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10日目:イベントは勝手に起こるもの

いつも誤字報告ありがとうございます。

「……何か起きましたね本当に」


 微妙なジト目で僕を見ないでくれませんかね如月くん。僕がイベントを起こした訳では無いので。イベントは勝手に起こるものです!


 通常ではありえない事態に遭遇したら、それはつまりイベントに違いない。試しに僕もカワウソ軍団に<鑑定>してみたけど、あそこにいる群れはレベル10~13で、僕にもある程度情報が読み取れた。確かにリバーイービルはノンアクティブと表示されている。

「ノンアクティブの敵が襲ってくるのって、なんでかわかる?」

 とりあえず質問してみる。僕より戦闘慣れしているイオくんと如月くんのほうが色々意見が出るはずだ。期待をこめた僕の視線に、「そうだな」とイオくん。

「先に何かと戦っていて、そこに俺たちが通りかかったことで援軍かと誤解して襲いかかってきた、とかか?」

「何らかの攻撃を受けて……例えば歩いていて偶然石を蹴飛ばし、それがあの魔物に当たって、飛んできた石の方向を追って俺たちに襲いかかったとかですかね?」

 続けて如月くんも意見を出してくれる。うむ、どっち良い意見だね。

「あの個体だけ強かったし、戦士だったのかも? 群れを守る役目だったとか」

「だとしたらやっぱり外敵がいたと考えるべきか」

「あの時、こっちは普通に森に向かって歩いていたはずです。この場合、イオさんの意見のように、あいつはすでに戦闘中で俺たちも敵だと判断されたっていうのがしっくり来ます」

 ふむ。整理するとそれが正解っぽいかな。

 

 そうなるとまずは、先にあのカワウソと戦っていた相手を探すことだ。人である可能性は低そうだけど、だとしたら何?って話になる。魔物同士で争っていたならそれはそれで何らかの異変ってことになるかもだし、ちゃんと調べた方がいい。

「トラベラーではないよね。このゲームシステムだと魔物を他のプレイヤーに押し付けられないし」

「それは絶対なんで考えなくて大丈夫です。意味もなくノンアクティブが襲うバグの可能性も捨てましょう」

「住人が一番ありえないが、万が一にも正道を外れた住人だったりしたら大問題だ。急いで探そう」

 イオくん怖いこというじゃん……?

 そう、一番怖いのは住人が正道を外れて迷った説なんだよ。住人さんたちだって戦えることは知ってるけど、道迷いの呪い発動中の今は大きなハンデを背負っているようなもの。実力を発揮できる状態じゃない。ましてやもしそれが子供だったりしたら、万が一という事がある。

「襲われたのってあの辺だったよね? イオくん、カワウソどっちから来たか覚えてる?」

「向こうの低木の方向だったはずだ」

「行ってみよう!」

 いっそ魔物同士の縄張り争いであってほしい。

 とにかくダッシュでイオくんの行っていた方向へ……走り出した瞬間置いていかれるのどうにかならんか!? 俊敏……っ、嫌だPPは振りたくない……っ! 振りません!


「イオさん、ナツさん! こっちに血痕が!」

「ナイス発見!」

「よし、そのまま追え!」

 追いかけようと思うと、血の痕跡は目立っていて追跡しやすい。

 さくさくと森へ入っていくと、探していた子は森に入ってすぐの木のウロに逃げ込んでいた。小さなウロに体を丸めて無理やり体を押し込んでいる感じで、全然隠れていなかったけど……傷だらけの血だらけだったのですぐにわかった。


「リス……?」

「に、しては。でかくないか?」

「あー、契約獣じゃないでしょうか。ほら、尻尾に蔓が絡まってる感じですし、耳の後ろにも葉みたいなものが」

「枯れてますが!?」

「その前に生きてるかこれ」 

 冷静な指摘をありがとう! びゃっとリスを引っ張り出してみると、まさに満身創痍。生命の危機がひしひしと伝わってくるやつですこれ! あわあわしながらHPポーションをぶっかける。

 表面上の傷は速やかに癒えていくんだけど、なんか危機的状況に変化がないような……? <鑑定>!

「衰弱状態って出てるんだけど、これどうすれば……!」

「あ、俺医療系の鑑定持ってます。<鑑定>!」

「如月くんえらい!」

 とてもえらい! 僕の中でイオくんの次くらいにえらい人としてランキングします!

「ああ、どうやら空腹状態みたいですね」

「空腹? ああ、木の穴の奥にちぎれた魚があるな。これをカワウソから盗んだんじゃないか? それで追いかけられて、ぶちのめされたと」

「なるほど」


 うーん、でも疑問も残るなあ。

 そもそもリスって森の住人でしょ、なんで魚を狙ったんだろう。森の中なら木の実とか果物とかキノコとか、森の幸を食べればいいんじゃないの? わざわざ魚を狙う必要ってあるのかな。

 というような疑問を口にした僕に、イオくんも「確かに」と難しい顔をする。

「推測するとしたら、こいつの契約者に持っていくためじゃないか?」

「ああ!」

 住人の契約者がいて、その人が遭難か何かで危機的状況にあり、木の実とかだけでは足りないため魚を持っていきたかったということか……それならわかる。健気!

 もう一度改めてリスを<鑑定>し、情報を確認してみる。種族名はフォレストシーカー、非戦闘用の契約獣で、契約者の名前は……ハイデンさん。採集が得意な種族らしいけど、それにしても痩せている。

「近くにセーフゾーンがあるから移動するか。如月、こいつ何を食べるんだ?」

「栄養価の高い果物があればベストですね」

「ハンサさんのリンゴの出番!」

 食べさせましょう、★8のリンゴを!



