7日目:スキルのすすめ
「よし、まずはお疲れ。昨日より楽だったな」
「攻撃パターン分かってましたしね。あと横の薙ぎ払い攻撃がウォールで止められたのはめちゃ大きいです。ナツさんナイス」
褒められたので「でしょー!」と胸を張っておいた。まあウォール系魔法の使い方調べてきてくれたのはイオくんだけどね!
「ピーちゃんの魔法も相変わらずすごかったよー」
「デショー! ガンバッタノヨ!」
ずっと上の方から攻撃していたピーちゃんがプリンさんの頭の上に降りてくる。
「ピーちゃん、なんか言動がナツくんに似てきてるわね……」
「えっ」
「エッ」
「無意識なのかしら。さっき2人して「でしょー!」って」
それは確かに?
いやいや、それだけで似てきているとはさすがに。
「そういえば昨日もエライとかサスガとか言ってたな……」
「あー、ナツさんの誉め言葉を学んでいるんですかね。ピーちゃん頭いいですね」
「かわいいのに強くて賢いとは! さすがピーちゃん素晴らしい!」
「アリガトアリガト!」
ピーちゃんは機嫌よく羽をばさばささせた。まあ語彙を学ぶくらいなら影響はなさそうだし、気にしなくて良さそうだ。
ほっこりしたところで、ステータス画面を見ていたイオくんが顔を上げた。
「ドロップに珍しいのが出てるぞ」
と言うので僕も確認する。通常のドロップ品ではなくて、レアドロップで1人1個もらっている方のが、見たことのないものだった。
えーっとなんだろうこれ。淡く銀色に光り輝く……サクランボくらいの木の実? 果実っぽいけど……<鑑定>。
「スキルレベルを上げるアイテムじゃん!」
「うわマジだ」
「えええもったいない! 使用期限が入手から1時間!?」
どうやら今回のレアドロップは全員共通みたいだ。この銀色の実は「アプの実」と言うらしく、任意のスキルのレベルを3つ上げるという破格の性能なのだけれども、使用期限がゲーム内1時間以内という、今すぐ使えと言わんばかりの制限がついている。この移動クエスト用のアイテムなのかな。
正直確かにもったいない、もっとスキルが育って上がりづらくなった頃に欲しい。できれば大事に取っておきたい……けど無理だし、使わないのはもっともったいない!
「できれば発展スキルに使いたいけど、すぐ使わなきゃいけないならそうも言っていられないね」
僕が言うと、プリンさんは難しい顔をした。
「私は特化じゃないから、結局何に入れても中途半端なのよね」
あー、ある程度ソロで進もうと思うとそうなっちゃうよね。でもそれを言うなら如月くんも同じところで迷いそうだけど……。視線を向けると、如月くんは頭を抱えている。知ってた。
「俺は<ロックオン>に入れるかな。レベル上がるとヘイト固定時間増えるし」
イオくんはあまり迷わない感じみたいだ。<ロックオン>は発展スキルだし、良い選択に思える。
僕はじっくり自分のスキルを見直したけど、結局今欲しいのは即戦力だから……<風魔法>か。
「<風魔法>に入れると【ウィンドヒール】と【ドライ】がレベル7、全体攻撃の【ウィンドラッシュ】がレベル9で覚えられるから、これにしようかな」
「ナツはそれが良さそうだな。他のトレントが巣から動かないみたいだし、次は集団戦になる。範囲魔法は欲しい所だろう」
ヘイト管理はちょっと難しいかもしれないけど、やっぱり複数相手なら範囲魔法は欲しいよね。欲を言うなら<上級風魔法>の【ウィンドランス】が欲しいけど、3レベルしか上がらないからなあ。
「ただ、ヒール系増えるとヘイト向きやすくなるから注意しろよ」
「了解!」
さて、僕とイオくんはサクッと決まったので、速攻アプの実を使用した。これ、ドーピングでレベル上げてもSPはもらえるみたいで、ラッキーだ。イオくんは引き続きスキル一覧を睨みつけているので、なにか他に欲しいスキルでもあるのかな?
