41日目:噂のハサくん
「なぜだろう、ものすごく疲れている気がする」
「気の所為じゃないかしら」
「気の所為じゃないぞ」
「俺も気の所為じゃない気がします……」
ロアチェさんのところを辞して、もうちょっと黄昏通りを歩き回るつもりだったのになあ……。なんかもうぐったり疲れ切って、もうギルドに帰って寝よう? って気持ちになる夕暮れ時である。
ロアチェさんの勢いに押し切られたのが敗因かな?
衣装が決まったあともロアチェさんの店に戻って、ボタンを付け替えようとか刺繍をしようとかで大騒ぎ。プリンさんもここぞとばかりに縁起の良い刺繍デザインを習ってて、ロアチェさんの勢いは止まらなかった。
で、僕が一番疲れたのは追加でかかったお値段。金額がねえ……。僕のシャツや買ったばかりのケープにも使われている綺麗な銀色の糸、あれがね……思ってたよりお高くてですね……!
如月くんのシャツに使われている金色の糸も良いお値段してたけど、ナルバン王国で至高の色は銀、その次が金である。その素晴らしい色に半端な材料は使えねえ! とばかりに高級材料で染められた糸だった。みんなスペルシアさん大好きだな!?
そんな銀糸をたっぷり使っている僕のケープ、そりゃ高いよ……と納得したのである。コンフォートシルク自体も、星の民が普段着にする良い布だそうなので、一般的な白シャツが3,000Gから10,000Gくらいで買えるのに対して300,000Gしても文句は言えない。
「まあまあ。みんなは明日領主様に会いに行くのよね? 試しにその時着ていったらいいんじゃないかしら」
「いや、領主は俺達がトラベラーだってわかってて呼んでるんだし、流石にそこまでしなくてもいいだろ……」
イオくんも大分疲れてる感じである。師弟に一番こだわられてたからね、仕方ないね……。髪の分け目まで指示されてて大変そうだった。
ま、まあでも!
衣料品関係で欲しいものは大半手に入るっていう、プリンさんの言葉は嘘ではなかった。ちょっと「こういうの欲しいんだけど」と口にしてみるだけで、どこからかささっとプリンさんやロアチェさんが持ってきてくれて、あっという間に買い物が終わってしまったのだ。
具体的にほしかったのは、ルーアさんのためにアクセサリを作りたいからそのパーツだったんだけど……。正直女性用のアクセサリには全然詳しくないから、プリンさんがさっと選んでくれてとても助かりました。僕だったらピンクゴールドのチェーンとか絶対選ばなかったよ!
「夕暮れ時ですし、ちょっと早いけどどこかで夕飯食べます?」
如月くんがこっちに気を使う感じのことを言ってくれたけど、そうだなあ……。たしかにまだちょっと早いかもだ。
「……あ、ダナルさんのところに顔出していいかな? あの人アクセサリ作ってる人だから、デザインのアドバイスとかもらえたら、もしかして<細工>するときに祈り通じるかも……!」
「それ通じるの多分ナツだけだと思うけどな……?」
「でもいいと思いますよ、プリンさんならあのお店、活用してくれそうですし」
「何のお店の話かしら?」
ダナルさんは僕たちがゴーラに来る時出会った人だから、多分プリンさんの知り合いではないはず。そもそもダナルさんもサンガに行ってて、ゴーラに戻る途中だったわけだし。……と思ってダナルさんのお店、シェルライトの名前を出してみた。
すっごく可愛くて女性っぽい感じのお店、という表現をしたら、「なるほど、テトなら似合いそうね!」と言われたのでそこは完全に同意しておこう。むしろ僕らだとテトにしか合わないのだ。
「僕たち男性陣にはちょっとこう、迂闊に足を踏み入れるのは勇気がいる感じのお店でして……」
「なるほど。是非紹介してほしいわ」
というわけで、今日もやってきましたダナルさんのお店!
の、隣の工房。今日こそはお店に突撃しなかったので、学べるうちの猫はえらいと思います。庭に近づくとロミちゃんがひょっこり顔を出して嬉しそうな顔をするもんだから、僕も和むよ。
「隣が店舗だよ」
「絶対に行ってみたいお店だわ。この通り、結構通ったことあるのに、やっぱり縁がないと存在すら知らないままで終わるお店ってあるのねえ……」
すっごいかわいいお店、と嬉しそうなプリンさん。あとでどうぞゆっくり見てってほしい。僕たちでは売上には貢献できないからね……!
