37日目:テトの新しいホーム
速報! 僕のMP残15!
「あっぶなあああ! 2日連続でMP切れ起こしてぶっ倒れるとこだった!!」
「バカお前、テトの気持ちを考えろ!」
とか言いながらイオくんにポーション瓶をぶつけられた僕である。全回復してなかった僕が悪かったです、反省。残念ながらまだクールタイム中なのでMPは増えなかったけど、気持ちだけありがたく受け取っておく。
僕とイオくんの叫びに反応して、テトがびゅんっと飛んできて、「ナツー!!!!」と僕の周りをぐるぐる回る。
「大丈夫だよテト、元気元気」
ほんとー?
「ほんとほんと。ほら、アイテムできるから見て」
僕のMPを400も吸い込んだアイテム合成は、エクラさんの祝福を受けて白と紫と金色のきらっきらした輝きで包まれている。ここからぎゅっと! 形になるはずだけど……なんか、光がぐるぐるしている……?
「……今更だけど、エクラさんがくれた板ってなんだったの?」
『蜜花の葉を加工したものよ。リゲルが色々研究してくれたの』
「わあ、リゲルさん作でしたか……」
それはなんかめちゃくちゃ高度な魔法を使われてそうである。蜜花の葉って……普通に緑色してた気がするけど、さっきの板は白かったな。どんな変化をしているんだろう。
『魔法が使いやすくなるようにって、加工してくれたはずよ?』
「仕上がりが怖くなってきました!」
それ絶対なんかすごいやつでしょ、ねえ絶対なんかすごいやつでしょ!?
と戦々恐々とする僕に反して、イオくんは「なんだ」と安堵したように息を吐いた。今のどこに安心する要素あった? と思ったら、続けて出てきた言葉がこちら。
「リゲルが作ったなら、少なくとも住人が作れる範囲内の素材だな。セーフ」
「なぜだろう、全然セーフ感がない……!」
『リゲルも、ナツにならあげていいって言ってたわよ?』
とても不思議そうに首をかしげるエクラさん、可愛らしい仕草で癒やされるけれども、リゲルさんもそんなぽんぽん許可だしちゃだめだと思う。リゲルさん、薄々気づいてたけど、何故か僕に対する好感度高くない? 同じエルフだからかなあ。
「ま、まあ、もらっちゃいましたし……ありがとうリゲルさん!」
感謝、感謝。難しいことを考えずにリゲルさんへ感謝だけを捧げておこう。それにしても、さっきまでより結構時間がかかっているね、素材が良いから形成が難しいのかなあ。
きらきらー。
何ができるかなー? とテトと一緒に光の渦を見つめていると、やがてようやくそれが形を作っていく。如月くんまで騒ぎを聞きつけて見に来ているけど……<調薬>やってていいんだよ?
「多分絶対面白いやつなので」
「期待が重い……!」
でもなぜだろう、なんかその期待を裏切らないような気もしている……!
「リゲルさんのアイテムなら、リゲルさんの意思を汲み取って、こう、テトに優しい何かができたりしないかな?」
「祈っておけばいいんじゃないか」
「リゲルさん何卒……!」
テトは、リゲルさんが作った素材を使ってるんだよーと教えてあげると、目を一層きらきらさせた。テトもリゲルさん好きだもんね。
すごいのー、リゲルはできるおとこなのー!
とベタ褒めである。そうだよ、リゲルさん多分めっちゃすごいよ。魔法もなんかすごいの使うしね。あ。アイテム出来上がった!
「……お花だ」
おそろいー!
「あ、確かに。テトの首輪についてるお花とちょっと似てるね」
あの白い板は花の花弁になったらしい。僕、花って詳しくないんだけど……バラよりは丸っこい感じ? ちょっと<鑑定>してみたところ、どうやら牡丹のようです。中央に金具が設置されてて、丸い何かがはめ込めます……そう、テトのホームをね!
「契約獣のホームホルダー……ナツの祈りめっちゃ届くな?」
「日頃の行いってやつかな?」
ほーむー?
「そうそう。テトのホームの、この紫の石をね……」
契約獣屋さんで買ったときに、ストラップ、ペンダント、ブローチの3つの金具パーツがついてきたけど、すごくシンプルな飾り気のないパーツだったんだよね。
そのパーツからテトのホームになっている石を外して、この花の中央にぱちっとはめる。そして、白と紫の天然石が形を変えた、蝶の形の押さえパーツで外れないように固定して……これでOK。
「よし、これが新しいテトのホームだよ」
おはなすてきー!
わーい、とはしゃいで飛び跳ねるテトさんである。裏側に留め具が付いてるから、これもブローチってことでいいのかな? 花びらの感じ、ちょっと生花っぽくみえるけど、手触りはプラスチック系だ。今までもブローチにしてたから、使い勝手は変わらないけど……。これ鑑定結果がなかなかリゲルさんらしい感じになってるんだ。
白牡丹の輝石。契約獣のホームホルダー。このアイテムに設置されている契約獣のホーム内に契約獣がいる場合、その契約獣のMPを契約主のMPとして使うことができる。ホーム内にいる契約獣とも会話ができる。
品質表示なし。この「会話できる」ってあたりがすごくリゲルさんっぽい。通常のホームだと、ホームに入ったテトとは会話できないんだよねー。
「テト、一回中入ってみない? なんか中にいるテトと会話できるんだって」
えー。
ホーム嫌いなテトさんは当然難色を示すわけだけど、どんなふうに会話できるか気になる。あとテトのMPが僕のMPに乗ったらどのくらいになるのかも、一応把握しておきたい。その前にちょっと良いポーション飲んで、MPを満タンにしておいて……よし。
それに頼るつもりはないんだけど、どうしても死にそうなときとかはお世話になるかもしれないし。僕はイオくんのためにも死ぬわけにはいかないのだ。
テト、ホームきらいなのー。
「知ってるけど、ちょっとだけお願いできないかな? どんなふうに会話できるのかやってみたいんだ」
ナツとテトおはなしするのー?