「<体術>欲しいんだよなあ」
「剣と盾持ってるのに!?」
「回避に有利に働くかもしれないだろ。ちょっと調べてみる」
ああ、体術って立ち回りにも影響するのかな? それならありだと思う。動きをサポートする系ならいいね。
「プリンさんは決まったー?」
「手数を増やすために<光魔法>か<闇魔法>を取ってそれに入れようと思うんだけど、ナツくん、どっちがおすすめ?」
「僕どっちもレベル4なんで、今は大した違いはないかなあ。夜になった時、光を浮かべて周囲を照らすか、暗視を付与して暗いままでも見えるようになるかの違い? 両方とっても良いんじゃない?」
「両方ほしいけど、今SPがないのよね。隠密スタイルなら闇、目立ってもいいなら光ね」
「あとは、上級になった時にどんなアーツを覚えるか、かな。 掲示板に情報あるかも、ちょっと調べてみよう」
僕は<上級光魔法>、プリンさんが<上級闇魔法>で検索すると、すでに育てている人は上級でもレベル20くらいまで行ってるらしい。プリンさんと情報を共有したところ、<光魔法>は外のゲームで言うところの聖属性を含んでいるらしく、アンデット系魔物に対してかなり強いらしい。あとは浄化系のクエストも結構ある。<闇魔法>はデバフに特化していく感じで、汎用性があるとのこと。隠密系もこっちだから、職業によっては必須らしい。
「どっちをとっても強そうだね」
「<光魔法>って状態異常回復系は無いの?」
「精神系の状態異常は<光魔法>で回復できるみたいだね。混乱とか神経衰弱とか感情が絡むやつ」
基本的に、使ってくる敵が多い身体的な状態異常は<土魔法>を育てていくことになるから、優先して<光魔法>を育てる旨味はそこまでない。プリンさんも結構悩んだようだ。
「決めたわ、私は<闇魔法>を優先して育ててみる。バフはピーちゃんもできるし、ガンちゃんは自己強化ができるけど、敵へのデバフ系は今誰も持ってないの」
「足りないところを補っていくの、良いと思う!」
これでプリンさんは決まりだね。そして残りは……。
「如月くんは……」
「決まってるわけが……っ!」
知ってた。
スキルいくつ取ってるの? って聞いてみたら、40位あるらしい。そしてどれもそんなにレベルが高くないと。そりゃあSP足りないでしょうよ。
「どっちかって言ったら剣士系で行きたいんですけど、<上級双剣術>とかは使うからどうせ上がるじゃないですか。あまり使わない魔法系をあげるのもありだなと思うとキリがなくて」
「うーん、如月くん魔法士経由ならそこまで物理防御高くないよね。お友達と合流したらどう動く予定?」
「あー、多分相方、拳士だと思うんですよね。あいつ一番人気ない職業やるのが趣味なんで。だから、前衛二枚で敵のヘイトをくるくる回す感じですね」
「なるほど」
アナトラは味方人数によって敵の強さも自動調整されるから、前衛二枚のパーティーでもなんとかなりそう。如月くんは<調薬>も使えるし、これで魔法のレベルを上げてヒール系の魔法を覚えたら危なげないんじゃないかな。
でもそうすると、如月くんの戦闘スタイルとしてはやっぱり剣士の比重が大きそうだ。
「イオくーん、ちょっと如月くんの相談に乗ってー!」
僕は前衛ほとんどやらないから、ここは頼れる友人に頼もう。そう思って声をかけたイオくんは、不思議そうな顔をした。
「如月は遊撃系だろ。盾なら回避盾だろうし、アタッカー寄りのスキル構成なら、優先するスキルは分かりやすいと思うんだが」
「何がオススメ?」
「基本は剣術系統を上げる。それ以外だったら、<筋力強化>とか<俊敏強化>でブースト。<硬化>スキルを持っているならそれもあり」
イオくん今言ったやつ、どれも持ってないのによくアドバイスできるな……? と思ったけど、このあたりのスキルは物理系の職業ではかなり人気のある基本スキルとのこと。如月くんも<筋力強化>と<俊敏強化>は持っていた。この強化系スキルは、使用を宣言すると一定時間、特定のステータスの数字を上げる。レベルが上がると効果時間が伸びていく仕様で、基本スキルだとレベルMAXでステータス+5を5分だ。
「今のステータスだと、如月の場合攻撃力が足りなくて思ったよりダメージが出てないんじゃないか。だとすれば、<筋力強化>を上げて一撃を重くしてったほうが最終的には良さそうだが」
