38日目:突撃、ラメラさん家!
「あら。あらあらあら!」
ラメラー! あそびにきたのー♪
にゃーん! と元気にラメラさんにじゃれついていくテトさん、さすがの強心臓である。無邪気でとてもよろしい! けどサイズがあまりにも違ってて、ラメラさんはぐぐーっと身をかがめて顔をテトに近づけてくれた。いや、本当にでっかい。
「テトじゃない、よく来たわねー、いらっしゃい!」
ナツもいるのー!
テトが得意げにそう言ったので、僕も満を持して登場しよう。半分海に浸かってるラメラさんのそばに駆け寄ると、僕に気付いたラメラさんがこっちを見てくれたので、ご挨拶!
「ラメラさん、お久しぶりです! 遊びに来ましたー!」
「ナツ、いらっしゃーい! 無事に島に入れて良かったわー」
優しく目を細めて手を振ってくれるラメラさんである。相変わらずきれいな青い色だなあ。海竜さんだけあって、南国の青い海の色だねえ。
「めっちゃ大きくなりましたね、びっくりしました!」
「そうなのよぅ。これが本来の大きさなんだけど、やっと元に戻ったわー」
嬉しそうに尻尾を水中から出してふりふりするラメラさん。テトもつられたようにしっぽをぱたぱた振った。真似っ子してるのかなー? っと、そうだった。まずは同行者の紹介をしておかないと。
「今日は僕達だけじゃないですよ! 友達を紹介しますね!」
僕は気合を入れてみんなを呼び寄せるのだった。
*
エクラさんがラメラさんのお友達だった関係で、紹介はスムーズに終わった。ラメラさんはリゲルさんの顔を見て、
「あなたがリゲル? 顔を見るのは初めてね、ホントに水色だわー」
とのコメント。リゲルさんは微妙な顔で「お初にお目にかかる」と返した。
「仕事仕事で融通の効かない偏屈だったリゲルでしょう? ちょっとは丸くなったの?」
「何のことだかわからんな」
「あー、これは変わってないわねー。エクラってば相変わらず面倒な子を贔屓してるんだからー」
『リゲルにだってかわいいところはあるのよ?』
エクラさんがそう言ったので、リゲルさんは微妙に嫌そうな顔をした。かわいいは嫌なんだろうなー。でもエクラさんにとってリゲルさんはいくつになっても良い子、って前に言ってたもんね。
次にイオくんと如月くんを僕の友達だよ! って紹介したところ、ラメラさんは大きなお顔を近づけてしっかり顔を見てから、
「ナツのお友達なら大歓迎よ」
と言ってくれた。知り合い同士が知り合うって、やはりなんか妙に満足感があるね! ちょっとだけドヤってしまう僕である。
「ナツ、海竜殿は思ってたより大物だな?」
こそっとそんなことを言ってきたイオくんに、「だよねー」と僕は同意しておいた。前会った時はこの三分の一くらいの大きさだったんだよ。鱗の大きさからもそれはわかってもらえるはず。
「確かに、鱗の大きさがかなり違うな」
「力を取り戻して元気になったなら良いことです」
「それはそうだ」
ふむ、と頷くイオくんである。そして如月くんはラメラさんを見上げながら、
「聖獣様の大きさは力の強さに比例するって、前にナツさんからもらった本に載ってましたよね」
とか言ってきたんだけど……。そうだったっけ、全然覚えてない。大きくなればなるほど強いってことかな?
