39日目:面目躍如というやつ
「うーむ、耐久度を高くして、剣のスキルか」
「難しいですか?」
「相性がなあ、耐久度はちと難しいかもしれん。スキルはまあ問題なくつけられるじゃろう」
如月くんが選んだ「黒波の双剣」は、現在の耐久度が400である。イオくんの剣は強化前の耐久度が500だから、それに比べると低いよね。
普通に街から街へ移動するくらいならあんまり心配しなくていいかもしれないけど、途中で僕達が湯の里に寄ったみたいに、寄り道があると結構厳しい数字だ。頑健のお守りを渡したとしてももう少し耐久度ほしいよね。
ちなみに、現状の「黒波の双剣」の詳細はこちら。
黒波の双剣 品質★5 耐久度400
杖としても使える魔法双剣士用の剣。黒銀と呼ばれる合金から出来ており、波紋が波のように波打っている。双剣として両手に持って使う時、クリティカル率UP。
効果:筋力+10
強化できる武器なら「未強化」って表記が出るはずだから、イコールこれは強化できない武器である、とわかる。装備条件とかもないから、ごく一般的なちょっといい武器って感じ。
「それなら、筋力か魔力の数字を伸ばすことはできませんか?」
「そうじゃなあ……+3くらいならいけるかもしれん。しかし結構高く付くぞ」
「おいくらですか」
「スキルが350,000G、ステータス追加で200,000Gじゃな。剣の値段とあわせて1,000,000Gくらいじゃの」
ちょっとお高くない? って思ったけど、如月くんはそれでも充分と思ったのか、即決で「お願いします」と依頼していた。考えてみれば、イオくんの剣が1,000,000Gだったわけだからそれと同等ってことか。じゃあ無難な値段なんだろう。
僕の杖だってスキル1つに耐久度∞で1,000,000Gだった。スキル1つ+何らかの追加効果が1つ、でだいたいそのくらいの値段になるってことかな?
ラドンさんはテーブルの上に布を敷いて、その上に双剣を並べた。この布は多分アリシャさんが使ってたのと同じやつだね、魔法図案が刺繍してあるやつ。
強化の時は素材を横並びに置いて、ぐっと混ぜ合わせる感じだったけど、これはセミオーダーなので追加の金属にスキルを付与してくっつける感じになるらしい。使われる金属は、付けたいスキルの方向性によって色々変わるらしいんだけど、今回は剣用のスキルが欲しいという如月くんの要望なので、銀を使うとのこと。
銀のプレートに、付与するスキルの方向性を示す図案を彫り入れて……<彫刻>かな? でも刻んでるのは魔法図案? 小さいマークみたいな……?
不思議に思っていたらつい身を乗り出して見てしまった。リゲルさんが小声で説明してくれる。
「<象徴>だな、方向性指定を入れる<魔法図案>の発展スキルだ」
「シンボル?」
「<魔法図案>で特定の効果を入れるのは、面積が必要でな。元々それぞれに意味があるような図案を組み合わせることで特定の効果を出しているから、削るところがないんだ。それだと武器への付与は難しいだろう」
「そこまでの面積はないですよね」
「そこで、1つのマークに方向性の指示のみを込める方法が出てくる。例えば剣用のスキル、補助スキル、魔法スキル、というカテゴリだけを指定できるものだ。<象徴>は鍛冶職人が特に重宝するスキルで、剣や防具にスキルを付与するために必須だな。反面、ローブやマントを作る裁縫師には<魔法図案>系統の、狙った効果を確実に乗せる方法が好まれる。布地は面積があるからな」
「なるほど……」
広範囲の布面積をめいいっぱい使えるから、マントやローブには<魔法図案>で固定効果を付けられる。それほどの面積のない剣や、<魔法図案>を刻むのが難しい金属製の防具なんかには<象徴>を使って付与スキルの方向性だけを指定し、その中でランダム付与にする、ということか。
狙ったスキルを確実につける更に上級のスキルもあるらしいんだけど、それを取得するには相当の経験が必要になるらしい。多分、トスカさんとかはこれを取得しているんじゃないかな。ユーグくんを作った時に「欲しいスキルをいくつか諦めた」とか言ってたし。