「チチッ! チュ、キュ!」

「うむ、なるほどわからん。ナツなんかわかるか?」

「自分のところの子じゃないので……」

「プリンさんのところのピーちゃんみたいに、喋れる子は稀ですからね……」

 セーフゾーンでイオくんが差し出したリンゴを一心不乱に食べているフォレストシーカー。リンゴを食べたことで耳の後ろに生えていた萎々の葉っぱがなんとかしゃっきりしてきた。これで危機的状況を脱したと判断しても良いでしょう。そして元気になると同時に必死で何か話しかけてくれるんだけど、残念ながらさっぱりわかんない。


「契約者の名前が<鑑定>でわかるんだから、まだそいつは生きてるってことでいいんだよな?」

「えーと、シーニャくんにもらった契約獣の本によると、契約者が死んだら契約獣は元いた世界に戻るか近くの契約獣屋さんに転移するんだって。だから、まだ契約者が生きているって判断で間違いないと思う」

 こんなところで役に立つとは思わなかったな、契約獣の本。

 基本的に他の世界から呼ばれて来てる子は元の世界に戻って、卵から生まれた子は契約獣屋さんに戻るらしい。契約獣屋さんはケット・シー族が取り仕切っていて、その秘術で即座に保護できるんだそうだ。

 僕たちはトラベラーだから死んでもすぐ復活するし、勝手に契約獣との契約を切られることはないけどね。


「……チ、チチュ!」

 さて、リンゴを全て食べ終わったフォレストシーカーは、何か主張するように尻尾や前足を動かしている。なんかバタバタしているようにしか見えないし、何が言いたいのかは相変わらずさっぱりわからないけど……。

 ここは、長年VRゲームで培った適当な勘で予測してみよう。契約者のいる契約獣なんだから、当然ここは「ついてこい」のはず!

「君の契約者のところに案内してくれる?」

「チィ!」

 うん、多分肯定。流石に王道セオリーは外さないね!

 ただこの子、空腹状態にリンゴを1個詰め込んだだけだからまだふらふらしている。【クリーン】をかけたから血まみれ状態は脱したけど、寒いのか、ちょっと震えてるし、この状態で歩けっていうのは酷だな。

「よし、ここは僕が……!」

「無理すんな筋力5」

 抱き上げようとした僕より先に、イオくんがさっとフォレストシーカーを掴み上げる。……僕のイメージでは未だに熊獣人感が強いイオくんなので、熊に掴まれたリス……これは……ちょっと弱肉強食の世界では……!

「い、イオくん、僕が持とうか?」

「ナツが何を考えてるのか手に取るように分かる自分がいるんだが、俺は熊じゃないとだけ言っておく。おいお前、方向を指差せ」

「チ!」

 リスさんの背筋が伸びました。

 さてはイオくん、普段怖がられて寄って来ない小動物を抱っこできることを密かに喜んでいるな? フォレストシーカーは絶妙に緊張の面持ちだけど!


 心なしかご満悦のイオくんを先頭に、森の中を進む。

 一応全員に【サンドウォーク】をかけているので、町中と同じように歩ける。走ると僕が一人置いていかれるので、僕を真ん中にして、如月くんが最後尾を歩くことになった。

 これさー、外から見てると結構メルヘンだよね。リスに導かれて森の中へ、って童話っぽいし。メンバーが男3人じゃなかったらなー、せめてピーちゃん、そしてプリンさんは居てほしかったよここに。

 ……とか思っていたら、不意に薄い膜をぼよんっとすり抜けたような感覚がして、一気に視界がひらけた。

「うわ」

 思わず声を上げた僕と、同じようなタイミングでイオくんと如月くんも「おお」と声を上げる。それまでは鬱蒼とした森しか見えなかった視界に、突如現れたのは巨大な石造りの建物だった。

 ただの建物ではなくて、これはもしや。


「砦?」

 一部高くなっているところは、物見の塔だろう。さっきまでは確実にそこにはなかったと思うけど、おそらくフォレストシーカーと一緒に来たことで、何らかのフラグを踏んで到達できたって感じかな。

「随分古いな……」

 呟いたイオくんが近づいていくので、僕も後に続いた。ほとんど森に飲み込まれるように同化しつつあるところもあるけど、修復を重ねたような痕跡もあるね。

 僕がぼけーっと塔を見上げていると、

「ナツ、上りたいなら後でな」

 と釘をさされた。はい。超上りたいです……。


「チュ!」

 大きく鳴いたフォレストシーカーが、イオくんの腕から飛び出して、木製の扉の隙間に滑り込んだ。一応、門としての体裁は保っているものの、魔物の攻撃でも受けたのか一部に穴が空いている。煤けてるところもあるし、これも戦争の名残だね。元々は立派な門だったんだろうけど、流石に時間経過には勝てない。

いや、それよりも。

「あの子が入っていったってことは、中に人がいるってこと?」

 ここに? ちょっと想像できないけど……。

「イチヤから南でも集落が見つかったって話が有っただろ。ここなんか明らかに戦時中に使われてた砦だ、誰か生存者がいるかもしれない」

「10年経ってるのに!?」

「食料さえなんとかなれば可能性はありますね……。誰か居ますかー!」

 如月くんが大声で呼びかけると、それに反応するように物音が聞こえたような気がした。しばらくして、「おーい」とかすれた声が中から聞こえたような気がする。

「今の聞こえた!?」

 僕の気のせいじゃないよね? と一応2人に確認を取ったら、2人共頷いたので間違いない。


「門壊していいか?」

 お、イオくんやる気ですね?

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