37日目:米は、最高なんだ。
ところでパクチーってあるじゃん?
僕個人的にはタイ料理にはあれが必須だと思うんだけど、苦手な人も多いよね。なんというか味も匂いも強いじゃん。一度嗅いだら忘れられない味してるけど、正直他に似てるものってないような。
まあでも、すごく強い野菜だ。
そんでもってイオくんは、強い野菜が苦手なのだ。なので。
「パクチー無くてよかったね、イオくん」
「微笑ましい顔すんじゃねえよ」
運ばれてきたフォー確認してちょっと喜んでたのはお見通しだ!
フォーのお店……というか、正しくは米粉料理のお店、米道。こめどう、である。こめみちではない。店主こだわりのフォーは、上品な海鮮系のお味である。そりゃゴーラだからそうなるね。
「うーん、貝とエビの見事なアンサンブル……! しかも、このフォー軽くていくらでも食べられる……!」
おいしー! つるつるー!
「ナツさん、こっちのライスペーパー春巻きも美味いですよ」
「いただきます!」
「ナツ、このパン米粉だ」
「それもいただきます!!」
やったー! 米粉のパン! 僕基本的に米料理大好きだから、米粉のパンも大好きだよ! 普通のパンも美味しいけど、あのもっちゃり感が癖になるよね。
「やはり米は日本人の心……!」
改めて思うんだけど米ってすごくない? 炊き込みご飯やパエリア、リゾットにおかゆなんかはもちろんとして、麺にすればフォー、薄く伸ばしてライスペーパー、粉にすればパンにもなるなんて。とんでもない万能食材ではないか! ねえイオくん!
「塩にぎりこそ至高」
「それは流石に通だなー!」
いや、わからんでもないけど。でもアナトラ世界は海苔がないからな……!
ナツー、このながいのたべやすいのー。おもしろーい♪
「フォー美味しいよねー。テトも気に入ったようで何よりだよ」
かいのうまみー。
「お、わかっちゃったか。さすがグルメだねえ」
うちのテトさんは結構舌が肥えているからなー。味のわかる猫なのである。
米道のメニューは数こそ少ないけど、結構変わり種のものが多い。フォーも味が2種類あって、僕とテトが食べているのが塩ベースのスープ、具は貝とエビがメイン。イオくんと如月くんが食べているのがピリ辛スープ、具は野菜とイカ・エビがメイン。
如月くんが勧めてくれたライスペーパーの春巻きは、やはり海鮮メインの具だくさんサラダ風。他にもライスペーパーに具材を包んで揚げたやつとか、ワンタンスープみたいなのもあった。
米粉のパンはスープにセットのやつで、4人分をかごに入れて中央にどーんと置かれてるやつ。他にもライスペーパーのピザ風とかもある。
お米ってさ、よく噛むと甘みがあるよね。あれが余韻まで楽しめて好きなんだ。なのでこのお店に普通の米料理がたくさんあったら、もう天国だと思うんだよね。
「パエリアとかおにぎりとか置いてほしい」
「それな」
「あったら最高ですね」
おにぎりー♪
しみじみと頷く僕達であった。米は、最高なんだ。
お腹いっぱいになるまで食べて食べて食べ尽くし、お店の外に出る頃には周囲はすっかり暗くなっていた。明日はラメラさんのところに行くので、早めに寝るとして……2時間くらい生産もしたいなあ。
「<細工>のレベル上げたい!」
「俺も、今日買った薬石で<調薬>したいですね」
「食材仕入れたし俺もなにか料理するか」
イオのおうえんするー!
テトさん、僕は応援してくれないかー! まあイオくんが美味しいもの作るの見てると楽しいし心踊るからなー、これは仕方あるまい。許します。
わいわいとギルドへ向かい、作業場をレンタルする。3人作業できる部屋ってありますか? って聞いてみたら、一番大きい部屋が4人まで作業可能だと言われたのでそこにした。
部屋に入るとイオくんにぴとーっとついてあるくテトさん、すごくわかりやすい。「あっまいの♪ あまーいのっ♪」という催促ソングが妙に耳に残る。テトの中でイオくん、料理人っていうかパティシエの認識だよなあ……。
「ナツ、テトもしかしてなんかリクエストしてるか?」
「甘いのがいいって」
「いつものか」
そうだね、毎回イオくんがなにか作るときは甘いのーって言ってるかも? まあイオくんが作るお菓子美味しいからね、仕方ないね。
微笑ましくテトを見ていたら、その時室内にすいっと光が入ってきて、それが蝶の形を取った。エクラさんのおかえりだ。
『戻ったわ。あら、これからなにか作るのかしら?』
「はい! 今みんなで2時間くらい生産しようと思って部屋借りたところです」
『素敵ね、見ていても良いかしら』
「もちろん!」
作業テーブルが4つあるので、1つを如月くんが調薬セットで埋めている。もう1つはイオくんが、小麦粉とバターと砂糖、牛乳……完全にお菓子だ、クッキーかな? マフィンかな? パウンドケーキかも!
