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38日目:みんな良い子なので待てます

「ーー!」

 ディーネー! おつかれさまなのー! おしごとしててえらいのー!

 僕の前でひしと抱き合う美少女と白い猫。そろってぴょんぴょんしている。かわいい。


 さて、なんかラメラさんがぐわっと海を動かして敵を捉えて、すぐのこと。一直線にエリアゼロに戻ってきたディーネさんは、僕のところまで走ってきて「ともだちー!」って感じに抱きついてくださいました。

 こういう時どうすればいいのかわかんないんだよ僕は……! でも抱きつかれたからには役得と思って軽く抱き返しつつ、ドキドキしながらテトをよびよせたのであった。美少女に抱きつかれるとか初めての体験過ぎて一瞬頭の中真っ白になったよね。

 僕に呼ばれたらすぐ来てくれる優秀な僕の契約獣・テトさんは、ディーネさんを見つけて嬉しそうににゃあん、と鳴いた。その声に反応してディーネさんがすぐ離れてくれたので本当に良かったよ。心臓に悪いって。

 そして今このように、喜びの再会中なのである。


「半日くらいは休んで大丈夫よー。あの状態からは逃れられないわ」

 すいっと空中から降りてきたラメラさんは、ドヤっとしつつそんなことを言ったので、これは褒められたい顔! とピンときた僕である。

「さすがラメラさん! スケールが大きい! えらい! ディーネさんも休めるし素晴らしい!」

「でしょー♪」

 ラメラさんこういう時、一切謙遜しないのですごく褒め甲斐があるね。実際にとんでもないことをしてるわけだし。

「ラメラさん、攻撃は海を殺しちゃうって言ってたから、いきなり魔力を海に放ったのびっくりしましたよ」

「うふふ、攻撃でなければいいのよー! 攻撃は周囲から魔力を集めてどかーんだから危ないの。さっきは私の魔力を投げたでしょ? 与える方向なら平気なのよねー。それに、聖獣は自然に干渉するのが固有技みたいなものだから」

「自然に干渉……というと?」

 ドヤっとしたままラメラさんが説明してくれたところによると、聖獣さんは自然の魔力溜まりから生まれるので、己を育んでくれた自然との親和性が高いのだそう。

 ラメラさんなら海。

 ルーチェさんなら光竜だから、光? 太陽光とかかな。

 火竜プロクスさんだったら、火山とかだね。

 そういった自然に魔力を与え、その魔力を元に自然を動かす。それが聖獣さんの特有の能力なのだそう。つまりあの魔力は餌で、ラメラさんはさっき餌を海に与えて、海を動かしたということになるのだ。


「わー、ラメラさん気さくだからうっかり忘れちゃいそうだけど、やっぱりすごいんですね」

「そうよー、私結構すごいの。もっと褒めても良いわよ!」

 えっへん、と胸を張るラメラさんである。うむ、すごい!

 僕がラメラさんをすごいすごいと褒めていると、テトがそれに気づいて僕の隣に駆け寄った。自分も自分もー! という褒められたいポーズである。

 テトもー!

 というおねだりに勝てるわけがないので、テトをわしゃわしゃと撫でながら、「テトもすごいぞー。ディーネさんとお話もできるもんねー、えらい!」と褒めておく。そうするとそれを見ていたディーネさんもぴょんぴょんとこっちにやってくるので……えーと、これも褒められ待ちかな……? お任せください!

「ディーネさんもあんな大きな敵とひとりで戦ってえらい! がんばり屋さん!」

 ぱちぱちと拍手してみせると、ディーネさんはちょっと照れくさそうににっこりするのであった。美少女のはにかみ笑顔、大変よろしいと思います。


「そうそう、休憩中なら僕達と一緒に美味しいもの食べましょ! 今、僕の友達のイオくんが野菜たっぷりスープを作ってるんですよ」

 神獣さんにとって僕達の食べる食べ物は嗜好品だし、とりあえずそんな提案をしてみると、ディーネさんは口を動かして何か話している様子。テトさーん?

