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11日目:ジェラートは冷たくて美味しい

 目録から品を選択すると、目録が光って消える代わりにインベントリに選んだものが追加される。

 物理防御力+5のシャツは色が選べたので、順当に白を選んでおく。それ以外似合わないので仕方ない。リアルでは白い服とかほぼ持ってないからちょっと違和感はあるけどね。……なぜって? カップ麺の汁が飛ぶので……。

 まあそれは良いとして。

 早速効果無しの普段着と入れ替えてみると、白いシャツの裾や袖にうっすら白で<魔法図案>の術式を刺繍している感じの、シンプルでスッキリしたシルエットの服だった。これなら誰が着ても違和感無さそう。しかもお手軽に物理防御力が上がるのでありがたい。あくまで服だから、アクセサリ枠も圧迫しないしね。

 うん、なかなかの着心地。


 ……なんて僕が確認している間、頭を抱えている如月くんである。

「昨日あの後そんなイベント起こるとか……! <グッドラック>とんでもないですね……!」

「<グッドラック>単体の力と言うより、<グッドラック>とナツの合わせ技だな」

「イオくんというファクターが抜けてますが」

「スキル講座は別々に受けただろ、お前の力だよ」

 うーん。まあそうかも知れないけどシークレット講座受けることは前から決めてたことだしなあ。幸運の力だというのなら、アナトラは幸運の効果が感じられる良いゲームだなってことでいいのでは。

「それにしても、伝承スキルですか……。確かに検索も出来ませんでしたし、話聞く限りではめちゃくちゃ便利そうですね」

「うん。どちらかと言うとイオくんとか如月くんみたいに、魔力節約して戦わなきゃ行けない人の方が使えたら便利そうだと思うんだよね。……テト、ちょっと手伝ってー」

 いいよー。

「ありがとう。じゃあここに乗ってね、【足場】」

 昨日試した足場をもう一回作ってみる。ぴょんと足場に飛び乗ったテトは、僕を見て、もう一個! とねだった。しかたないなー、とデレデレしながらもう一つ作ると、テトは反復横跳びのようにぴょんぴょん飛び跳ねる。楽しそうだね。


「おお―。魔力で出来た板……? これ俺も乗れますか?」

「どうだろう、ちょっと下の方に作ってみるね。【足場】」

 地面近くに作った足場に、如月くんはためらいなく乗っかった。そしてその上で軽くジャンプ。

「すごい、問題なく乗れますね」

「いざってときは使えそうかな? でも30秒くらいで消えるから気をつけて」

「30秒でも十分ですよ、色々活用出来そうです」

 戦いの時高所取れるのは確かに良いんだよね。そういう意味でも、基本が遊撃の如月くんがこのスキル取ったらかなり良い感じだと思うんだけどなあ。

「プライマルワーズっていうのが漢字で、<原初の呪文>っていうものの存在を知ってることが前提になるから、如月くんには教えておきたいかなって。プリンさんにも次会ったら教えておく予定なんだけど、流石にそれを教えてくれる住人さんまでは紹介できないから、そこは頑張ってもらうしか無いんだけど」

「漢字2文字とか汎用性めちゃ高いですし、他のスキルとの連携が無いとはいえかなり有用ですよね。師匠探しですか……ハードル高いけど、時間をかけて探してみます」

「うん、がんばってね」

「はい。じゃあ、俺昼前にマロネのところに行って報告してきます。サラムさんのところ行くときは連絡ください」

「分かった」

「はーい。あ、これ、フェアリーさんが売ってたお菓子なんだけど、魔力が込められてるらしいからマロネくんにあげてくれる? 妖精類に良いものだって聞いたんだ」

 だいぶ透けてたしねマロネくん。精霊さんもポップドーナツ食べてたのを朝市で見てるから、多分食べられるはず。レモン色の琥珀糖を如月くんに預けて、少しでもマロネくんが回復してくれることを祈ろう。


 如月くんを見送って、まず僕たちが向かうのは憩いの広場だ。

 ジェラートを探しに! 

