39日目:集団は無理なんだよ!
ところでイオくんの剣ってどうなったの? と聞いたらにまっと笑ったイオくんが剣を差し出したので、遠慮なく心眼>をば。
氷雪の剣 品質★5 強化1回 耐久度550
氷雪の力が込められた長剣。攻撃そのものに属性は乗らないが、稀に敵に氷結状態を与える。
装備条件:魔力20以上 器用20以上
効果:筋力+18 稀に氷結効果付与 追撃30%
スキル:<決定打補正>クリティカル攻撃の発生率UP(小)
次回強化条件:この剣を使い、敵300体を氷結状態にする。
強化素材:品質★13まで、合計素材3つまで
「……えっ、かなり強くなってない?」
「魔力+5と幸運+5UPしたお前の杖のほうが強えよ」
「いやだって、耐久度上がってるし筋力も+3でクリティカル発生率上がるスキルもらってるじゃん」
ただし次回強化条件は結構しんどそう。イオくんの剣の氷結付与は「稀に」だから、300体に氷結状態付与は遠いんじゃないかなあ。今までの感じだと、30体倒して1体か2体氷結状態になったらラッキーって感じだったよ。
デバフの付与って、幸運値が影響するって聞いたんだけど……イオくんここから幸運に数値は振らないだろうしなあ。
「あれ、装備条件厳しくなってる」
「即座に魔力にPP振ったから問題ない。でもこれ以上装備条件に魔力求められるとキツイな。ヒューマンの自動振り分けで魔力も多少上がってるが、正直PP振りたくはねえんだよなあ」
「あー、イオさん普通の剣士ですもんね。追撃は確かに強いんですが、装備条件を考えると、次回買い替えも視野に入れるべきかもしれません」
「綺麗な剣なのでもったいないと思うんだけどなあ……」
「どうしても耐久増やしたくてラドンに無理言ったんだが、50も数字が伸びて満足度が高い」
「あー、耐久か。その点うちのユーグくんほど優秀な子はいないね!」
「ドヤ顔すんじゃねえよ」
そんな話をしつつ南門からフィールドに出る僕達。テトさんは「むむー」って唸りながらもホームにひょいっと戻ってくれました。我慢できるうちの猫、とてもえらい。あとでちゃんとてりやきをつくってもらおう、はちみつ多めで。
「実際、耐久を気にしなくていいのって最高なんですよナツさん」
「だよな。如月の剣も一応20は伸びてたけど、420だと正直ちょっと辛いな」
「500は欲しいです」
強化でなんとかなるかなー、と呟く如月くんである。そうだね、これから強化して行けば耐久度も増えていくかもだ。今後が楽しみって感じかな。
まあそんなやり取りがあったんですよここに来るまでに。
……現実逃避? まあそりゃね。だって今結構なピンチだからね……!
「ぎゃあああイオくん! 上から降ってきたああ!!」
「燃やせ! 即座に燃やせ!」
「クールタイムあけてないんだよ! 如月くんいける!?」
「いけます! 【ファイアアロー】!」
如月くんの双剣が火を吹くぜ! とか言ってる場合じゃない。何しろ今襲われているのである。虫に。虫型の魔物に!!
「一匹二匹なら全然大丈夫だけど群れは無理ー! 【フリーズ】!」
「っつーかでけえんだよこいつら! 流石に恐怖を覚える! 【薙ぎ払い】!」
「俺は割と平気ですけど、囲まれると厄介ですよね。【ダークランス】!」
僕も今日までは虫平気だと思ってました! 今日からは無理勢になります! ぎゃあぎゃあと騒ぎながらもようやくたまった【ファイアレイン】を放つ。灰になれー!
