40日目:ロミちゃんとテトの浜辺競争
「なぜ僕は2度もあの空間に存在したのか……」
「テトはお前の契約獣。迎えに行くのはナツしかいない」
「そうなんだけどね!」
ドアに体当たり、2度目をやらかしたテトさんは、ダナルさんにちゃんと「ごめんなさいなのー。ロミにはやくあいたかったのー」と謝れたのでえらい。
僕も頑張ってきらきら空間に入ってテトを回収したのでえらい……女性たちの呆気にとられたようなあの視線を耐えたのでとてもえらい。そしてその間に隣の工房に行ってダナルさんを呼んできてくれたイオくんもテキパキ動けてえらい。
というわけで工房のお庭にたどり着いた僕達である。テトはロミちゃんを発見して尻尾をごきげんに立ててまっしぐらに駆けていった。「ロミー♪」と呼びかける声も弾んでいる。テトは誰とでもすぐ仲良くなれちゃうけど、やっぱり同じ契約獣の友達って特別なのかもなあ。如月くんのところに生まれてくる子、テトと仲良くしてくれるといいなと思う僕である。
「テトさんが、もう少しで後輩が来るんだよって、ロミに自慢しているみたいだね。ロミがとても羨ましがっているよ」
と、僕達に紅茶を差し出しながら言うダナルさんは、ちょっとだけ困った顔。この辺の住人さんたちは契約獣持ってないのかな? と思ってちょっと聞いてみると、そういうわけではないらしい。
「この辺の人たちが契約している子たちは、小さいからね。ロミは大きいから、潰してしまいそうで怖いみたいだよ」
「あー、確かに。ロミちゃん大きいですよねえ」
「テトさんくらい大きいと、安心みたいだよ」
他の子を気づかえるロミちゃん、とても優しくて良い子だね。テトは僕を乗せられるくらい体が大きいので、確かに踏み潰される心配はないし。
「テトの我儘に付き合わせてすまんな」
イオくんがちょっと申し訳なさそうにしつつも紅茶を飲み干すので、僕もいただこう。……ちょっと渋めの、ミルクティーにしたらめっちゃ美味しくなりそうな味だなあ。
紅茶を飲み干してから、みんなで海岸に向かう。午前中の混み合う時期が終わっているので、砂浜は人気がなかった。これならロミちゃんとテトが爆走しても許されそう。
ダナルさんがロミちゃんに聞いて、どこがスタートでどこがゴールなのか決めてくれる。200メートルくらいかな? 速い2人なら一瞬で駆け抜けちゃうかもだけど。
ナツー! ナツはゴールにいてねー。テトのゆうしをみててほしいのー!
「大張り切りだねテトさん。じゃあ僕はゴールに……イオくんはどうする?」
「俺はナツの隣にいるか。頑張れよテト」
まけないのー!
「やる気だな」
よしよし、とイオくんがテトを撫でたので、僕も便乗して撫でておく。存分に撫でられて満足そうなテトである。ダナルさんがスタートは請け負ってくれるというので僕達はゴール地点へ、砂に線を引いてスタンバイ。遠くでテトがぴょんぴょんしてるのがわかる。テンション高いなあ……。
ダナルさんが大きく手を振って、テトとロミちゃんに何か言っている。
スタートするのかな?
わくわくしつつ見ていると、ダナルさんは腕を上げて、それを勢いよく振り下ろした。同時に、テトたちが勢いよく飛び出してくる。
「うわ、速い……!」
テトロケット、速いのは知ってたけど瞬く間に距離詰めてくる。僕乗せてもらってる時めっちゃゆっくり走ってくれてるなこれ……! 応援しなきゃ!
「テト、がんばれー!」
ぶんぶん手を振って応援すると、「うにゃあああ!」と声を上げつつ迫ってくるテト。でもロミちゃんも負けて無くて、すごい接戦だ。がんばれー!
砂を巻き上げて走ってくるから、テトたちの後ろにものすごい砂煙が巻き起こっている。砂ってすごく走り辛いはずなのに……やはり家のテトは天才であったか……!
「テト、もうちょっと! がんばれー!」
と僕が言い切ると同時くらいで、テトとロミちゃんがゴール線を突っ切っていった。
「速い! 優勝!」
「……今のどっちが早かったか見えたか?」
「同時なので双方優勝ということで……!」
多分駆け抜けるスピード同じだったよ、ゴールラインしっかり見てたけど、僕の目には同時にしか見えなかった。イオくんどっちが先だと思った?
