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39日目:如月くんのセミオーダー

 ラドン工房は奥行きのある構造で、この階段の踊り場から奥の建物に足を運ぶことができる。

 表に出ている武器に剣や大剣が多いのは、工房長であるラドンさんが得意な武器だから。でも、この工房には3人のお弟子さんが在籍していて、取り扱っている武器種も多い。

「こっちに、短剣とか槍とか、変わり種の武器とか置いてあるんです」

 と如月くんの誘導に従って、奥の建物の1階におりた。部屋の左側の方に置いてあるのが双剣だ。

「この中から何か買うの?」

「いえ、セミオーダーをするんです」


 如月くんが言うには、ラドン工房にはフルオーダーとセミオーダーという2種類の注文方法があるのだそう。もちろん、既製品を買うのが一番、値段的にはお得だ。フルオーダーはお高いけど、納得できるまで作り直してもらえたりするので、良いものがほしければこれが一番いい。でも、あいにくとラドン工房は大人気で、フルオーダーの予定は一年先まで埋まっているらしい。

 そこで、セミオーダー。

 展示されている剣をベースに、追加料金を支払うことでスキルや効果を付加する方法だ。既存の武器より良いものができるし、フルオーダーほど手間がかからない分、料金も抑えられる。ベースはすでにあるから、時間もかからない。

「へー、そういうのあるんだ」

「大きな工房では、やっているところがそれなりにあるぞ。杖はないが、剣や槍などの工房では多いな。認可証が銀以上のところで許可されている」

 リゲルさんが補足してくれたところによると、杖は全体が魔力を通す媒体になるから、一部だけ作り変えるというのが難しいらしい。剣は、刃、鞘、柄、などを組み合わせて作られるから、セミオーダー可能、なのだそうで。


「双剣は、やっぱり双剣として作られたものじゃないとだめなのかな? 例えば短剣2本、とかじゃだめだったりする?」

 一応試しに聞いてみると、如月くんは「それは俺も考えました」と一つ頷いた。

「なんかだめなんですよね。短剣を両手に持つのは<二刀流>のスキルであって、職業はあくまで短剣士とか長剣士とかなんですよ。だから、双剣士が短剣を2本持つと、違和感というか持ちづらさというか……しっくり来ないんです」

「双剣士は<二刀流>スキルないんだ?」

「ないですね、もとから2本なので、職業を双剣士で選択した時点で双剣を扱うことに特化する感じというか……。双剣ってそもそもペアで作られるから、双剣だからこそ乗る効果とかもあって、<二刀流>と差別化されているんです」

「へー、色々あるんだね」

 きさらぎー! これがいいのー! このきらきらのやつー!

 僕達が話をしている間に、テトが目立つところに掲げられている金ピカの双剣に駆け寄っている。テトさん、それ装飾用って書いてあるから実用品じゃないよ……。


 如月くんは今2組の双剣を持っているそうなんだけど、片方は50,000Gくらいの、初期装備よりちょっとだけ攻撃力が高いやつ。もう一つがサンガで整えた300,000Gのもので、こっちが通常使っているやつ。安い方のは武器耐久度が減った時用の予備らしい。

「でも流石にもう50,000Gの方は使いづらいので、500,000Gから800,000Gくらいのレベルの武器にしたいんですよ」

「なるほど、この辺にある武器は300,000G~400,000Gくらいだから……セミオーダーでそのくらいになるってことか」

「今ならお金あるんで、できればフルオーダーしたかったですけどね」

 1年は待っていられないよね、流石に。他の工房で頼むことも考えたらしいんだけど、伝もないのに飛び込みで頼むことは難しいのだそう。

「独り立ちしたばっかりで経験が浅い工房とかなら、飛び込みでも可能らしいんですけど。出来上がりが結構ギャンブルらしくて。それならセミオーダーのほうが安定してますからね」

「うーん、でも、たくさんあるねえ」

「だから迷ってるんですよ」


 外見にこだわったらしいきれいな双剣も、無骨なやつも、シンプルなやつも、繊細そうなやつも、どれもこれも良さそうで目移りしちゃう気持ち、わからなくはないかなあ。

 こうしてみると、魔法双剣士用と普通の双剣士用とで、売り場も区切ってあるみたいだね。全体的に、普通の双剣士用のは無骨というか、魔法双剣士用の武器より一回りか二回りくらい大きい感じだ。如月くんは魔法双剣士用の方を当然選ぶだろうから……えーと、このへんか。

「リゲルさん、何か助言あります?」

「そうだな。……ナツ、使ってみたらいい」

 リゲルさんはそう言って目を指差す。……あ、魔含視か! さっき取ったばっかりだけど、これを使えばいいってこと? 

