10日目:やるべきことに呼ばれる事もある
ギルドの受付へ向かい、売却したいんですがー、と御札をじゃんじゃか出した僕。「こんなに……!」って大げさに驚いてくれる受付のお兄さん。ちょっとドヤ顔が捗りますね、これは。
「イチヤのギルドマスターのイライザさんから、他の街でもたくさん売って欲しいと頼まれていまして……」
「ラタ様からですか! ありがとうございます、本当に助かります。需要は多いんですが、どうしても作り手が不足しておりまして……!」
そうなんですかー、いや、これから増えます、増えますから拝むのはちょっとやめてもらっていいですか……? イオくん! 笑ってないで早く話を進めてほしいな!!
「あー、すまん。その札を作っているのはここにいるナツで間違いないんだが、作り手としても需要に合うものを売りたいと言っているんだ。それで、可能なら聞き取りも兼ねてギルドマスターに挨拶をしたいんだが、アポイントは取れるだろうか?」
「ギルドマスターとの面会ですか……すぐには難しいですね」
相変わらずしれっと良い感じのことを言うイオくんに、しかし受付のお兄さんは難しい顔だ。すぐには、ってことは、今は無理ってことかな。
「不在なのか?」
「はい。ゴーラのギルドマスターと打ち合わせがあり、船で向かったのが1週間前ですので……帰りは明後日頃になります」
「そうか……では、また後ほど改めて」
イオくんも、流石に今ここにいないのなら食い下がる意味はないってことで、あっさりと引いた。
代金をギルドカードに入れてもらって、受付を離れる。そこまで無言だった如月くんが、ギルドを出てからようやく言った第一声がこちら。
「ナツさんたちでも上手く行かないことがあるんですね」
「普通にあるが」
そうだよ普通にあるよ! と僕もイオくんの隣で首を縦に振っておく。でも今回のはちょっと違うというか……。
「うーん、なんていうか……今はまだその時ではない……みたいな……?」
「いずれその時が来ると……?」
「うん」
多分、先にフィールドに行くべき時なんだと思う。そういうことにしておこう。絶対にそうだという自信があるわけじゃないんだけど、こういう微妙に上手く行かない感じのときは、なにかピースが足りない時だって気がする。今僕がめちゃめちゃ気になることって言ったら、やっぱりフィールドだ。
「さっきの白地図のところ探索したいんだけど、それでいい?」
「そんなに気になるのか?」
「正直すっごく気になる!」
「じゃあなんかあるな。行くか」
あっさり移動を開始するイオくん、そして「何があるんですかね……?」と多少不安そうな如月くん。大丈夫、そんな一撃必殺の罠みたいなイベントはないと思うよ。初見殺しなんてトレントの自爆だけで十分です。
予定通り南西門から外へ出て、北方向へ向かう。ソードリモがちらほらいたので、連携を確認するために何匹か倒すことにした。モグラ、僕は目が怖いから苦手なんだけど、如月くんは大技が来なくて楽な敵ってイメージらしい。前衛の人たち怖くないのかなあ、僕は怖いから近距離攻撃は絶対やりたくないよ。<杖術>とか覚えたら近距離戦もできるようにはなるけど、絶対絶対取らないぞ。
「やっぱ盾あると安定感が全然違うし、回復あるとマジで精神的に楽ですよね-」
「お友だちは拳士の予定なんだっけ?」
「予想通り拳士でしたよ。あいついつも一番不人気な職業選ぶんで、そうだろうなーと思ってました」
「ダブルアタッカーもダメージ出やすくて良さそうだけどねー」
「あいつ、絶対俊敏筋力極振りなんで一撃食らうと結構キツイです、もう分かってるんですそれは……」
如月くんが遠い目をしている……!
今まで同じことで結構苦労してきたんだね……!
僕は相方イオくんで良かったなー、僕がイオくんに迷惑かけることは多々あれど、イオくんから迷惑かけられることとか……あったっけ? ほぼ無いよね。さすがイオくん、人間ができている! えらい!
結構歩いて壁の横を抜け、川沿いに出る。この川を渡って東側は昨日行った草原で、スパイダーの沼地があるところだ。こっち側は少し歩くと森のような木々の生い茂った場所があって、その辺が僕のセンサーにビビッとくるんだよね。
「向こうの方行きたい」
と僕が指さしたのと、
「ナツ! バフくれ!」
とイオくんが叫んだのはほぼ同時だった。
振り返ると、イオくんの盾に猛然と爪で攻撃している1メートルくらいの大きさの魔物……カワウソっぽいな? 水辺の魔物なのか、手足に水かきのようなものが見える。
「何いきなり! 【ディフェンシブ】! 【パワーレイズ】! 【サンドウォール】!」
とっさにウォールを張って時間を稼ぎ、急ぎで<鑑定>!
「リバーイービル、レベル16!」
レベル上だったので名前とレベルしかわかんなかった! 如月くんも自分にバフをかけて双剣を構え、イオくんはウォールが途切れると同時に向かってきたリバーイービルをジャストガードで弾いた。さすがイオくん、プレイスキルが高い! 頼りになる!
