39日目:詐欺はだめ、ぜったい。
「ジュードの名物を知ってるかい?」
「あ、それ前に聞いたことあるかも。えーと、確かジュードは戦場になったから農業に向かなくて……魔物肉とかを出荷してるんでしたっけ?」
「おお、よく知ってるじゃねえか!」
にぱっと笑ったヴォレックさんは、スプーンでゼリーをひとすくいして、豪快に口に運ぶ。もぐもぐしているほっぺが思いっきり膨らんでいて微笑ましい。そしてそれにつられてテトもゼリーをかじって、「ももー!」とご機嫌な声を上げている。
このゼリー、果物の宝探しみたいで楽しい。きれいな上に楽しいとは素晴らしいね。
「畜産業をしてるってことでいいんだよな? 牧場か」
イオくんが問いかけると、ヴォレックさんは「おうとも!」と力強く頷いた。
「魔物を飼うのはちーっと大変なことでな! ジュードでも試行錯誤を繰り返してようやくここ3年くらいでうまく回り始めたばっかりだぜ!」
「危なくないんですか?」
「そりゃあ危ないぜ! だが如月、危ない中にもやり方があるってなもんだ!」
ぐぐっと胸を張ったヴォレックさんが言うには、ジュードではなるべく「こちらから攻撃しなければ攻撃してこない魔物」を中心に飼育をしているのだそうだ。それでもリスクは当然あるので、細かく飼育スペースを区切って被害が広がらないようにするとか、魔物の発生ポイントが柵の中に出現するように魔素の管理をしたりとか、色々注意するポイントは多いらしい。
「そもそも魔物は交配で増えねえからなあ。普通の畜産とはまた違うってなもんよ!」
「な、なるほど……!」
そう、通常の動物は交配で子供を産んでくれるから、それで増える。でも魔物はそういう生態系じゃない。増やすためには、同じ魔物を密集させて魔素を集め、その魔素の強いところから新たな魔物が生み出されるのを待つ必要がある。
つまり、一定数の魔物が常にその場にいる環境にしておかないといけないんだね。
「そんで最近わかったんだけどよぉ、魔物の飼育に餌を使うとより良い肉になるってんで、餌の工夫が始まったのさ!」
「餌の工夫?」
「おうおう。契約獣と同じでなあ、魔物は別に何も食わなくても、空中の魔力を吸収したりして存在できるってなもんよ! だがそれだと味が一定にしかならねえ! ほら、イチヤでフルーツ魔牛ってやつ作ってんだろ? あれと同じでな、合う餌を与えることで味を良くするんだと! ブランド化ってやつだな!」
「なるほど!」
それは素晴らしい話ではないでしょうかイオくん! と思わずうちの料理人に視線を向けてしまう僕である。美味しい豚肉を作ろうという動きに、反対などできようか、いやできまい!
「ということは、大麦を飼料に入れようって話か?」
「おうおう、イオは話が早いじゃねえか! 今色々試しちゃいるが、どれもイマイチでな。そんで、次の飼料になりそうなもんを探してきてやるぜ! って約束しちまってなあ! 大麦なら良く食いそうじゃねえか!」
「ふむ。俺達の住んでるところでは、大麦は肉の品質を良くするって言われてた気がするな。全部持っていってくれるのか?」
「任せなあ!」
いちいちとても威勢のよいヴォレックさんに、僕達は持っている大麦を根こそぎ全部預けることにした。これもいつぞやのトウモロコシと同じで、何故か1スタックに999個もためられるんだけど、何しろバッタを倒しまくったせいでめちゃくちゃ量がある。
イオくんがでっかい麻袋を出してくれたので、それに3人分の大麦を詰め込んでも、米俵くらいの大きさがあるのに5つ以上になるという……。多分1匹から5・6個ドロップしてたんだろうなあ。バッタと早くおさらばしたかったから、ドロップ品とか全く見てなかったよ。
「おっとそうだ! この大麦を投資するとな、これを食わせて育てた魔物肉を3匹分、リターンするぜ! 今なら3種類から選べるがどれがいい?」
それを先に言ってヴォレックさん! 選べるのはどれですか! と思わずヴォレックさんに詰め寄る僕。そしてそんな僕の肩を押さえて「落ち着け」となだめるイオくんの図である。えーなになに? グラスシープか、ワイルドピッグか、コブ牛か……イオくんどれがいい?
