキルを取得しても、条件から外れたらその効果は得られなくなるってことだよね。それってちょっと厳しい条件だな。僕たちの場合だと、凄く強い敵に遭遇して僕が死に戻ったらそこでアウトってことになってしまう。
「あと後衛を守ることが条件の一つだから、前衛職のみのパーティーとかでは取得出来ないだろうな」
「うーん、なんか制約が多いね。効果は強い?」
「強い。戦闘において全ステータスを+3する」
「うわ強!」
思わず叫んでしまったけど、これはかなり強い。高級な宿屋に泊まった後、全ステータスバフがどれだけ強いか知っているからこそ、破格に思える。
「後衛がいるだけで、戦闘中は常に? それすごいよ、めっちゃ強い!」
「だよなあ」
「僕たちの場合はパーティー変更する予定無いし、イオくんが強くなれば僕が死ぬ確率も下がるわけだから、取ったほうがいいような気がする」
イオくん、今SP余裕あるもんね。あ、でもこれだけ強いとSPどのくらい使うんだろう。
もう一回スキルを横から確認すると……あ、SP30ですか、うわあ。ちょっと軽率に勧めちゃったけど30だと迷うね。
「消費SPえっぐい。基本スキル?」
「一応な。けど、発展スキルを出すにはレベルMAXにするだけじゃだめで、別の条件もあるらしい」
「あー、いやでも、これより上があると思うと……」
今後+5とか+10とかになっていくのだとしたら、相当有用。掲示板とかに流せば欲しがる人はたくさんいるんじゃないだろうか。例え大量のSPを使うにしても!
「取れるし、取るか」
しばらく考えたあと、イオくんはそう言ってスキルを取得した。イオくんのSPが一気に14まで減る。次のために貯めて置かなきゃいけなくなったのは僕と同じだけど、<原初の呪文>より基本スキルのSPが多かったわけだから、発展スキルは更に多いよねえ。
「一応掲示板にも書いとくけど、どうだろうな。このスキル欲しがるやつはあんまりいないかもな」
「え、なんで? こんなに強いのに」
「アナトラのプレイヤーはソロも多いし、パーティーって基本流動的だろ。俺達みたいに最初から2人でやるって決めてるプレイヤーはそこまで多くないと思うぞ」
「そんなもん? 如月くんも相方待ちでしょ?」
「あそこは前衛2人だろ」
「あー、そっか」
一応、魔法剣士は前衛職扱いなんだったっけ。それに、双方都合よく時間合わせてログインできるパーティーってそこまでいないかもね。
「もともとこの手のゲームはパーティーが解散したり抜けたり増えたりってのが当たり前だろ。そういうのに慣れてると、ずっと同じパーティーで固定されるの嫌がるやつも多いしな。普段組んでる固定の相手がいても、この日は盾の都合がつかないから一時的に外して知り合いの別の盾入れてパーティー組み直すとか、よくやるだろ」
「そんなものかなあ。こんなに強いスキルなのに」
「今は特殊スキル、結構色んなのが掲示板に報告されてるしな。もっとコスト低くて使いやすそうなのも多いぞ。これは強いのは強いんだが、条件から外れた時に使えなくなるのがやっぱりネックだ。特に後衛は基本すぐ死ぬ」
僕はそんなに無謀な戦闘しないから、そこまで死なないけど。
でも格上に挑みたい人たちだったらそりゃ後衛はすぐ死ぬか。つまり取得するのも維持するのも難しいのに、SP30も使う重いスキルだから取っても活用出来るか微妙ってことだね。
「ま、俺達みたいにはじめから固定でやってくのが決まってるところなら、便利かもしれない。どこかでうっかり条件から外れても、ずっと同じパーテイーでいるならそのうちまた条件クリアするんだろうし」
なるほど。イオくんなら無駄にならないよね、きっと。
「僕が急にインフルエンザとかにかからないことを祈ってて」
「真夏にインフルにかかったら逆にすげえんだよなあ。頑張って健康を維持しろ、俺が守ってやるから」
「くっ、イケメンは無差別にイケメンなこと言っても許される生き物だというのか……!」
「普通に」
「イオくん頼もしい! 僕が死なないように頑張って欲しい」
「ナツも頑張って生き残れ。俺のスキルを消さないために」
けらけら笑いながらイオくんがスキルチェックを完了し、ステータス画面を閉じた。
「よし、せっかくステータス+3なんだ、ウォータースパイダー倒して帰るか」
*
基本3匹つるんでいるウォータースパイダーを倒して、僕とイオくんのプレイヤーレベルは無事に上がった。 職業レベルの方を20まで上げれば次の転職なんだけど、まだ先は長いなあ。
イオくんの全ステータス+3については、宿に泊まったときのバフには少し劣るんだけどレベルアップで上がったステータスもあるからか、あの時と同じ感覚で戦えたとのこと。後ろから見ててもイオくんが苦戦してない感じは分かったので、僕も戦闘中に色々試させてもらった。
<原初の呪文>は、戦闘中に色々応用して使うのは結構難しい、というのが結論だ。
とにかくしっかりしたイメージが根本にないと、適当に使おうとしても発動しないんだよね。上手くいったのは、敵の動きを阻害するために使った【強風】と、氷柱を敵の上からガンガン落とすだけの【氷柱】。これらは攻撃魔法ではないから、敵からのヘイトを一切買わないというのが特に大きな利点だった。
フレンドリーファイアのないアナトラでは、敵に向けて強風吹き荒れていても味方のイオくんには一切影響がないので、敵が一方的に動きを封じられている中、イオくんは通常通り攻撃が出来る。これは相当楽だったみたいで、すっごく久しぶりにイオくんから「天才か!」という褒め言葉をいただきました。
ふふん、僕だってやれば出来る子だからね!
