7日目:トレント殲滅戦 前編
「紹介するわ、こちらがガンちゃんよ」
プリンさんが呼び出したガンちゃんは、若草色の、柴犬くらいの大きさのカメレオンだった。地面の色によって色が変わるらしくて岩の上に乗ると灰色っぽくなり、土の上だと茶色っぽくなるらしい。種族名はレインボーミミックというらしい。
ミミックって、あのミミック? 宝箱じゃなくてカメレオンなのに、なんでだろう? と思っていた僕に、
「ミミックは擬態を意味する英語だぞ?」
とあっさりその疑問に答えるイオくん。また心を読まれましたね……。
「くっ……イケメンはイケメンの上に頭がいい……っ!」
「普通に褒めてくれ」
「色々知っててえらいと思います!」
「エライトオモイマス!」
うむ、と頷くイオくんの頭にピーちゃんが乗っかって僕の真似っ子をしている。なんか真似されるの、ちょっと気恥ずかしいような気がしてきた。
ともかくそんな頼もしいカメレオンのガンちゃんに、プリンさんが作戦を伝え、トレントたちに見つからないように丘を降りる。
「じゃあ、始まったら僕が<鑑定>して情報を伝えるから、プリンさんたちはなるべく早く撃破お願い」
「その都度臨機応変に指示出して頂戴。こちらも提案があれば言うわね」
「その撃破のために不意打ちから入りたいんで、初撃俺にください」
頼もしい如月くんに特攻を任せて、僕も杖を構える。如月くんが一撃入れたら速攻<鑑定>を入れなきゃ。バフは少し離れたところで先にかけておけるから良いんだけど、この近さだと、流石に<鑑定>は気づかれてしまう。
トレントの殲滅戦は、静かに始まった。
気配を消した如月くんが一番手前の普通のトレントに背後から忍び寄る。攻撃範囲に入ったところで【筋力強化】+【パワーレイズ】+【ドッカン】(ピーちゃんのバフ。このバフをかけた直後の攻撃の威力が2倍になる)でガチガチに強化した上、パッシブスキルの<バックアタック>(背後からの攻撃が1・5倍になる)と<不意打ち>(同じくパッシブ。戦闘開始時、敵に認識されていない状態から攻撃を当てると威力が1.5倍)で急襲。
ギャアアアア、と悲鳴のような威嚇のような声を上げて振り返ったトレントに、ガンちゃんがヘイトを奪うように叫び声を浴びせた。
すごい、一撃でHP2割以上削れてる!
「ロマン技だあ、すごいな!」
感想を口にしつつも、僕とイオくんは如月くんたちより奥側に走り込む。応援に動こうとしていた奥の2匹(上位種含む)に突撃だ。イオくんが。
「オラァ!」
と豪快に盾でぶん殴りに行くイオくん、やっぱり力業でなんでも解決するのが好きなスマートヤンキーだと思います。怒られるからもう言わないけど。とりあえず僕の仕事はまず<鑑定>っと。<総合鑑定>にすべての鑑定系スキルを統合したことで、発動キーワードがシンプルになってよかった。
「ハイ・ファイアトレント! 火属性! レベル16!」
「マジか。ナツ、リジェネくれ!」
「了解! 【ファイアヒール】!」
イビルドッグのチーフが、火属性でガンガン火傷を付与してきたのを思い出したんだろう。まだHPは減ってないけど、保険としてリジェネをかけておく。如月くんたちの方では、ピーちゃんの【グルグル】が早々にぶっ放された。当然のように範囲攻撃だ。
「【ロックオン】!」
「【ダークアロー】! 【ライトアロー】!」
イオくんのロックオンを待ってから攻撃を開始。普通のトレントの方に集中して攻撃を向けて、HPの減りを確認。……若干、ソロで出てきたトレントより弱い? <鑑定>。
「イオくん、普通のトレントレベル13に下がってる!」
「お、マジか。合流早いかもしれないな、助かる」
よかったー、流石に集団戦に配慮はあった。これならなんとかなりそうだ。そうすると僕のやるべきことは……弱点属性が違うから、<風魔法>はハイ・ファイアトレントには全然効かないはず。範囲攻撃やってみよう。
「範囲行くよ! 【ウィンドラッシュ】!」
喰らえ! <風魔法>レベル9で覚える範囲攻撃、【ウィンドラッシュ】!