「牛だろここは!」
「ステーキ……!」
ステーキはすてきー♪
テトさんそれダジャレかな? あ、純粋無垢な瞳だ、普通に素敵だと思ったんだね……。よ、よし! じゃあコブ牛でお願いしよう!
「よしよし、コブ牛だな! これで味が良くなってブランド牛になったら、イオたちにブランド名を付けてもらうから考えておくんだぜえ!」
なんて豪快に笑うヴォレックさん。なんと魔物へ飼料を与えるのは、2週間くらいでいいらしい。そのくらいで味が変わるので、倒して味を見て……って感じになるそうで。
「それにしても、ヴォレックが飼料を集めているのか? そういうのは領主がやるんじゃないんだな」
「それがよぉ! ジュードの領主家は戦争で全滅しててなあ、代わりがまだ派遣されてねえのよ!」
「え」
それって大丈夫なの? あ、いや。ジュードは一番戦争が激しかった場所だから、全滅ってのもあり得るかなとは思う。でも、領主……つまり3等星の星の民が居ないってことは、街のことを仕切ってくれる人が居ないってことだよね?
「色々難しいもんでなあ! ジュードは4等星も、生き残りは3人しかいねえのよ!」
「だめでは!?」
「ははは! 城の方でも、どこの家の誰を派遣するかってえのは何度も話し合われちゃあいるらしいんだがなあ! いろんな政治的意図みてえなのがあって、なかなか決まらねえんだと! それでも、あと1ヶ月以内には決まって派遣される予定……だそうでなあ!」
そっかあ、空白期間だから、ヴォレックさんが助力してくれてるってことかな。ジュードってナルバン王国でも一番壊滅的になったところだから、次の領主さんは立て直しをしなきゃいけないし、そうなるとなかなか人選は難しいんだろう。
「本当は牧場の整備資金も集めてんだけどなあ! 金持ちに話を持っていこうにも、こちとらツテがねえ! 資金以外なら、こういうところで協力するっきゃねえんだ!」
あ、そっちだったら、なんか協力できるかも……!
「素材とかでも協力できますか?」
「おうおう、もしかして資金援助を考えてくれてんのか!」
「それが、僕意外と高額な素材色々持ってるんです」
ラメラさんの鱗とか、10枚あるから1枚くらい出せるし。なんならグランさんの神獣石だって、現時点で細工レベル低くて全然使えないから、必要なら売ってもいいと思う。魔力水系は……売っても牧場を支援できるほどではないかな。
「ありがてえ話だが、素材は持っときなあ! ナツにとっちゃあ必要なもんだろう?」
「うーん、それはそうなんですけど……」
美味しいお肉を育てようとしている牧場を支援できるというのなら、支援したいというのが本音である。だって食卓が豊かになるからね! でも武器強化しちゃったから資金はそこまで利潤ではなくなっているし、僕が出すのは無理そう……あ、そう言えば。
「……お金持ちそうな人を紹介……とかなら……!」
「おうおう、そいつはいいな!」
ヴォレックさんの期待の眼差しが向けられる……! よし、僕に紹介できる人たちの中で、一番お金もちそうな人といえば……!
「安心と信頼のリゲルさん! フレンドメッセージ送ってみよう!」
「……まあ、一番大丈夫そうだよな。あの家の主なら金持ちじゃない訳が無い」
「俺は詳しくは知りませんけど、国家魔道士団ってお給料良さそうですね」
リゲルのおうちはきらきらのものいっぱいあるのー。
とりあえず星の民ならみんなお金もちだとは思うんだよね。カパルさんも良いお家に住んでいるというセスくん情報がある。それだけの責任と仕事があるんだろうけど。
リゲルさんは、今日はカパルさんのところで、明日が領主さんのところに行くって言ってたから、今日もゴーラに泊まりのはず。それなら夕飯に誘って……あ、待って。
「ヴォレックさん、今日の夕飯をご一緒できますか? 急ぎでジュードに行かなきゃいけないなら、紹介は難しいかも……」
「おうおう、オイラを誰だと思ってるんでえ! 最高速を極めし神獣、神飛モモンガのヴォレック様なら、ジュードまで1時間とかかるめえよ!」
どどーん! と歌舞伎の決めポーズみたいなのをかっこよく決めたヴォレックさん、自信満々にニカッと笑顔を見せる。おおー! と拍手をしつつここは本来「かっこいい!」って褒めなきゃいけないんだろうなあ……わかってるけど、わかってるんだけど……!