 すてきだってー。

「よし。ついでに甘い物好きなら、テトと一緒にモンブランも出しましょう!」

 ヴェダルのー! ヴェダルのしこうのモンブランだしてほしいのー! せかいでいちばんおいしいから、ディーネとはんぶんこするのー!

 にゃっ! と力強く主張するテトさん、お目々きらきらである。ヴェダルさんの美味しいモンブランは、残り2個しかないので……あとでサンガに戻って買いだめしてこないといけないなあ。

「よろしい! デザートに出しましょう!」

 わーい♪

 テトが喜ぶと、ディーネさんも喜びのポーズ。前回、夜にお会いしたときは、ディーネさんはもっと大人っぽい雰囲気だったような気がするけど、今は無邪気で親しみやすい感じだ。まあ、前回の遭遇の時は10分くらいの短い時間だったし、夜だったからそのせいもあって雰囲気が違うのはわかる。

 それに、今は僕とテトはディーネさんのお友達だからね! より気安くなるのでしょう! とか思ってうんうんと頷いている僕に、ラメラさんがちょいちょいと手招きをした。どうしましたかー?

「ねえナツ。あの人達なにしてるのかしらー?」

「え?」

 あの人達、と指さされたのは、船の中にいる人達。つまり遭難者のみなさんである。何してるって……土下座……? さっきまで普通に傷の手当とかしてたはずなんだけど。


「……なるほど。ラメラさんのお名前は、ここにいるみなさんも当然ご存知です」

「あら、ちょっと照れるわねー」

「海の男たちですから、海に対する畏怖は当然あるでしょう。さっきラメラさんはなんかとんでもない魔力で海を動かしたので……すげー! ってなっちゃったんじゃないかなと!」

「あらまあ」

 むしろ普通はそうなる。なんかすっごいきれいな魔力どばーんと放ってたし。そもそも海に関わる住人さんたちにとって、ラメラさんは海の守り神の一種なんじゃないかと思われる。……いや待った、メリカさんも海の守り神では。つまりここには神様が複数いるということで……そうだね、拝みたい気持ちはめっちゃ分かるよね……。

「みんなー、起きて起きてー。落ち着かないから普通にして頂戴ねー」

 とラメラさんが声をかけると、おっかなびっくり立ちあがる皆さん。戸惑っている様子であるけれど、こればっかりは慣れてもらわないとねー。如月くんも重傷者の方が土下座しようとするのをめっちゃ止めてたようで、ホッとした様子である。


「この子たちが船に乗ってた子たちなの?」

「はい。幸い、軽傷の人たちが多かったみたいです。向こうで如月くんが診てるのが、重傷の人たちですね」

「あらー。もー、そういうことなら言ってちょうだいよー。私には回復は出来ないけど、ちょっと祝福してあげるくらいならできるわよー」

「祝福……」

 神獣さんも妖精類もできる祝福。なんならテトもたくさんもらった祝福。これって全部同じものなのかな? と聞いてみたら、やっぱり多少違うようで。

 妖精類の祝福は「なんかいいこと起こればいいな」って感じ、神獣さんが使うと「なんかいいこと起こる!」になる。聖獣さんが使うとその性質によって色々違うらしい。

「海は母なる海だから、生命を育む方向に特化してるのよねー。だから、私の祝福だと生命力の底上げができるのよー。症状を改善させる……とかは無理でも、怪我や病気に対する抵抗力みたいなのは上げられるわ」

