表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
412/412

43日目:霧雨平原の氷雨花

 ナルバン王国は様々な気候や景観がある多彩な国である。

 例えば僕たちがルーチェさんに連れて行ってもらった秘境とか、話に出た砂漠とか、グランさんのジャングルとか、火山もあったね。ヨンド方面には山岳があるし、ナナミの方には巨大な湖もあるらしい。

 ゴーラからヨンド方面へ向かうと、そこには広い湿地帯があるらしい。地図で言うと、ゴーラ方面へ向かう正道を7割くらい進んでから東へ外れたあたり。ナルバン王国の端の端だね。

 その名も、エジト湿地帯。別名は霧雨平原。

 正道からも結構外れるから、多分、秘境じゃないかなあと推測。その話を聞いたおかげで僕たちの白地図には★マークが出現して、このあたりが湿地帯か、とわかった。

 本当に白地図の端っこだ。めっちゃ遠そう。


「霧雨平原では、常に細かな霧雨が降り続けていて、その雨が止むことは無いと言われています。その平原でしか育たないのが、氷雨花という花なんです」

 と、教えてくれた受付のお姉さん。名前をフーリさんという。狐獣人の元気なお嬢さんで、受付に居る住人さんたちの中では一番若そうな感じである。

「氷雨花、ですか。それを育てたいって話ですか?」

「そうなんです……。道迷いの呪いがあるので自分で取りに行くことは出来ませんし、トラベラーさんに依頼を出したとしても、かなり時間がかかりますよね」

「王国の端っこの方だから、大分遠いですよね。確かに、時間がかかると思います」

「そこで、種から育てる、という選択肢が一番現実的かと思ったのですが……」

 育成環境が難敵、と。

 ナルバン王国でずっと雨が降り続けている、みたいな場所は霧雨平原しか無いから、同じ環境でないと氷雨花を育てることはできない。でも、その環境を作り出すのがとても大変で、どうにかならないか。

 ……というのが、フーリさんの相談ごとである。


「父が湿地帯の観測員として派遣されていたのは、戦前のことです。毎日の降雨量などを調べて記録をつける、国の研究事業の一貫でした」

「公務員さんだ」

 お固くて手堅い職業! と思ってしまうのはリアルのイメージ。その監査員のお仕事もすごく倍率の高い仕事で、単身赴任になるけどお給料はかなりよかったらしい。

 フーリさんのお父さんは、開戦をキッカケにこの仕事をやめてゴーラに戻ってきたのだが、それでも、仕事には未練があったらしい。なんとプロポーズをした場所も霧雨平原で、思い出の場所なのだそう。観光地としても知る人ぞ知るって感じの場所だったんだって。

 残念ながら、ご両親は前線で戦っていたために川へ渡ってしまったが、フーリさんと祖父母が残された。そしてお父さんの遺品として残されたのが、氷雨花の種と観察記録というわけだ。


「私も、祖父母も、氷雨花が咲いているところを見たことがないんです」

 フーリさんが戦時中に生まれたから当然として、祖父母はいつか息子の職場に観光にいこうと楽しみにしていた。今、それが出来ない状況で、2人は病気がち……祖父母が生きている間にどうにかして氷雨花を咲かせて見せてあげたい、というのが、フーリさんの願いなのだ。

 あ、ちなみに今はフリースペースでお話している。

 丁度フーリさんの仕事が終わる時間だったからね。そうでなければフーリさんは僕たちに声をかけなかったと思う。タイミングがよかったよね。


 フリースペースの半個室。6人がけの席を選んで、片側に僕たち、反対側にフーリさんと緊張ほぐし要員のテトさんが座って、事情を聞いている。

 こうして対峙してみると本当に普通のお嬢さんという感じで……。いつもの元気な感じって、多分、受付嬢として求められる姿なんだろうなあという感じがする。お守りを喜ぶ気持ちは本物だろうけど、がんばってちょっとテンション上げてると思うんだよ、納品する方だって、喜んでもらえる方が嬉しいからね。

 つまり、とてもお仕事熱心でえらい。

 お力になれるといいんだけど……!

