9日目:まさかの特殊スキル
「はいではここまでの進捗を如月くん! どうぞ!」
「はい。3つの遺品の内、手帳とショールについては持ち主に返却できました。めちゃめちゃしんみりしました。残りはペンだけですが、どうやら4等星の方なのでツテがありません!」
「それを踏まえて今夜やるべきこと、明日やるべきことをイオくん! どうぞ!」
「ナツが札を作ってギルドに卸す、ついでにギルドマスターに面会を求めて情報を集めるんだろ? 問屋街のこと聞かなくて良いのか」
「忘れてました!」
指摘されて慌てて通行人のお姉さんに声をかける僕。なんかグロリアさんの雰囲気に飲まれちゃってすっかり頭から抜けてたけど僕たちは問屋街を探してたんだよ、テアルさんに会うために。
すみませーん、このあたりって問屋街で合ってますか? ……あ、はい。知り合いが問屋街にいると聞いて。え、大体どの店も午後3時位までで店じまい? それじゃあ、明日また来るしか無いですねー。教えてくれてありがとうございます!
「だそうです!」
「ナツさん、ホントに勢いがすごい」
「人生はノリと勢いだよ如月くん!」
問屋街っていうのは、その名の通り問屋の集まっている商業地域なんだけど、問屋通りでも手前の方はフラワーベルのような小売の店が並んで、奥に行くほど問屋街と言われるものになっていくらしい。
朝市で仕入れたものを即販売したりする店もあるから、早起きして混み合う市場で買付をしたくない人たちは問屋街を利用する。もちろん、仕入れたものに手間をかけてより良いものにして売る店のほうが人気は高いと。
「僕がお札を作ってギルドに売るのはもちろん良いんだけど、朝市も見て歩きたいね。話を聞くのは如月くんと一緒じゃないと意味ないから、明日は朝市行ってから合流してギルドでお札を売る流れにする?」
「朝市は早くから開催してて8時には閉まるんだったか。別に明日じゃなくても良いんだぞナツ?」
「それはそうだけれども」
でも行きたいじゃん朝市! サンガの目玉じゃん!
「あのー、クエストの方は別にいつでも大丈夫なんで、どうぞ朝市行ってきてください。俺も見てみたいですし」
「ほら如月くんもこう言ってるし! 朝市は許されます!」
「仕方ないな」
やれやれって感じに肩をすくめるイオくんである。イケメンはどんな仕草をしても絵になるからお得だな。
そしたら明日はお互いに朝市を楽しんで、8時位を目安に連絡するねーってことで如月くんとは一旦解散。ゲーム内時間はすでに午後6時過ぎ、そう、つまり、夕飯のお時間です!
「と言っても今日はこのあとお札作りが待ってるから、ショップカードのお店は明日にしよう」
「ナツは美味いもの食ったあとに予定が詰まってるの嫌がるからなあ」
「余韻に浸りたい」
だって絶対良いお店なんだもん、やるべきことを終わらせてから行きたいよ。
イオくんと、じゃあなに食べる? って話をしながらギルド前通り東側へ。軽食ならこのあたりでも十分美味しそうなお店がある。その中で本日の夕食に選ばれたのは、イオくんのリクエストによりパイのお店だ。バターたっぷりのパイ生地で様々な物を包み、焼き上げている。ディナータイムはピースじゃなくてホールで食べられるらしい。
「野菜とチーズのパイにするか、ミートパイにするか……っ」
「俺はサーモンクリームシチューパイが気になるな」
「半分交換しない?」
「じゃ、ミートパイで」
「了解」
サクサクのパイ生地に包まれた食べ物が美味しくない訳がないので、とても美味しくいただきました。
夕飯後は、勝手知ったるギルドの作業場を借りる。
僕がお守りやお札を作っている横で、イオくんは卵に魔力を込めてくれている。僕のインベントリに入れておいた卵の魔力の補充率は25%になっていた。今日一日で5%分の魔力をインベントリを通して吸い上げているわけだ。ってことは、思ってたより早く契約獣に会えそうだね。
さくさくとお札を作りながら、今後の予定を確認。昨日作ったやることリストの内、カレーの配合を習うことしか達成できていないので、まだまだやることは山積みなんだけど。今は何よりも如月くんのクエストが気になりすぎるので、あっちの結末を先に見てからじゃないと。
「マロネくんについては、結局まだ知り合いを探せてないよね」
「ジンガは帰り際に聞いてみたけど知らないって言ってたからな。グロリアには質問してないぞ」
「聞ける雰囲気じゃなくてさ。あー、でもあとでまたグロリアさんのお店には行こう」
「何か欲しい物でもあったか?」
「魔法図案入りのスカーフがあったんだよ。何か効果付きだったし、ちょっと詳しく見てみたい」
「ああ」
良い金策になると噂の<魔法図案>。あの店で売ってたスカーフは、防御力+5とか魔力+5みたいなのが多かったけど、たくさんあったから掘り出し物があるかもしれない。
すっかり装備していることすら忘れていた「食のお守り」が効果切れてるから、僕のアクセサリ枠は1つ空いてるんだよね。イオくんのアクセサリ枠も空いてたはずだし、なにか良いのがあったら欲しい。
MPポーションを飲みながらいくつかお札を完成させて、飽きてきたら卵に魔力を通して、お菓子をつまんだりしながら作業は進む。その間に気づいたんだけどさ、この卵ちょっと昨日から変わってない?
