表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/343

10日目:飛び出せ新入社員

「おう、遅かったな、何習ってたんだ?」

「イオくんお疲れー!」

 ギルドのロビーに戻ると、イオくんがすでにベンチに座って待っていた。前もって終了時間が分からなかったから待ち合わせ場所は決めてたんだよね。この分だとだいぶ待たせちゃったかもしれない。

「<風魔法>取れた?」

「おう。早速【クリーン】覚えたら<盾術>と<剣術>に【手入れ】ってアーツが派生した。1日1回耐久度を少し回復出来るらしい」

「おー、連動いいねえ。早く【ドライ】覚えて僕にドライフルーツを作って欲しい」

「干物が先じゃないのか」

「スルメも食べたい!」

 干物をぜひお願いします!

 さて、そして僕がなんの講座を受けたのか知りたがっているイオくんに、どう説明したものかな……。えーと。


「僕の方はね……えっと、SP20使ったんだけど」

「まさかの特殊」

「いやそれが違うんだよ。説明しづらいからステータス画面見てほしい」

「おう」

 僕のステータス画面をイオくんに見せて、<原初の呪文>を指差す。もうこの色だけで色々と察したっぽいイオくんは、無言で説明アイコンを押した。やっぱりイオくんでも伝承スキルの存在は知らないっぽい? まさか僕が最初の取得ってことはないと思うんだけどなあ。それこそ、職人さんに弟子入りしたトラベラーとか絶対取得してると思うんだけど。

「あー、なるほど」

 しばらくしてからイオくんは何か納得した様子で頷いた。

「ナツ、これ多分掲示板に書けない情報だぞ」

「え、なにそれ」


イオくんが言うには、前から少し特殊なスキルを入手したんだけど詳細を掲示板に書けない、という人がちらほらいたらしい。詳細を書こうとすると「その内容は現在書き込めません」ってエラー画面に行ってしまうんだとか。実際にその人と会って話を聞いた検証班の人も、特殊なスキルは確認出来たけど書き込みが出来ないことも確認出来たと報告している。

 伝承スキルは住人から教えてもらうスキルだから、不特定多数に教えることは出来ないんじゃないか、というのがイオくんの推測だ。

「そのかわり、こうして面と向かってそういうスキルがあったと伝えるのは大丈夫なんだろうな」

「んー、ということは、伝承スキルについて教える人も厳選したほうが良いってことかな?」

「多分な。その、ラリーというやつも、ナツを信頼して教えたんだろうし」

「なるほど」

 信頼……それは、裏切るわけにはいかないね! ちゃんとスキルについて教える人は選んでいこう。


「でもよく分かったね、そんなの。さすがイオくん、運営なの?」

「いや運営ではねーわ。今、掲示板で検索しようと思って検索バーに伝承スキルって入れたら、その言葉はこの掲示板では検索できません、って弾かれたんだよ」

「え、いつの間に。何気に器用なことするねえ」

 そんなステータス画面見るついでに片手で操作出来るものなのか。僕には無理です。

 そう言えば掲示板の画面、ちゃんと注意書きに『運営が秘匿している情報もあります。ゲーム内で見つけてくださいね』みたいな言葉書いてあるんだよね。

「まあ、秘匿情報が伝承スキルだけとは思わないが。秘匿の一つってことになるんだろうな。……ナツ、お前今日だけで一体何回やらかしてるんだ……?」

「どん引きの顔されたんだが!? おかしい! 不可抗力です!」

 僕が故意になにか引き起こしているわけでは決して無い! 強く抗議! と必死で訴えていたらイオくんが途中からハイハイって顔になったのでとても解せぬのですが。


 僕のスキル講座が長引いたので、時刻はもうすでに夕暮れ時だ。ちょっと早いけど軽く夕飯を食べて、作業場を借りようという話になる。

 一応、プレイヤーレベル13あれば、町周辺の夜の探索も出来なくはないらしいんだけど、初めて行くところは昼間がいいよなーってのもあるし。あとあれ、卵。今日のビッグイベントが待ってるんだよ。

 朝市でたっぷり魔力を分けてもらった家の新入社員、今日僕が魔力を補充すればもう誕生の時なのです! 明日には連れ回して色んなところに紹介出来るから、それも楽しみ。それに、契約獣が生まれたら能力の確認とかも必要になるし、今日はそういうのを一通り確認したら就寝かな。

 というわけで、ギルドのフリースペースでイオくんの料理を出してもらうことにした。今から外に出て食べて戻って来るの面倒だしね。


「キノコとツノチキンの炊き込みご飯を所望します」

「おう。あと大根の味噌汁とほうれん草のおひたし、アジフライでどうだ」

「素晴らしいと思う!」

 炊き込みご飯とお味噌汁を一緒に食べられるだけでも大勝利確定演出なのに、さらにアジフライまでついてくるとは流石イオくん。約束された勝利の夕食を元気にいただきます!