氷柱のほうは敵にダメージを与えられたりして良かったのは良かったんだけど、落下したあとの氷柱が自然消滅しなかったので、結果としてイオくんの立ち回りを邪魔してしまった。改善の余地ありだね。氷の塊を残しておくのもなんなので、ちゃんと北門へ帰る前に【解凍】しましたとも。
夕暮れ時の時間帯、綺麗な夕焼けを見ながら北門まで戻ると、出るときはいなかったエーミルさんが門のところにいる。交代したらしい。
「エーミルさん、こんにちは!」
「おや、ナツさんとイオさんですか。おかえりなさい」
「ただいまです!」
エーミルさん、相変わらず甲冑姿なので顔はわからないんだけど、物腰柔らかくて話しやすいんだよねー。あ、そうだ。兵士さんになら武器屋さんの場所聞けるかな。
「エーミルさん、手頃な値段の武器屋さんがあったら、場所を教えてもらえませんか? イオくんの盾を買いたくて」
「武器屋ですか?」
「北門通りの武器屋さんしか今のところ見つけてないんですけど、あそこは僕たちの手が届くようなお値段じゃないんですよ」
「ああ」
エーミルさんは納得したように頷いた。北門通りは高級店が立ち並んでいるので、武器屋さんもショーウィンドウに飾ってある武器の値段が最低5,000,000Gから、みたいな感じなんだよね。知らない間にクエストをクリアしてて、報酬がしれっとギルドカードに振り込まれてることがあるから貧乏ではない僕たちだけど、あの値段はちょっと無理だ。
「今、イオさんが装備している盾はなかなかのものだと思いますが、それより良いもので安価なものと言われると難しいですよ」
確認するように問われる。ウォータースパイダーは盾壊し系アーツしてこないから、イオくんはテアルさんの目録でもらった盾を装備していた。大きさは初心者の盾より一回り大きいくらい。装備に筋力30以上の制限があって、物理防御力と魔法防御力が両方+5されるし、強化もできる「軽戦士の盾」というものだ。
良いものだというのは分かるし、強化して使っていけるのはポイントが高いんだけど、その分重いので、初心者の盾ほど気軽にぶん回せないのがイオくん的には不満点らしいよ。
「これほどじゃなくて良いんだ。もっと軽くて扱いやすいやつを予備に持っておきたくてな。主に使うのはこっちになると思うが、耐久度が減ってきた時に一時的に置き換えが出来る盾があれば」
「ああ、なるほど。確かに備えは大事ですね」
納得したように頷いたエーミルさんは、少し考えてからショップカードをこちらに差し出す。受け取ると、それは淡くキラキラと光っている、剣と盾を配置した図案のカードだった。武器屋・アイアンガード、とある。
「そちらは、その。実は私の実家になります」
「エーミルさんのご実家、武器屋さんだったんですか!」
「はい。その、自分の実家を人に勧めるのも少々照れくさいものがあるのですが。家なら腕の良いドワーフの職人もおりますし、適切なものを適切な価格で提供していますので」
エーミルさんは確かに少し気恥ずかしそうにしている。そう言えば中学校のときの同級生も、実家が中華屋さんなんだけど、親しくならないとそのことを教えてもらえなかったりしたっけな。「家の飯は世界一うまいと思ってるけど、そんなのクラスメイトに言ったら身内びいきだと思われて恥ずかしいじゃん」とか言ってたっけ。結局その子は実家を継ぐために調理師免許を取るんだとか。懐かしいなあ、今度食べに行こう……。
「綺麗なカードですね、ありがとうございます! 行ってみます」
「はい。……あ、家のものには、私からの紹介だとは言わないでいただけますか。少し、その、あれですので」
「分かりました!」
なんだか言いづらそうなので詳しくは聞かずに了承する。だってこれどう見てもレアカードだ、エーミルさんにとって大事なお店ってことで、そんなお店を紹介してくれたということは、僕たちを信用してくれているってことなのだ。
信用には信用で返すのが道理だと思います!
「冒険者通り、かあ。朝市の会場のすぐ北くらいかな?」
「寄って帰ろう。価格帯を見たい」
というわけで、エーミルさんにお礼を言って北門を離れる。
歩き出した途端にホームから外に出てきたテトが、ごはん? と小首を傾げて僕の前に立ちふさがったので、とりあえずわしゃわしゃーっと撫でておいた。お前ー、実は魔力だけで十分で食べ物いらないくせにー、食いしん坊めー、かわいいなー!
しかし、まだご飯ではありません!




