39日目:リゲルさんは高給取り(確信)
いつも誤字報告ありがとうございます。
自分でもびっくりするような誤字してることがあるので、毎回助かってます。
ところで僕にとってレストランって言うとファミレスのイメージなんだ。
家族で行くこともあるけど、家はお母さんが手作り推奨だから、基本的には友達と一緒に食べに行く場所なんだよね。ファミレスっていろんなメニューが有って、選択肢が多くて楽しいし。
コース料理を出すようなお店には行ったことないんだよなあ。
なので、テーブルマナーとか、よくわかんない。
わかんないよリゲルさん……!
「いらっしゃいませリゲル様」
深々とお辞儀をするダンディなおじさんが、恭しく個室へ案内してくれて、僕達は「リストランテ・マーレ」のエントランスをくぐった。ちょっとギクシャクしちゃうのは許されたい。隣を歩くテトさんはめっちゃ楽しそうにスキップしてるけど、建物全体が白いからかな?
リストランテ・マーレは、白亜の宮殿を思わせる美しい建物で、展望の良い高台に位置している。
具体的に言うと東門の近く、ギルド前通りを門に向かって左側に少し入った横道、宵月通りのど真ん中。多分、ゴーラを一望できるんじゃないかなってくらいの立地だ。この通りは高級路線のバーや会員制のクラブなどが軒を連ねているらしい。
宮殿モチーフなだけあって、建物の中も広々。ちょっと大声でも出そうものなら、めちゃくちゃ響きそうな大ホールを横切って行く。
「今日は公式な訪問ではない。同行者もトラベラーなので大衆向けのセット料理で用意してくれ」
「かしこまりました。4名様分でよろしいですか」
「ああ。……デザートだけ1つ増やして欲しい」
「かしこまりました。こちらのお部屋でお待ち下さい」
通された部屋はどーんと絵画が飾ってある個室で、適度なサイズ感の円形テーブルに椅子が5つセットされていた。白を基調として、ちょこちょこと水色の差し色が目立つ感じの、リゲルさんリスペクトな感じのスタイル。リゲルさんが上座に座って、その隣にテト、テトの隣に僕、イオくん、如月くんの順番で座ると、即座に紅茶が出された。
リアルで言うところのお水の代わりに紅茶が出てきたってことかな。
「リゲルさん、僕テーブルマナーわかんないです」
「期待してない」
不思議そうに言うリゲルさんが、少し考えてから「ああ」と何やら一つ頷いた。
「この店には2通りの料理の提供方法がある。1つがコース、前菜から順番に料理が提供される形だ。こちらはちゃんとした会食や高貴な人々のもてなしなどに使われるな。もう一つがセット、これは小皿料理を最初にすべてテーブルにならべて、好きなものから食べて良い気軽なものだ。今回はこちらの形式になる」
「お、おお……」
あまいのあるー?
「甘いのありますかってテトが」
「デザートも最初に来る。テトの分はちゃんと注文してあるから問題ないぞ」
わーい。あまいのなにかなー♪
るんるんと楽しそうなテトの頭の上では、さらさらの毛並みに埋もれたヴォレックさんが「ほへー」と感心したように呟いている。ここまで姿を消してついてきてくれているんだけど、まだお店のスタッフさんがいるから紹介出来ないね。
神獣さんが気軽に街に顔をだしたら大騒ぎになる、湯の里で学んだことです。
如月くんもなんか借りてきた猫みたいにガチガチになっている中、一人だけ余裕そうなイオくんが、
「王族や星の民が利用する店なのか?」
と質問をしている。リゲルさんはそれに頷いて答えた。
「いわゆる最高級の店だな。私の奢りだ、高給取りだという証明にもなるだろう」
「ナツのせいか」
「疑ってませんけど!? ご馳走になります、ありがとうございます!」
くっ、最初にお給料のこと聞いちゃったから根に持たれている……! ゴーラに戻って合流した時、リゲルさんは僕達を順番に見て、特に変わったところがないということを確認して安堵の息を吐いたのであった。テトはその際に撫でられたのでご機嫌急上昇だったよ。
奢っていただけるというのならば、僕は遠慮はしない。むしろ奢ってもらえなかったらこの店で出される料理、全財産で足りるかわかんないからとても助かりますね……。
少しの間まっていると、3人くらいのスタッフさんが静かにカートを押して部屋に入ってきて、みんなの前にテキパキと料理を並べてくれた。
「オニオンスープでございます」
「季節の野菜サラダ、バジルドレッシング添えでございます」
「鯛のポワレ、レモンバター添えでございます」
「黄金小麦のバタールでございます」
「シーフードグラタンでございます」
「白身魚のトマト煮込みでございます」
「貝柱の……」
ばばばばばっと並べられていく料理のお皿……ま、待って膨大! 膨大な量ある! 途中から料理名が聞き取れてない! なんか絶対美味しいってことだけはわかる!!