「<魔含視>」

 そっかー、魔法双剣士用の武器なら、この双剣も杖を兼ねるわけだから、蓄積可能魔力量が多いほうが良いものなんだね! 理解したぞ。

「えーと……あ、これ。これが蓄積可能魔力量が82もある。魔力含有量は45か……」

 どれも似たりよったりの蓄積可能魔力量と魔力含有量だったんだけど、これだけ飛び抜けて数値が高い。外見は柄に多少の彫刻が施された、刃が漆黒で左右対称デザインの、でかいサバイバルナイフみたいなかっこいい双剣だ。セットで使うとクリティカル率UPの効果がついて、品質は★5、効果は筋力+10。スキルは無し。

 柄にさり気なく水晶が埋め込まれてるから、杖作成師との合作かもね。ただしお値段は450,000Gと、ここに並んでいる双剣の中では高額だ。


「如月くん、これがいいんじゃない?」

 どれどれー? むむむー、ちょっときらきらがたりないのー。

「テトの好みじゃなくてですね……」

「これですか? かっこいいけど、筋力+10なら他にもありますよ」

 ちなみに、双剣は大抵、セットで使うとクリティカル率UPか、あるいはドロップ率UPのどちらかの効果がついている。クリティカルのほうが人気あるとのことである。

「でも品質良いですね……イオさんの剣も★5だし、良いかも……」

 考え込む如月くんである。品質も★5はこの中で最高レベルだ。……そうだねよく考えると僕のユーグくん、品質★7って結構すごいよな。最序盤で手に入れられたの、奇跡的だったかもしれない。

「リゲルさんはどうですか? これ以外におすすめあったら教えて下さい」

「いや、見たところそれが一番だ。セミオーダーで役立つスキルをつけるといい」

「オーダーできるスキルって大体の方向性しか絞れませんし、耐久値の底上げと、できれば剣技系のスキルがついたら嬉しいんですけどね。そのあたりは運ですし……」

「運なら任せて!」

 ナツにまかせるのー♪

「うわ頼もしい。じゃあこれにします」


 今まで散々迷ったと言う割にはあっさりと決定した如月くん。大丈夫? って一応聞いてみたけど、「自分で決められないから推薦されたものから選ぼうと思ってたんです」と苦笑いである。

「せっかくだからセミオーダーしてるところ見たい!」

 と我儘を言ってみたところ、どうぞどうぞとあっさり許可された。

 如月くんが店員さんを呼んで手続きしている間、フレンドメッセージを確認する。イオくんの強化はようやく終わったから、合流するというメッセージが丁度届いていた。

「杖の強化は結構あっさりした感じだったけど、剣の強化は違うのかな?」

 つえのきょうかきれいだったのー。きらきらー。

「あー、いや。どうなんでしょう。基本は素材と並べて合成して行く形……のはず……?」

 歯切れの悪い如月くんを先頭にして店舗の方に戻ると、丁度階段からイオくんが降りてきたところだった。腰に差している氷雪の剣、外側からじゃ変化わかんないな。

「おう、ナツたちは早かったな。如月はようやく決まったのか」

「選んでもらいました!」

「さくっと終わったよ! うちのとても優秀なユーグくんが更に優秀に!」

 ユーグせんぱいすてきになったのー!

