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11日目:キヌタくんと秘密のメモ

 イオくんがテトにレモンジェラートを食べさせている間に、僕は自分の分を食べながら周囲を見渡した。この夫婦がいるってことはキヌタくんもいるかなって思ったんだけど……。

「ピタさん、キヌタくんは?」

「ああ、今そこでお姉さんと遊んでるのよ。よく屋台で一緒になる店の方のお嬢さん」

 ピタさんが指さした方向には、10歳くらいの犬耳の女の子とオセロっぽいゲームをしているキヌタくんの姿があった。ボードゲームかな? そっと近づくと、どうやら2色のコマを使って……五目並べだなこれ。キヌタくんはまだ5歳なのでお姉さんにコテンパンに負けている。

「うー、かてないよー」

 しょんぼりと呟くキヌタくん。

「私の勝ちー!」

 ふふんと得意げな犬耳女子。

 まあ子供だから勝負事は勝てたほうが楽しいよね。でもキヌタくんのほうが大分年下なので、ちょっと手加減してあげて欲しいな。10歳だからそれも難しいかもしれないけど。

 とりあえずジェラートを食べきって……っと。今日はキヌタくんに渡したいプレゼントがあるからね! ほんと、どこかで包装用紙を買っておかないとなー。


 もう一回! と女の子がコマを集めている。でも、キヌタくんはちょっと飽きてきてるみたいで、周囲を見渡して、僕とばっちり目が合った。

「おにいちゃん!」

 ぱあっと表情を明るくしたキヌタくんがたたたっと僕に駆け寄ってくるので、弟ほしい勢の僕としてはとてもほんわかする。そして急に僕のところに走ったキヌタくんを「私が遊んでたのに……」と拗ねて見ている犬耳女子。

 これは……ひょっとしてあれですかね、ロマンスが将来的に生まれるパターン……。ツンデレ幼馴染というジャンルはいつの時代も人気があるものである。

「おとーさんのおみせにきたのー? いらっしゃーい!」

「そうだよー、ジェラート美味しいね。キヌタくん元気だったかなー?」

「げんき!」

 わーい! とじゃれついてくるキヌタくん、とても和む。

「今日はキヌタくんにプレゼントを持ってきたんだよ。はい、これ」

 忘れる前に先に渡しておこう、ラリーさんの絵本を! というわけでインベントリから取り出したねずみくんの本をキヌタくんに差し出してみる。タイトルは『ねずみくんのぼうけん』、保存のお守りを使用済みなので長持ちするはずだ。

「絵本だよ」

「えほんー! いいの? ありがとう!」

 キヌタくんは絵本を受け取ると、それを高く掲げた。目がキラキラしている。本はあんまり出回ってないらしいし、キヌタくんにとっても珍しいものなのかもね。


「わー! わー! とりさんでてくる?」

「とっても賢いカラスが出てくるよ。キヌタくんは読めるかなあ?」

「うー、まだあんまりわかんない……」

 ふむ、キヌタくんはまだあんまり文字が読めないのか。でもそれなら、後ろでこっちをちらちら気にしている女の子が多分読めるよね?

「誰かに読んでもらう?」

 と水を向けてみると、女の子は耳をピンっと立てた。

「わ、私が読んであげてもいいわよ!」

「ほんと? ありがとう!」

 うんうん、仲良きことは良きことです。

 予想通りの女の子のセリフに満足していたら、キヌタくんはポケットを探って何かの紙片を取り出すと、

「えほんのおにいちゃんには、とくべつにこれあげるね」

 と僕に差し出した。

「ん? 何かな?」

「あのね、ひみつー」

 ふふふーと楽しそうに笑ったキヌタくん。僕が紙を受け取るともう一度、ひみつだよ! と念押ししてから、女の子のところへ戻っていった。仲良しだなあ。僕も目的は達したので戻ろう。


「ナツ、テトが面白い」

 ナツー! きいろいのすっぱいー!