「うむ、とてもちょうどよい味付けにキノコと鶏肉の歯ごたえ、肉にしみる醤油の風味も実に良く、炊き込みご飯は素晴らしいものです。そして大根のお味噌汁がほっこりする美味しさ、油揚げ欲しいね!」

「油揚げ売ってねえんだよな。そもそも豆腐が無い」

「豆腐ってどうやって作るのかな。大豆はわかるんだけど」

「にがりとか? 流石にそこまではな」

 確かにそこまでは僕たちの仕事じゃないな。誰か料理特化のトラベラーが作ると思うので、流通するように頑張ってほしい。それにしても炊き込みご飯は美味しいなー、イオくんはこんな美味しいものをサクッと作れるとか、やはり天才料理人なのではあるまいか。感謝を捧げておこう。


 夕飯が終わると、ギルドで作業場をレンタル。ひとまず3時間借りることにした。

 やりたいことは色々あるんだけど、まずやるべきことは卵に魔力を込める事! ご機嫌いかが? とインベントリから取り出して見ると、朝から虹色きらつやを維持してる卵が絶好調な様子で、やっちゃうー? みたいな雰囲気。どうやらやる気バッチリのようだ。

 インベントリにいる間に魔力を5%補充してるし、残りはMPポーション1本飲めば完全に補充出来るでしょう!

「よし、いっくよー!」

 宣言してからわーっと魔力を込める。イオくんが後方で腕組み圧力をかけてきてるので、僕にも妙な緊張感が走っていたりするのだ。大丈夫、この子はちゃんと騎乗出来る子。出来る新入社員ですので!!

 一旦MPが減ったところでポーションを飲んで、もう一度魔力を込める。一気に100%まで持っていく! するとご機嫌できらきらしていた卵が、さらにぱーっと強い光を放った。 

 いっくぞー! みたいな気合を感じる。この子もなかなかノリが良いな!


 やがて光が収束すると、ピシッと卵に亀裂が入って、その後、勢いよく弾けた。

「うわ!?」

 びっくりして声を上げた僕に、卵の中からぴょーんと飛びかかってくる毛玉。一瞬でバスケットボールくらいの大きさまで即座に大きくなったのは分かった。慌ててそれをキャッチすると、もふっとした肌触りがすり寄ってくる。

 ふわっふわじゃん! これはもしや!

「猫!」

 思いっきり撫で回しながら叫んだところ、んにゃっ! とお返事をもらいました。毛長のもふもふ猫さん、汚れの目立ちそうな真っ白なお姿です。と思ったら、うーにゃっ! という気合の入った掛け声とともにばさーっと広がる白い羽。

 つ、翼を授かりし者じゃん……!

「何それかっこいい!」

「お、良いな、空中機動力だ」

「えーっと、とりあえず<鑑定>を……」

 イオくん何気に満足そうな笑顔だね、嬉しそう。猫好きだもんねー、撫でさせてくれる子だと良いね。


 さて、それで鑑定結果はというと。

 種族名はスカイランナー。フォレストウォーカーという猫系契約獣からの進化系種族って出てるんだけど、卵から進化後で生まれてくることもあるんだねえ。進化先はどうせ契約者が選ぶんじゃないわけだし、まあ何であっても問題は無いけど。素晴らしくもふもふなので僕は大変満足です。

 性能としては基本騎乗用、地面も空もすいすい走る輸送のスペシャリストとのこと。やっぱり最初に「僕を乗せて走れる子」って募集したのが正解だったような気がするな!

 それとこの子、目の色がオパールっぽくていろんな色に見えるし、きらきらしている。すごい! 綺麗! 素敵! って全力で褒めてたら、えへへーって照れたような反応のあと、いっぱいはこぶよー、とのこと。

 運ぶ……?

 よくわからんのでスキル一覧をチェック、っと。当然全てレベル1の<飛翔><騎乗><空間収納><空間魔法><一気加速>、そして固定スキル<騎乗者保護>……収納持ちなの君。だからかあ。


「イオくん朗報! この子大変有能です! なんと収納使えます!」

「良いな。ちょうど欲しかったものだ」

 イオくんも納得の有能っぷりである。……今がチャンスだよイオくん、ほら、撫でて! 猫は褒められて伸びるから! しっかり撫でて!

 無言で急かしてみると、イオくんは「これから戦いに行くの?」ってくらい険しい表情でスッと猫さんに手を伸ばす。猫、緊張の面持ちで硬直。ぽすっとその頭に手を置いて、ゆっくりと撫でるイオくん。猫、戸惑いの面持ち。任務完了とばかりに手を引っ込めるイオくん、満足げ。猫、解放されてほっと安堵の面持ち。

 違う、なんか僕が思ってたのと違う……。

 ま、まあ良いでしょう! イオくんにしては初対面なのに頑張って歩み寄ってる!


「名前つけなきゃね。君はどのくらい大きくなるの?」

 わざとらしく話題を変える僕に、猫は、ふたりのれるー、と答える。なんでさっきからこの子の言う事はっきり分かるのかなと思ったら、いつの間にか固定スキル<意思疎通>が習得されていました。契約獣と契約すると自動習得なのかな。

 2人も乗れるということは、結構大きくなるね。それなら可愛い系の名前じゃなくて、かっこいい系の名前をつけたほうが良い。僕の契約獣なので僕がつけるべきだけど、ユーグくんのとき同様にさっぱりなんにも浮かんでこないので、イオくんお願い。

「イオくん、白系の意味で何かいい名前の候補ありませんか!」

「餅、白玉、大福」

「やめてあげて!?」

 餅も大福も白玉もイオくんの好きな食べ物なので、本気で良いと思って言ってる疑惑があるけれども! 猫が、たべられるー!? って涙目になってるので却下! 却下です!

「食物以外でお願い」

「ペットには食べ物の名前をつけるのがセオリーじゃないのか」

「それは確かにセオリーだけれども。イオくん、この子は新入社員であってペットではありません」

「そうか」

 ふむ、と納得の表情のイオくん。

 さて、名前は本当に何にしようかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 可愛いモフモフだったかー、予想外れたー。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