6日目:共闘ミッションクリア
僕たちが<風魔法>を使ったらガンガン敵のHPが減ったので、トレントは多分物理より魔法が効く。威力から逆算するとプリンさんの魔力は僕より低い。けど魔法はクールタイムがあって連発できないしなあ! もっと<風魔法>育てておけばよかった!
と僕が悔しがっている間に、弓を連射しながらプリンさんが頭上に視線を飛ばす。
「ピーちゃん! 一番強い<風魔法>、やっちゃって!」
「ハイヨー! 【グルグル】!」
ピーちゃんは鳥だから風属性なのかな。そして叫んだピーちゃんが翼を前方に振り抜くと、ぐるぐるしているトルネードのようなものが生まれた。全長2メートルくらいの風の渦が、ものすごい勢いでトレントにぶつかっていく。ギャアアっと耳障りな声が響いて、トレントのHPがぐんと減った。
このガガガガガって固いものを削るような音、どう考えてもトレントを削る風だ。これは強い、ピーちゃん強いよ!
「ピーちゃん強い! 偉い!」
この素晴らしい攻撃、褒めておかねば!
そして残り僅かになったトレントのHPを削りきるため、イオくんと如月くんが左右からぐっと距離を詰める。
「【ダブルポイント】!」
「【破撃】!」
バキバキッと、木がへし折れるような音がして、ぐらっと傾いだトレントの体が後ろに倒れた。
討伐完了のアナウンスが視界の左端に流れて、トレントの体が光の粒になって消える。そして大量のドロップ品が共有インベントリへ。
アナトラ初の共闘ミッションクリアだ。
「ふう、お疲れ様です」
如月くんが息を吐いて双剣を鞘に納めた。
「レベルアップ!」
プリンさんはプレイヤーレベルが上がったらしい。僕とイオくんも職業レベルが上がっているみたいだ、自動振り分けで上がったのは……魔法防御と幸運か。
そして上空をパタパタしていたピーちゃんがプリンさんの頭に着地する。
「ピーチャンオツカレヨ! ナツモットホメテ!」
「かわいいのに強いとはさすがピーちゃん!」
「アリガトアリガト!」
胸を張るピーちゃん。とてもふくふくしい。
「ピーちゃんよくやったわ! でもどうしてナツくん指名で褒められたの今?」
「ナツ、ホメジョウズナノヨ」
ふんすっと息を吐いたピーちゃん、かわいい。
とりあえず僕とプリンさんは無傷なので、前衛組に「ヒールいるー?」と声をかけたところ、「くださーい!」と如月くんが手を上げ、イオくんは「俺はポーションもらう」とのことだったので、如月くんへ【アクアヒール】。
ついでにイオくんと自分に【クリーン】。これで<風魔法>のレベルが1上がる。
「サンキュ。<敵鑑定>まだレベル低くて属性わからなかった、すまん」
「いいよいいよー。僕も思い込みで<火魔法>使っちゃってたし」
なんて話をしながら、共有インベントリを確認。
トレントのドロップは「綺麗な木材」が多数と、「トレントの葉」が少し。その他1人1つレアドロップがあったらしく、それだけは共有ではなくて個人のインベントリに入っていた。
如月くんとイオくんは食べると一定時間全ステータスが上がるという「トレントの果実」、プリンさんは武器の強化に使えるという「トレントの樹液」、僕は銀っぽい金属でできた葉っぱモチーフのペンダントで、幸運+5の「若葉のペンダント」というものを拾っていた。
「明らかにナツくんのが一番レア度高そう」
と言うプリンさん。残念ながら<鑑定>では品質しか出ないので、レア度は確認できない。ただ、通常の<鑑定>と<上級鑑定>では出てくる情報量が違うことを確認できた。
イオくんの<敵鑑定>は上級の付かない普通の<鑑定>に、プラス敵の詳細が分かる効果がある。如月くんは基本スキルの<鑑定>、プリンさんは発展スキルの<上級鑑定>だ。
この状態で全員で僕のペンダントを鑑定すると、イオくんと如月くんの結果はこうなる。
『若葉のペンダント その昔、エンシェントエルフ達が旅立つ若者たちに祝福の気持ちを込めて贈ったペンダント。 幸運+5 ★6』
で、これが<上級鑑定>だと、こう。
『若葉のペンダント その昔、エンシェントエルフ達が旅立つ若者たちに祝福の気持ちを込めて贈ったペンダント。エルフ族にのみ、稀に入手可能。 幸運+5 ★6』
ほんの少しだけど情報が増えて、これを拾えるのはエルフのみだとわかる。僕とイオくんは「へー」って感じだったんだけど、如月くんの食いつきがすごかった。