 ジェラートの屋台に戻ると、イオくんとテトからそんな報告があった。君たちも仲良しだね?

「テト、レモン苦手だった?」

 あまいけどすっぱいのー。ぎゃーってなるー。

「ぎゃーってなるんだ……?」

 どういうことですかイオくん? と視線を移すと、イオくんめちゃめちゃいい笑顔だった。

「そいつ、レモン舐めると垂直に上に飛ぶんだ」

「それは普通に面白い……っ」

 僕が子どもたちのボーイ・ミーツ・ガール的な波動を感じている間にそんな面白いことがあったとは。ちょっと見てみたかったけど、イオくんはすでにジェラートを食べ終わっているのでまた次回。 

 いつまでもジェラートの屋台の前に陣取ってても邪魔だし、もう少しで屋台入れ替えの時間になるから、憩いの広場から出て今日のお昼を食べる店を探すことにする。イオくんに抱えてもらっているテトにジェラートどうだった? と聞いたら、しろいのがすきーという返事だった。レモンはすっぱいからテト的には微妙らしい。

「そういえばキヌタくんから秘密のメモもらったよ」

「なんだそれ?」

「よくわかんないんだけど、手書きの……地図みたいなの? 白地図に★マーク出てるから、これだと思うんだけど」

「<鑑定>……キヌタの特別な秘密基地、か。またなんかありそうだな、行ってみるか?」

「うーん」

 確かに気になるはなるんだけど、なんかクエストが始まっちゃったら途中で休憩いれるのがちょっと嫌だなあ。イベントを中断すると結末が気になってちゃんと休めない気がするし。


「もう少しで職業レベル上がるし、今日は魔石集めつつ戦闘がいいかな。ログアウト昼休みの後に行こう」

「ショップカードの店はどうする? ハンサにもらった方」

「それは今日行く! 絶対行きたい! そして幸せな気持ちで休憩入りたい!」

 ハンサさんのリンゴを使っているデザート食べたい!

 僕が力いっぱい主張すると、イオくんはだよな、って顔をした。分かってたらしい。イケメンは察しも良いのである。

「じゃ、今日の昼あそこにしようぜ。この前通った時気になってたんだ」

 というイオくんのリクエストに同意して、本日のお昼ご飯は水辺通りのこだわりの個人レストランの中の一つ、「煮込み料理専門店・黄金の恵み亭」。確かに僕もこの店の前通った時超気になった! ビーフシチュー系の美味しそうな匂いが暴力的に周辺に漂ってるんだよねえ。

 本日のランチが出ていたのでメニューを確認すると、「ほうれん草と鮭のクリームシチュー」「ビーフシチュー」「野菜とソーセージのトマトシチュー」「ロールキャベツ煮込み」の4種類。めちゃめちゃ美味しそう。

「クリームシチューが微妙に高いのはやっぱり牛乳だからかなあ」

「イチヤよりは安いけど、サンガでも乳製品は安く無いよな」

「トマトシチューってこれ、ポトフ的なやつかな。僕これ挑戦したい」

「俺はロールキャベツかな。ビーフシチューはイチヤでも食べたし」

「テトどれが気になる?」

 おさかなー。

「ほうれん草と鮭のクリームシチューか。テト用にミニサイズがあるか聞いてみるね」

 というわけで、店内へGO。


 店内はテーブル席が3つ、カウンター席が7つ。「いらっしゃい!」と声をかけてきたウエイトレスさんに、契約獣も入って良いか聞いてみると、暴れないならいいよ、との返事だった。

「テト暴れないよねー?」

 あばれないよー!

