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37日目:きらきらゼリーを買いに

 管理局を出る頃には、夕暮れ時の赤い空だった。

「時間すぎるの早いなあ」

 と思わず空を見上げた僕に、右側をぴとっと占拠したテトが「おそらきれーい♪」とご機嫌に鳴いた。そうだね、夕暮れきれいだね。


 明日ラメラさんに会いに行く、と決まったあと、カパルさんが「セッ、セイジュウサマジャナイデスカ!?」って叫んでまた固まってしまった。そうです、聖獣様です。

 なんで明日かって言うと、まあ、会いに行ったらそれだけで終わらないだろうから、仕切り直して明日にしたほうがいいでしょうってことなんだけど。確かにここから佳境! みたいなタイミングで眠くなったら困るし、明日にするのは良いと思う。

 でも、流石にラメラさんのところには、カパルさんもセスくんも連れていかないことになった。ラメラさんすごく良い竜さんだけど、やっぱり普通の住人さんには畏怖の対象みたいだ。カパルさんに「そんな畏れ多いところに連れて行こうとするのはやめてくれ!!」って悲鳴をあげられてしまったのである。

 気さくなのになあ、ラメラさん。

 でも無理強いは良くないからね。ちなみにセスくんは興味津々って感じだったけど、カパルさんガードが入りました。さすがの僕も子供を連れて歩くのはちょっと、どんな危険があるかわかんないので遠慮したい。というわけで、明日は僕達パーティーと如月くんだけでラメラさんの住んでいる島へお邪魔する予定である。


 もう夕方だし、セスくんはカパルさんが孤児院に送っていくというので、ここで解散だ。そう言えばセスくんに何も奢れなかった……! と気づいた僕は、インベントリに入ってる食料をなにか渡そうとしたんだけど、めっちゃ喜ばれたのはテールさんの焼き鳥だった。

「肉! 肉!」

 と小躍りして喜んでくれたセスくん。ゴーラで肉ってあんま人気ないんじゃなかったっけ? と思ったけど、セスくんが言うには、魚より入ってくる量が少ないから比較的高くて、子供には手が出せないんだそうである。

 ……確かに、昼食べたお店、ちょっとお値段高めだったかも? ランチ2,000Gくらいだったかな。僕達多分、お肉にテンション上がって値段のこととか全然考えてなかったよ。

「孤児院、たまーに肉、でる。でもワイルドピッグ。ツノチキン、初めて食べる」

「え、そうなんだ!? もう1本食べる?」

「ありがとう!」

 出会ってから今までで一番良い笑顔を、惜しみなく振りまいてくれたセスくんであった。こんなことなら孤児院にお肉の差し入れをしても良かったな……ワイルドピッグと戦ってたくさんお肉を集めたら考えよう。

 豚肉には豚肉の、鶏肉には鶏肉のよさがあるのだ。当然牛肉にも羊肉にも、蛇肉にもね!


 にこにこで焼き鳥を食べるセスくんとは管理局で別れ、さて、僕達はこれから夕飯だ。エクラさんは魚は食べられないというので、『ちょっと海を見てくるわね、また後で』と言い残してふらっと去っていった。

 今日は魔力たくさん込めたから、まだまだ動けるみたい。ちょっと海にはしゃいでる感じでかわいいエクラさんである。

「今日の夕飯、さっきカパルに聞いたフォーの店でいいか?」

「フォー!」

「おお、いいですね!」

 ふぉー? なあにー?

「お米から作られた麺だよ! えーと、パスタよりもこう……つるつるしてる!」

 フォーってベトナムの料理なんだっけ? そんなに何回も食べたことないけど、麺料理としては結構美味しいやつってイメージが強い。

「うどんと違って柔らかいからすぐ噛み切れるし、テトも食べやすいかもな」

「イオくん! テトのことちゃんと考えてくれて優しい!」

「辛くないといいけど」

「それは祈ろう!」

 辛いとテトは飛び上がっちゃうかもしれないからね。


 教えてもらったフォーのお店は、「手作りフォーの店・米道」という渋い名前。南北通りから西へ入る青空通りという通り沿いにある。お昼を食べたワイルドピッグ専門店から、もうちょっと北方面へ進んで、ちょっと小洒落たバーの隣の路地が青空通りだ。

「昼間来たときは鉢植えで塞がれてたところですね」

 と如月くんが言うので、よく覚えていてえらいと思います。あ、なるほどこの青空通りから南方面へ分岐しているのが夜空通りなんだね。通りの名前おしゃれだなあ。

「イオくん、先にゼリーを買いに行ってもいいですか……!」

「テトが気に入ってたやつか。如月、いいか?」

「もちろん! 俺も食べたいです、フルーツゼリー」

 きらきらのやつー!

「ありがとうありがとう!」

 青空通りに入ってすぐ、数えて3つ目くらいにフォーのお店は発見したので、先にテトのためにきらきらゼリーを買いに行く。えーと、満月堂って言ってたっけ。青空通りから分岐する夜空通りに入って、ちょっと進んだところで数人が列を作っている華やかなお店が見えた。看板がきれいにイルミネーションで目立っている、ここが満月堂か。


「あー、季節限定のメロンゼリーが売り切れだ、残念」

「ナツ、俺は桃で」

「了解!」

 どうやらイオくんは別の店が見たいようなので、行っておいで……と頷いて置く。ソワソワしながらイオくんが飛び込んだのは、向かいの……魔道具のお店だ。いいねえ。

 僕とテト、如月くんは大人しく列に並ぶ。店頭にどんなゼリーがあるかメニューが書かれた看板が出てるんだけど、売り切れはメロンゼリーのみで、他のはまだ買えるようだ。

「テト何がいい?」

 くりはー?

