39日目:<心眼>を取得するのだ。
満足、大満足。
満ち足りた気分の僕は、トゥルゥさんにテト撫での許可を出したし、ちゃんとアリシャさんに「次の強化で使える宝石何がいいですかねー?」と聞くことが出来た。ふはは、抜かりないぞ!
「ダイヤモンド! 絶対ダイヤモンドがいいですよ!」
一心不乱にテトを撫でながら言うのはトゥルゥさん。
「紫水晶がそこまで透明度マシマシになることってあんまりないです。しかも輝きがプラスされて万能杖としての土台が完璧。こうなったらもう色付きの宝石を使うのは愚策というものです!」
一切こっちに視線が向かず、ひたすらテトを熱視線で見つめつつも、めちゃくちゃ的確な助言してくれるじゃんトゥルゥさん。そういえば、イチヤで杖作成師の助手をしているエルモさんもなんかそんなこと言ってたかも。全部の属性をまんべんなく、っていう使い方をするなら透明度の高い石……一般的なのはダイヤモンドだって。
「うーん、質の良い水晶でもいいけど、もうアメジストを使ってるから、別の石のほうがいいかもね。私のおすすめもダイヤモンドかな? ジルコンでも良いよ。バフか光魔法にちょっと偏ってもいいなら、ムーンストーンもいいかな」
アリシャさんはそんなことを言いながら僕にトレード画面を飛ばし、支払い要請が飛んでくる。もちろん心よく支払いますとも。
「その杖なら10回くらいは強化できると思うから、5回目までには作成した杖職人に見せて、一度全体的な調整をしてもうといいよ。やっぱり、設計者が一番杖を理解しているからね」
「了解です、どこかで持っていきますね」
「うん。君の杖は良い杖だから、またここに持ってきてくれてもいいし。次は紹介状なしで大丈夫だから、ルゥに普通に声をかけて」
「わかりました、ありがとうございます!」
トゥルゥさんってルゥって呼ばれてるんだ。なんかかわいいあだ名だね。
そのトゥルゥさんにめちゃめちゃに名残を惜しまれつつ(テトが)、杖工房を出た僕達。杖ホルダーに入ったユーグくんをふんふんと見つめては、「すてきー♪」と何度も繰り返すテトさん、弾むような足取りである。
「1時間くらいで終わっちゃいましたね。イオくんたちは2人分だからまだ終わらないかな、どこかで時間潰しますか?」
「……思っていたのだが、如月の双剣は強化出来ないものだと思うぞ」
「あれ」
そうだっけ? ……そう言えば強化できる武器って珍しいんですよねって言ってたの、如月くんだったような気もする……? もしや僕、自分たちの武器が強化できるからって如月くんの武器も強化できるものと……当然に思い込んでたのか。言われてみれば如月くんの口から「強化する」という言葉は一回も出てきてない……!
「もしや如月くんに悪いことしたのでは!?」
「いや、工房を教えてもらったんなら、そこで買い替えるつもりかもしれないし、オーダーするのかもしれない。別に悪いことではないんじゃないか」
「なるほど」
それなら許されるかな……?
きさらぎのぶきー? テトもえらぶー?
「テトさん契約獣の卵選んだのが楽しかったからって、何でも選ぶものではないんだよ……? でもそれならもう終わってるかもしれないし、向こうに合流しようか」
わーい♪
一応、フレンドメッセージを入れてそっちに行くよーって宣言してから、リゲルさんと一緒に南北通りを北へ向かう。リゲルさんのローブ、効果がすごいなあ。こんなにきらきらした人が歩いてるのに、誰も気にとめないとは。
ラドン工房があるのは、南北通りをずっと北門方面へと北上したところにある朝焼け通りの4番地。朝焼け通りに入るには、素晴らしく粉砂糖たっぷりの「白雪ドーナツ」が名物のドーナツ屋さん、「シュガースノウ」の隣の小道からだ。
このドーナツ屋さんは大通り沿いだからショップカードがないんだけど、あまりにも誘惑が強くて7個ほど衝動買いしたよね。
「この店はヨンドに本店があったな。ナナミにも支店があったはずだ」
「チェーン店ですか? ヨンド本店だから初雪ドーナツなのかな、確かヨンドって雪降るんでしたよね。……うむっ、美味しい! ふわっふわのドーナツにこれでもかというほど振りかけられた粉砂糖、相性ぴったり!」
ナツー! テトもテトもー!
「美味しいよー、どうぞ!」
テトはあんまり量食べないから、1口分をちぎって食べさせてあげると、テトは一生懸命もぐもぐしている。もしやもっと小さくちぎらないとだめかなこれ。次は気をつけよう。
しろいのあまーい。まえにたべたどーなつとちがうー?