「一年中止むことのない霧雨か。擬似的にそれを再現するとなるとな……」

「魔法は永続じゃないし、難しいよねえ」

 フーリおはなすきなのかー。テトはねー、しろいのがいいとおもうのー。

 僕とイオくんが顔を見合わせている間に、テトさんはにゃにゃっとフーリさんに話しかけている。……先行体験会期間中は特殊フィールド以外は雨が降らない設定らしいから、まだテトは雨未体験なんだよね。温泉は苦手みたいだったし、雨も苦手かなあ?


 まあそれは置いといて。

 フーリさんが教えてくれた氷雨花の育成環境が、「水に沈めることなく常に濡らし続ける」である。霧雨平原の環境と同じでなければ、この花は咲かないのだ。

「ちなみに、どのくらいの期間、その環境を続けないといけないんですか?」

「それが……。種を植えて花が咲くまでは3週間、樹魔法の【グローアップ】をつかっても1週間はかかります。咲いたら1年は咲き続けて、枯れるときには種を残すので、霧雨平原には一面に氷雨花が咲いているのだそうです」

「へえ!」

 一面の花畑かあ、それはちょっと見てみたい。だがしかし地図の端の端だからなあ、すぐには行けないだろうね。街から離れるほど敵が強くなるって言うし。

「とすると、最低でも一週間か……」

「うーん、【ミスト】とか【霧雨】とか使えば一時的には濡らせるけど、継続が難しいね」

「ちょっとでも途切れないように、だよなフーリ?」

「そうなんです。1分でも乾いてしまうと、もう枯れてしまうので」

 これって、思ってたより難しい話だなあ。人力じゃ無理だろうし、シャワーみたいな道具を使ったとしても、どこから水を持ってくるのかっていう問題が残ってる。この世界、水を組み上げるのは魔道具でやってるから、1回で一定量しか組み上げ出来ないらしい。家庭用だと一回の量も少なくて、ずっと使い続けるって現実的ではないみたい。<水魔法>に【アクアクリエイト】があるから、そもそもあんまり地下水組み上げる必要もないのだ。

 海から水を引く……ならいけるかもしれないけど、海水はだめだよね? だよねー、海水じゃ花は枯れちゃうと。


「真水か魔法で出した水じゃないとだめか……」

「魔法で出した水でも、不純物を取り除くとか、余計な成分を入れるとか……加工を入れるとだめみたいです」

「うーん……!」

「難しいですよね。なにか、アイデアがあればと思ったんですが」

 しみじみと言うフーリさんである。リアルで水やりというと、やっぱり真っ先に思いつくのはスプリンクラーなんだけど……ナルバン王国でアレを再現するにはどうすればいいんだろうか。

「……あ、魔道具は?」

 あれなら魔石さえあれば継続可能じゃない? と思ったけど、それにもフーリさんは首を振る。

「オーダーになりますから、可能ではありますけれどもかなりの高額になります……」

「あー、なるほど費用が……」

「それに、職人のあてもありませんから」

 それはだめだ、高額になるのはよろしくないね。魔道具を作る職人さんには、僕も今まで会ったことない。多分便利なものを作る人だし、街で保護とかされてるかも? 一般の住人さんが会うにはちょっと敷居高そうだよね。


「とすると……もう自分で作る方向に……?」

「ナツ、流石に時間がかかるんじゃねえのかそれは」

「魔道具師になるには、弟子入りが必要なんです。私では無理そうですね」

「だめかあ」

 特殊職業なのかな? トラベラーが魔道具を作るのって、だいぶ特殊な条件がありそう。まあ僕は魔道具に興味はないからいいんだけど、作りたいって人も居るだろうねえ。

「でも他に方法なんて……沼地を作ったとしても、雨は降らせられないしねえ……」

 うーん、じゃあ他に方法……。

 ……いやわかんない。イオくん、何かアイデアある?

「……なんか引っ掛かりはするんだがな。テト、なんかあるか?」

 おこまりごとー?