 テトがイオくんの剣も気になるみたいで、イオくんに駆け寄って周辺をぐるぐるしている。みせてみせてーって感じだね。それに対してイオくんは「あとでな」と返しているので、はやりこの男、<キャットフレンドリー>スキルをもっていなきゃおかしいと思う僕である。


「何をそんなにこだわったのイオくん」

「いや、やっぱ腕のいい職人にやってもらいたかったし。素材に変化つけられるっていわれたし。店でも★4までの素材なら売れるってことだったから見せてもらいながら吟味したりしてたんだよ」

「なるほど」

 使う素材が決まってた僕と違って、イオくんは候補は全部見てから決めようって感じだったから、時間がかかったということか。まあこだわるほうだからねイオくんは。

「これから如月くんのセミオーダー見せてもらうんだ」

「へえ。強化可能武器になることも結構多いらしいぞ」

 なんて話をしながら、如月くんが指定された部屋へぞろぞろと向かう。そう、さっき選んだ武器は強化できる武器ではなかったのだ。結構いい線いってる武器だと思うので、セミオーダーで手を加えたら強化可能になることを期待しよう。

 商談室みたいなところに案内された僕達だけど、ソファに座るのは如月くんだけ……にしようとしたら「なんか申し訳ないんで誰か座ってください!」と言われたので、アドバイザーとしてリゲルさんに座ってもらい、僕とイオくんとテトはその後ろで雑談。

「<心眼>取れたよ」

 と報告したところ、イオくんは<総合鑑定>まだレベル16なのでもうちょっとかかるとのことだ。そこで張り切ってさっきリゲルさんから仕入れたばかりの情報<真眼>の話をすると、パッシブ表示というところに興味を惹かれたらしい。


「眼、視る……そんなスキル俺の取得可能一覧にあるか……?」

 と首をひねりつつステータス画面を開いて、うーんと唸る。ナントカ視とかナントカ眼っていうスキル、無くはないんだけど、それ何に使うの? って感じのものが多いんだよね。

 横から一覧を見せてもらうと、出現しているのは<海流視>、<天候眼>、<魔含視>……うーん、どれもイオくんの役に立ちそうなスキルじゃないね。

「強いて言うなら、<弱点看破>スキルとってレベル10まで上げると出てくる<看破眼>がまだ使えるが……」

「弱点表示? それ便利そうじゃん」

「弱点探るところから自分でやりてえんだよ」

「出たバトルジャンキーのこだわり……!」

 確かにイオくんならスキルに「ここが弱点だよ!」って教えてもらうより、自分で探って弱点を見つけたいだろうね。だって弱点知らされちゃったら戦闘時間減るからね……。そもそもイオくん、前提スキルの<弱点看破>とってないじゃん。

「後使えそうなのはねえな……。あとでリゲルになんかないか聞いてみるか。俺も<真眼>目指すけど、SP払って全然使えねえスキル取るのはちょっとな」

「だよねえ、固定スキルだとSP5は最低でもかかるし」


 そんな雑談をしていると、ガチャリと扉が開いて体格の良いドワーフさんが入ってきた。人数の多さにちょっと驚いたような表情だ。

 ダナルさんに比べると背も高くて、筋肉質で、どーんとでっかい感じ。そんなドワーフさんを見てイオくんが「お」と声を上げた。

「ラドンがやってくれるのか。良かったな如月、ラドンは一流だぞ」

「なんじゃあイオの連れか。それなら俺が来て良かったな、まーた面倒くさいことを言われたらかなわん」

「別に面倒なことなんて言ってねえだろ。思いついたことが実現可能かどうか確認しただけだし、ほぼほぼ却下されただろ」

「それが面倒なんじゃ。まあいい、紹介せい」

「ああ、隣が俺の連れのナツ、その契約獣のテト。座ってるのが左がアドバイザーのリゲルで、右が今回セミオーダーを依頼する如月だ」

「おう、今回の客はお前さんか。俺がこの工房の長をやっとるラドンじゃ。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 ラドンさん、口調はぶっきらぼうだけどいかにも職人って感じで仕事出来そう。イオくんも一流だって断言しているし、これは仕上がりに期待できるね。

「選んだのがこれということは……お前さんは魔法双剣士か。どんな強化をしたいか、希望を聞かせてみろ」

 さあ如月くん、レッツゴー!

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