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10日目:やはりドワーフ女性は元気

「向こうに木材もあったぞ」

「ありがとう、流石イオくん目ざとい! そして物事を忘れない! えらいと思います!」

「うむ」

 さっきマロネくんを覚えてたことをここでついでに褒めておく。良いことをした人間は褒められるべきなので言葉を惜しまないのである。波多野家の家訓です。

 木材のお店は、主に家具用の切り売りが多かったけど、めっちゃでっかいのとかもあって、これどうやって作ってるの? って思ったよ。クルムとかハチヤの方で植林して街の中で育ててるのが大半で、あとは正道近くの木が嵐で倒れてきたときなんかに収集されたのとか、契約獣とうまく連携して正道近くの木を切り倒したのとかがあるらしい。特にクルムが林業が盛んで、魔力を対価にして木の成長促進を促す道具を偉い学者さんが開発したんだとか。

「それでもここまで大きな木材はめったに手に入らないよ」

「お高いですねー」

 なんて会話をしてその場は退散。もっと小さい端材でいいんだけどなー、と思っていると、知っている人を発見した。


「あ、ドロガさんだ!」

 木材を扱っている店を真剣に覗き込んでいる、夫婦っぽいドワーフの二人組。その片方が門のところで出会った門番のドロガさんだったのだ。僕の声に反応して顔を上げたドロガさんが、「おう」と軽く挨拶をしてくれる。

「おはようございます! 買い出しですか?」

「おはようさん。奥さんの付き添いだよ、力仕事なんでな」

 ドロガさんは上機嫌な感じで隣にいた奥さんを紹介してくれた。ココナさんというらしい。僕とイオくんも自己紹介してから、何を買いに来たんですか? と早速聞いてみる。

「私はしがない家具職人さ! 室内を飾る小物を色々と作ってるんだ!」

 ドワーフ女性、やっぱりとても元気。へー、それにしても小物かあ。飾り棚とかかな? レストラン用の調味料カゴとか? なんかどの程度需要があるのか想像つかないな……。

「今、需要があるのかと考えているだろう? あるさ! サンガは美食の街、レストランの街! レストランは飾り立てるものだからね!」

「……イオくん、僕そんなに心読みやすいかな……?」

「……まあ分かりやすいな」

 ぐ、ぐぬぬ……! でもいまちょっと間があったのでイオくんがフォローしようとした気配は感じたので許す!


「最近じゃ他の街からの注文も増えてきているしね。小物を作っている職人は少ないから、これでも売れっ子なんだ」

 ココナさんは胸を張ってそう言った。なるほど、需要より供給が少ない状態ってことかな。

「ちなみに、どんな物を作っているんですか?」

「そうさね、最近多いのは本棚、スパイス用の小さな棚、物入れあたりかね。サイドテーブルも売れ筋だよ」

「いいですねえ」

「そうだろう! とはいえこの街の家具職人は、レストラン用のテーブルや椅子を作るやつが多くてね。ああいうのは木の色合いを合わせたりなんだりで大量に買っていくから、毎回毎回木材の奪い合いだよ」

「なるほど、大変ですね」

 ……あれ? 僕たちそういえば家具用の木材、持ってなかったっけ?

 と思ってイオくんを見ると、イオくんは小さく頷いた。だよね、トレントのドロップ品、綺麗な木材っていうのが確か家具に向いているやつだったはず。あ、でもお店の前でそんな話題出すのは失礼かな。えーっと、どうしよう。

 と僕が迷っていたら、イオくんが一歩前に出た。

「ココナ、その木材ってどのくらいの大きさがあればいいんだ?」

「ん、小さけりゃ繋ぐし、太けりゃ切るさ! 大事なのは質だけだよ!」

「なるほど。ちょっと耳を貸してくれ」

 イオくんはココナさんに小声で何かを耳打ちした。ココナさんがみるみる表情を明るくして、イオくんに向けて「いい話持ってくるじゃないか!」とその背中をバシバシ叩いている。ちょっと痛そう。

「じゃあ、ここが私の店だよ! 今日中でいいかい?」

「ああ、午後になるかもしれないが、今日中には」

「じゃあお待ちしてるよ、イオ、ナツ!」

 お、おお……。

 あっという間に商談が成立している……! やはりイオくん、天才では……!?


「ナツ、パーティー用掲示板に書いとくから忘れるなよ。今日中にココナの店な」

「アッ、ハイ」

「これで共有インベントリ空くな」

「イオくんはさらっと商談をまとめられるので商人にもなれると思います」

「詐欺師よりマシになったけど商人にもなる気はねえなあ」

 けらっと笑うイオくん。この人なろうと思ってなれない職業とか無いんじゃない? って思ったけど流石にホストとかは無理かなー、塩対応だし。いや、でもイオくんくらいのイケメンならむしろ冷たくされたいって人も……いる? やめよう、これ以上考えると顔に出そう、そしてイオくんに怒られる。



 その後も売っているものを確認しながら会場を歩き周り、会場を出る頃には朝7時半を過ぎていた。結構丁寧に見て回ったけど、全部回り切ることはできなかったよ。しかも出店する店は日替わりだし、今日売ってなかったものも明日売ってるかもしれないっていうのが朝市の醍醐味。サンガ滞在中にもう何回か来たいところだね。

