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6日目:即席授業中


 思えばトレント討伐にはそれほど時間がかかっていないから、昼まではまだまだ余裕がある。つまり、ここまで含めてイベントってことなんだろうな。

 お爺さんを講師として、お婆さんは興味がないのでプリンさんと席を交換。古着の男性も興味がないというので如月くんと席を交換。僕とイオくん、スーツの男性は興味があるのでそのままだ。

「よろしくお願いします。あ、俺はトラベラーの如月です。そちらがプリンパフェさん、向いはナツさん、イオさんと、トムスさんです」

 スムーズに紹介してくれた、ありがとう如月くん。そしてスーツ男性はトムスさんか、覚えた。

「うむ、儂はサンガの市場で働いておるテアルだ。早速だが、<素材鑑定>の定義から始めようかね」


 テアルさんの話をまとめると、素材とは、何かを作る時のもとになる物質のこと。

 家具を作るならば木材、宝飾品を作るなら金属や宝石、農具を作るならば鉄や木材、料理を作るならば野菜や肉等がそれにあたる。

 これらは<鑑定>するだけだと物質としての情報しか出てこない。例えばトレントの落とした木材を普通に<鑑定>しても、トレントの落とした木材としか出てこないわけだ。

「この中で、<鑑定>以外の専門的な<鑑定>を持っている人はいるかね?」

 と問いかけられたので、僕が手を上げる。

「はい! <装飾品鑑定>を持っています」

「おお、素晴らしい。首都で特に重宝されるだろう」

 首都ナナミか。いずれはルシーダさんの指輪をもっていかなきゃいけないところだけど、まだ当分先だろうなあ。

 僕の次に如月くんも手をあげる。

「俺は<薬品鑑定>です」

「うむ、良いな。育てれば毒も鑑定できるようになるぞ」

「え、そうなんですか! がんばります!」

 おお、<調薬>に関連したスキルかな? 毒の鑑定って、例えばこの毒はトリカブトです、とか青酸カリです、とかわかるってこと? なんかすごいな、探偵になれる。


「今2人が言ったように、鑑定には詳細を鑑定できる様々なオプションがある。如月の<薬品鑑定>は基本スキルだが、これから発展するのが<毒鑑定>そして<病状鑑定>だ」

「<病状鑑定>って、病気の人を判断するスキルですか?」

「そうではない。町医者に持っているものが多いな。様々な病気を鑑定し、最適な薬を選び出すスキルになる」

「なるほど」

 医療特化ってことかな? 如月くんが納得したようにうなずいた。

 トラベラーが病気にかかることはあんまり無さそうだけど、住人さん相手なら使い道がありそうだし、絶対スキルに対応したクエストがたくさんありそう。


「ナツの持っている<装飾品鑑定>は、<宝石鑑定>からの発展スキルだ。<総合鑑定>に統合できて、統合するとスキルレベルが中央値になる。レベル10とレベル1で統合した場合、統合した後のレベルは5になるという事だ」

「おお……!」

 ゆ、有益! めちゃめちゃ有益なお話を聞いてる、今!

 でもちょっと待って、<総合鑑定>って何? そんなの取得可能スキル一覧に出てないよ!

 と思ったのでそっとゲーム内掲示板を検索すると、<上級鑑定><敵鑑定>を両方取得すると<総合鑑定>になるらしい。SPもったいないと思って両方取らなかったから知らなかった……!


「鑑定と名前につくスキルは、大抵<総合鑑定>に統合できるものが多い。<総合鑑定>が出現しないと統合されないから、できれば<総合鑑定>は取っておいた方がいい」

「取ります!」

 ハイっと手をあげて僕が宣言すると、プリンさんも続けて手をあげて「私も!」と言ってくれた。イオくんも「俺も取るか」と続けて、最後に如月くんが「俺はスキルレベル上げから!」とちょっと悔しそうに告げる。

 如月くん、基本職2つレベル10にしてるから、SPも剣術系と魔法系でたくさん取得してるんだろうなあ。<感知>もレベル上がってないって言ってたし、スキル多すぎて大変とか?


「話が逸れたな。<素材鑑定>は、どの木が何を作るのに向いてるとか、この金属を使うならこんな武器が合うとか、そういうことを知るための鑑定だ。そのためにはまず、魔力操作からだな」

 テアルさんはぐるりと全員の姿を確認し、何か小さな声で呪文を唱える。すると、話を聞いている全員の体がわずかに淡い光の膜に覆われ、すっと消えた。一瞬だったけど、多分髪色と同じ色だったかな?  僕が紫、イオくんが青、如月くんは緑で、プリンさんが金色、トムスさんは茶色だ。

「今のは、魔力を見えるようにする魔法だ。まずは魔力を掌に集めるところから始めよう。光の玉を作れた人から次の段階へ移る」

 おお、なんかとても王道っぽいやり方だ。けど、集めるってどうやって?


 テアルさんは手のひらを上にして体の前に掲げ、そこに白っぽい光の玉をあっさりと出現させて見せた。明るく輝くその玉を崩し、そのまま自分の体に沿って広げる。そうすると、テアルさんが薄い光の膜に覆われた。

 よーっく見ると、光の流れが流動しているのが分かる。

「このように、魔力は基本、血液のように体の中を流動している。杖などの媒体を通じて外に出せば魔法になるが、体内魔力をうまく使えば<身体強化>や<感覚強化>のスキルも使えるようになるかもしれない。まず、目を閉じて自分の中に流れる魔力を感じ取るのが最初のステップだな」

 ほれ、やってみなさい。

 そう言われて、全員が目を閉じる。

 僕も目を閉じて、魔力の流れなるものを探そうと試みた。

 うーん、血液と同じと言われても、血液を意識したところでよくわかんないな。僕の場合は魔法士だから、魔力は常に杖から出るものって感じだし。あ、それならもしかして、杖持ってた方が分かりやすいかも?

