8日目:聞き込み調査は基本
朝市の開催場所は、無事にシーニャくんから聞き出すことができた。
スーリエ橋を渡って東側で、ギルド前通りから北方面に入ったところらしい。シーニャくんもここにはいない契約獣の買付けや交換のために行くことがあるとのことだった。話を聞いたことで白地図に場所が登録されたので、これでいつでも見に行けそうだ。
「契約獣はお店を通さないと売れないから、一般客は買えないよー。一般に開放されている方の朝市は、素材とかその場で作った料理とか、後はなんといっても食材が目玉だね」
「珍しいのもあるのか?」
「うん。最近だと、米を使ったお酒が売りに出された話を聞いたかな? まだ珍しいものだから、買えるかわからないけど」
「日本酒だ! 神!」
「おお、こんなところでヒントが!」
イオくんのテンションがめちゃくちゃ上がった。是非とも納得の行くカツ丼を作って欲しいものである。
とはいえ、今日は宿に泊まる予定だから夕食と朝食が付いてくる。宿の朝食は7時からで、朝市はもっと早くから始まって8時には終わるらしいから、行くなら明後日以降かな。食事が美味しいと評判の宿の朝食だから、絶対食べたいし。
「次どうする?」
とイオくんが問いかけるので、少し考えた。ハンサさんからもらったショップカードのレストランには明日以降の夜に行くとして、ジンガさんのお店は……午前中別れたばっかりでもう行くのもなんかちょっと気まずいかも?
「イオくん、明日はカレー習いに行くよね?」
「おう、明日10時以降ならいつでも良いってさ」
「じゃあ、ちょっとフィールド出る?」
「あー、そんならトレントの葉売ろうぜ。ギルド近いし」
「インベントリ圧迫してるもんねー。売ろう売ろう」
トレントの葉、ドロップ数としてはそれほど多く無いんだけど、色がちょっと違うと別のインベントリ枠に収納されるので、めちゃめちゃ場所を取る。同じアイテムなら99個まで同じ枠に入れられるんだけど、まとめてくれないんだよね。
「そういえば、葉って<鑑定>した?」
「ちゃんとしといたぞ。俺たちにとって価値が高いのは『新緑の若葉』ってやつだけだな。3枚しかないけど、これも強化素材だ。布製品に向いてるらしいから、ナツのケープとかの強化用だな」
「おお」
素材鑑定が仕事してるな。布向きかあ。
「今の装備は強化できないやつだから、もっと良いの買ったらだね」
「倉庫欲しい」
「欲しいね。どのタイミングで実装されるかな……」
個人ショップは正式サービス開始と同時に実装予定って聞いてるけど、倉庫システムはあるかな? アナトラは初心者に優しい作りだからあるとは思うんだけど、どういう形で実装されるのかまだわからない。
プレイヤー拠点が作れて、そこに付随する形になるのか。ギルドとかで保管できるようになるのか。他の方法になるのか。いずれにせよ早期実装を切望したい。
たくさんあった葉の売却は、種類ごとに数えて計算して、ってやってたらちょっと時間を食った。
枯れ葉っぽい茶色系は安くて、1枚300G くらい。元気な緑の葉は1枚800Gくらい。ファイアトレントの炎の葉は高くて、1枚1,500G。買取価格UP のお守りがあっても35,000Gくらいにしかならなかった。いや、十分なんだけど、お守りの買取価格を知ってると微妙に感じちゃうんだよね。
この他に盾の材料になるというトレントの強皮という素材が高く売れて、合計で50,000G近くにまでなったので良しとします。インベントリがだいぶ空いたのがありがたい。これで新しい素材をまた拾えるね。
それからちょっとギルドのフリースペースを借りて、スキルを確認する。
僕の場合だと<風魔法>がレベルMAXになっているので、<上級風魔法>を取得。新規の魔法【ウィンドランス】【フロート】を取得した。魔法系で、取得したけどまだ使ってないアーツがいくつかあるけど、<土魔法>の【クレイ】は粘土をこねて造形する魔法で、足場がないところに足場を作ったり、緊急時に土のバケツを作ったりとかできる。ただし、【クレイ】で作った造形物は基本3時間くらいしか形を留めない。
<風魔法>のレベル7で覚えていた【ドライ】は、とにかく何でも乾かす魔法だ。水に濡れたものとか、水分たっぷりの果実とかも乾かせる。で、今回覚えた【フロート】は、浮き上がる魔法。縦方向に浮くだけで、そのまま移動とかはできないけど、ちょっと楽しそうな魔法だね。
で、他にめぼしいスキル無いかなーって探してたんだけど、フィールドで敵に認識されにくくなる<迷彩>が良さそうなので取っておく。今後のことを考えると回復魔法の回復量を上げたいんだけど……あ、固定スキルにあった。<魔法回復量増加Ⅰ>自分が使う回復魔法の回復量が20%UP、これは必要でしょう。回復量100が120になったら、今ならちょっとありがたい。
他のスキルは……今はいいか。宿でゆっくり検討しようかな。
「イオくんなんかスキルとった?」
「<体術>取ったら武道系のスキル結構出てきたんだけど、いまいちだな。ナツのヘイトを吸うスキルがほしいんだけど、まだ出てないし」
「魔法は?」
「それは講座で取る! 気になるのは、固定スキルで<剣技>ってのがあるんだ。剣の扱いがうまくなるスキルで、これとっとくと剣術系スキル効果が上がるらしいんだけど……」
「いいじゃん! 取っちゃえば?」
「SP10なんだ」
「えっ、高い」
固定スキルでSP10はちょっとコストが……! あれ、でもコスト高いってことは特殊スキル系なのかな?