8割は魚介類だけど、お肉もちょっとあるし、デザート! デザートめっちゃきれい!!
「チョコレートケーキだー!」
「ほう、細工が美しいな」
わーっと歓声を上げた僕の隣で、テトも「すてきー!」と表情を輝かせている。僕達の目の前に置かれたチョコレートケーキ……! 直径10センチくらいの丸いケーキ。その上に飾られたお花のチョコレート細工が繊細でめちゃめちゃきれいなのだ。
目で見ても美味しいってこういうものことを言うんだろうなあ!
「ナツ、気持ちはわかるがケーキはデザートにしろ。先に食事だ」
「はっ! も、もちろんですとも!」
リゲルさんに言われて我に返る僕である。チョコレートケーキの器には冷たさをキープする魔法が使われているらしく、デザートは食後まできちんと保冷されるとのことである。何その便利魔法! と思ったら普通に<氷魔法>系統で覚えられるやつらしい。やったー!
リゲルさんが軽く手を上げると、スタッフさんはテーブルの上にベルを置いて部屋を退室していった。どうやらヴォレックさんのために人払いをしてくれたみたいだね。
「誰も見ていないから普通に食事をするといい。ここの料理は基本に忠実で旨い」
「めっちゃ助かります」
ほっと安堵の如月くん。
「参考になりそうだな……。ナツ、どれが美味かったかは教えろよ」
と、もはや料理研究家目線のイオくん。
チョコケーキすてきー♪ これたべていいのー?
「良いよー、テトの分リゲルさんが頼んでくれたからね、好きなだけ眺めて食べるが良いよ!」
わーい♪
すっかりチョコレートケーキを目で楽しむつもりのテトさん。にゃふにゃふ言いながらきらきらの眼差しでケーキを見つめるのであった。これは……一口かじるまでにどれだけ時間がかかるかな?
「じゃあ食事の前に、ヴォレックさんをご紹介しましょう!」
「おうおう、やっと出番かい!」
とりあえずリゲルさんには先にヴォレックさんをご紹介しておこう。こちら! と両手でテトの頭の上を指し示すと、どどーんと仁王立ちしたちんまいモモンガがそこに!
今までは知人にだけ見えるようにしてたらしいんだけど、ここでその隠匿を解いたのである。リゲルさんの視線が初めてヴォレックさんに向けられて、ようやくはじめましてだ。
「ヴォレックさん! こちら素晴らしい魔法士のリゲルさんです! ナナミにお住まいだよ!」
「リゲルという。初めまして」
「リゲルさん! こちら気さくで男前な神速の神獣、ヴォレックさんです!」
「ようよう! オイラはヴォレックってんだ、よろしくなあ!」
小さい前足をぴょいっと上げて威勢のよい挨拶をするヴォレックさんに、リゲルさんは丁寧な会釈を返す。良し、これで一仕事終えたぞ、と満足な僕である。
「じゃあ積もる話は食事でもしながらということで……!」
「食べていいぞ」
リゲルさんからの許可が出たので、僕はスチャっとナイフとフォークを構えた。さっきから匂いの誘惑が強いのである。まずは鯛のポワレ、これに決めた……!