 と言うわけで、一旦目を開けてインベントリから魔法杖ユーグを取り出す。あ、武器の名づけができるって話、あとで如月くんに教えておかなきゃ。僕より詳しいから掲示板に書いてもらおうっと。

 テアルさんがこっちを見ているので、サボってるわけじゃないですと心の中で言い訳しつつ、杖を両手で持つ。目を閉じて、えーと、普段魔法を撃つときは……。こう、いや、こうかな……、呪文を唱えたらわーっと……ん? 今なんか感じたかも。もう一回……わかんなくなった。難しいぞこれ。もう一回!


 ……わからない! でもちょっと思ったことはある! 僕の杖、高性能過ぎて魔力の通りが早いんだ!


 ということは、僕の優秀なユーグくんではだめだ! もう二度と使わないかと思ってた初心者の杖、取っておいてよかった。手早くユーグと初心者の杖を交換して、っと。

 もう一度、杖を両手で持った状態で目を閉じる。魔力の流れを感じなきゃいけないわけだから、片手でもったら流れがそこで止まってしまう。両手で握ったら循環するんじゃないかと思うんだ。

 えーと、さっきやったのと同じことを……呪文を唱えたら、こう……うん! これ! この感じ!

 ユーグでやったときは早すぎて分からなかったけど、この初心者の杖なら何となく分かる。手の甲、表面を何かがざーっと流れていくような感じ。そーっと皮膚を撫でられているような感覚に近い。杖から右手、腕、肩から心臓へ、そこからぐるっと頭を回って心臓に戻る。右側の腹へ、腰、右足、足首まで行って戻って、左足へ。今度は体の左側を巡って左肩、腕、手へ、そこで一周。

 一度感覚を掴むと、そこから魔力のようなものを捏ねるのは結構簡単だった。集めようと思えば多分できるかな? 一度杖をしまって、杖のない状態でもう一度魔力を感じ取る。

 ……うん。大丈夫、いける。


 一度深呼吸してから、目を開けて両手を広げ、水を掬うように合わせる。左右の腕から魔力を集めて……電球をイメージして丸くなるように念じると、しばらくしてぽんっと両手の真ん中に直径3センチくらいの光の玉が出現した。

 よし!

「おお、はやいな」

 テアルさんが褒めてくれたのでちょっと嬉しい。

「ありがとうございます、でもなんか、色が」

「ああ、さっきのは魔力の流れが見えるように色をつけただけで、魔力を集めたら強い属性が出るんだよ。儂は4属性を使えるが、どれもレベルが低く均一だ。だから4色が混ざって白い光になったんだ」

「僕のは……水と火、ですね。重なると赤紫色に見えます」

 なるほど理解。僕の場合、<火魔法>と<水魔法>だけが上級になっているから、その2つの属性が強いという表現になるわけだね。青と赤が重なって、ぐるぐると流れているのがわかる。消えろ、と念じるとすーっと消えてしまった。

「ナツは一足先に1段階目を習得したから、少し待っていてくれ。もう一人くらい魔力の玉を作れるようになったら、先に次の段階に行く」

「はい!」


 みんなの方を見てみると、プリンさんはもう少しでなにか掴めそうかな? イオくんとトムスさんはかなり苦戦している感じだ。如月くんは何度か首をかしげて、「んー?」と小さく唸っている。まだ遠そう。

 あ、ステータス画面にお知らせが来てる。

『特殊条件をクリアしたため、スキル<魔力操作>を習得しました。<魔法操作>と統合しますか?』

 ……ん?

 <魔法操作>は、魔法が少しの間敵を追尾するスキルだったはず。これを取ってから魔法が当たらないことがほぼなくなったし、とても有益なスキルだ。それで、<魔力操作>というのを習得……習得ってことは、SPなしでスキルが得られたってことか。えーと、<魔力操作>の詳細は……。

 感覚的に魔法に魔力を込めたり、魔力を抜いたりする事ができる。……お、これ地味にすごいな。MP10で打てるファイアアローに、MP20 を込めて威力が高いアローを打てるようになる、ってことだね。逆にMP5に節約して威力を弱めることもできるけど、そっちはどうやって使えば良いのやら。<光魔法>の【ライト】にMPを減らして光を暗くする、とかかな?

 スキルの統合って、2つを1つにまとめることだよね。まあ、僕はあんまり頭良くないし、スキルがたくさんあっても使いこなせないことも予測されるから、コンパクトにまとめたい。統合しちゃおう。


『<魔法操作>と<魔力操作>を統合しました。2つのスキルは消滅し、新たに<魔操>を取得しました。<魔操>は消滅した2つのスキルの中間をとり、レベル2となります』


 おお。<魔法操作>はパッシブだから、知らない間にレベル3になってたのか。レベル1の<魔力操作>と統合したことで1と3の真ん中のレベル2になったということだ。

 えーと、<魔操>の説明は……感情のゆらぎに応じて自動的に魔法の威力を上げる/もしくは下げる。魔法の軌道をある程度操作できる、って感じか。これって、負けられない戦いのときはMPを犠牲にして強い攻撃をばんばん撃てるって認識でいい? パッシブなら使い忘れがなくて良いね。

 今まで通り、敵の追尾はちゃんとしてくれるっぽいので一安心。分類としては基本スキルだから、レベル10になったら発展スキルが出てくるはずで、そっちが楽しみだな。

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