「いや、別にこれは特殊じゃない」
「……くっ、イオくんに簡単に読まれてしまうこの心をどうすれば……!」
「分かりやすいんだよナツは。で、固定スキルはSP5のやつとSP10のやつの2種類あるんだ。こっちはSP10のやつで、効果が高い……と一般的には言われているやつだな。特殊スキルは今わかってるやつ2・3個しかないけど、15~30のSPを求められる」
「30はきついね」
今の残りSPがごっそりなくなるなあ。特殊スキルって、SP100とか求めてくるのが今後出てきそう。
「僕の取得可能スキル一覧にはSP10の固定スキルは無いよ」
「これから出てくるんじゃないか? 俺の方にもこれしか無いし。……とりあえず取ってみるか」
「使用感を後で教えてー」
僕の取得可能スキル一覧にSP10の固定スキルが出たときの参考にさせてもらおう。
「じゃあ、そろそろフィールドに出てみる? 様子見だから南西門付近で狩りしようか」
「地図埋めもしたいんだろ? 崖のところまで歩いて戻ってくるくらいで時間的にもちょうどいいんじゃないか」
「宿の晩ごはんが待ってるからね!」
「また詰め所で情報もらうか……。なんか差し入れ買うぞ」
というわけで、近くの屋台で肉巻きおにぎりを何個か購入。
門番さんに差し入れして近くの魔物の情報をもらうのは、イチヤでもやってたことだ。あ、そういえばイオくん、アーダムさんの知り合いを尋ねる約束してなかったっけ? 明日以降覚えてたら行かなきゃ。
「戦闘より地図を埋める方優先な」
「うん、あ、でも多少は戦おうね。街に近いところにいる敵は弱いって聞いてるけど、一応ドロップとかも気になるし、経験値も知りたいから」
「肉欲しいんだよなあ」
「ワイバーンほどのものは、なかなか無さそう」
「それな」
ワイバーンが今現れたとしても僕たち多分勝てないしねー。あの美味しさなら命かけて狩りに行くトラベラーはいそうだから、そのうち出回るといいな。
南西門の詰め所には、常に7~10名くらいの兵士さんが常駐しているらしい。イチヤの東門が常に4人くらいだったのに比べると、倍はいるってことか。
「馬車で長距離移動してくる商人が多いからな。正午前後が一番混み合う。南西門に来るのはロクトから鉱石を運んでくるのと、イチヤから果物を運んでくるのが多いな」
と教えてくれたのは、現在休憩中の兵士の一人、ドワーフのドロガさん。立派なひげを蓄えた貫禄のある、いかにもドワーフさん! って感じの兵士さんだ。差し入れの肉巻きおにぎりを美味しそうに食べながら、機嫌よく周辺の魔物情報を教えてくれた。
「街の近くにはそんなに強いのはいないから、周辺を見て回るだけなら特に問題ないと思うぞ。崖から先は、落ちたら大変だから行かない方がいい。戦中の情報だが、南西門付近に出るのはソードリモ、爪が鋭いモグラだな」
「モグラかあ……」
「土属性だろうな」
<土魔法>のレベルを上げたいから水属性の敵がいいんだけどなあ。まあ<光魔法>と<闇魔法>を上げればいいか。全部上級にしたら何か追加されるスキルもありそうだし。
「北の方行くとウォータースパイダーっていうでかい蜘蛛が出て、こいつの素材がなかなか良い糸だから売れるぞ。東方面はポイズンシープ、毒を使ってくるから厄介だし、ちょっと浮いてて不規則な動きをしてくるからおすすめはしないな」
お、いい情報。明日以降は北方面に行きたい。ウォータースパイダーって絶対水属性だよね。金策もできるなら尚良し、高いレストランにも入れるし!
「だいたい分かった。礼を言う」
「ドロガさんありがとう! 安全第一で探索してくるねー!」
「おう、無事に帰れよー」
のんびり手を振るドロガさんに手を振り返して、僕たちはさっそうと南西門を出た。
いざ! モグラ退治へGO!