「バッタの群れ、数多すぎ……!」
「まだバッタで良かったけどな!」
イオくんの言う通り、Gの付くあれだったらやばかったと思う。想像しないようにしよ。
なんでこんな事になっているかというと、ワイルドピッグの巣を見つけたところから始まる。洞窟っぽいところにワイルドピッグの群れがいたので、レベル的にも少しだけ僕達より格下って感じだったから、さくっと群れを誘い出して倒していた。ここまでは良かったんだよ、ここまでは。
その後、無事に2つほど群れを倒しきって、洞窟に入ってみようってなったんだけど。
入った瞬間、底がね。
抜けましたね。
そして落っこちた先にあったのはこのバッタの巣だったというわけである。あ、ちなみに一応魔物であり、めっちゃ<風鎧>まとって防御力上げてくるけど、火にめちゃめちゃ弱いので囲まれなければなんとか。名前はビンジインセクトと言うそうだけど、バッタにしか見えないのでバッタでいいと思います。
「ナツさん! こっちに出口あります! 範囲ください!」
「あと3秒待って! 2、1、よし、【ファイアウェーブ】!」
「【ダブルウィング】!」
「【連撃】!」
畳み掛ける攻撃でなんとか狭い道に穴を開けて、ようやく地上に出ることが出来た。落っこちたところからは大分離れちゃったと思うけど、とにかくあの虫地獄から逃げられればそれで良し。転げるようにして飛び出した場所は、狭い草原みたいな……?
いやもうどうでもいいや外なら!
「【クレイ】! 出口はしばらく塞がってて!」
「ナツ、ナイス!」
もう大分疲れていたので、これ以上の追手を相手する気力がない。びたっと出口の穴をふさぐことで、多少の休息を得るのだ。……まあ所詮はクレイ……粘土みたいなものなので、強くばーんとやられたら簡単に開くんだけれども。
あ、でもここよく見たらセーフエリアだ。それなら安全、追撃はない……!
「はー、疲れましたねー」
座り込んだ如月くんが、ごろんと大の字に転がる。僕もよろよろとその隣に倒れ込んで、イオくんは一応<敵感知>をかけてから最後に座った。警戒を怠らない姿勢、大変素晴らしいと思います。えらい!
「結構道から外れましたね。アリの巣みたいな構造できつかったです……」
「いやほんとそれ」
「はー。そんでここどこらへんかな? えーと、地図地図……」
ステータス画面から地図を呼び出してみると、正道から結構南方面にそれているのがわかる。めっちゃ走ったからなー。
「イオくんお肉どのくらいドロップした?」
「12。全然足りねえぞ」
「僕15。孤児院に差し入れに行きたいからもっと欲しいね」
「俺、11です。ワイルドピッグって牙も落とすんですね」
うーん、この数ではまだ街に戻れない。これはもう一回ワイルドピッグがいそうな場所を探して狩らせていただかなくては。
野生動物と違って、魔物は放置すると増えすぎて街を襲うことがあるから、がんがん倒していくのがセオリーだ。でもやっぱりドロップアイテムによっては人気に偏りが出るのは当然のことである。そりゃあ、食べ物になる魔物が人気に決まってるよね。そんな中でさっきのバッタは何を落としたのかなと思ったら……バグ酸……? 酸って、あの酸?
「如月くん、この酸もしや」
「あ、薬の素材です。高級なシップの材料になりますよ」
「進呈します」
「ありがとうございます!」
調薬以外には使えないようなので、是非街の老人たちの腰を労っていただきたい。さすがにこんなにたくさん押し付けたら持て余すかもと思ったけど、たくさん使うから問題ないですよと言ってもらえたので遠慮なく押し付ける。ちなみにたくさん作ってどうするの? って聞いたところ、ギルドが結構いい値段で買ってくれるらしい。
なるほど、腰痛のお守りとカテゴリ同じなんだろうなあ。住民さんたちに喜ばれるやつだ。
「酸は如月でいいとして。もう一つの方は……これはどうなんだ?」
「大麦って表示されてるけど……」
「麦だな、どっからどう見ても」
イオくんがインベントリから取り出した大麦。あれだよ、粉になる前の、穂先の部分。ここから粉にしなきゃならんのか? ってのもあるし、あと品質が★2であんまりよろしくないから、粉にしたとしても料理に使えるかわからない。