「ドーナツにも色々種類があるんだよ。おいしいねー」
おいしいのー。あとおなまえにナツがはいってるからすてきー♪
テトさんそれ前も言ってたね。契約主としては嬉しい限りです。
リゲルさんにも食べるか聞いてみたけど、遠慮しておく、だって。まあリゲルさんそんなに甘い物食べてるイメージないけど。イオくんも食べないかもなー? 如月くんにはあとで分けよう。明日くらいに生まれてくるかもしれないテトの後輩さんも、甘いの好きかもしれないしね。
美味しいドーナツを食べつつ朝焼け通りに入ると、ここは剣や槍などの武器のお店が集まっている通りみたいだ。品質も値段も幅広いなあ……なんというか、「これぼったくりじゃ?」ってのもあれば、「おお、お買い得!」ってのもごった煮で置いてある感じだ。
「随分品質にバラつきがあるな」
とはリゲルさん談。剣にも詳しいですね!
「こっちの店とかは新しいから、独り立ちしたばっかりの人かもですね」
「ふむ。<鑑定>スキルがあれば粗悪品に騙されることもあるまいが……」
「あ、そうだった<鑑定>」
もう少しでレベル20になるんだった、<総合鑑定>が! 片っ端から武器を<鑑定>しまくって、ここで一気に……良し!
「やったー! ようやく<総合鑑定>がレベル20に!」
「<心眼>を取るのか?」
「取ります!」
長かったー! えーと、<心眼>の取得はSP10で……<総合鑑定>は完全に上書きされるんだね、OK了解。音声認識の場合は、発動ワードが<心眼>になるから気をつけなきゃ。試しに発動してみて、<総合鑑定>と遜色なく使えることを確認してっと。
「よしよし、これで取らずにいたあらゆる鑑定技能を取得できる……!」
「SPの使いすぎには注意したほうが良い。……ナツは<妖精の眼>と<魔力視>を持っていたな」
「あ、はい」
持ってますけど……何かあるのかな? 首をかしげた僕に、リゲルさんは助言を続ける。
「それならば、<心眼>をレベル10まで上げて<真眼>に切り替えたほうが良い」
「しんがん??」
同じ「しんがん」だけど、漢字が違うらしい。え、そんなスキルあったっけ? 取得可能スキルの一覧を見ても、出てこないけど……。
「眼や、視る、といった単語の付くスキルが<心眼>の他に3つ以上ないと候補に出ない。ナツはもう一つ取る必要があるが、何かと<真眼>のほうが使い勝手が良いぞ」
「へー、そんなスキルが……?」
どんなスキルなのか聞いてみると、妖精郷につながるところとか、魔法で隠されているところとか、空間が歪んでいるところとかが見えるようになるらしい。なにそれ超便利。
「パッシブで鑑定が発動するようになるから、口に出さずとも詳細を知りたいと思うだけで鑑定結果が出てくるようになる。人を勝手に鑑定しないように設定もできるぞ」
「リゲルさんさすが! 物知り! 教えてくれてありがとう!」
リゲルものしりー。さすがなのー。
テトもきらきらお目々で尊敬の眼差し。さすがリゲルさん、なんかすごい魔法士。知識量がすごいぞ。知らないことを教えてくれる人はありがたいね。
「でも、眼とか視る系のスキルか……取得可能スキルの一覧にいくつか出てますけど、おすすめってありますか?」
リゲルのおすすめー。
僕とテトが期待を込めて見つめると、リゲルさんは「そうだな」と腕を組んで少し考え込んだ。それから、
「<魔含視>、が良いだろう」
と一言。
「まがんし……?」
それは初めて聞くスキル……あ、もしかしてこれか。「がん」って「含」か。取得可能一覧にちゃんと載ってたやつだ。えーと、スキルの説明は……。
「物質の魔力含有量、及び蓄積可能魔力量を視る……? ちょっとよくわかんないですね」
説明はもっと簡単な言葉で噛み砕いていただきたい。つまりどういうこと……? と考え込んでいたら、リゲルさんが苦笑して教えてくれた。
「一般的に、杖に向く宝石というのは蓄積可能魔力量の多さで決まる。100を上限とした場合、50に満たない宝石はそもそも杖に向かないと言われている」
「お、おお?」
「杖に使うためには、蓄積可能魔力量が……できれば70以上、魔力含有量は50以上を目安にする」
「魔力含有量は50でいいんですか?」
「魔力は込める事ができる。腕の良い杖作成師なら、当然満たしてから使う。さっきの工房でもそうしていたぞ」
