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38日目:リゲルさんの相談に乗る

「あらまー、ちっちゃくなっちゃって!」

『懐かしいわねえ、昔はこんな感じだったわ』

 きゃっきゃと喜ぶエクラさんとラメラさんの図。そりゃもう劇的に小さくなったメリカさんなので、「火山大丈夫ですか!?」って聞いてみたところ、問題ないらしい。爆発しないようにエネルギーを吸い上げているわけだから、それをしやすいポイントの上にさえいられれば良い、とのこと。

 昔は、海底火山だから、海底で山のようにこんもりしてたらしいんだけど。メリカさんが大きくなる過程で、すりつぶして平らになっちゃったとかなんとか。

 スケールでっかいよねやっぱり。


 まあでも火山が大丈夫ならよかったーと安堵した僕の肩を、後方からイオくんが叩いた。

「今やらかしたことを詳しく」

「目が笑ってないですイオくん」

「その話は私も聞こう」

「ひっ、リゲルさん音もなく後ろにいるのやめて!?」

 普通に真顔で根掘り葉掘りされました。イオくんの隕石のおかげだから僕のやらかしというわけではない……というところを主張しておきたいところです。

「んなわけあるか」

「だめですか」

「多少の責任がイオにもあるとして、8割ナツだな」

「くっ、リゲルさんに客観的に断言されたらおっしゃるとおりですとしか……!」

 せめて50-50にできませんかね? あ、はい、僕のせいです。


「はあ。その発想力はどこから来るのか疑問だな。どうして石になら魔力を込められると思ったのか聞きたい」

 呆れたようなため息をついたリゲルさんに、ディーネさんが言ってたの聞いてないのかな? と思……あ、そっか。普通に僕もテトに翻訳してもらったじゃん、そりゃ僕以外聞いてないよあの言葉は!

「さっきディーネさんが、宝石に魔力をぎゅーっと詰めたのを友達にあげたって話してたので。じゃあメリカさんにもできるんじゃ? って思っただけなんですけど」

 初耳であるらしいリゲルさんがむむっと眉間にシワを寄せる。ということは、エクラさんはやらないのかな、多分。

「インベントリから色々石っぽいものだして見せてみたら、メリカさんが隕石なら行ける気がするって言うので、どうぞって」

「隕石か……そんな活用法があるとは思っていなかったな」

「きっと、良い宝石にも込められると思うんですけどね。さっきディーネさんが飲み込んでたのもウェーブブルーってやつでしたし……。僕は宝石ってホワイトオパールしか持ってなかったので、隕石が使えて良かったですけど」

 ふむ、と腕を組んだリゲルさんである。イオくんは大きくため息を吐いて、僕の手元にある青い炎を見る。あ、<鑑定>かな? 僕もやろう。


神獣メリカのエネルギーボール 神獣メリカの蓄えていたエネルギーが込められたもの。核となる隕石が破壊されない限り、膨大なエネルギーを内包し続ける。アクセサリ用素材・武器強化用素材として使う事ができるが、扱いが難しい。他にも使い道があるかもしれない。


 当然のように品質表示はない。他にも使い道が……って表示を見るに、何かしら別のクエストが派生する可能性もありそう。大事にしまっておこう。

 と、僕がエネルギーボールをインベントリにしまい込んだところに、テトさんが弾丸のようにびゅーんと飛んできた。

 ナツー! ぴかってしたのー! ぴかってー!!

「あ、テト。さっき眩しがってたね、大丈夫だった?」

 びっくりしたのー! てきしゅーなの?

「大丈夫だよ、敵襲じゃないから。もうぴかってしないから」

 よかったのー。

 僕にぐりぐりと頭を押し付けつつ、テトさんはホッとしたようである。いや、ほんとにごめんね、僕のせいでテトに目潰しが……。

 テトを追いかけて来た如月くんも、「さっきの何だったんですか?」と言うので、さっきの出来事を軽く説明しておいた。メリカさんが目に見えて小さくなったから、遭難者さんたちもきっとびっくりだよね。

「なるほど、そういう感じなんですね。よかったです、みなさんが不安がっていたので」

「敵襲じゃないです!」

 よく見るとリゲルさんが途中まで作っていた空気トンネルの中で、遭難者さんたちが心配そうにメリカさんの方を見ている。実に申し訳ない……! 如月くん申し訳ないけど彼らに説明しといて欲しい。頼んだ!