 と意思確認して、ちょうど空いたばかりのテーブル席へ案内してもらう。

「お金払うので、ミニサイズ頼む事って出来ますか? 実はこの子が食べたがってて」

「ああ、たまにいるよ、契約獣にも食べさせたいって言う人。こっちの小皿でよければ300Gで出すけど」

「じゃあ、それで。クリームシチューを……鮭のところ入れてください!」

「はいよ」

 クリームシチューは大皿だと1000G、クリームシチュー以外は全部900Gで、いずれもパンとサラダ付き。テト用に頼んだ小皿はミニサラダとかいれる皿なんだそうで、深さは無いからテトでも食べやすそう。

 煮込み料理は盛り付けて出すだけだから料理が届くのも早くて、この店は席数は少ないけど回転率が良いみたいだった。僕たちの席にもすぐに注文の品が届いて、僕の隣にちょこんと座ったテトが、わくわくと目を輝かせる。


「テト、熱いからちょっと冷ましてからだよー」

 はーい。おさかなー!

 鮭の大きいところ入れてもらったのかな? 嬉しそうににゃあにゃあ言っているテト、ちょっと興奮気味だ。

「この子は食いしん坊の面構えだね」

 とウエイトレスさんに言われたんだけど、そこは契約主に似てるところなので僕はなんとも言えませんでした! イオくんは「その通り」とか同意してたけど。でも食いしん坊が多いってことは美味しいものが多いってことなので、良いことだと思うんだよ、ねーテト? とテトに同意を求めたところ、ナツとおそろいー。とのお返事でした。

 そうだね、僕も食いしん坊だよ。


「ん、美味い」

「わー、ソーセージめっちゃ美味しい、これハーブ? レモンっぽい味もする! 野菜との相性が抜群に良いね!」

 ナツ、さましてー! たべたーい!

 本気で美味しいソーセージに感動していると、テトが僕の太ももをぽふぽふする。猫は熱いのだめなんだよね、たしか。テトは冷たいのも飛び上がってたし、熱いのもそんなに得意じゃ無さそう。冷ますのは、えーと、冷却でいけるかな。冷やしすぎても美味しくないから、人肌くらいをイメージして……熱い、じゃなくてあったかいくらいで……。ユーグくんちょっとだけ出番だよ!

「【冷却】」

 これでどうかなー? と器を触ってみると、ほんのりあったかいくらいになっている。テト、このくらいでどう? と視線を送ると、テトは前足でちょんっとシチューをつついて、満足気ににゃーんと鳴いた。大丈夫らしい。

「食べていいよ。汚れても【クリーン】かけるから気にしないでね」

 ありがとー! たべるー!

 テトはうにゃうにゃいいながら食べた。なんか「うまうま」に聞こえる不思議。向かいで同じことを考えていそうなイオくんが笑いをこらえているのが分かる。テトめっちゃ美味しそうに食べるじゃん、僕も負けてられないね!


 どうでもいいんだけどお会計のとき、ウエイトレスさんに

「お客さんたち、おんなじ顔で食べてるから微笑ましかったよ。仲良しだね」

 と言われました。

 ナツとなかよし!

 とテトは嬉しそうにしていたので僕もなんかちょっと照れつつ「仲良しですー」と笑ってごまかした。そっかー、おんなじ顔してたかー。


「さて、じゃあリバーイービル倒しに行くか」

「イオくん、北門から行こう。あっちからなら川渡るだけですぐだから、近いよ」

「なるほど、足場作るのか」

「せっかく便利に使える呪文覚えたんだから活用しないと」

 リバーイービルの生息地、北門から出てまっすぐ西方向へ向かって川を渡るとすぐなんだよね。如月くんが足場は人が乗っても大丈夫だとせっかく証明してくれてるんだから、使わない手はない。川の幅はそこそこあるけど、大きめの足場を作ってつなげていく感じでいけば大丈夫だと思う。

「今日の目標は職業レベルを1つ上げることと、できればプレイヤーレベルも上がったら嬉しいなーって感じで」

「戦闘系スキル上げと魔石集めながらレベリングだな。リバーイービルで物足りなくなってきたらウォータースパイダーにいけばいいし」

 そして戦闘の後には、美味しい料理が待っている。

 では、いざ! 北門へ!

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