「そうなんだ……!」
えーとつまり、蓄積可能魔力量っていうのが容積、箱の大きさってことだよね。それで、中にどのくらい魔力が入っているかっていうのが魔力含有量。
そもそも箱が小さいと魔力を入れられないから、できるだけ大きい方が良いと。ただ、すでに入っている魔力量は、後から入れられるから、半分くらい入ってれば充分だよ、ってことか。
なんとなくわかったぞ。
「もしかしてリゲルさんも持ってるスキルですか?」
「取得はしているな。ナツは今後もその杖を使い続けるつもりなら、宝石の見極めは必要になる。しかし、宝飾品鑑定の類では、その宝石が杖に向いている種類かどうかはわかっても、実際に杖に使えるのかどうかはわからない」
そうだね、普通に<鑑定>しても、例えばダイヤモンドを鑑定したら杖に使える素材だよ、って結果は出る。でも、今手元にあるこのダイヤモンドがどれくらい杖に向いている個体なのか、ってところまではわからないような……。
「あれ、でもくもりがある水晶は杖に向かないって、前に出ましたけど……」
「それは明らかな瑕疵があるからだろう。例えば、ここに2つの水晶があるが、どちらが杖に向いているかわかるか?」
リゲルさんがどこからか取り出した水晶は、どちらも同じくらいの大きさで、同じくらいの透明度だった。手渡されたので受け取ったけど、重さも同じくらいだ。えーと鑑定……じゃなかった、<心眼>っと。……う、うーん?
「どっちも品質も同じ★4だし、杖に向いてて、どんな魔法にも対応可能。逆に属性に特化した魔法には向かない……みたいなことが出てきますね」
2つとも全く同じ結果が出てるんだよねー。<心眼>だとこの2つの水晶には特に違いがない、ってことになる。これってどう違うのかなと思っていると、リゲルさんはあっさりと右の水晶を指出した。
「こっちは蓄積可能魔力量が76、左は45だ。魔力含有量はどちらも100」
「なるほど右が杖向き。これはユーグくんのために必要ですね、取ります」
固定スキルだからSPは……安い方の5だけど、<心眼>と合わせて一気に15も減ってしまったか。残りSP20ちょいはあるけど、鑑定スキル片っ端から取ろうと思うと瞬く間に無くなりそう。
一旦、イオくんに相談しながら取得するスキル選ぼうかなあ。
あ、取得可能スキル一覧に、<真眼>が出てきた。今はグレーアウトしてるけど、<心眼>がまだレベル1だからか。これをレベル10にすると乗り換えられる、と。
イオくんにも後で教えてあげよう。
ちょっとドーナツとかスキルの話とかのせいで遅くなったけど、4番地の「ラドン工房」はすぐに見つかった。ゴーラおなじみの、ばーん! と扉を開け放したスタイルのお店。まあ、この辺のお店はどこもそんな感じなんだけど、無骨な木製看板に達筆な筆文字みたいな書体で「ラドン工房」と書かれているのが存在感あるね。
長剣と大剣をメインに扱っているお店みたいだ。開け放たれた開放的な入口をくぐると、あれ、イオくんはいないな……?
きさらぎいたのー。
テトさんはさすが名探偵で、2階へ続く階段の踊り場にいた如月くんを即座に発見して駆け寄っていく。後ろ姿なのにすぐわかるとは、さすがテト、探し物が上手だね。
どーん!
「うわ! あ、テトか。……ナツさん、リゲルさん、こっちです」
後ろから頭突きしてきたテトをわしゃっと撫でながら、如月くんがこっちに声をかけてくれたので、僕達も2階へ続く階段を上る。どうやらこの工房は2階に作業場か接客スペースがあるようだ。
「如月くん、イオくんはまだ強化中?」
「みたいです、なんか譲れないところもあるみたいで。でも助かりました、ナツさん、リゲルさん、俺の剣選びに助言もらえませんか? なんかもう……色々ありすぎて、ちょっと訳わかんなくなってきちゃって」
へにゃっと眉を下げる如月くん。そういえばなんか選ぶの苦手なんだったっけ? スキル選ぶのにめちゃくちゃ迷ってたような記憶があるね。もちろんいいよ! と請け負う僕の右側で、テトが不服です! とでも言うように尻尾を床にべちっと打ち付けるのであった。
むむむー。テトもじょげんできるもんー。
お、テトさん自分の名前が呼ばれなかったから拗ねちゃったかな? テトも一緒に選ぼうね。