「ということは、ラメラさんはすごく強い竜なんだ?」
「あの本の通りなら、そうですね」
「へー、それなら納得だねえ」
瘴気から国を守るためのシールドを張った、ってエルディさんが教えてくれてたけど、ゴーラに住んでいる聖獣さんがジュードにわざわざ行ったのはなんでなんだろうなって思ってたんだよね。強い聖獣さんだから、選ばれてお願いされたってことなのかな。
僕達がそんな話をしている間に、エクラさんとラメラさんは互いに近況を報告し合ったりして、和やかに会話を続けている。本当に久々にあった友人同士の会話って感じだ。エクラさんが最近の蜜花の出来がどうの……って話を始めた時、ふと思い出した。
そう言えば、ラメラさんに届ける蜜花を預かってたんだっけ。忘れないうちに、あれは渡さなきゃ。
「ラメラさん、この蜜花、エクラさんからです」
「まあ! あれ私大好きよ、ありがとうエクラ」
このでっかいラメラさんにはあまりに小さすぎる蜜花だけど……ルーチェさんも食べ物は基本的に嗜好品だって言ってたもんね。あ、ついでに僕のお土産も渡しちゃおう。
「あとこれ。僕からのお土産です、白水桃っていうやつなんですけど、聖獣さんが好きだって聞いたので」
「ナツったら、気が利くわねー! すごく嬉しいわー! エルディ、これ受け取って祭壇においといて頂戴、後で大事にいただくわ」
「は~い、お任せを~!」
「歓迎の踊りは踊ってくれたのー? あのくるっくるのやつ、私あれ好きなのよねー」
「バッチリです~! 猫ちゃんは一緒に踊ってくれたんですよ~!」
「あら、良いわね!」
蜜花と白水桃はエルディさんが受け取ってくれたので、お預けした。後でラメラさんのおつまみになるらしい。エルディさんは受け取りながらもテトはダンスが上手、なんて褒めてくれているので、僕の隣のテトさんは鼻高々でドヤドヤである。かわいいので撫でます。
「テトはダンサーも出来そうだね、多才!」
にゃふー。テト、まわるのをきわめるのー!
「極めちゃうかあ。できそうだなあ」
キレッキレの回転を見れる日も、すぐかもしれないな。
「エクラ、そろそろ本来の目的を」
『はい、そうだったわね。ごめんなさいね、久しぶりに会ったからつい話が弾んでしまって。今日はラメラに話があって来たのだったわ』
エクラさんとラメラさんの女子トークは、リゲルさんがさくっと割り込んでくれた。そうそう、今日は遭難した船の行方を追いかけに来たんだったよね、なんか色々インパクト強くて忘れかけてたよ……。
「あー、えーと。事実確認からしますか? 魔物が出たって聞いたんですが」
とりあえず話のきっかけとして如月くんが切り出してくれたのは、一番当たり障りのない話題から。ヴォレックさんも言ってたタコ野郎のことだね。
「知ってるわよー。私がちょいっとすれば倒せるけど、それやっちゃったら海が死んじゃうのよねえ」
「普通に物騒」
『ラメラはとっても強いんだもの、仕方ないわねえ』
エクラさんから見てもとっても強いらしいラメラさん、もしや僕が今まで出会った中では最強の存在かもしれない。でっかいし。めっちゃ気になるけど、海が死ぬってどういうことなんですかね……? 聞きたいような聞きたくないような……!
「海にも魔力が充満しているのよー。私がちょいっとやったらその魔力が全部枯渇して、海の生き物が生きていけなくなっちゃうわー」
「思ってたよりえらいことになりそうだった!」
怖いので何もしないでいただきたい!