「強いぞ! 如月ヘイト取るなよ!」
「了解です! アクティブですか!?」
「わからん、急に殺気が来て攻撃された! アクティブだと増えたらまずい、川から離れろ!」
判断が早いイオくんが、飛び退くようにして敵を川から離れるよう誘導する。攻撃しながらヘイトを稼ぎつつで移動できるのすごく器用だなと思う。僕は下手に魔法撃たずにMP温存。
最初に襲われたところから少し離れて、増援が無さそうなところで再びイオくんが足を止めた。
「ナツ、如月、【ロックオン】の前に叩き込んでおけ!」
「はい! 【ダブルポイント】!」
「了解! 【サンドアロー】! 【サンドラッシュ】!」
「【ロックオン】!」
イオくんが強いというように、この敵はトレントとかと比べると素早くて力が強いっぽい。イオくんの盾にあたる攻撃の音が明らかに重そうなんだよね。ドッカンドッカンいってる、怖い。側面方向から遊撃する如月くんも、時々長い尻尾にべしっと振り払われて吹っ飛んでいる。
ただHPはそれほど無さそうだから、長引かずに倒せる、はず。
「如月くん! 【アクアヒール】!」
「あざっす!」
ヒールも結構ヘイト買うからなあ、魔法連発できないのがもどかしい。もっと支援系の魔法も覚えたいけど、攻撃手段もまだまだ貧弱だよねえ。こうなったらいっちょ魔法のレベル上げのためにウォール張らせてもらうか。
「【ライトウォール】!」
イオくんと敵の間にウォール系魔法を張って、攻撃の威力を削ぐだけの簡単支援。意外と勢いを殺せてるっぽくて、イオくんのカウンター技が決まりやすくなった。……ん? 敵になんかエフェクトが出てるな。<鑑定>っと……お! 今光属性も弱点付与で弱点属性になってる!
「【ライトアロー】!」
「【連撃】! 【破撃】!」
「【ダブルスラッシュ】!」
僕の攻撃と同時に全員のアーツが偶然揃って、合計4つのアーツを食らったリバーイービルは一気にHPを減らした。これはもうちょい! と思ったところでなにか赤いオーラっぽいものが立ち上る。
「あれは……狂化かな?」
「うわ、ブレファン思い出しますね」
そうそう、ブレファンの敵がよくHP2割きったら使ってくるんだよね、狂化。筋力めちゃくちゃ上がるから本当に怖いやつ。僕とか今も昔も紙装甲なのでかすったら死ぬんだ。あれ、でもなんか光が体の内側に溜まってる……?
「残1割なら自爆のほうが濃いぞ、叩け! 自爆死すべし!」
「自爆は滅べー!」
「自爆反対!」
言われてみれば残HPが少なすぎるからここから暴れるとしたら自爆の線が濃い! 許すまじ自爆! 喰らえ! とりあえずランス系魔法全部!
「【ファイアランス】! 【アクアランス】! 【ウィンドランス】!」
「【ツインショット】! 【双破】!」
「【プラスインパクト】!」
ちょっと過剰防衛じゃなかった? ってくらいのアーツを浴びて、リバーイービルは倒れた。
冷静に考えるとやりすぎたかも。明らかオーバーキルだったよ今。いくら自爆死すべしとは言え……いや、やっぱり自爆は許されない。これで良かったんだ。
そして格上相手だったからか経験値が多めにもらえて、僕の<土魔法>と<光魔法>がそれぞれ1つずつレベルが上がった。これで【リフレッシュ】も覚えたし、<土魔法>も上級に持っていける。
「自爆阻止できてよかったー」
と安堵する僕。そして盾を確認して、
「初心者の盾のままで良かった。耐久度ある盾だったら多分壊されてたなあれ」
と恐ろしいことを口にしたイオくん。やけにドカドカ大きな音をさせていたと思ったら、盾壊し系アーツだったのか。……いや待って、イオくん盾変えて無かったねそういえば。サンガでお金溜まったら良い盾買わないと。僕の安全のために、何なら予備も買って!
「おお、ドロップに魔石ありますよ」
「マジか。後で連戦してちょっと持っておきたいな」
「でもあのカワウソ、アクティブなんでしょ? 囲まれたらキツイよー」
水属性の魔石、どこかで使い道がありそうだから僕も欲しいけどね。アクティブな敵は後衛を容赦なく攻撃してくるときがあるから、格上相手にあんまり突っ込みたくない。もう少しレベル上げてから安全に狩りたいなと思う僕。クラスメイトに「男なら格上に挑んでなんぼだろ!」みたいに言われたことあるけど、僕はレベルを上げてパワーでねじ伏せる方です。レベル差は正義なのだ。
「レベル低いのがいたら一応<鑑定>しときたい。後で倒しに来るし」
イオくんはすっかり魔石集める気だなあ。敵に気づかれないように<鑑定>できるならどうぞどうぞ、ってことで、少しだけ川の近くに戻った。数匹のカワウソが川にもぐったり陸地に上がったりと戯れている。……遠目で見ると可愛いんだけど、さっきの重たい一撃の音を思い出すとちょっと怖いな。あんな音がする攻撃、僕が食らったら一撃アウトだよ。
「……ん?」
ふと、イオくんが首をかしげる。
「どうかした?」
「いや、あいつノンアクティブだ。なんで襲ってきたのかと思って」
「え?」
……えっ、どういうこと!?




