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9日目:人探しをしよう


 イオくんは無事にカレーのスパイスをレパートリーに加え、福神漬の作り方はメガ・ギガ兄弟にしっかりと伝えられた。

 福神漬って大根とかれんこんとか入ってるものなんだねー、普段全く意識して見てなかったから全然知らなかったよ。他にもきのことかたけのことか、なんかいろんな食材で作れるらしい。味付けも醤油・砂糖・酢でシンプルらしく、僕でも作れそうじゃん? って思ったよ。作らないけど。

 ただあくまで漬物だから、1晩漬け込む手間がかかる。そんなわけで兄弟が福神漬を味見できるのは明日以降となった。

 イオくんが見本で作ったものも一緒に保管してもらって、明日取りに来るというような話をしている。インベントリに入れちゃうとそのまま時間停止しちゃうから漬物はできないしねー。そういう意味でも、やっぱり拠点は欲しい。

 イオくんはギガさんと一緒にブレンドしたカレー粉を瓶詰めして、インベントリにしまい込む。満足そうな顔である。そのままお昼はメガさんのカレーライスをごちそうになった。僕がさっき提案したトッピングについて意見交換しながらの食事だったけど、ギガさんもイオくんも色々意見を出してて、これはすぐにでも屋台ではトッピング追加できるようになるかもだね。


 レンタルキッチンをお暇してからは、一旦ギルドへ向かう。

 ウォータースパイダーの素材を売り飛ばして、いくらで売れるのかを確認するためだ。今日は午後もウォータースパイダーを倒しに行くつもりなので、今ある分は全部売っぱらって良さそう。

 意気揚々とギルドの扉を開けて……もちろんイオくんがですね……ギルドのカウンターへ向かうと、その途中に「あ」と聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あ、如月くん! 昨日ぶり!」

「ああ、やっぱり。ナツさんとイオさん、休憩ちゃんとしてますかー?」

「ちゃんとしてるよー」

 如月くんこそ仮眠取るって言ってなかった? って思ったけど、2時間くらいの仮眠を取ってきたらしい。探索が楽しいから早く続きやりたかったんだって。その気持はとても良くわかるね。

「さっき南西門方向行ってきて……あ、もしテアルさん見つけたら居場所教えてほしいです」

「テアルさん?」

「はい。……えっと、南西門方向に墓地みたいなのがあって……」

 如月くんはそこで言い淀んだけど、墓地ってもしかしてマロネくんのところのかな?

「マロネくんに会った?」

 試しに聞いてみると、如月くんはばっと顔を上げた。

「2人もクエスト受けたんですか?」

「クエスト?」

「クエストは受けてないな」

「えっ」


 で、何があったの? と聞いてみると、如月くんもマロネくんの木まで行ったらしい。そこでポツリと「何か形見があれば、遺族に渡せるのに」と呟いたところ、マロネくんが出てきたと。

「地面を掘って出てきたものを渡してくれたんです。目印をつけて隠していたらしくて」

「10年前のものだよね。形見の品、無事なのあった?」

「ほとんどは原型がわからないくらい損傷してましたけど、保存のお守りっていうのがついてるやつがいくつかあって。それだけ無事に残ってました」

 お守り! もしやそれ覚えられるやつかな?

 期待した目で見てしまったらしく、如月くんはすっとインベントリからその形見の品を取り出してくれた。手帳、ショール、ペン。とても10年前のものとは思えないくらい綺麗な状態だ。

 それらを前にして、ステータス画面を開いたら、バッチリ。保存のお守りの作り方を<高度魔術式>さんが拾っている。えーっと、アイテム1つをそのままの状態で保存するお守り、か。保存と言っても手帳に書き込んだりバックに物を入れたり出したりはできるらしい。正しくは劣化を防ぐ、ってことかな?

 これには品質の★が無くて、解除するにはそのアイテムに触れて「保存終了」を宣言する必要がある。ただし、品質が無いアイテムなので、作成時に成功失敗の判定がある、と。

 変わり種だなあ。こういう変わったのも<高度魔術式>なら拾ってくる、ってことか。


「これ、<鑑定>すれば誰の持ち物だったかは出てくるんで、ご遺族を探しに行くつもりなんですけど。テアルさんってなんか、立場上の人っぽかったじゃないですか。それに、あのご夫婦なら昔のこともよく覚えていそうだなって思って」

「ああ、なるほど。確かにねえ」

 確か、テアルさんたちは問屋街にいるって言ってたっけ。

 問屋街ってどのあたりのことをいうんだろう。多分、まだ僕たちが行ったこと無いところかな。

「マロネくんが親しくしてた人達の身内に会えるってことか……」

「あ、やっぱりナツさんは気になりますよね。俺も、サンガに運んでやろうか? って聞いたんですけど……」

 ってことはやっぱり如月くんにも動くつもりはないよって話をしたんだろうなあ。如月くんもなんだかんだいい人っぽいから、放置したくない気持ちになったんだろう。

 なんとなく如月くんと視線をあわせてわかるわかるって感じに頷いていたら、イオくんが仕方ないなって顔をして話に割って入った。

「ナツ、気になるなら如月に同行するか?」

「えっ、いいの!?」

 今日は高級お宿ボーナスステータスだから、一日中狩りに勤しむつもりだったんだけど。効率重視のイオくん的にもそのつもりだと思ってた。


「ナツがマロネを放置できないのは分かってたことだし」

「分かられていたか……」

「お前弟欲しいからって年下に甘すぎだもんな……」

「そ、そんなことないよ!」

 イオくんは「はいはい」って感じの眼差しを僕に向けた。……くっ、残念ながらそんなことなくはない……! だっていいところ見せたいじゃん! 