「鍛冶も奥が深いんですねえ」
「それはそうだろう」
うーん、僕は生産スキルあれもこれもっていくつも取得は出来なさそうだなあ。<上級彫刻>と<細工>だけでも精一杯なのに、これ以上あれこれ覚えられないよ。
僕がリゲルさんに解説してもらっている間に、ラドンさんは銀プレートに<象徴>を刻み終わったようで、それを双剣の真ん中に置いた。
アリシャさんと同じように、自分に器用ステータスを上げるようなバフをたくさんかけて、双剣に手を掲げる。同時に、双剣と銀プレートが光に包まれて、強化の時と同じように一つの大きな光の塊になった。
ラドンさんが真剣な眼差しで色々調整してるっぽいのはよく分かるけど、如月くんはハラハラしながら祈ってるし、リゲルさんは興味深そうに見ているし、イオくんもリゲルさんと大体同じ感じ。ならば僕とテトさんは幸運パワーを送らなくては。
「テト、良い武器になりますようにーってお祈りしようか」
わかったのー。きさらぎのぶききらきらになれー♪
にゃんっと小声で鳴いたテトさんである。君のお目々もきらきらだねえ。僕も祈っておこう、如月くんの武器に良い感じの効果がつきますように……!
幸運なら任せろって言っちゃったので、ここで良い感じの効果がつかなかったら幸運の権化の名折れというもの……! どうにかして良い感じになって欲しい。と思って結構真剣に祈ってたら、イオくんに呆れられました。
「何なんだその無駄な情熱は」
「無駄じゃないよ! 幸運ステータスの面目躍如ってやつなんだよ……!」
こういう小さな積み重ねから、幸運にステ振りする人が増えるかもしれない。そうしたら<グッドラック>さんの評価が上がるに違いないからね。
掲示板情報に詳しい如月くんにちらっと聞いたんだけど、<グッドラック>の存在は知られたけど、その後取得者はあんまり増えてないらしいんだよね。そもそもエルフ以外がこれを取るのって難しいみたいだし、そのエルフも幸運にステータス振るくらいなら魔力に振りますけど? って感じみたいで。そりゃそうだよ僕にもわかるよ。
それでもあえて<グッドラック>を取得した人も何人かはいるけど、やっぱり効果が分かりづらいらしくて、取得したらもう幸運にPP回すの辞めちゃう人が多いって話である。なんでさー! 信じようよ幸運をー!
「おい幸運の申し子」
「はい!」
「出来上がるぞ」
おっと、つい色々考えこんでしまった。視線を戻すとラドンさんがふうっと息を吐いて仕事を終えたところだ。布の上で光っていた双剣は段々と落ち着きを取り戻し、やがて光が消え、全貌が明らかに。
きらきらになったのー♪
テトさん大喜びである。黒いかっこいい刃だったんだけど、銀を使ったからなのか、なんかかすかにラメが入ったような感じになっている。確かにこれはきらきらかも、派手な感じじゃないけど、上品できれいだね。
「ふむ。良いできじゃぞ。ほれ、見てみろ」
ラドンさんが満足そうにそう言って、双剣を布ごと如月くんの方に押した。僕も詳細みていい? って聞いてから鑑定……じゃない、<心眼>だ。
黒波の双剣+ 品質★5 未強化 耐久度420
杖としても使える魔法双剣士用の剣。黒銀と呼ばれる合金から出来ており、波紋が波のように波打っている。双剣として両手に持って使う時、クリティカル率UP。
効果:筋力+10 魔力+2
スキル:<毒の波紋> 攻撃ヒット時、確率で毒効果付与
次回強化条件:この双剣を使い、敵300体を討伐し、魔法攻撃を200回行う。
強化素材:品質★8まで、合計素材2つまで
「……毒効果って、スリップダメージだったっけ?」
「めっちゃいいやつ付きましたね!」
おお、如月くんは大喜びだ。剣のスキルがほしいって言ってたけど、攻撃ヒット時に効果が発動するタイプだから、ちゃんとそこもかなってるし。ちょっとだけだけど耐久度も上がったし、魔力+2もついている。何より「未強化」!