ワクワクしながら、僕も彫刻セットを出した。まずはいつでもコピーできるように、新規に覚えたお守りとお札を作っておかないと。
えーと、覚えたばっかりのお守りは……防水のお守り!
「波柄かあ……ちょっと難しそう」
曲線が多いやつは難しいんだよね。最初はどうせ★1になるから、サクサク作ってみて……っと。あ、これ頑健のお守りと同じように使い切りなんだね。★1だと1日防水仕様にすることしかできないっぽい。そのかわり完全防水らしいので、便利っちゃ便利かも?
でも、頑健のお守りや保存のお守りは使えば永続なのに、これは数日で効果が切れる。この違いってなんなんだろうなあ。
何度か繰り返して作ると、★3ができたのでここで一旦終了。★3だと5日間有効だ。
次にお札。「錆止めのお札」と「防水のお札」だね。これもなんか曲線多いな……。
四苦八苦しながら作っていると、いつの間にかそばにいたエクラさんがじっと僕の手元を見つめていた。見られるとちょっと緊張する。
「これは防水のお札ですよ」
『船を守るものなのね。ゴーラは船に関するお札や護符が多くて面白いわ』
「一応家にも使えるみたいですねえ」
お札はお守りより作るの難しいから、★2を作ったところで一旦やめておいた。★3を目指していたら他に何かする時間がなくなるんだよね。また後で頑張ろう。
エクラさんは薬を作る如月くんになにかアドバイスをしているみたいだけど、イオくんの方にはテトがいるから微笑ましく見るだけで、基本僕のところか如月くんのところを往復している。テトが尻尾ふりふりしながら「イオのおーかしー♪」とか歌ってるので、邪魔しないようにしてくれてるみたい。
テトは本当に料理人さんの手元を見てるのが大好きだね。
さて、僕も本命の<細工>をやるか。
「今日買った材料でなにか作ってみよう。イオくんの隕石はもうちょっとレベル上がってからにして……」
天然石を結構買ったから、なんかイオくん用にアクセサリ作れないかな? 青と白の石を選んで、この天然石に組み合わせられるもの……無難にまた革紐でいいか。革紐ならどこででも買えるから、見かけるたびに一応買ってて在庫が潤沢だし。
「【アクセサリ合成】MP220」
例によってその素材に込められるMPの最大値を突っ込んで合成すると、並べた素材がぱあっと光って、その光が一つにまとまっていく。今回の素材が白と青の天然石だからか、光の色も白と青のに色できれいだな……と、そこになにかきらっとした細かい粒が……。
「あれ、エクラさん?」
『ちょっとだけね』
あれって祝福では。
生物だけでなくてアイテムにもなにか効くのかな? エクラさん本当に何でもできるなあ、と感心している間に、ひときわ強く光を放って作ったアイテムが現れた。
『あら、綺麗にできたわね』
エクラさんが力を貸してくれたおかげなのか、出来上がったのは蝶の形をしたペンダントだった。革紐なので女性っぽくもなくて、色も右が白い羽、左が青い羽でシックな感じだし、ギリギリ男性が使っててもおかしくないデザインだ。
天然石が形を変えた羽の中には、金箔っぽいラメがさり気なく入っていて、ちょっときらきらしている。これが多分、エクラさんの祝福効果かな?
「えーと、<鑑定>。輝蝶のペンダント、このペンダントを装備していると、わずかに生産に良い効果がある。器用+10、品質★4。めっちゃ良いものができてしまった……!」
ステータスが上がるアクセサリって、+10はスキルレベルが上がらないとなかなか出ないはず。<細工>を取った人が作ったものの報告するスレッドが掲示板にあったけど、スキルレベル10の人がやっと+10を出せたって言ってたような……。
僕がこの前作ったのだって、+3くらいだったもんなあ。流石にこれはチート。エクラさん万歳だ。
よし、作ったからには、ふさわしい持ち主に渡さねば……!