 11時半を回っているけど、12時までは午前の屋台が出ているので、ジェラートの屋台が無いかどうかだけ確認に行く。ラリーさんの本のお店も出てたら見たい。あとはテトが好きそうな食べ物があったら欲しいかなー。

「ジンガと他の2人で、イベント結構違っただろ? 突っ込んだ話までしてくれたのはジンガだけだった。あれがなんでだろうって考えてたんだけどな」

「言われてみればそうだね。でも、テアルさんの喜びは凄く、貴族としての態度って感じだったなとは思った。家族としての思いは、また別なんだろうなあって」

「多分、クエストを受けた如月の好感度が関係してるんだと思うんだよな」

「ああ、確かに……」

 キャンプ地で、如月くんはジンガさんとトムスさんの2人と仲良くしていたっけ。だからジンガさんからの好感度が高くて、ジンガさんだけが隠された胸の内をさらしてくれた、ってことか。僕がキヌタくんと、イオくんはテアルさん夫婦と交流してたから、クエストを受けた時も一緒だったなら、テアルさんももう少し当時の話とかをしてくれてたのかもしれない。

 アナトラ、奥が深いな。


 ……まあ、今はそんなことよりも屋台だ。

「テトは甘いものが良いよねー?」

 あまいのー!

 ご機嫌なテトは、なんと今イオくんに抱っこされている。そう、テトがイオくんのところに寄ってって、ちょこんとその前に座って、だっこー! とおねだりをしたのである!

 もうイオくん上機嫌だよ。そりゃ常日頃猫に恐れおののかれ続けている威圧感の塊だからね! 懐いてくれる猫がいたというだけでイオくんの人生のクオリティが上がるってなものである。まあテトって僕に似てて図太い感じだから、どうせすぐイオくんにも懐くでしょって思ってたけど。

「飴、焼き菓子、綿あめ……あった! ジェラート!」

 ようやく遭遇できたジェラート屋さん! 背の高い男性の鬼人さんが真剣な眼差しでジェラートをワッフルに盛り付けているので間違いない。あれがピタさんの旦那さんだね。急ぎ足で店の前に到着すると、立て看板に味の一覧が出ている。どれにしようかなー、この後お昼を食べに行くから、今日は1個だけ……と考えていると、店の奥にいる女性が僕を見て「あら」と微笑んだ。

「ナツ、イオも、いらっしゃい」

「ピタさん! こんにちは! ようやくジェラート見つけましたよー!」

 どうやらお店を手伝っているらしいピタさん、今日は旦那さんに合わせてるのか、ちょっと和風テイストの服を着ている。さり気なくペアルックだ、仲良しだね。


「あなた、こちらがトレントを倒してくれたトラベラーさんよ。ナツとイオ。……2人とも、この人が私の夫のハモン。この人の作るジェラート本当に美味しいのよ」

「はじめまして! 美味しいジェラートと聞いて食べに来ました、ナツです! こちらの猫を抱いててもイケメンなのが友人のイオくんです! ついでに猫は僕の契約獣のテトです!」

 美味しそうなジェラートについテンション上がって、ちょっと元気すぎる自己紹介をした僕である。テトはイオくんの腕の中でよろしくーとにゃあにゃあ鳴いた。それから、おろしてー! とイオくんの腕をテシテシしている。かわいい。

「ハモンだ。妻と息子が世話になった」

 鬼人の男性はキガラさんくらいしか知り合いがいないんだけど、街で見かける鬼人さんもみんな大柄なんだよね。ちょっとうらやましい身長だなあ……アバター作るときに毎回ちらっと高身長にしようかなって思うんだけど、視線が普段と違いすぎると混乱するんだよね、慣れるまでが大変で。身長ください。

 ハモンさんは目付きの鋭い、ちょっと鋭利な感じの黒髪男性。表情は無表情寄りだけど、冷たい感じではない。どちらかというと、真面目そうな感じかな?