 フーリさんに懐いてごろごろしていたテトさんは、急に名前を出されてふにゃっと顔を上げた。そして自分が頼られたってところに気づいてぱああああっと表情を明るくする。


 テトにまかせるのー!

 しゃきっと背筋を伸ばし、椅子の上でおすわりポーズをしたテトさんに、簡単に説明してみる。特別なお花を咲かせたいらしいよー、そのためには常にお花を濡らさないといけないんだよー、何か良い方法ないかなー? 

 とりあえずそんな感じに説明すると、ふむふむっと話を聞いていたテトは、にゃふっと胸を張った。

 テトかしこいからわかるよー。

「え、すごいなテト。どんな方法?」

 ラメラとかディーネにおねがいしたらよいのー。

「それは……僕たちにしか使えない方法だよテトさん……!」

 お友達である僕たちが頼めばなんかいい感じにしてくれるかもだけど、今回お花を育てたいのはあくまでフーリさんだ。フーリさんがその環境を作れるようにしないといけない。

 多分フーリさんにディーネさんとか紹介したら卒倒しちゃいそうだし。テトがんばって考えてくれたみたいだけど、流石に無理だねえ。


 ……ん?

 ディーネさん……?


「あ!」

 ある! そういえばある! その花を育てるのに良さそうなもの!

 あ、いやでも確定じゃないから、確認してからじゃないと。希望だけ提示して、やっぱりだめでしたってなったらがっかりだもんね。そうすると明日確認に行って……。

「フーリさん、明日って受付にいますか?」

「え、はい。明日は午後からです」

「午後から。わかりました! じゃあ、ちょっと心当たりに当たってみますね。確実にとは言えませんけど……!」

「本当ですか!」

 ぱあっと表情を明るくしたフーリさんが、胸の前で両手を組む。め、めちゃめちゃ期待させちゃってるかもしれない。現時点ではあまり期待しないでほしいんだけれども……!

 でも八方塞がりの中で希望がちらっと顔を出したら、そりゃ期待しちゃうか。

「おい、大丈夫なのか?」

 とちょっと心配そうな顔をするイオくんである。

「あの、あくまで可能性なので、あんまり期待しないでいただけるとありがたく……!」

「いえいえ! ほんの少しでも話が進むなら、本当に助かります! よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げるフーリさん。うーん、明日なんとかなってくれるといいんだけど。


 ナツ、おやくだちなのー? えらーい♪

「あリがとうテトさん。明日次第かな……? テトも一緒に考えてくれてありがとうね」

 どうしたしましてー!

 僕とテトがそんなやり取りをしている間に、フーリさんは僕たちに頭を下げてお礼を言いながら帰っていった。足取りは軽やかである。ばいばーいと手を振って見送った僕たちは、その日はそのままギルドの2階でログアウトすることにした。


 クエストを途中で保留状態にするのはちょっと嫌だけど、もうリアルの夕飯の時間なのである。

 お好み焼きを焼かねばならない……!

「イオくん、再ログインは9時でいい?」

「おう、1日だけやって就寝な。……あー、明日実家行きたくねえ……」

「イオくん毎回実家帰る時ぐったりしてるよね。夜はログインするんでしょ?」

「ストレス発散にフィールド行きたい」

「だと思った、オーケー、レベル上げしよ!」

 むむむー。

 フィールドと聞くとテトは条件反射のように渋い顔をしたけれど、ロミちゃんのところに預けるよと告げたら一瞬で上機嫌になったので素直でかわいいと思います。撫でましょう。

「じゃあ、おやすみテト、イオくんも」

「おう。ちゃんと夕飯食えよ」

「お好み焼き!」

「わかったわかった」


 むむ。なんかちょっと呆れてるみたいだけど、お好み焼きは安くて美味しくてボリューム満点だし簡単なので、素晴らしい食べ物なんだよイオくん!

昨日更新したつもりだったんですが保存されてました、すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なにかあったとかじゃなくて良かったです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