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6日目:こいつ敵です!

誤字報告ありがとうございます。

 一瞬で夜が明けて、移動2日目。

 朝7時のキャンプ地は明るい。今日も良い天気になりそうだ。


 既に老夫婦が動き始めていて、朝食用のスープを作っている。昨日持ち寄った食材が余ったので、朝はあっさり目のミルクスープだそうだ。

 これはパンの方が合うかな、ということで、共有インベントリから買いだめしていたコッペパンサンドをチョイス。

 僕のはBLTサンドで、イオくんのはサラダチキンサンドだ。同乗者さんたちが次々にテントから出てきて、出来立てのスープをもらって朝食タイムになった。

 驚くことにこの老夫婦、乗合馬車でのスープ提供は趣味でやっているんだそうだ。ほぼボランティアみたいなものだけど、喜ばれるから、とのこと。

 人間ができている……! 僕も将来は心に余裕のあるおじいちゃんになりたい。

 乗合馬車に乗るという時点で自分の食糧くらい自分で確保していると思うんだよ、乗客は。それでも暖かいスープを食べさせてあげたいというその気持ちが素敵だね。


 各自朝食を終えた後は、御者さんの指示に従い、馬車の中へ。

 さて、今日は何が起こるのかな?



 ガタゴト揺られていた馬車が止まったのは、走り始めて30分くらいたったころのことだった。

 魔物の襲撃をイオくんが予測してたけど、立ちふさがったのは倒木だ。結構大きな木が、根本のあたりからべきっと折られて道をふさいでいる。

「おや、何かあったんでしょうか……」

 と不思議そうにしながら木を調べる御者さん。しかし、彼一人でこの倒木をどかすことはできないだろう。

「イオくん、手伝いに行く?」

「そうだな……一人残った方がいいかもしれない。どっちか残れるか?」

 イオくんが呼びかけたのは、如月くんとプリンさん。2人は顔を見合わせてから、プリンさんが馬車の中に残ることにしたらしい。

「皆さんは馬車の中にいてください。この馬車には道迷いのお札が設置してありますから」

 と如月くんが同乗者に安心させるように告げて、馬車の外へ。

 気が利くなあ。こういう気配りって大事だよね。

「モンスターラッシュとかかと思ったけど、予想が外れたな」

「イオくんの予想でも外れる時は外れるんだねー」

 でも倒木の方が魔物と戦うよりしんどくない? これを道からどけるの結構大変そうだよ。


「御者さん、どうしましたー?」

 呼びかけながら近づくと、御者さんは困ったような顔をこちらに向ける。

 直径が腰くらいまでありそうな倒木を、どうやってどけようかという顔だ。

「魔物でも暴れたんでしょうか。ここ数日は天気も良かったはずですし、倒木が起きるような心当たりがありません」

 と心配そうに呟く御者さん。

 確かに木が倒れた原因は気になるね、特に病気で脆くなってるって感じでもないし。

「燃やすのは時間かかるし、切れないもんかな」

「剣で? うーん、鉈とか斧は持ってないし……」

「……いや、あれ?」

 如月くんが何か不思議そうな声を上げたので、何かあるのかな? と<識別感知>を使ってみる。


 ……あ、この目の前の木、赤アイコンだ。


「イオくん、敵!」

「これが!? <敵鑑定>! マジだ!」

「あー! やっぱり! 俺<感知>も<鑑定>もまだ育ってないんですよすみません!」

 なるほど、如月くんはまだ敵と味方の判別がつかない基本スキルの方の<感知>か。それじゃあ倒木の中に動物がいる可能性もあるし、敵と明言はできないね。

「トレント! 倒れてる部分は幻術! 本体そっち!」

 イオくんが道の右側を指さすと同時に、倒木がすっと消えてどこからか鞭のように細い木の枝が飛んでくる。如月くんがそれを剣で切り落とし、イオくんが木々の中に駆けていく。

「御者さん! 馬車の中に!」

 僕はまず避難誘導から。ここで御者さんが枝に捕まれて誘拐されたりしたらまずい。馬車の中ならお札があるから、正道から出ないはずだ。

 御者さんを乗客用の荷台に引っ張っていって、扉を開けて押し込み、中にいるプリンさんに「敵! トレントだって!」と叫ぶと、プリンさんは逆方向の扉から外に飛び出してすぐさまピーちゃんを呼んだ。

「皆さんはここから出ないでください!」

 と念を押してから、僕も扉を閉めて敵の方へ。……えーっと、<識別感知>によるとこっちだな。


「プリンさんこっち! えーっと、20メートルくらい先!」

「わかったわ! ピーちゃん、先に行って! 味方を援護よ!」

「ワカッタワー!」

 びゅっと飛び出していくピーちゃん。鳥さんは足元を気にしなくていいから早いね。

「【サンドウォーク】」

 僕は<土魔法>を僕とプリンさんへ。この魔法は説明によると足場の悪い所を歩きやすくする魔法だから、森でもワンチャン効くかな? と思ったんだけどちゃんと効くね。

「ありがと! ところでナツくん、俊敏いくつ?」

「10です! あ、靴で+5なので15です!」

「私12! 装備で+5で17! どんぐりの背比べだけど、先に行かせてもらうわね!」

 駆けだすプリンさん。確かにどんぐりの背比べだけど……っ!