「ピタさんのおすすめはどれですかー?」

「えー、もう、そんなの全部よ。私、この人の作るジェラート大好きなの」

 ふふふと幸せそうに笑ってそんなことを言うピタさんに、ハモンさんちょっと嬉しそうに微笑んでいる。これは何種類か買ってストックしておくのもありかな。えーと、定番のバニラでしょ、チョコでしょ、うーん、イチゴも捨て難い。マンゴーとかパイナップルも絶対美味しいし、ブルーベリーもいいなあ! 紅茶味っていうのも気になる……。

「イオくん何にする?」

「レモン」

「うーん、甘すぎるものを好まないイオくんの爽やかなチョイス! テトどれ食べたいー?」

 しろいのー。

「白いの? 定番のバニラ行ってみるか!」

 テト自分が真っ白だから白いの好きなのかな? まあ僕も白いし、契約主の顔も立てる賢いチョイスだね! インベントリに入れておくためにチョコとブルーベリーも頼んじゃおう。というわけでさくさくと注文すると、ハモンさんがワッフルに丁寧にジェラートを盛ってくれる。

「これって全部ハモンさんの手作りなんですか?」

「そうだ。味を研究して季節ごとに入れ替えている」

「すごい! ジェラート好きなんですね」

「いや。俺自身はあまり」

 え、そうなの? と思わず不思議そうにハモンさんを見上げた僕に、チョコジェラートのワッフルを手渡しながら、ハモンさんはちょっとだけ言いにくそうに続けた。

「その、あれだ。妻が好きなんだ」

「おおー」

 愛かあ! 愛のためにがんばっちゃった系かー!


「この人、プロポーズの言葉が『お前の好きなジェラートを毎日作るから結婚してくれ』だったのよ」

「わー! すごく的確な言葉選びな気がする!」

「即座に結婚するって答えちゃったわ」

 満足そうな笑顔のピタさん。ハモンさんは照れて顔を赤くしている。

「そう言えば断られないと思ったんだ。毎日練習した」

 とか言いながらブルーベリーのジェラートを差し出すので、それも受けとった。チョコジェラートと一緒にインベントリへしまいこむ。今日食べるのはバニラって決めてるので。

「ハモンさんって真面目だねえ」

「そうなのよー。バカが付くほど真面目で、でもそこが良いのよね。ジェラートの屋台も、近所の奥様方に推薦されちゃって断れなくて、週に何回か出してるの」

「予想外に好評なんだ。似合わないのでやめたいのだが、買いに来てくれる常連が多くて」

 ああ、常連さんがついちゃったらそう簡単にはやめられないよねー。でも美味しいなら仕方ないな。僕が納得している間にレモンのジェラートがイオくんに手渡され、イオくんは端末でお支払い。最後に僕のバニラが丁寧にワッフルに盛られて、僕もお会計を先に済ませた。

「バニラだ。これで全部だな?」

「全部です、美味しそう!」

 受け取ったジェラートに、下の方から視線が刺さる。目を輝かせたテトが、僕の足にぽすっと前足を押し付けて、ひとくちー! と主張している。ちょっと待ってほしい、僕が一口食べるまで。

 

 ご自由にお取りくださいの木べらをもらって、まず僕が一口。ひんやり冷たいジェラートが舌の上でとろける。濃厚なミルクの風味……そう言えば値段結構お高いねジェラート、乳製品だから仕方ないか。後をひかない上品な甘さだ。

「うん、美味しい! これだけ美味しいと常連も出来ますね!」

「そうなのよ。レストランに卸している分もあるから、それだけで食べては行けるんだけど、屋台でぜひってお願いされちゃったのよね」

「それは美味しいから仕方ないですねー」

 この味はレストランでも人気だろうなあ。どこのお店に卸してるんだろう。……と、そんなことよりも。まだー? と僕の足をテシテシしているテトにもあげなきゃ。木べらをもう一本もらって、っと。

「はいテト。甘いけど冷たいからねー」

 冷たい食べ物食べたこと無いんじゃないかなと思ったので一応注意して、テトにもジェラートを差し出す。わーい! と早速ぱくっと食べたテトは、次の瞬間、つめたーい! と全身の毛を逆立てた。それからものすごい速さでイオくんの後ろに逃げ込む。

 イオくんちょっと嬉しそう。イオくんの足の後ろから僕を警戒するようにして顔をちょっとだけ出すテトの姿……僕ちゃんと冷たいって言ったのになー。

「テト冷たいの苦手?」

 つめたい……でもなんかくせになるかもしれない……。

「冷たいけど甘いでしょ? もう一口食べる?」

 たべるー!

 そしてまたつめたいー! って飛び上がってイオくんの後ろに隠れるテト。無限ループかな? イオくんめっちゃ笑うじゃん、レモンもあげてみなよ。

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