「なるほど……<筋力強化>ならレベル7なんで、ちょうど10まで上がって発展スキルがとれますね……。でも筋力+5で5分を取るか、筋力+10で2分を取るかは結構悩ましいです」
「SP足りるなら上級を取った方がいい。ヘイト管理の関係上、ここぞというときだけ使うくらいがちょうどいいだろう」
「なるほど、わかりました」
あれだけ悩んでいた如月くんだけど、イオくんに相談したらすぐに決まった。如月くんの魔力なら、弱点属性の<風魔法>を使ってもあんまりダメージ出ないし、多分<筋力強化>を乗せた剣術アーツのほうが効きそうだもんね。
「如月くんいま筋力いくつ?」
「補正込みで33です」
イオくんが素ステ36、剣の補正で+10だから、だいぶ差がある。魔力にも筋力にも振らなきゃ行けない魔法剣士って本当に器用貧乏になりがちだ。他のゲームでも魔法剣士は大器晩成って言われることが多くて、野良のパーティーとかでは敬遠される傾向があった。
でもロマンはあるよね、魔法剣士。うまく育てば万能だしさ。
全員がアプの実を使ってスキルレベルを上げた後、巣穴から動かない残りのトレントをどうにかするために再び移動を開始する。
走ってもエルフ組は鈍足だから、大したスピードは出ない。ならもう歩いていこうぜということになって、雑談をしながらトレントの巣へ向かった。如月くんたちがどんなクエストをしてきたのかとか聞いたんだけど、なんか……別のゲームの話だった。僕たちが金策に走ってたあの時間、如月くんはフィールドでネームドモンスターに遭遇して、ギリギリの死闘を繰り広げたとか、プリンさんは僕たちも行ったあの採掘場で行方不明の鉱夫を探して2日間駆けずり回ったとか。そんであの採掘場の地下深くにクリスタルタートルっていう、巨大な水晶を背負う亀がいて、それがレベル89で瞬殺されたとか、なんかすごい世界だ……。
いつかイチヤに戻ったら、もっと深く探索しないと。
「っと、あそこから見えるな。見つからないように気をつけろよ」
話題もちょうど途切れた頃、イオくんが指さした木々の切れ間から指差す。ここは今小高い丘の上で、その下に窪地があるんだけど、その窪地がちょうど円形の広間のようになっているようだ。そーっと覗くと、その広間の中央に大きな穴が空いていて、バイトラビットや鹿っぽい初見の魔物などが数匹放り込まれていた。
そしてその穴の周囲に群がるわっさわさの木々。
「……イオくん、1匹どうやら色が違うようであります」
「敬礼すな。まあ、普通に考えて上位種だろうな」
「ここから鑑定とばしたら気づかれるかなあ」
「魔物もレベル上がるほど頭いいらしいしな。さて、4匹集団戦でもしんどいんだが、そのうちの1匹が強いってなると困ったな。周囲のトレントを釣って1匹ずつ倒せないかと思ったけど、あいつらしっかりパーティー組んでるし」
「なんでそれわかるの?」
「<敵感知>ではパーティー組んでる敵の上に逆三角形のアイコンが表示されるんだ」
なるほど便利。
それにしてもパーティかあ。普通の木の色してるのがトレントで、1匹だけ赤茶色に目立っている、他のトレントより一回り大きいのが上位種だろう。葉っぱも赤・黄色系で、紅葉してるような感じだ。
「私のガンちゃんを呼び出して、普通のトレントを2匹請け負うわ。あなたはあの上位種ともう1匹を抱えられるかしら?」
プリンさんが小声でイオくんに尋ねる。
「多分いけるだろうが、早めにどっちかを潰してくれないとジリ貧で全滅しそうだな」
「ひとまず僕がイオくんの回復とバフに回って、余力があれば如月くんたちの方のトレントをちくちくするから、如月くんとプリンさんとピーちゃんでなんとか早めに倒しちゃえる?」
「ピーちゃんに最初からぶっ放してもらうしかないかもしれないですね。俺もバックアタック系のスキルあるんで、1撃でかいの狙って見ます」
「1匹削ったら合流して盾二枚体制にするのもありよ。状況を見て臨機応変にいきましょう」
「そうだな。ひとまず仕掛けたら鑑定かけて情報共有から」
即席のチームだし、声掛けと情報共有は大事にしていこう。
さあ、討伐頑張るぞ!