「遠慮なくいただきます!」
高級店ってさ、素材からしてまず違うじゃん。
鮮度なのか育て方なのか、ブランド的な何かなのかわかんないけど、なんかワンランク上のものを使ってる感がすごくあるよね。
「ほんのりと広がるレモンの酸味、それを引き立てる甘みのバター、ほろほろとほぐれる鯛の柔らかさ、すべて合わさって口の中に広がる絶妙なハーモニー……!」
「相変わらず食レポうまいな」
思わずうっとりと語ってしまった感想に、イオくんは呆れたような視線を向けるのであった。美味いものを美味いと言葉を尽くして表現しているだけなのだけれども、イオくんの感想ってたいてい「美味い」だけだからなー、そりゃそれに比べれば。
「うっわ、ナツさん、このシーフードグラタンすごいですよ、なんかこう、ぎゅっと詰まった感じが!」
はしゃぐ如月くんは食レポ慣れてない感じで初々しい。シーフードでグラタンといえば……貝では? 牡蠣では? と期待に胸踊らせながらグラタンにスプーンを伸ばす。すくい上げたそれはというと。
「鮭! そしてブロッコリー! さらにホタテー!」
素晴らしい! 大好物ばっかりじゃん! わあいっとはしゃぎつつ口の中に運んで、あつっ! と若干やけどするまでがワンセットの感動だね!
「いや、何度も言うがやけどは気をつけろ」
「はしゃぎすぎたことを認めます……!」
たこ焼きでも散々言われてた僕である。いや、一応頭にはあるんだけど、熱い食べ物って熱いままで食べるのが醍醐味というかですね……はい、気をつけます、はい。
「んんー! しかしこのホワイトソースめっちゃ美味しい。素材の良さなのか味付けが絶妙なのかわかんないけどとんでもなく美味しい」
「どれ。……おお、確かに美味いな。隠し味……ないのか。丁寧に作られてる」
あ、イオくんがホワイトソースに料理人モードに入ってしまった。じゃんじゃん研究して美味しいグラタンをリアルでも食べさせて欲しいものである。イオくんこだわり始めると長いからなあ。味見に呼んでもらえることを祈ろう。
舌を休める野菜サラダも最高にフレッシュだし、バジルの風味がすっと鼻に抜ける感じ、良いもの食ってる感がすごい。あ、オニオンスープもいただかなきゃ……あっま! え、最高に甘いじゃんこの玉ねぎ……!
めちゃめちゃ美味しい食事に心が弾みまくっている僕だけれども、一応ちゃんとヴォレックさんとリゲルさんの会話にも気を配っている。
一通り牧場への投資について話を聞いたリゲルさんは、大きく息を吐いて呟いた。
「それは国がすべきことだろう」
と。
だよねー、復興は国の事業だと思うよ僕も。
「って言ってもよう。今ジュードにゃちゃんとした星の民はいねえからなあ!」
「ナナミから使節団が何度か派遣されているはずだが……」
「あーあったなそんなことも。あんな若人たちに一番深くえぐれた傷跡を見せるもんじゃあねえぜ、呆然としちまって役に立たん」
「これからを担う人材として派遣されたはずなんだがな……。性急だったか」
「ジュードの惨状を必ず上に伝える! って帰ってったが、それが良くなかったんだろうなあ」
「事情はわかった。おそらくそこまでの惨状であるのなら、生半可な任命はできんとなって更に人選が難しくなったのだろう」
あー、なるほど。使節団の人たち、目に見えた悲惨な状態を伝えるのに精一杯で、具体的に何の支援が必要なのかを伝えられてないのかな。それだと牧場支援なんて、真っ先に上がる話題じゃないもんなあ。
「ナナミの星の民は他の街へ行くことがまず難しいからな。私のように身軽なのはごく一部なんだ」
「ほうほう! お前さんは身軽なんだな、それじゃあ、一度ジュードへ来てみねえかい!」
「うむ。話を聞いて興味が湧いた。ゴーラでの仕事が終わったら是非顔を出そう」
「歓迎するぜえ!」
「それから、資金援助の話だが……」
リゲルさんはすっと目を細めて、口元に手を当てた。何か考えるような仕草だったけれども、その表情はすぐに切り替えられる。できる人間の顔である。
「国からぶんどる。個人に頼るな」
「おうおう、やってくれるってのかい?」
「もとよりそれは国の仕事だ」
淡々と告げるリゲルさんに、ヴォレックさんはにいっと唇の端をあげた。ちょっと悪っぽい笑みである。ちんまいモモンガさんなので可愛いだけなんだけれども。そのかわいいモモンガが、ふんすっと腕組みをしてぐっと胸をそらした。
「さっすが、ナツたちの友人だなあ! 頼らせてもらうぜ!」
え、待って。なんかヴォレックさんの僕達に対する評価高くない??