でもちんまいモモンガなんだよヴォレックさんは!
めちゃめちゃかわいいよ!
撫でたい衝動を必死でこらえて手を握りしめる僕なのである。僕の隣でテトさんが「ヴォレックせんぱいかっこいいー!」ってきらきらお目々をしているので許されたい。
「じゃあ、夕飯をご一緒しましょう! そして紹介できるかもしれない人の都合を聞きますね!」
「おうおう、頼んだぜえ!」
丁度空も夕暮れ時に差し掛かりつつあるから、今からゴーラに戻れば多分夕飯に丁度良い時間帯じゃないかな? とりあえずリゲルさんにメッセージを……えーと。
『リゲルさんは高給取りですか?』
……しまった、なんかこれじゃない感が。いつもイオくんにメッセージ入れる感じでめちゃくちゃ気軽に文章飛ばしてしまった。違うんだよえーと、そうじゃなくて最初の言葉は……!
『投資に興味ありませんか?』
……いやこれじゃ詐欺メールじゃん! そうじゃなくてですね、もっとなんかこう、リゲルさんの興味を引けそうな……!
『それはそれとして、神獣ヴォレックさんをご紹介したいんですが、夕飯ご一緒に食べませんか?』
うん、これ! これならきっとリゲルさんも色よいお返事をくださることでしょう! よし!
「いやよしじゃねえよ。リゲル相手に詐欺すんな」
「してないよ!? え、してないよね詐欺は。普通にヴォレックさんを紹介したいだけだよ?」
「その前の2つは何なんだ。普通に夕飯の話から入れば良かっただろうが」
「それはそう」
でもリゲルさんならなんかこう、何でもわかってくれそう感があってですね。イオくんも結構微妙なメッセージ読み解くの上手だから、つい。っていうかイオくん、僕のステータス画面を横から覗き込まないでいただきたい。
さぎってなあにー?
「人を欺くことだよテトさん、やっちゃだめだよ」
ナツさぎするー?
「しません。イオくんも冗談で言ってるだけだから大丈夫だよ」
ナツわるいことしたらちゃんとあやまるのー。テトがいっしょにあやまってあげるから、あんしんするのー。
「いや大丈夫だから、詐欺はしないよ」
むむー。どーしてものときはイオにちゃんとそうだんするとよいのー。イオならなんでもどうにかするのー。
「あっ、イオくんのことをよくわかっていらっしゃる。でもそれは最終手段だからね……!」
イオくんに対する厚い信頼については、僕も頷けるところであります。イオくんは、なんかテトに褒められたことを察したらしくてちょっとだけドヤっとした。ぐぬぬ正解! イオくんなんて褒めるところしかないからな! ずっとドヤ顔しててよろしい、許されます。
そんなことを考えていると、フレンドメッセージに返信が届く。……おっとこれは、きちんと誤解を解いておかねばなるまい……!
『困窮しているなら多少融通できなくもないが、この短い間に何をして全財産を失ったのか説明しろ。夕飯はもちろんだが、神獣は気軽にほいほい紹介するな。もしどこかに雲隠れするつもりなら私のところに匿っても構わん。テトに不自由はさせるな』
『誤解です全財産は失ってません! あとヴォレックさんは気さくな方なので気軽で大丈夫です!』
『神獣に気さくも何もあるか』
『ジュードを発展させようという頼れる神獣さんです! それでジュードの牧場に投資してくれる人を探していると言うので、紹介したく!』
『どうしてそう大きな話しか持ってこないんだお前たちは。テトが困窮しないなら良い。ディナーの店はこちらで見繕う』
『ありがとうございます!』
ふー。
リゲルさんって、しみじみ良い人だな……。