「イオくん! イオくん用のアクセサリできたよー!」
「お、マジか。サンキュ」
良いものなので、ぜひとも装備していただきたい。そして料理の品質をじゃんじゃか上げて欲しいものです。
「……うわ。これ普通に作ったんじゃねえだろ」
手渡したペンダントを<鑑定>したイオくんは、やはり即座に効果に気づいて驚いたように瞬きをした。の、わりには、すぐさま装備しちゃってるけど。
「エクラさんが祝福してくれたよ!」
「チートじゃん」
「公式が用意してるシステムはチートじゃないってイオくんが言ってた!」
「よく覚えてんな、ナツの割に」
エクラさんは公式にいる存在なので、そのエクラさんがしでかす事象はチートではないのである。うむ、と頷く僕に、テトが擦り寄る。
ちょうちょー? すてきー。
「イオくんがもっと美味しいもの作れるようになるアイテムだよ!」
すばらしいのー! ねこくっきー!
「お、猫クッキー焼いてるのイオくん。最高では」
「期待に満ちた目をしやがる」
クッキーの型が猫の形なんだ? うわーかわいい。どこで買ったのこれ。あ、サンガの屋台か。料理の道具だったらサンガはなんでも売ってるよね。
これから焼くというのでわくわくで待ちましょう!
自分の作業テーブルに戻ると、机の上に出しておいたアクセサリ用素材の中から、エクラさんが緑色の石を選び出したところだった。これは翡翠と……緑のめのう?
『さっきと同じようにしてちょうだい。如月用よ』
「おお、選んでくれたんですね!」
そう言えばさっきの青い石と白い石はなんだったんだろう。えーと……ソーダライトと、ホワイトオニキスか。効果は、「目標達成」と「成功」……なるほど。
今エクラさんが選んだ緑の石は、翡翠の効果が「達成」で、めのうは「健康促進・ストレス軽減」。薬を作るドクター如月にはピッタリかも。
「金属と革紐どっちがいいですか? 今なら結構金属も余ってますよ」
『革紐のほうが良いと思うわ。MPは足りるかしら?』
「あ、足りないからポーション飲みますね」
品質の低いポーションを飲んで、クールタイムを短くしておこう。
「【アクセサリ合成】MP220」
さっきと消費MP量は同じだ。そして当然のようにエクラさんがキラキラの粉をまいてくれた。今度は緑の石だから、緑色の光でぱーっと輝いて……しばらくすると形を整えて、きゅっと固まる。
「お、今度はブレスレットかな?」
『まあ、素敵』
今度も蝶の形だけど、革紐が編み込んだ感じで幅広のブレスレットになっていて、隙間に緑の蝶が潜んでいるようなデザイン。これだったらパッと見、蝶というより葉っぱっぽくて、男性用アクセサリとしておかしくない。
では<鑑定>して……緑蝶のブレスレット、薬を扱う者にわずかに力を与える。器用+10、品質★4。
「さすがエクラさん、素晴らしいものです」
『あら、うふふ。渡してらっしゃいな』
エクラさんに促されて、このブレスレットは如月くんへ。薬を扱う人専用アイテムだから、如月くんにぴったり。さくっと手渡してみると「さすがナツさん!」と無邪気に喜んでもらえたので僕も満足です。
作業テーブルの上では、エクラさんがまた石を選び出している。今度は……紫色の石と白い石を1つずつ。えーと、ラベンダーアメジストと、ホワイトカルセドニー? 効果は、アメジストが「直感力アップ」、カルセドニーが「人との縁をつなぐ」。
『これはナツのよ』
「選んでくれてありがとう! 天然石ってたくさんあって名前覚えられないですね」
『長い名前も多いから、ちょっと覚えにくいわよねえ。あ、革紐はいらないわ。これを使って頂戴』
さらっとエクラさんが差し出してくれたのは、何か真珠のような輝きの板。四角い、5センチ四方くらいの大きさだけど、<鑑定>すると……これは鑑定レベルが足りないみたいで、魔法で加工された板ってことくらいしかわからなかった。
エクラさんがくれるものなら安全だろうし、まあいっか。MPポーションを飲んで……。
「よし、じゃあ【アクセサリ合成】、MPよんひゃくぅ!?」
ちょ、待って過去最高のMP持っていかれたんだが!?