ロミー! こうはいがきたのー♪
てててーっとロミちゃんに駆け寄っていくテトは、頭にシャルを乗っけたままである。このまま紹介するらしい。手のひらサイズのシャルに対して、ロミちゃんはどんな反応するかなと思ったら、ちょっと遠慮がちというか、触ったら潰しちゃいそう! みたいな反応してる……気がする。
対するシャルの方は、大きなお馬さんにも怯まず元気にご挨拶している。人見知りしないのかな? きっと如月くんに似たんだね。
「みなさん、どうぞ庭へ」
僕が和んでいる間に、イオくんがさくっとダナルさんを呼びに行ってくれたので、すぐに庭に現れたダナルさんが呼んでくれた。如月くんは連日じゃないけど、僕とイオくんとテトは昨日も来たばっかりなので、「連日すみません」ってな感じにご挨拶。流れでプリンさんを紹介して、最後にプリンさんにダナルさんとロミちゃんを紹介だ。
「プリンさん、こちらはアクセサリ職人のダナルさん、そしてこの可愛くて穏やかなお馬さんはダナルさんの契約獣のロミちゃんだよ!」
「プリンパフェです。わあ、足が多いからすごく速そうね!」
プリンさんは召喚師なので、当然動物大好き。ダナルさんよりもロミちゃんに視線が向いてしまうのは仕方のないところである。ダナルさんは手乗りサイズのシャルに釘付けで、わかる、超かわいいよね……。
丁度良いのでダナルさんに許可をとって、プリンさんの戦闘用の契約獣たちを紹介してもらおうってことになった。
召喚師の契約獣、基本は戦闘中だけ召喚する感じらしいんだけど、プリンさんはマメにコミュニケーションをとって好感度上げて、召喚できる時間を増やしているらしい。常時召喚できるようになるには、色々条件もあるらしいんだけど。特にピーちゃんは最初の契約獣で一番プリンさんに懐いてるから、だいぶ条件緩和されてるらしい。
「ガンちゃんは戦闘以外だとまだ2時間くらい、ハサくんはまだ1時間くらいしか召喚出来ないのよね」
「今召喚しちゃって大丈夫?」
「大丈夫! ガンちゃんは人見知りだから人は苦手なんだけど、戦闘用じゃない契約獣は好きみたいだし、ここで紹介できるならそのほうがいいわ」
そんなわけで、ダナルさんのところの庭で、プリンさんが召喚獣紹介タイム。
「まずはみんなおなじみのピーちゃんよ」
「ピーチャンヨー! オウマサンガイルワー!」
「ロミちゃんって言うんですって」
「ロミチャン!」
ピーちゃんは楽しそうに「ロミチャン♪ ロミチャン♪」と歌った。テトも一緒になってにゃーにゃー鳴いててとてもメルヘン。シャルも「きゅっきゅー♪」と鳴いて、如月くんが「くぅ……!」と頭を抱えた。歌ったんだねシャルも。
ちなみにテトの歌は「ろーみー♪」だった。シャルはどうだったのかな?
「そしてみんなにも一度会ったことがある、ガンちゃんよ」
プリンさんが召喚すると、昔見た柴犬くらいの大きさのカメレオンのガンちゃん。姿は変わってないけど、ちょっとだけこっちに慣れてくれてるかも?
「ガンちゃん久しぶり、元気だった?」
ちょっとしゃがんで目を合わせてみると、ガンちゃんは僕たちと一緒に戦ったことを覚えていたのか、逃げずに視線を合わせてくれました。こくこくと小さく頷いている。カメレオンもかわいいねえ。
「ガンちゃんはより一層盾をがんばってくれてるわ。戦闘ではすごく頼りになるのよ」
プリンさんが褒めると、ガンちゃんは褒められたことがわかっているので嬉しそうにプリンさんを見上げた。ちょっとした表情や仕草に、確かな信頼関係が見えて良いね。
テトとは確か会ったことないんだよね、ガンちゃん。ピーちゃんと仲良くしている巨大猫を見上げて不思議そうな表情である。
紹介したいけど、その前に最後のプリンさんのお仲間に会わせてもらっちゃおう。
「じゃあ最後に、ゴーラで仲間になったハサくんを紹介するわ!」
プリンさんが張り切って召喚して……ぱあっと光の中から現れたのは、これは……?
「ら、ラッコさん……?」
「シザーオッターっていう種族なのよ、ほら、尻尾がハサミになってるでしょ?」
やたらキリっとした男らしいラッコさんが二足歩行で、大きな斧を持って悪い顔でキシシッと笑った。身長は僕の腰くらいかな? プリンさんが先にハサくんに僕たちを友達だよって紹介してくれたので、ハサくんは斧をしまった。ラッコなのに、なんかすごく強そうだ。
「ハッ、もしや尻尾ハサミだからハサくん!?」
「そうよ? 名付けはキシくんと迷ったわ」
「キシシッて笑うからだ!」
プリンさんの名付けセンスわかりやすいな。ピーちゃんは逆にどういう由来の名付けなんだろう。ガンちゃんはなんとなく頑丈だからガンちゃんなのかなって思ったんだけど。
興味あったのでちらっと聞いてみたら、ピーちゃんは自己申告だったらしい。「トリサンヨー、ピーチャンッテヨンデモイイノヨー!」って言われたんだそう。そのフレンドリーさが気に入ってピーちゃんを選んだところもあるらしい。
わかるー、最初の相棒ってなるとなんでも話せるとありがたいよね。ピーちゃんはすごく相談にのってくれそうな雰囲気ある。
「ハサくんは全員はじめましてだから、順番に紹介するわね! 向かって右から、ナツくん、イオくん、如月くん、ダナルさん。如月くんの手に載ってるのは如月くんの契約獣のシャル。その手前にいる大きな白猫さんがナツくんの契約獣のテト。こっちの大きなお馬さんがダナルさんの契約獣のロミちゃんよ」
「キシッ」
ハサくんは一声鳴いて厳かに頷いた。理解したって感じなんだろうか、堂々とした子だ。ガンちゃんも、みんなの紹介を聞いて名前と姿を一致させてる感じだった。
「こちらがガンちゃん、こっちの子がハサくんよ。私の契約獣なの、よろしくね」
プリンさんの言葉に、テトが「テトだよー、よろしくなのー」と定番のおすましポーズを決めている。ハサくんがヨッ! って感じに片手を上げて、ガンちゃんはぺこっと小さくお辞儀をするので、なんかそういう仕草にも性格が出るねえ。
ロミちゃんはたくさんの契約獣の出現にわくわくそわそわって感じで、ガンちゃんに真っ先に鼻先を寄せてご挨拶してた。同じ無口同士なので、気が合うかもしれない。
契約獣たちがコミュニケーションを取り出したので、僕たちは一步下がって見守り体制に……あ、そうだダナルさん! 結婚式の女性に丁度良さそうなネックレスのデザイン教えてください!