 僕って自覚あるけど童顔だからさ、年下の子たちからはなんか同級生の友達みたいな扱いされるんだよね。キヌタくんくらい幼い子じゃないと「お兄ちゃん」って呼んでくれないんだよ、ひどくない? 従兄弟たちと遊んでても、僕は昔から5歳以上年下のグループに入れられてるし! 一度でいいからきらきらした尊敬の眼差しを向けられたい……!


「でも今日はレベリングしようって話、してたよね」

「まあ別に急いでレベル上げる必要もないだろ。ウォータースパイダーの強さも分かったし」

「うーん、この気遣いのできるイケメン。なんなのイケメンは良い人って決まりでもあるの?」

「普通に」

「イオくん優しい! ありがとういい人!」

「うむ」

 いつもの茶番にイオくんは満足げに頷いた。ノリが良いのだこの友人は。如月くんがちょっとあっけにとられたような顔をしていたけど、身内ノリですまんな、って顔をしておこう。

「というわけで僕たちもご一緒していい? テアルさんに会いに行きたいって話は元からしてたし」

「あ、はい。もちろんです。協力してもらえるならありがたいですね」


 手始めに情報収集から、ということで、ギルドのフリースペースを借りる。

 如月くんがマロネくんから託されたのは、手帳、ペン、ショールの3つ。どれもお守りのおかげで劣化せずにかなり良い状態だ。

「じゃあ、まずこれらを<鑑定>して、誰の持ちものなのかを確認します。……<鑑定>もう少しでレベル10なので俺が」

「SP大丈夫?」

「正直4しか無いですね」

 カツカツじゃん。

 でもそうすると、<鑑定>レベルMAXになっても<敵鑑定>か<上級鑑定>のどっちかしか取れないな。如月くんが<総合鑑定>にたどり着くまではまだかかりそうだね。

 如月くんが全て<鑑定>しても結局経験値は足りなかったから、イオくんの剣と僕の杖も<鑑定>を許可して、それでようやく如月くんの<鑑定>のスキルレベルが上がった。嬉々として<上級鑑定>を取得している。その間に僕とイオくんも全部<鑑定>……このスキルは使えば使うほどレベルが上がるから、3人いたって全員が1回づつ<鑑定>したほうがお得なんだ。

 そしてその鑑定結果を、イオくんがまとめて一旦パーティー用の掲示板へ。それをスクショして僕が如月くんと情報交換する。二度手間なことやってるのは分かってるんだけど、一応如月くんに「パーティー組む?」って聞いたら「連結でいいです」って遠慮されてしまった。


 アイテムの持ち主名、その持ち主の職業や年齢などの簡単なデータが一覧になっているのを見て、どの人から探そうかと話し合ってみる。

「このペン、持ち主の名前がクアラ=バルってなってるから、4等星の人だね」

「ああ。貴族の人ですか……」

「女性、24歳。意外と情報は少ないなあ」

 もっといろんな<鑑定>を持っていれば、もう少し情報が出たのかもしれないけど。残念ながら今回はこの少ない情報でなんとかするしかないみたいだ。

「どこかの責任者クラスに聞き込みだろうな。星級はたいてい何かの組織の長だったはずだ」

「ギルドマスターは? 僕イライザさんからお守りを売るように頼まれてるから、そのときに話持っていけないかな?」

「お、ナツの意見採用」

「やった!」

「おお……。お二人って貴族にツテあるんですか、流石ですね」

 如月くんが感心したように言う。だよねー、普通は貴族にツテなんてないよねー。なんか気軽に名前教えてくれる人たちばっかりだったよイチヤは。まあイライザさんと知り合えたのは、腰痛のお守りのお陰なので……ちょっと如月くんにはあんまり教えたくないよ、シュールすぎる。


「手帳は持ち主がサザルさんっていう学者、男性、年齢69歳。……ジンガさんに聞けば何か情報あるかも」

「え、そうなんですか?」

「みんなには言ってなかったっけ? トレントの習性を教えてくれた時、友人が学者だったって言ってたんだよ」

「マジですか、超ありがたい情報です」

 あ、なんかちょっと如月くんが尊敬の眼差しを向けてくれてる気がする! 求めていたもの! ちょっとドヤ顔していいですかねこれは。

「ショールは、情報が少ないな……。ライラという名前で35歳、魔法士の女性だってことしかわからない」

「流石に情報不足だねえ。保留」

「や、でもすごいですよ。俺一人だったらなんにも分からなくて途方に暮れてました。お二人のお陰である程度目星が付きそうじゃないですか」

 まだ具体的なところまでは行ってないけど、まあ確かになんとか当たりはつけられそう? この中で一番追いかけやすいのは、ひとまず学者さんかな。ジンガさんのお店は、3人共ショップカードがあるからたどり着ける。

 ペンを追いかけるために僕がこの場でお守りを作ってギルドに売っても良いんだけど、ギルドマスターに面会を求めるならある程度まとめて持ち込みたい。できれば今夜を生産に当てて明日が理想かな。


「じゃあ、ジンガの店に行ってみるか。昨日の今日でちょっと気まずいとか言ってたけど、大丈夫かナツ?」

「多少の気まずさなんて目の前のクエストを断念させる要素になるだろうか、いやなるまい!」

「テンション上がってんなあ」

「まあまあ。ジンガさんのお店はどうせいずれ行く予定でしたし」

 そうそう、空白地が埋まるからね!

 えーと、ジンガさんのお店は……スーリエ橋を渡って東側から、少し北に入ったあたり。ショップカードによると「市場通り」だ。ということは、ここへ行けば自然とその先に市場がある、ってことだろうな、位置関係的にも。

「何か差し入れ買って行きますか?」

「あー、知り合いに会いに行くんならそのほうが良いよね! 憩いの広場に行こう!」

 もしかしてジェラートがあるかもしれないし!

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