「久しぶりに体が軽い故、気分が良い。それに、空きが随分出来たな」

 メリカさんの楽しそうな声が聞こえてきたので、僕としては満足です。そっかー、空いた分、まだまだエネルギーを蓄えられるってことだもんね。ゴーラもしばらく安泰ってことだ。よいことだよねー、テト?

 メリカたくさんはたらいてえらいのー。

「ねー、えらいよねー。テトがディーネさんとのお話僕に教えてくれたおかげだよ、お手柄!」

 ほんとー? なでてもいいよー!

「良し、撫でましょう!」

 わしゃわしゃと撫で回したテトさんは、満足そうにドヤーっとしている。うむ、かわいい。僕がほっこりしていると、隣にいたリゲルさんもちょっとだけ雰囲気を柔らかくしていた。だんだんリゲルさんの表情読めるようになってきたなー。

「ナツのホワイトオパールというのは、テトの目を意識しているのか?」

「わかっちゃいますか、さすがリゲルさん。ゴーラってロクトからの宝石の経由地らしいので、結構高級そうな宝石店があるんですよ。テトが目をキラキラさせてました」

「そこで買ったのか? ナツはあまり宝飾品に興味があるような雰囲気でもないが」

「それが、家の可愛いテトさんがですね!」


 僕はここぞとばかりにテトが宝石店で僕のために……僕のために! 真珠を宝石2つと交換してくれたエピソードを話した。うちのテトは最高なのでめっちゃ気遣いのできる素晴らしい子です。優しくて賢いので褒めていただきたい。

 テトもむらさきいろのほうせきもらったのー。くびわにつけてもらうんだよー。

「そうだった、あとでマーチャさんのところに行こうね!」

 僕がテトを撫でまくっているとなりで、リゲルさんは思案の表情だ。何か今の話に気になるところあったかな? と思っていると、「その、宝石店だが」と切り出すリゲルさん。

「もしやホワイトシープの系列か?」

「ほわい……? お店の名前はエタンセルでした」

「……なるほど」

 大きくため息を吐いたリゲルさん。ホワイトシープ……白羊? そう言えばマレイさん白い羊さんだったかも。髪が真っ白で、オリーブグリーンの瞳だったよね。もしかして、有名なお店だったのかな。

「店主さんがテトみたいに真っ白で、テトがすてきすてきって」

「ナツの話を聞いていると退屈をする暇がないな。だが、ちょうどいい。ホワイトシープの系列店なら、希少な宝石の1つや2つ持っていることだろう。紹介してもらいたい」

「え、リゲルさん宝石を探しているので?」

「なるべく希少なものをな。ホワイトシープというのは、ロクトで高名な宝石商の元締めでな。一家で流通を取り仕切っている。下手に干渉して宝石を売ってもらえなくなると困るからな、王家ですら無理強いは出来ない」

「おお、すごい」

「そのすごい一族にあっさり出会えているナツの豪運がな。あそこの白羊には、めったに会えないはずなんだが」


 あれ、そうなんだ。テトに導かれて出会えた御縁なので、テトのおかげってことだね。さすがうちのテト、有能である。やはり白同士でなんか通じ合うものがあったのかもしれない。

「商売をする相手は、選ばれた少数の顧客のみ。紹介されなければまず店に入ることさえ難しい。もし無理強いするような相手を紹介してしまったら、その時点で紹介者ごと拒否される」

「思ってたよりすごく権力持ってる感じですね」

「ナナミでは強いな。貴族など、着飾ることがステイタスだろう」

 確かに。星の民のみなさん……4等星のみなさんはすごく気さくだからあんまり着飾ってるイメージないけど、3等星、2等星ともなれば完全に貴族さんなんだろうし。着飾って豪華なドレスに宝飾品でキラッキラしているんじゃなかろうか。

 それに、宝石は杖にも使われるし、やっぱりその流通を仕切ってるっていうのは強そう。

「テト、リゲルさんがマレイさんに紹介してほしいって。テト、明日ご案内できるかな?」

 おしごとー!

 働き者猫のテトさんは、張り切って尻尾をぴーんとたてた。しゃきっと背筋を伸ばして、にゃあん! と一言。

 まかせろー!