「でもその魔物については、今のところ神獣たちが色々動いているみたいだし、私達はほっとく予定なのよねー」
「ふむ。ナナミにも神獣から情報がもたらされている。その上で、神獣たちが対応するとも聞いているが、聖獣ラメラから見てなんとかなりそうか」
「なるわよぅ」
リゲルさんの質問に、気楽に手を振りながら答えるラメラさん。そこまできっぱり言い切られると、なんか安心できるね。
「あんなの、図体がでっかいだけで別に脅威じゃないと思うのよねー。エクラでも圧勝よね」
『残念だけど、私もラメラと同じで海を殺しちゃうから対戦は出来ないのよねえ』
「私達って結構不便よねー」
『そうよねえ』
地味に物騒な会話である。僕、絶対にこの二人を怒らせないようにしよう。心に誓います。
「適切な神獣に任せられれば、きちんと倒せるということでいいか」
「そうね、大丈夫よ。リゲルって相変わらず心配性なのねー。昔もなんだか色々心配ばっかりしてたわよね、もっと気楽に生きなさいよ」
「性分だ」
リゲルさんって心配性なのか。でも確かに色々考えてるような感じはあるね、やはりできる男は多角的に物事を見ているものなんだな。
「でも魔物はどうにかなるけど、遭難した船があるでしょ? あっちのほうがゴーラでは大事じゃないかしら」
「それです! ラメラさん、それ!」
まさにそれが知りたかった情報! 僕は張り切って手を上げて、話に割りこんだ。僕説明そんなに上手じゃないけど、とりあえずヴェールを届ける依頼を受けたところから順番に、ロイドさんが行方不明になってるってところまでを張り切って話す。
ラメラさんは結婚式間近で行方不明ってところで「そんな!」とショックを受けて、「それは良くないわ!」とやる気をみなぎらせた。どうでもいいけど視界の隅の方でエルディさんもラメラさんとほとんど同じ反応をしている。
「私がダーリンと引き裂かれたら~と思うと~……絶対に嫌よ~!!」
ひしっとミードさんに抱きつくエルディさんである。そして「ハニー!」と叫んで強く抱き返すミードさん。これが相思相愛というものか……。
「なんか、ごめんなさい……。お父さんとお母さん、演劇とか恋愛物語とかも大好きで……」
「あ、そういう感じなんだ……」
「その、お母さんが読み聞かせをするので……、ラメラ様も恋愛物語は大好きらしいです……」
「理解」
僕は恋愛系のドラマや映画ですらむず痒くてあんまり直視出来ない方なんだけど、ラメラさんはそういうの好きかー。じゃあ引き裂かれた二人のために張り切っちゃうのもわかる気がする。
「それで、ラメラさん、なにかその船の情報ありませんか?」
「そうねー、ちょっと待って。海の子たちに話を聞いてくるわ」
ふんすっと意気込んで、ラメラさんは海に潜った。あれだけの大きな存在が海に潜ったということは、当然入江の水がぶわーっと盛り上がって大波になるわけで……!
「テッ、テトー!」
ナツー! のるのー!
間一髪でテトの首もとに抱きついて空中に逃げる僕。
「えっ、それズルくないですかー!」
と叫びながら水の渦に巻き込まれる如月くん。
「まっ、じっ、かよ!」
と弾みをつけて飛び上がって、岩肌のちょっと出っ張ったところに身軽に登るイオくん。
そして最後に、ひゃっほー! と大喜びで自ら水に飛び込んでいく人魚族の皆さん。ミディちゃんも楽しそうにざばーんと潜っていったね……。って思わずぽかんと見下ろしちゃってたけど、あれ、リゲルさんはー?
「如月は【フロート】を使えないのか?」
「あっ、いつの間にか隣に!」
『私もいるわ』
「エクラさんは無事で良かった!」
今のエクラさんは小さいからね、水に飲み込まれたら大変だったね。
「ってそれどころじゃなかった。えーと、【フロート】は……<上級風魔法>かあ。如月くんはSPの関係で取れてるか怪しいな……。テト、如月くんどこにいるかわかるー?」
あそこにいるのー。
「OK、ありがとう。【フロート】!」
さあ浮かんでおいで如月くん! とユーグくんを向けた先で、ざばあっと水の渦の中から浮上する如月くん。げほげほと咳き込みつつも……あれ、何持ってるんだろう?
「……ナツさあああん! 助かりましたー! ありがとうございますー!」
「どういたしましてー? 何持ってるのー?」
「なんか掴んじゃって……!」
ずぶ濡れの如月くん、水濡れ設定オフにしてないのか。とか僕が思っている間に、如月くんは自分の掴んでいるものを見て「おわっ!?」と悲鳴を上げた。
「クラゲ!」
慌てて海に戻そうとする如月くんの腕に、クラゲの触手が絡みついた。
「……テトとナツと一緒にいた気配。君の名前は聞いてない。何?」
「しゃ、喋ったあ!?」
あれ、あの喋り方はもしかして。