【ファイアレイン】や【アクアレイン】は上から魔法の雨が降り注ぐ感じだったけど、【ウィンドラッシュ】は正面から魔法の粒が横にざざざーっと飛んでいく感じ。砂嵐の風版みたいな……? 多分、【サンドラッシュ】も同じ感じだろうね。なんとなくラッシュのほうが痛そうに見えるけど、レインのほうが綺麗なんだよね。
案の定、ハイ・ファイアトレントのHPバーはほとんど減らなかった。風は火に弱いので仕方がない。その代わりヘイトも買わないから良しとしよう。
普通のトレントの方はギャアアアって吠えて一瞬僕に視線を向けたけど、イオくんのロックオン期間内なので僕にヘイトが移ることはなかった。セーフ。HPの減りはまずまずだ。
HPが減ってないからか、ハイ・ファイアトレントからの攻撃もワンパターンで、十分イオくん1人で抑えておける感じだった。
「ナツさん、イオさん! こっち1匹倒れるんで合流させます!」
如月くんから宣言があって、直後にプリンさんの【ウィンドアロー】とピーちゃんの【ビュービュー】が宣言された。ピーちゃんの魔法、わかりにくいけど【ビュービュー】は単体用で【グルグル】は高火力範囲魔法かな。どおんと片方のトレントが倒れる音がして、如月くんとガンちゃんがもう1匹を誘導しながら場所を移動し、こっちと合流しようとしている。
「プリンさん、赤い方火属性なので水で!」
「わかったわ。ピーちゃん、一度こっちへ! MP回復するわ」
「ピーチャンポーションスキヨー」
魔法を使い続けていたらしいピーちゃんに、プリンさんがMPポーションを飲ませた。あれ、しゅわっとしたレモンサイダー味で美味しいんだよね、僕も味が好き。HPの方はアップルサイダー味で、あれも美味しい。回復アイテムが美味しいってとても良いことだと思う。美味しいものは世界をより良くするのです。
えーっと、今の状況は……。
如月くんがHPをだいぶ減らしつつもトレント3匹をうまくまとめることに成功。ガンちゃんとイオくんの2枚盾で3匹を抑える。1人で2匹を止めるより、2人で3匹を止めるほうが楽そうだ。一旦後衛に逃げてきた如月くんがポーションを飲んで回復したけど、回復量は8割くらいだった。プリンさんはほぼ無傷で、ピーちゃんはちょっとHP減ってるかな。
パーティーはイオくんとしか組んでないけど、今は僕たちのパーティーがソロの如月くんとプリンさんたちのパーティーと連結中、という状態だ。パーティ同士をひとまとめのグループとして扱う時が連結で、HPとMPの残量と状態異常が一覧で確認できる。
僕とプリンさん以外が2~4割くらいHPを減らしているから、覚えたばかりの魔法を使おう。
「【ウィンドヒール】!」
全体小回復。どのくらい回復するのかなーと思って見てみると……40~60くらいかな。うーん、微妙! イオくんと2人パーティーだったら使う機会がなさそうな魔法だ。今はそれなりに人数がいて、幸いプリンさんの契約獣にも有効だからいいけど。
「ナツアリガトー! オレイ! 【ハピハピ】!」
「え!? 何!? ありがとう?」
回復に機嫌を良くしたピーちゃんが、何故か僕に向けてなにかの魔法を使った。ほわんとキラキラした光が僕に吸い込まれる。
「プリンさん今の何!?」
「え、ごめんなさい、私も初めて見たわ……」
「ええええ!?」
召喚士さんって自分の契約獣のアーツとかわかんないんですか!? と思ったら召喚士さんが見れる契約獣のステータスはスキルまでで、スキルで使えるアーツまではわからないんだそうだ。ちょっと痒いところに手が届いてない感じがすごい。
自分のステータス画面みたらわかるかな? と思って開いてみると、状態異常アイコンが表示されるスペースに、なんかキラキラした光のアイコンが付いている。詳細を見ると……レアドロップ率UP状態か!
「ハピハピってハッピーってことかー!」
普通に嬉しいなこれ。僕も使いたい、これ何魔法?
「後衛サボってんなよ!【ロックオン】クール開けるぞ、<風魔法>畳みかけろ!」
「サボってないよ! 【ウィンドアロー】!」
「ピーチャンゼッコーチョーヨ! 【グルグル】!」
「【ウィンドアロー】! 如月くん一旦下がって! 【アクアヒール】!」
「うお、いつの間にか半分以下だった……! プリンさんありがとうございます!」
イオくんが即座に【ロックオン】をかけなおすのを横目に、思うところがあって如月くんの状態を確認。……あー、火傷のスリップダメージ受けてる。
「イオくん! こいつやっぱり火傷使ってくるから気をつけて! 【ファイアヒール】!」
とりあえずイオくんにクールタイムが開けたばかりの保険をかけ直し、如月くんたちにも火傷状態でスリップダメージがつくことを伝える。プリンさんは知らなかったみたいだけど、如月くんは「チーフのやつか!」とすぐに思い当たったみたいだった。チーフは経験値が良いから、レベル上げしたいならたくさん戦うことになるよね。
「火傷は身体的な状態異常よね」
「あ、大丈夫です、今は回復してます」
どうやら継続時間はそれほどでもないみたいでよかった。でもどのくらいの頻度で火傷になるかわからないな……。念のためにお守り1個あげるか。
「如月くん、これ1個あげるから装備して」
「はい? あ、<彫刻>の。すっげえ、こんなの作れるんですね」
如月くんが素早く装備をしている間に、さっきの<風魔法>ラッシュでかなり削れたトレントに攻撃をどんどん重ねる。
「【サンドアロー】! 【ファイアランス】!」
「イクヨー! 【トゲトゲ】!」
ピーちゃんのお陰で、普通のトレントが1匹倒れる。
さて、これで残り2匹。