「リゲルさん、テトが任せろって」

「テトが案内役なのか。頼んだぞ」

 まだちょっとぎこちないながらも、リゲルさんはテトの頭をわしゃっと撫でるのであった。テト大満足。


「それにしても、なんでまた宝石を? リゲルさんの杖とかに?」

「いや、私が使うのではない」

 そもそもリゲルさん杖使ってないけど、宝飾品にこだわるような人でもないと思うし、杖用じゃないなら宝石に何用だろう。リゲルさんイオくんの次くらいに美形だから、下手な宝石つけても霞んじゃうと思うんだけどなあ……と思って聞いてみると、本人が使うためではないとのこと。じゃあ何のためだろう?

「紹介者に目的を隠すべきではないな。では、ナツとテトにだけ教えよう」

 声を小さくするリゲルさんに、テトと僕はぎゅっと寄り添ってちょっと屈んでみる。リゲルさんもちょっとしゃがんでくれるので、輪になって内緒話の図。

「ここだけの話だが」

「はい! 誰にも言いません!」

 テトもー! テトもないしょできるのー!

 わくわくと目を輝かせながらリゲルさんの話を待つ僕とテトの様子を確認して、リゲルさんは小声で話をしてくれた。


「今年は、戦後十年の節目の年だ」

 まず切り出されたのはそんな話。

「ナルバン王国はトラベラーを迎え入れることで、経済的にも大きな影響があった。具体的には、トラベラーが持ち込む素材だな」

「あ、正道の外の素材とかが、街でも入手できるようになったってことですよね?」

「そうだ。戦後は他国も苦しい状況にあり、トラベラーの来訪をどこも待ちわびている。そんな中で、最初の国に選ばれたナルバン王国が、その利益を独り占めするわけにはいかない」

 戦時中からずっと、他国とも強く連携して協力してきたんだもんね。それなら、自分の国だけ儲かってる状況はちょっと気まずいかも。でも、利益を分けるっていうと、どんな方法があるんだろう。輸出を増やすとか?

「素材は劣化もするからな、トラベラーの持ち込む素材を他国へ輸出するのはあまり現実的ではないんだ」

「リゲルさんも難なく心読んでくるな!?」

「ナツの考えはわかりやすい。それで、輸出以外の方法となると、他国の特産品などをナルバン王国で買い取る、という方法がある」


 確かに。素材を良い値段で買い取ることで、他国にも利益を……っていう感じか。経済が活性化している今なら、ナルバン王国はそれができる余裕があるということだ。

「ナルバン王国では、王冠の新調を目的として、他国から珍しい素材を買い取ることにした。国王の威厳を示す王冠に、安価な材料は使えない。近隣国からも高価な素材を買い集め、それらを組み合わせて国王の王冠と王妃のティアラを作成する」

「おおー。これから作られるんですね」

「そうなる。その王冠とティアラは戦後復興の象徴として、同盟国の絆を表すものになるだろう。……となると、もちろん、ナルバン王国産の素材を使わなくてはならない。しかも、他の素材よりも良いものをな」

「あー……そりゃ、ナルバン王国の国王様の王冠なわけですもんねえ……」

 他国から素材を買い集めるにしても、一番目立つところには自分の国で取れた素材を使いたいだろうね。そりゃそうだよ、他国へ利益を配るとしても、最優先すべきは自国。でも他国から輸入する高価な素材に負けないようなものってなると、選択肢が狭まるのも理解できる。

「ロクトの宝石は、その質の良さから他国のものにも引けを取らない。王冠の中央に据えるのに、これ以上の選択肢はあるまい。だがネックとなるのがその流通だ」

「王様でも、紹介されないとお店で買い物できないんですか?」

「ホワイトシープはどちらかと言うと職人の味方でな。ナナミやニムの職人たちに宝石を売り、星の民はその加工品を買え、というスタンスなんだ。それだと良い石があっても、こちらで買い上げることが難しい」

 素晴らしい宝飾品を購入することはできても、その原材料は買えないってことか。なるほど、貴族さんなら完成品を選ぶだけで十分だもんね。


 きっとマレイさんなら、話せばわかってもらえる気がする。

 テトと一緒にお願いしてみよう、国王様の王冠になるなんて、すごいことだもんね。

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