これをどうしろと……って思ったところで思い当たった。そう言えば前もこんな事あったな。
「……イオくん、前にほら、ツノチキンの群れになんか、質の悪いトウモロコシを差し入れしたような……」
サンガでそんなことあったよね、って感じに切り出すと、如月くんが不思議そうな顔をする。
「ナツさんたち何してるんですか??」
「いや、あれは不可抗力と言うか……」
「無数のツノチキンの群れに囲まれたからな……」
「ちょっとイメージ出来ないですね」
そこはさすがアナトラ、同じ体験をするトラベラーは2人といないと言われるゲームである。まあ普通に格上のツノチキンに囲まれるのは怖かったです。
「ま、まあとにかく。似たような事が前にあったってことだよ、言いたかったのは。つまりこの近くにツノチキンが生息している可能性があるのでは?」
「うーん、このあたりにツノチキンはいねえなあ。もうちっとサンガの近くに行くと結構いるぜ!」
「あ、そうなんだ。じゃあ大麦を食べる美味しいお肉がいる?」
「おいおい、魔物に対して美味しいお肉呼ばわりたあ、ちと哀れじゃあねえか! まあオイラも肉にはちとうるさいから、気持ちはわかるぜえ!」
「わかってくれますか。……って、めっちゃ普通に会話しちゃったけど、数日ぶりですヴォレックさん!」
「おうとも! 元気そうで何よりぜ!」
ひょいっと片手を上げて挨拶をしてくれる、ちんまいモモンガ。相変わらず男前な言動のヴォレックさんである。ゴーラに移動している途中で一回会ったけど、今回も神出鬼没だね。
「ヴォレック、またゴーラに来ていたのか?」
「おうイオ! 如月もまた会ったな! オイラは海の状態を見に来ただけで、今日はこれからジュードへ行くところだぜ!」
「ジュード! 端から端じゃないですか、大移動ですね」
「なあに、オイラにかかりゃあひとっ飛びよぉ!」
ケラリと笑うヴォレックさんには、イオくんも如月くんも普通に話しかけている。圧をコントロールできるヴォレックさん、流石である。こうなるともうテトを呼ぶしかないな、テトもヴォレックさんには懐いてたし。
「テトー、ヴォレックさんいるよー。出ておいでー」
ブローチに向かって話しかけてみると、念話っぽいので「いくのー!」と元気なお返事があった。実はテト、移動中はちょいちょい話しかけてくれてたんだよね。戦闘中もたまに「がんばれー♪」とか聞こえたから、外のことは多少把握できているらしい。バッタとの戦いに必死なときは黙っててくれたのでとても気配りさんである。
ぴょーんとブローチから飛び出してきたテトが、「ヴォレックせんぱいー!」と力いっぱい懐きに行った。ちんまりとしたモモンガとじゃれ合う巨大白猫。うむ、かわいい。
「ヴォレックもいるし、ちょっと休憩するか」
イオくんがちゃきっとテーブルセットを出してくれたので、喜んで椅子に座る。頼れるヴォレックさんにお出しする本日のお菓子は……満月堂のゼリーに決めた!
「テトー、ヴォレックさーん、どれがいいー?」
テトもだいすきなきらきらゼリー、僕が購入したのは桃、ぶどう、オレンジとフルーツミックス。全部見せてどれがいいか聞いてみたところ、ヴォレックさんとテトはこそこそと相談してから、ペカッとした笑顔で声を揃えた。
「フルーツミックスでいこうじゃねえか!」
フルーツミックスなのー!
「お、いいねえお目が高い。みんなで食べましょう!」
このフルーツミックスゼリーは、お店の代表作とのことだった。ソーダ味の濃い青のゼリーの中に、様々なフルーツが詰め込まれて金箔まで散らされた豪華な一品なのだ。バッタに疲れた心にも良い薬になるよ。
「すまねえなあ! ナツたちに会う時は、毎回何かしら食わせてもらってる気がするぜ。……そうだ、礼と言っちゃあなんだが、さっきの大麦どうにかしてやろうじゃねえか!」
「お? 何かあるのか?」
「これからジュードだからな! なあ、お前さんら」
ヴォレックさんは相変わらずの男前な笑顔で、僕達を見上げた。なんかこう、リーダータイプというか、この人についていけばなんとでもなる! って気持ちにさせるんだよな、ヴォレックさんって。
「ジュードにちょいと投資しないかい!」
「投資!?」