「ふー、もう一日終わったような気持ちになった……」

「これからなんだよなあ」

 そうだった、これから如月くんと合流してギルマスにアポを……。メッセージ送っておかなきゃ、とステータス画面を開いたら、1分前に如月くんからメッセージが届いていた。8時半にギルドでいいですかー? というメッセージに、OK! と返信しておく。

 ゆっくり歩いても十分余裕を持って間に合うから良かった。朝市楽しかったなー! 大満足! 散財はしたけど美味しい食べ物のためなので全て許されます。


 ギルドのフリースペースで如月くんを待っている間、イオくんがカフェオレを出してくれたので、軽くサンドイッチを食べる。ドーナツは朝市で食べたけど、あれだけだとちょっと物足りないというか……妖精サイズだったので小さいからね、あれは。

 たまごサンドはいつ食べても美味しいし、イオくんのたまごサラダはマスタード入でちょっとピリ辛。コンビニとかで食べるたまごサラダと違ってて美味しいんだよねーこれ。

 ちょうどたまごサンドを食べ終わる頃に、如月くんが「お待たせしましたー!」とやってきた。

「おはよう如月くん。朝市行った?」

「おはようございます! 行きました、超楽しかったです」

「おはよう。珈琲飲むなら出すが」

「ありがとうございます、いただきます!」

 あ、イオくんめ、如月くんにはあっさりブラック珈琲を……! 僕には何も聞かずにカフェオレを出したというのに! ブラック飲めるよ僕も!

 という抗議は「はいはい」でサラッとスルーされた。ぐ、ぐぬぬ。


「とりあえず需要がありそうな商売繁盛のお札を5枚、無病息災の御札を3枚、家屋安全のお札を3枚作ってみたよ。あとイチヤで大人気だった腰痛のお守りを5つ」

「お疲れ様です。それを売って、ギルマスに会えるかどうか交渉ですよね。……俺そういうのあんまり得意じゃないので、お任せしてもいいですか?」

「請け負いましょう! イオくんが!」

「俺かよ」

 当然イオくんです! 

 まあこの流れは、事前にお願いされたら受けようね、って決めてたので茶番だよ。元々イライザさんの知り合いなのは僕たちの方だし、交渉事はイオくんが上手なので。いくら僕でも無断で引き受けたりは……たぶんしない。友人づきあいを長持ちさせるコツは、よく話し合うことだってお父さんも言ってたし。


 如月くんは昨日解散した後、スキル上げを頑張っていたらしい。SP0になってたもんね、そういえば。枯渇したSPは3まで戻ったというので、よくできました。

「でも俺のスキルって戦闘系が多いんで、戦闘しないと上がんないんですよ」

「お友だちはログインできた?」

「キャラメイクまでは終わったって連絡きてました。合流はまだまだ先ですねー、この辺の敵はソロだとちょっときついんで、もしこの後予定ないなら、一緒にフィールド行きませんか?」

「僕は良いと思う! 3人いたら戦闘も楽だと思うし……どうかなイオくん?」

「構わないぞ。気になるところでもあるのか?」

「うん、白地図のこの辺がね……」

 もちろん金策もしたいんだけど……うちのイケメンが食材買いまくったので共有財布の残高がちょっと心もとないし。それに、地図でいうと北門を出て西側が気になるんだよねー。<罠感知>でなんか引っかかった時みたいな微妙な違和感があるんだ。

 でも、その辺だと北門から出て川を渡る必要があるから、南西門から出てぐるっと北方向に回り込む方が楽かも。とりあえずその当たりを指さして、この辺! と2人に教える。如月くんは今連結中だから僕の地図画面を見れるはず。


「気になるって、なんかありそうなんですか?」

「それはよくわかんないんだけど、なんかひっかかるというか、意識が持っていかれるというか……」

「え、怖い。またなんかトントン拍子に進むやつですか?」

 なんでそんな怯えた顔をするんですかね如月くん。そんな昨日みたいにいつでも何でも上手くいくわけじゃないよー、と否定しようとした僕に、イオくんがボソリと一言。

「<グッドラック>か」

 ……あ、そういえばそんなスキルが昨日の夜に取得できましたね……?

「あー! 話題になってた特殊スキルじゃないですか! やっぱりあれナツさんが発見ですよね、俺の知ってる中で一番幸運の値高かったし……!」

「如月くんっていつ掲示板読んでるの……? そうだよあれの第一号が僕だよー」

「めっちゃ羨ましいです。俺も特殊スキルほしい……!」

 いやまあ、どうせならもっと効果の分かりやすい特殊スキルのほうがおすすめだけどね。<グッドラック>は本当に何が上がってるんだかよくわかんないから、エルフ以外にはおすすめできないし。


「セオリーとして極振りのほうがこういうのは出やすいだろうな」

「つまりヒューマンには難しいと……!」

「イオくん、なんて身も蓋もないことを」

 でもなー、特殊スキルの発見条件ってステータス依存のものばっかりではないと思うんだよね。アナトラはかなり初心者に優しいことを全面に押し出してるし、極振りってあんまり初心者はやらないと思うからさ。そもそも極振りって言葉すら、初心者さんは知らないと思う。だとしたら、特殊スキルをそんな取りにくいところにばっかり置かないのでは……ってメタ読みだけどね。

「つまり今のナツさんって昨日よりパワーアップしてるんですね……?」

 パワーアップ……してるんだろうか。まあスキル一個増えただけだからそんな警戒しないでほしい。世間はそんな運だけじゃ回んないからね。

 まあそれは置いといて、そろそろお札を売りに行こうか! 

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