「内緒話だよ」
ないしょのおはなしかー。じゃあいいよー。
なんかちょっと響きが気に入ったらしいテトさん、前足をぴとっとホーム石に置いて中に入ってくれた。あ、今更だけどこのアイテムは契約獣のホームなのでアクセサリ欄を埋めない、とても優秀なやつです。
「なんかナツさん、めっちゃ似合いますね」
「くっ、可憐なお花が似合う男ではないのに……っ!」
エルフという種族のせいでなんかきれいなものが似合うのであった。まあ今はそれはどうでも良いか。えーと、テトがホームにいるから、声をかけてみなきゃ。
「テト、声聞こえる?」
きこえるのー!
「あれ、なんか聞こえ方がちょっと違う。エクラさんの念話に近いかも」
ねんわ! テトねんわつかえるー?
「そんな感じに聞こえるよ」
わーい♪
テトめっちゃ嬉しそう。念話使いたいって言ってたもんなあ。僕はやっぱり声に出さないといけないみたいだけど、テトの声は僕にしか聞こえてない、と。うん、なかなか良いね。
「ホームにいてもお話できるから、テトもさみしくないね!」
むーん。なんだかすてきなにおいするし、ちょっとまりょくもおおくなってて、まえよりよいおうちなのー。でもナツになでてもらえるほうがもっとよいのー。
おお、ホームの中もなんか変わってるのか。素敵な匂いと魔力が多い……テトは特に魔力たっぷりなの好きだもんね。それでも撫でられ好きなテトにとっては、外のほうが良いらしい、契約主としてはちょっと嬉しいところだね。
おっと、そんなことよりMPを確認。
えーと、僕の素の状態でのMPが今500で、現在のMPが……870! おお、これはだいぶ良い感じ。どっちのMPから消費されちゃうのか気になるところだけど……まさかテトの分MP使い切って、テトがMP切れで倒れるとかないよね?
ちょっと怖いな。もしこれに頼ることがあるなら、僕のMPがすごく減っててピンチ! みたいなタイミングだけにしなきゃ。
「イオくん、テトのMPが切れたらどうなるかって、掲示板に載ってるかな?」
「戦闘用じゃない契約獣はMP切れとかならんだろ」
「それもそっかー」
トラベラーと同じように、気絶するように寝ちゃうくらいならいいんだけど。前例がないって言われると怖いよねえ。
「テトのMPがどうしたんですか?」
「如月くん、このお花<鑑定>してみて」
「あ、はい。……うわあ」
如月くんはめちゃめちゃジト目で僕を見た。なんですかねその目は。これがなんかとんでもないアイテムだってこことはわかってるけど、僕の純粋な実力では全くないので苦情は受け付けないのである。
「何がどうなってこれになるんですか?」
「えーと、リゲルさんの話からしないといけないから……」
「なるほどナツさんの謎人脈」
如月くんだったら別にいくらでも紹介するんだけど、流石にリゲルさんの家に連れて行くわけにはいかないよね。鍵は僕を信頼して渡してくれたんだろうし……。まあエクラさんと交流を深めていればそのうち会うこともある……かも。
「簡単に言うとエクラさんの友達のすごい魔術師さんが、なんかすごい魔法で作ってくれた板があって、それを素材に使ったらこうなったというか……」
「……掲示板でもこれに近い効果のアイテムって、聞いたことないですね。ナツさん、多分なんかすごい事になってますよ」
「唯一無二なのはなんとなくわかる……!」
でもなあ、リゲルさんと知り合ったのはエクラさんのおかげだし、さっきの素材だって、エクラさんが持ってきてくれなかったら使えなかったわけで……なんかすごいのはエクラさんであって僕ではないと思う。そんなエクラさんを呼び出せるほどのご縁をつなげたことは誇らしいけどね! ふふん!
ナツー?
「あ、ごめんねテト。もう出てきていいよ、ありがとう!」
ないしょのおはなしはー?
「あ、それがあったね。……テト、これは内緒なんだけど、クッキーにはジャムを挟むとすごく美味しいんだよ。特別に教えてあげるね」
ジャム……! すてきなのー!
テンション上がったテトさんは、喜んでぴょんっとホームから飛び出た。期待に満ちた眼差しでイオくんを見上げ、「イオー! ジャムほしいのー!」とおねだりの姿勢である。
「イオくん、クッキーにジャム挟んであげて」
「おう。いちごジャムあったな」
いちごー! すてきなおあじにきまってるのー!
やったーとぴょいんぴょいんするテトさんは、すでに味を想像してうっとりしたお顔である。いちごジャム美味しいよね、わかる。
そんな僕達に苦笑しつつ、如月くんは薬の小瓶を差し出した。「これ、さっき作ったんですけど」という言葉と同時に僕の手のひらにぽんと置かれる。
「これは?」
「今日買った薬石で作れた薬なんですけど、ナツさんこういうの好きそうなんで、あげますね」
「え、ありがとう! 何の薬かな」
僕が好きそうな薬って言われてもピンとこないけど、えーと<鑑定>させてもらって……おお!
「すごい! 3分間動物の言葉がわかる薬だ!」
つまりこれは、ミウちゃんと会話できるということですかドクター如月!