「強化できる武器だよ如月くん!」
「最高です、ありがとうございますナツさん、テト!」
よかったー、これで幸運の申し子の面子も保たれたことでしょう。強化時に使える素材から見ると、イオくんの剣と同じテーブルっぽいな。
双剣は攻撃回数の多い、手数の多い武器だから、こういう確率付与のデバフも比較的入りやすいはずだし、何よりアナトラではスリップダメージって結構強いんだよね。ダメージ量そのものはたいしたことないんだけど、一回入ると長く続くのである。
耐性がある敵には全然効かないこともある、ってところだけが難点だけど、効く敵にはたとえ格上だったとしても効くからね。良いスキルである。
「テトの祈り届いたね、さすがテト」
むふー。きらきらになったのー。
良い子良い子と撫でたところ、テトは全力でドヤアって顔をしてくれました。さすがうちの猫かわいい。
「運がいいのぅ。ステータスアップは+2しか付かんかったが、耐久は上がらんと思っとったのに20も上がっておる。これなら強化したらもう少し上がるじゃろ」
ラドンさんもそんなふうに言ってくれて、如月くんは「本当ですか!」と大喜び。早速支払いをして、双剣を受け取っている。ついでに安い方の双剣を買い取ってもらっていた。
「工房で武器の買取ってしてるんですね」
「溶かせば使えるからな。素材はトラベラーたちが来てから大分余裕ができたが、今までは大分カツカツでやっとったし、使えるもんは使わにゃもったいない」
「なるほど」
如月くんが50,000Gで買ったと言っていた安い双剣は、20,000Gで買い取られていった。半額以下になるんだね、ユーグくんを売る予定はないけど、ローブとかを買い替えることがあったら、そのくらいだって覚えておかないとなあ。
大満足の如月くんを先頭に、ラドン工房を出た僕達。リゲルさんはこれからまたカパルさんの港管理局に行くというのでここでお別れだ。テトが「おしごとがんばるのー」と励ましの擦り寄りで別れを惜しんでいた。
「リゲルさん、また! もしナナミにもどっちゃうようなら、また遊びに行きますね」
「ああ。ではな」
とあっさり背を向けるリゲルさんの背中を見送って、僕達は何をするかと言うと……当然、強化した武器を使いたい! のである!
むむー。
戦闘を察して渋い顔するテトさんだけど、ここは譲歩出来ないところなのだ。
「テトさん、ワイルドピッグを狩りに行きます」
むむ。おにくー?
「イオくんが美味しいお料理を作るために必要なんだ。ちょっとだけ我慢してもらえるかな?」
むー。イオのおりょうりおいしい……。おいしいおりょうりのため……しかたないのー。
「たくさんお肉ゲットできたら、イオくんにてりやきにしてもらおうね」
てりやきー。ナツがんばってたくさんあつめるのー。
ふう、なんとか納得していただけた模様。
「テト、てりやき好きなんですか?」
「そうなんだよねー。なんか甘いからだと思うけど、イオくんはてりやき作る時はちみつ入れて作るから、それが原因だと思う」
「あ、なるほど」
多分てりやき好きっていうより、はちみつが好きだからはちみつを感じられるてりやきが好きなんだよねテト。甘い物好きなブレない姿勢、良いと思います。
「ワイルドピッグは南門だったな。テトのために大量に集めるか」
イオくんもやる気だね。
よし、夕飯まで戦って、しっかり豚肉集めましょうとも!