「エルフ族のみってことは、ヒューマンのみとか獣人のみに拾えるアクセサリもあるってことですよね!?」
と張り切って掲示板に書き込んでいる。あー、なるほど。そういうの良くすぐ思いつくなあ。
「ナツくん、今幸運値いくつ?」
「32ですね。+5で37になります」
「高いわね。やっぱり幸運がドロップに関係するんでしょうね」
プリンさんは真剣に考えこんでいる。
プリンさんは、自動振り分けで幸運に流れる以外、幸運にPPは振っていないとのことだ。僕のステータスを見せると、
「極振りじゃない? 筋力それでいいの?」
とびっくりしていた。筋力は知らない子です。
「すごいわ、後衛しかやる気のない人のステータスね」
「後衛しかやる気がないので!」
「筋力5って、時々重い扉とか開かないわよね?」
「イオくんが開けてくれるので大丈夫です!」
「そ、そう……?」
納得したようなしてないような微妙な顔で、プリンさんもステータスを見せてくれる。幸運は21しかなくて、筋力が18にもなっている……。
13もPP振ったの? って僕が驚いていたら、プリンさんは苦笑しながら「弓には筋力がある程度いるのよ?」と言って背中に担いでいる弓を指さした。そういえば、さっきも弓で攻撃してたねプリンさん。
そんな雑談をしながらも、僕たちは乗合馬車のところまで戻った。僕たちが戻ってきたのを見て、御者さんがすごく安心したような顔をしていたのが印象的だ。
如月くんがトレントを倒したことを告げると、それなら安心ですね、と御者さんが再出発準備を始める。僕たちはささっと席に戻った。
レベル、あと少しでプレイヤーの方も上がりそうなんだよなあ。サンガにつくのは昼らしいし、転移装置に登録したら少し狩りに出ようかな。サンガを拠点に、本格的に白地図を埋める作業も開始しないとだし。
乗客たちはお礼を言ってくれたり、大変だったねとねぎらってくれたりと、こちらに友好的だ。ピーちゃんもすごいすごいと褒められていつもよりふっくら膨らんでいる。うむ、かわいい。
やがて馬車が再び走り出すと、老夫婦のお爺さんの方が、
「さっきのはトレントだったというが、木材を落としていたら見せてくれんかね?」
と言い出した。イオくんに向けての言葉だったので、
「構わないぞ。これだ」
イオくんは共有インベントリから綺麗な木材を1つ取り出して、お爺さんに渡した。お爺さんはそれをじっと見つめてみたり、こんこんと叩いてみたりして、やがてうむ、とうなずく。
「これは家具屋か細工師に売るといい。杖や建材には向かんな」
お。<鑑定>ではトレントの落とした木材としか出てこなかったのに、そんなことまでわかるということは、このお爺さんは木材を扱う職人さんか何かかな?
「そうなのか。目利きなんだな」
イオくんも感心したように言う。それに、お爺さんは「いやいや」と手を振って、木材を返した。
「儂は<素材鑑定>と言うスキルを持っているのでな。その素材がどんな用途に向いているのかがわかる」
「<素材鑑定>!?」
声を上げたのは、僕でもイオくんでもなくて如月くんだった。なんか目がきらきらしている。<素材鑑定>、もしや珍しいやつかな。えーと、取得可能スキルの一覧には……出てないね。
「トラベラーさんたちには珍しいやもしれんな。住人にはある程度使えるものが多いが……興味があるなら、習得してみるかね?」
「え、できるんですか!?」
そんなさらっと習得なんて、と驚く僕に、お爺さんは「もちろん」と頷く。
「そんなに難しいことでもないしな。トラベラーさんたちは統治神スペルシアによってスキルが習得しやすいときいとるぞ。住人には向き不向きがあるが、トラベラーさんたちならまあ、できるだろう」
ちなみに、アナトラでは取得可能リストからSPを使ってスキルを取ることを「取得」、自分で反復練習したり、住人さんに教えてもらったりしてSPを使わなくてもスキルが取得した状態になることを「習得」という。
「それはいいな。是非俺は習得したい」
イオくんがそう言うと、如月くんとプリンさんも勢い込んで手を上げる。
「わ、私も!」
「俺も!」
ふむ。それなら当然僕もチャレンジするしかないでしょう!
「僕もぜひ!」