「わからん、多分同時」
「だよね」
という会話をしていると、テトとロミちゃんがてててーっと軽やかに戻ってきた。
ナツー! がんばったのー、テトすごかったー?
「テト、ロミちゃん! すごく速いねー、すごかったよ!」
ロミもさすがだったのー。さすがじまんのおともだちなのー。どっちはやかったー?
「同時だったよ。だからテトもロミちゃんも優勝です」
ゆうしょうー♪
テトは嬉しそうにその場でぴょんぴょんした。ロミちゃんはその後ろからゆっくり歩いてきて、相変わらず穏やかなお顔でふんふんと鼻を鳴らす。
テトとロミりょうほうゆうしょうなのー。
と嬉しそうにロミちゃんに懐きに行くテトさん、全身全霊で嬉しそうなのですごく和むよね。優勝景品として美味しいもの出してあげなきゃ……。モンブランはもう経験してるから、マロングラッセかな? これもだいぶ減ってきたから、また補充しなきゃ。
「テトもロミちゃんも優勝なので、マロングラッセを進呈します。優勝賞品だよ」
すてきー!
ぱああっと表情を明るくしたテトさん、即座にロミちゃんを振り返って、マロングラッセがどんなに素晴らしいものなのかを説明し始める。グルメレポーター猫の本領発揮だねえ。いや、テトの場合は栗がいかに素晴らしいものかという説明なのかもしれないけど。
栗は美味しいからね、仕方ないね……。
あ、向こうからダナルさんが走ってきた。ロミちゃんが嬉しそうにお出迎えしている。
「やあ、テトさんもすごいね。足が多いロミに負けないんだから、さすがだよ」
「自慢の契約獣です!」
テトが褒められてえっへんと胸を張る僕である。
浜辺の近くのベンチでロミちゃんとテトにマロングラッセをプレゼントして、目を輝かせる姿に和みつつ、午後は肉を集めに行く予定という話をする。
ホントは、昼ご飯をピクニック気分でここで食べられたら良かったんだけどね。そしたらイオくんのとっておきのシチューが出せたし。でもリゲルさんとの情報交換も大事だから仕方ないよね。ロミちゃんにシチューをあげるのは、また後日にしよう。
今は、お肉の補充が優先。
「お肉、ダナルさんも食べますか?」
「それは嬉しいね。ワイルドピッグかな? ゴーラにもたまに入ってくるね」
「ツノチキンとかフォレストスネークもあります」
「おお、フォレストスネークは食べたことがないな、どんな味かな?」
興味深そうなダナルさんも、蛇肉に興味ありますか。ふふふ、ならば差し入れしましょう……してもいいかなイオくん!
「2・3個ならいいぞ」
「さすがイオくん太っ腹!」
というわけでダナルさんにフォレストスネークの肉を3つほど差し入れしてみる。これピリ辛のお肉なんですよ、揚げ物がおすすめです。
「ありがとう。そういえばイオさんは料理が上手だったね」
「そうなんですよ、家の天才料理人です!」
「いやそこまでじゃねえよ。ダナルも、ナツの言うことは話半分で聞いといてくれ」
イオくんは苦笑しつつ謙遜するんだけど、僕の100倍は料理上手いので天才料理人で問題ないと思います。ねーテトさん?
イオはおいしいものつくるのじょうずなのー。
「だよねー!」
「ふむ。ではそんなイオさんの参考になるかわからないけど……北門から外に出たことはあるかい?」
「北門はまだ無いですね」
ワイルドピッグは南門方面だったから、北はヨンドに続く山道の方だ。あっちにもなにか良い食材があるのかな? と期待に満ちた眼差しを送ると、ダナルさんは微笑んで教えてくれた。
「向こうには昔、ドワーフたちの村があったんだ。戦争が始まってからゴーラに合流したから、今はもうないんだけどね。ただ、北の方はうさぎが多くてね。魔物が出現するようになると、ハニーラビットというのがよく出たよ」
「ハニーラビット!」
シチューにぴったりの肉だ!
ラビット系の肉は生食用のアイスラビットが衝撃的に美味しかったけど、あれはヨンドの北が生息地だったはず。北の方には他のラビット肉が出る可能性もあるのかな? どんな種類があるのか期待が高まるね……!
「ちょっと甘くてうまいんだよな、ハニーラビット。イチヤで少し買ったし、湯の里の近くにもいたけど、もう残ってねえな」
「仕入れに行こう!」
「まあワイルドピッグは昨日少し手に入ったし、今日はハニーラビットでもいいな」
むむむー。
テトはまた戦闘になるとホーム行きなので、とっても不満そうだけど……ここで僕はとっておきの情報をテトに囁くのです。
「テト、ハニーラビットのお肉は、テトの大好きなシチューに入れると美味しいよ」
むむむー! ゆるすー!