「ねーイオくん、この卵の色さあ……」
「あー、青くなったな?」
「なんで?」
「さあ?」
そう、昨日はほんのり緑色だったこの卵、なんか今日はほんのり青いのだ。どういうこと?
「これって、あれかな。色で属性が決まってるわけじゃないですよ的な意思表示……?」
卵さん、どうなのそこんとこ。何か訴えたいことある?
僕がじっと見つめてみると、卵からはおっしゃるとおりでございます的なニュアンスの感情が伝わってきて、僕の目の前で卵の色はほんのり青からほんのり紫っぽく変化した。変幻自在じゃん……!
「えー、すごい。なんで色変えられるの? 実は君すごい子?」
卵を撫でつつ聞いてみると、なんとなく伝わってくることには、おそろいーみたいな……。あ! 僕今紫ですね! え、そういうこと!? まさか生まれる前から懐いてくれてる説……!
「君がたとえオタマジャクシでも大事にするよ!」
「いやオタマジャクシはダメだ、ナツが乗れない」
「イオくん融通がきかないって言われない!?」
「主にお前に言われるなあ」
「主に僕関連か!」
まあ僕が割りと自由に動いてるので手綱を握られている感がありますね。
そんなことを話しながら生産を続けると、売り物用のお札が10枚ほど完成した。品質は★2から★4まで、お札はちょっと気を抜いて線がズレたりするとすーぐ品質下がっちゃうんだよね。お守りはポンポン★5とか★6とか作れたけど、お札は★4が今のところ最高品質。キガラさんも言ってたけど、高品質の物を作るのは難しいみたいだ。
そして今日の個人的目玉は保存のお守り。
これねー、5回トライして成功は2回だったんだよね。結構難しいお守りなのかも。品質がないから贈答用には便利そうだけど、自分で使えるものある?
そう思ってインベントリ内を探してみたけど、かろうじて若葉のペンダントに使えるくらいだった。使ったら壊れないらしいんだけど、幸運+5のペンダントをいつまで使い続けられるのかは正直わからないから、保留かなあ。
あ、幸運といえば。今39なんだよねー、幸運値。すごく気持ち悪いからPPを1振っちゃって良いかな。40なら区切りが良くてなんとなくスッキリするし。もう少しで職業レベルのほうがまた上がるだろうしね。決定っと。
さて、<上級彫刻>がレベル5に上がったから、何かスキル増えてないかなーと思って取得可能スキルの一覧を開いてみる。
「あ」
……赤文字。
あれ? 赤文字のスキルって確か……。
「イオくん! なんか特殊スキル生えてる!」
「うわ流石ナツ」
「何その反応!? 取得条件はプレイヤーレベル15未満で幸運40以上、アクセサリ等の底上げは除外!」
「何だそのナツのためにあるような特殊スキル!」
奇遇だねイオくん、僕も僕のためにあるようなスキルだなって思ってるよ今! だけどこれ、SPを20使います! 繰り返します! SP20です!
どれどれ? とステータス画面を覗きこんでくるイオくんに見えるように画面を傾けて、該当スキルを指差す。赤文字のスキル名は<グッドラック>、効果は……。
「レアドロップ率UP、レア遭遇率UP、レアイベント発生率UP、固定スキル!」
「もうそれナツ専用スキルだろ、取得!」
「イエッサー!」
*****
ここまでのナツのステータス
ナツ プレイヤーレベル13 上級魔法士レベル6
HP:150 MP:430
筋力:5 物理防御力:15 魔力:43 魔法防御力:32
俊敏:10 器用:18 幸運:40
残りPP:1
■基本スキル
<土魔法>レベル9 【サンドアロー】【サンドウォーク】【サンドウォール】【サンドラッシュ】【クレイ】
<闇魔法>レベル6 【ダークアロー】【ダークアイ】【ダークウォール】
<光魔法>レベル6 【ライトアロー】【ライト】【ライトウォール】
<節制>レベル8 <瞑想>レベル2 <魔操>レベル5 <ヘイト低下(小)>レベル8 <魔力ブーストⅠ>レベル5 <迷彩>レベル2
■発展スキル
<上級水魔法>レベル2 【ウォーターアロー】【アクアクリエイト】【アクアウォール】【アクアヒール】【アクアレイン】【ディフェンシブ】/ 【アクアランス】【ミスト】
<上級火魔法>レベル2 【ファイアアロー】【イグニッション】【ファイアウォール】【パワーレイズ】【ファイアレイン】【ファイアヒール】 / 【ファイアランス】
<上級風魔法>レベル1 【ウィンドアロー】【クリーン】【ウィンドウォール】【ウィンドヒール】【ドライ】【ウィンドラッシュ】/【ウィンドランス】【フロート】
<MP回復量増Ⅱ>レベル5 <上級彫刻>レベル5 【フリードロー】【インスピレーション】【アンドゥ】
<識別感知>レベル6 <罠感知>レベル2 <総合鑑定>レベル6
<高度魔術式>レベル1
■固定スキル
<ヘイト軽減Ⅰ>敵からのヘイト20%軽減
<MP軽減Ⅰ>使用MP20%軽減
<魔法回復量増加Ⅰ>自分が使用する回復魔法の回復量を20%UP
<グッドラック>レアドロップ率UP、レア遭遇率UP、レアイベント発生率UP
残りSP:38
次は閑話が2話入ります。
 