「えっ、すごいのでは?」

「たいしたことじゃないわよー。おまじないみたいなものよね、でも無いよりましでしょ!」

 ラメラさんは軽くそんなことを言うけど、実際聖獣さんのパワーならめっちゃ良い感じになると思う。テトと一緒に思わず「すごーい!」と尊敬の眼差しで見てしまうよね。

 僕達のきらきらした眼差しにドヤっと胸を張ったラメラさんは、「任せなさい!」と力強く請け負った。そして如月くんの方に張り切って移動するのであった。

「如月ー! 重傷の患者さんはどこー?」

「あ、こちらです……!」


 うむ、あの調子ならおまかせしちゃって大丈夫でしょう! 患者さんたちがめっちゃくちゃ困惑してるけど、畏れ多い……! みたいな感じだし。

 ナツー! イオのおうえんいくのー。

「お、腹ペコですかテトさん。イオくんの<料理>スキルはレベル高いから、すごく時間短縮できるんだよねー。そろそろスープ完成するかも」

 イオはよいりょうりにん。てぎわもよいのー。

「うんうん、イオくんは何でもできるナイスガイだからねー。ディーネさんも一緒に行きましょう」

 僕が声を駆けると、ディーネさんはにこっとして頷いてくれたので、一緒にイオくんのところに戻る。イオくんのところでは、エクラさんが興味深そうにイオくんの肩に乗っかって料理の様子を見ていた。

 エクラさん、誰かの作業を見るの好きだよね。僕がアクセサリ作るとことかも楽しそうに見てたし。

 イオくんは僕達が戻ってきたのを見て、後ろのディーネさんを見つけてちょっとびっくりした顔をした。遊ぶならテトと二人で遊んで来てくれ、みたいなこと言ってたからねー。

「ディーネさん、こちら僕の友達のイオくんです!」

 イオはねー、おいしいのつくるひとー。

 僕達が揃って紹介すると、イオくんはぺこりと一礼。そこはよろしくとか一言……と思うけど、イオくん女性が苦手だから仕方ないね。ディーネさんとイオくんははじめましてじゃないんだけど、前回は会話してないから紹介はしないと。

 ディーネさんがなにか言って、テトと何か会話している。


 イオはひとみしりだってナツいってたのー。まえのときいたよー。……むー、それはしつれいなのー。だめってイオにいっておくのー。

「あ、鑑定のことかな。僕からもイオくんに言っておきます」

 とりあえず今後は神獣さんを勝手に鑑定したりしないと思うけど、後で念押ししておこうね。

 と、そんなことを話している間にスープが完成したらしい。イオくんに呼ばれて、配膳の手伝いをすることに。

「空の皿を渡してくれ。中身入ってるのは絶対に持つなよ筋力5」

「ぐぬぬ」

 うっかり落としたらもったいないから持たないけど! なんか改めて言われるとちょっと悔しい気持ち……! いやだからといって筋力にPPは振らないけどね。

 僕がスープ皿をイオくんに差し出して、イオくんがそれにスープを入れて、反対側に待機している乗組員さんに手渡す。あの3人だけ無傷だった人たちだね。彼らが順番に受け取って、船内のけが人さんたちに先にスープを渡して来るらしい。

「あの、おかわりありますか?」

「いくらでもあるから伝えていいぞ」

「ありがとうございます!」


 なんか固形物も一緒に渡せないかなと思ったけど、ここ数日あんまり食べてない人たちだから、今回はスープだけがいいんじゃないかというイオくんの判断である。サンガで砦救出作戦したときの学びが活かせているね。

 一応、インベントリにパンがたくさん入った袋とか、おにぎりとかもまだ在庫あるし、出そうと思えば出せるんだけど。人命がかかっているときは安全策とったほうがいい。

「イオくん、リゲルさんとディーネさんとエクラさんとラメラさんと、メリカさんにも!」

「わかってる。とりあえず遭難者に配り終わったら、人数分インベントリに入れてメリカのところへ行くぞ。あっちでならおにぎりもパンも出せるだろ」

「なるほど了解」

 確かに、スープのみの乗組員さんたちの目の前で、おにぎりとか食べるのちょっと気まずい。それに、ディーネさんたちにモンブラン出さなきゃいけないし、離れたところで食べるのが良いか。

「エクラさん、ディーネさん、テト。もうちょっと待ってねー」

『あらあら。私たちは最後でいいのよ。みんなに十分行き渡らせて頂戴ね』

 テトよいこだからまてるのー。ディーネもよいこだからまてるのー。

「みんな良い子でえらい!」

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