 俊敏の数値は、街で歩いている分には10以上あれば普通の速度で歩けるんだけど、走るとスピード差が如実に出る。10~13くらいまでは、早歩き程度の速度しか出ない。全力で走ってもそれなので、こういう移動時はとっても遅く感じる。

 イオくんは俊敏高いし、走るとなったらどうせおいていかれるから、これ以上数値振る気はないんだけど、俊敏15相当でもリアルより遅い。すごくもどかしい。


「……俊敏振ろうかな!」

「同じこと考えてたわ!」

 イオくんと如月くんに遅くなって申し訳ないという気持ち、そして全速力で走ってるつもりなのにこの程度のスピードしか出ないという悔しさをかみしめるのだった。



 正道から20メートルほど離れたところで、少し開けた場所に出た。そこだけぽかっと木が生えていないので、昔資材置き場にしてたとか、隠れた野営地にしてたとか、そんな感じの場所なのかな、と推測する。

 で、その中央にいるのが巨大な木……に見せかけたトレントと言う魔物。根っこがうねうね動くし枝木も鞭のように割と伸びる。幹のど真ん中あたりに顔っぽいものがある、オーソドックスながら厳ついデザインだ。

 イオくんがロックオンでヘイトを稼ぎつつ、如月くんが遊撃中、かな? <鑑定>したけど敵の情報は名前とレベル15ってことしかわからない。


「お待たせ! 【パワーレイズ】! 【ディフェンシブ】! 【ファイアヒール】!」

 駆けつけると同時に、いつものようにイオくんにバフ掛け。3割くらいHPも減っていたのでリジェネで補う。このアーツ、全部対象1人なんだ、如月くんごめん!

 ちなみに<水魔法>の【アクアヒール】より、リジェネの【ファイアヒール】のほうがヘイト値が低い。多分、一度の回復量がヘイトの数値を決めているんじゃないかな、とはイオくん談。

 【ディフェンシブ】は<水魔法>レベルMAXで覚える防御系のアーツで、これを使うと対象の物理防御力・魔法防御力が10%UPする。ただし効果時間は3分間なので、上位互換が早く来てほしい。効果時間伸ばして!

「プリンさん、如月くんお願い!」

「OK、【パワーレイズ】! ピーちゃん、如月くんを強化して!」

「キサラギー! 【カッチカチ】! 【ヒョイヒョイ】!」

 なんか気が抜けそうなアーツ名をピーちゃんが叫んだ。かわいいんだけどピーちゃんにしか許されない魔法名だなこれ!

 <鑑定>すると如月くんに物理防御力UPと俊敏UPのバフがついているヒョイヒョイって……ひょいひょい避けるとかそういう意味?


「盾はあなたの相方で十分そうね」

「イオくんはヘイト上昇系スキル盛ってるので! 【ファイアランス】!」

 そして僕はヘイト低下スキル盛ってるので、現在一番強い<火魔法>の攻撃アーツを使っても僕にヘイトは向かない。

 それを見てプリンさんも<火魔法>での攻撃を開始した。

「【ファイアアロー】!」

「ピーチャンモ! 【アッツーイ】!」

 ピーちゃん、かわいいけど気が抜ける……っ! 

 たて続けの<火魔法>でトレントのHPバーが1割くらい削れた。結構固いなあ! 獣の唸り声のようなものをあげて、バタバタ動いていた根っこが右から左へ横なぎにしようとするのを見て、イオくんが盾を構える。


「【パラライズ】!」

 お、ロックタートルで大活躍したやつ。でもトレントは植物系の敵っぽいから、麻痺は効くかな?

 べしっと重めの一撃を受け止めたイオくんは、チッと舌打ちをして

「麻痺無効!」

 と情報共有をした。やっぱりかー。

「後衛、枝伸びるから気を付けろ! 【ロックオン】!」

 イオくんは的のヘイトを自分に向けてから、そのまま押しつぶそうとしてくる根の力をするっと受け流して、進路上の如月くんに「飛べ!」と指示を出した。

 ひょいっとよけられる如月くん、とても身軽だな。


「属性不明、斬属性・打属性耐性ありです! イオさん突属性持ってません!?」

「ある。【突撃】!」

 物理にも属性があるらしく、打つ、切る、突く、叩き潰す、の4属性なんだそうだ。それぞれ敵によって効く・効かないがある。叩き潰すというのだけなんか物騒だけど、打属性と違って叩き潰すは「渾身の力で上方から叩き潰す」ものであり、4つの属性の中で一番攻撃力が高い。けど、表面が硬い敵には効きずらい。そしてアーツも少ない。

 イオくんが思いっきり長剣を木の幹に突くと、赤いエフェクトが出てクリティカル判定になった。物理攻撃は、弱点つけると高確率でクリティカルになるので、トレントの弱点属性は突属性で決まりだ。

「【ライトアロー】! 【ダークアロー】!」

「【ウィンドアロー】! ……ナツくん、トレントは土属性だわ!」

「えええ!? 植物だから火に弱いと思ってた!」

 イメージ! 完全にイメージで判断してた! ありがとうプリンさん!

 最初にピーちゃんとプリンさんが<火魔法>使ったのって、僕が先陣切って自信満々に<火魔法>使ったからだよね、ごめんー!

「【ウィンドアロー】!」

 そして<風魔法>はまだレベル5だよ! ウォール系魔法までしか出てない! えーっと、土属性は<水魔法>に強いから、それ以外なら使ってOKで……。

「【サンドアロー】!」

 同属性は若干軽減されるけど使わないよりはマシ……!

 僕が魔法を使っている横で、プリンさんは弓に武器を切り替えた。そういえば弓は突属性だ、少しでもHPを削ろうという算段だろう。ただ、イオくんや如月くんの攻撃に比較してすごく効いてる感もないので、純粋に筋力の問題かも。

 エルフに筋力は求められないし、仕方ない。

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