「許された!」
「テト本当にシチュー好きだな……。まだ残ってるが、追加で作るか」
しちゅー♪ いっぱーい♪
テトさん、あまりの喜びに踊り始めるの図。やっぱりテトを説得するには食べ物が一番か。わかりやすくてとても良いと思います。そういえばお店で鮭のシチューも喜んでたよね、今度あれもリクエストしよう。今口にすると兎狩りが許されなくなるかもしれないから無言を貫くぞ……。
「じゃあ北門行ってみます! ロミちゃん今日はテトと遊んでくれてありがとね。また遊びに来るよ」
ロミちゃんに声をかけながら撫でると、ロミちゃんは優しい眼差しで僕に頬ずりしてくれた。うーん、かわいい! やっぱりお馬さんもいいなあ、イオくんの契約獣、白馬にすればいいのに。
「いや色では決めねえよ」
「ハッ! つい口に出してしまったか……!」
白馬の王子様っぽいイオくん、めっちゃ笑え……こほん。似合うと思うんだけどなー。と思ってたら頬を引っ張られました、痛い痛い。なんで考えてることがバレるかな。
ダナルさんとロミちゃんに別れを告げて、南北通りを北へ戻る。
テトは「しっちゅー♪ しーちゅー♪」とシチューの歌を歌いながら弾む足取り。相変わらず僕の右側にぴとっと寄り添って、時々撫でてほしそうにちらっと見上げてくるのでとても可愛いですね、はい。撫でます。
もう少しで北門、というところですれ違った犬獣人のトラベラーさんが、ピタッと足を止めた。
「お、御猫様……!」
そのまま、なんか崩れ落ちるようにナチュラルに土下座。
「な、な、撫でさせてください! お願いします! 何でもするので、何でもしますー!」
「ええええ!?」
なんか変な人が現れた!
と思った次の瞬間、僕とテトはイオくんに引っ張られて背後に隠されている。さすがイオくん頼れる前衛、こんなときにも即座に動けるとは有能がすぎるな……!?
ビビりまくってイオくんの後ろから顔を出すと、犬獣人さんは土下座姿勢のまま「猫は至高」みたいな呪文をぶつぶつと唱えている。え、怖い。普通に怖い。
「……黒のほぼ完全な犬獣人……掲示板で噂になってた行き過ぎた猫好きプレイヤーか……」
イオくんは何やら知っている様子だ。ちなみに獣人さんは、どのくらい獣に近づけるかをパーセンテージで選べるんだけど、90%くらいにすると目の前の人みたいに、二足歩行する動物って感じにできる。大抵の人は30%くらいに設定して、猫耳と尻尾だけつける感じにしてるんだけどね。それ以上パーセンテージを上げると、動きにくせが出てきて違和感があるとかで。
どうしたのー? ねむいー?
「テトさん、その人は土下座してるんだ。テトを撫でたいらしいよ」
なでるー? いいよー!
社交的なテトさんは軽く了承してるけど……イオくん、その人大丈夫? 有名人なら何か情報があるんだよね?
「あー、そうだな。撫でるくらいなら大丈夫だと思うが。ちょっと普通じゃないくらい猫が好きなやつらしい」
「アサギくんも猫好きだったけど」
「あれは普通の猫好き。こっちはちょっと普通じゃないくらいの猫好き」
言いながらイオくんは、土下座中の犬獣人さんに声をかけた。
「少しなら撫でてもいいそうだ」
「感謝感激雨あられ!」
がばっと即座に立ち上がった犬獣人さん、テトの前に出て片足を地面につき、恭しく礼をとった。
「お初に目にかかります、トラベラーのロウガと申します御猫様。なんと神々しい白いお姿、これほどまでの大きさとなるとフォレストウォーカー様でしょうか、最高にもふもふですね撫でさせて下さい!」
いいよー!
「い、いいそうです……」
「契約主様に感謝を! では失礼して!!」
そーっとテトの毛並みに手を伸ばし、触ると「おおおおお!」と感激の声を上げたロウガさん。「素晴らしい毛並み! 素晴らしい御猫様! やはり猫が至高! 猫しか勝たん!!」と早口で唱えながら一心不乱に撫で始めるのであった。
「イオくんこの人本当に大丈夫……?」
「異常に猫が好きなだけで、猫に危害を加えることはないらしい……ぞ?」
それなら大丈夫……なんだろうか。うーむ。