「結婚式に出席するのかい?」
「そうなんです、ご縁があって。でもシスターさんなので、あんまりご自分でアクセサリとか持っていないらしいので……。僕、魔法石を作れるので、何かプレゼントできたらなって」
「おお、それはいいね」
ダナルさんがいうには、参加者が宝石を身につけないのはマナーで、これは花嫁花婿よりも目立たない為の配慮とのこと。逆に言うと、花嫁さんが宝石を身につけることは別に良い。でも一般市民は宝石なんて持ってないことが多いから、その後も長く使える魔法石や色ガラスのアクセサリが一番喜ばれるんだそう。
「それなら良かった! <細工>のレベルまだ低いから、大したものは作れないと思うんですけどね。えーと、花嫁さんのドレスが薄いグレーで、ワンショルダーの……首元結構開いてるやつみたいなので、ネックレスを作れたらと」
「使う石はどんなもの?」
「これです!」
魔法石の作成自体は、湯の里でちょこちょこ作りだめしてあった。あれって一晩聖水に浸すっていうワンクッションがあるから、空の魔法石だけ作っておいて生産の合間にちょいちょい魔法を込めるって感じで、時間もかからないし。
さらざらと作ったものを出してみると、全部で7個になっている。テトが欲しがるからあげたりしたし、思ってたより数がなかったよ。
「えーと、これとこれが<光魔法>の【ピュリファイ】を込めたやつで、これは<風魔法>【ヘイスト】で、こっちが<火魔法>【パワーレイズ】で、こっちの2つが<闇魔法>の【カオスギフト】だったかな? 喜ばれるのってどういうのでしょうか」
「うーん、統治神スペルシアにあやかって、<闇魔法>系統は人気があるけど、効果にもよるね。結婚式なら、<光魔法>もいいんじゃないかな」
ダナルさんはそんなことを言いつつ、工房にさっと戻って空の魔石を持ってきてくれた。素材として持ってはいるらしい。
「あ、中くらいの大きさのやつ」
「小さいのを使うならつなげるのが良いと思うんだけど、ナツさん<細工>のレベルがまだ低いって言ってたし、そんなに素材を使えないんじゃないかな。それなら、大きいのを使ったほうが良いと思う」
「確かに……!」
今手持ちにある魔法石、効果がどれもこれも微妙なやつばっかりだしね。ダナルさんの空の魔法石、買い取らせていただけたりは……? え、この小さい魔法石3つと交換で良いんですか?
「魔道具があるから、空の魔法石の入手は難しくないんだよ。俺は魔法を込められないし、依頼する手間と料金を考えたら、大体その小さいの3つぶんくらいが妥当なんだ」
「そういうことでしたら、お好きなものをどうぞ!」
というわけで、無事<風魔法>、<闇魔法>、<光魔法>を込めた魔法石3つと交換が成立した。ちなみに、効果は<風魔法>のが「身につけた人間の歩調が少し早くなる」。<闇魔法>は「身につけた人間がわずかに人に認識されづらくなる」。<光魔法>は「身につけた人間の周辺をわずかに浄化する」。
どれもこれも微妙な効果ばっかりだけど、魔法石は見た目がきれいな色なら効果は気にしないって人も多いらしいので、それなら良かったって感じ。
「じゃあ、これをどうぞ」
「ありがとうございます!」
ダナルさんに交換してもらった、直径3センチちょいくらいの大きさの空の魔石。
小さいのが直径1.5センチ位だから、倍の大きさだ。さて、これに込める魔法は……<光魔法>の【ハッピーエフェクト】がいいんじゃないかと思うんだけど、この魔法って戦闘中1回って使用制限あるし、こういう時使えるのかな? だめだったら【ホーリーヴェール】かなあ。
ま、一回試してみますか!