「栗のゼリーはないかなあ。マレイさんがくれたやつはぶどうだよ、ほら、あれ」

 きらきらたくさーん♪ おなじのほしいのー。

「同じのでいいの? じゃあぶどうは買おうね」

 僕はオレンジのやつが食べたいなあ。あとは……あの空みたいな青いゼリーなんだろう? フルーツミックス? あれ金箔入っててキラキラしてるし、あれも買おう。そして忘れちゃいけないイオくん用の桃。


 10分くらいで僕達の番になったので、それぞれ5つずつ注文して購入完了。テトがずっと店員さんに愛想振りまいて、「きらきらすてきなのー」って褒めまくっていたので、なんとなーく伝わったのか、店員さんたちが嬉しそうにしていた。お会計の時「かわいい猫さんに」っておまけで焼き菓子までもらったのである。

「ありがとうございます! テト、良かったねー」

 おねーさんありがとー! ほめるのはただだからおしむなーってナツいってたー!

「言ったね……よく覚えててえらい!」

 テト、本当に賢いな。撫でましょう。

 如月くんも夜空みたいなフルーツミックスゼリーを中心に、全種類1個ずつって感じで買い込んでいた。ゼリー好きなの? って聞いたらちょっと照れくさそうに、

「風邪ひくと買ってもらえるじゃないですか。なんかそういうの思い出しちゃって」

 とのこと。

「仲良し家族だ!」

 うちは果物の缶詰だったなー! 桃とみかんが定番です。


 さて、そんな買い物を終えて店から出ると、魔道具のお店で唸っているイオくん、なにか迷っているらしい。如月くんも魔道具を見たいって言うのでみんなで向かいのお店へ移る。

「イオくん、なにか良いものあった?」

「ナツ、これをどう思う?」

 この魔道具屋さんは、新品も中古品も扱っているらしい。イオくんが僕に差し出してきたのは、中古品の方だ。えーと、なんだろうこれ。箱? 木製の、20センチ四方くらいの箱だ。あ、裏面に魔石を入れる場所がある。

「これ何?」

「それがわからないから迷ってる」

 なんか微妙な言い方をするイオくん。わからないなら<鑑定>すればよくない? と思って<鑑定>してみたんだけど……あ、これはだめですね。

「文字化けしてる!」

「そうなんだよなー」

 なんだコレ、全然読み取れないや。文字なのか記号なのかわからないような模様がズラッと並んでいるので、ちょっと怖い。

「店に入ったら<直感>がなんか働いてな。これがやたら気になるんだが、何なのかさっぱりわからないから、ナツを待ってた」

「なるほど。<グッドラック>さん結構上機嫌だよ、良いものなんじゃない?」

「それを待ってたんだよ」


 イオくんはちょっと僕の<グッドラック>さんを過大評価し過ぎではないかな? と思うけど、まあ判断基準にするには良いかもね。でもイオくん、それおいくら?

「見切り品のワゴンに入ってたから、10,000Gだな」

「見切り品にしては高くない?」

「魔道具だからこれより下げられないらしい」

 用途不明の魔道具は、こうやって見切り品として処分されることが多いらしい。他にも、使えるし用途もわかってるけど、誰が使うんだよってくらいニッチなやつとかも。

「へー、見切り品面白いですね。半径3メートル以内の景色を変更させる魔道具とか何に使うんだかわかりませんが……」

「おお、こっちは傘差した内側だけ雨が降る魔道具だ。ほんとに誰が使うのこれ?」

 まどーぐは、ませきでうごくのー。テトしってるよー。

「テト色々知っててえらいねー!」

 にゃふー。

 テトさん、えっへんと得意げに胸を張るの図。今日も良いドヤ顔です。僕に褒められたテトさん、次はイオくんに褒められるのを狙ってそちらに視線を向けて……んにゃー? と不思議そうな声をあげた。


 イオのもってるの、ディーネのだよー。

「うん? あの箱?」

「これがどうした?」

 相変わらずテトの言葉わかってそうなイオくんが、さっきの箱をテトがよく見えるように差し出す。それをふんふんと匂いを嗅いで、テトはうむっと頷いた。

 ディーネの匂いするのー。

「ウンディーネさんの匂いがするって」

「テトは犬じゃなくて猫のはずなんだがな……?」

 たしかにそれちょっと思った。でも、猫って犬ほどではないにしろ、人間よりはずっと鼻が効くんじゃなかったっけ。なんかわかったとしても不思議ではないかもしれない。

「テトと僕はディーネさんのお友達だし、僕より嗅覚に優れたテトがなにか気づいてもおかしくないかも」

「それもそうか。これの中身がディーネのなのか? それともこの箱そのものが?」

 わかんなーい。

「わかんないって」

「なるほど。……なにかクエストに必要な道具かもな。エクラに見てもらうか」

「そうだね、このあと合流するし」


 今イオくんが魔道具のお店にいるのは偶然だから、必須アイテムとかではなさそうだけど、ここからなにか別のクエストが始まるやつかもしれないし。そういえば、テトはディーネさんとゴーラで遊ぼうねって約束してたんだったっけ。それなら、そのうち本人にも会えるだろうから、答え合わせもすぐでしょう。

「さすがテト、名探偵だねー」

 ほめてもよいのー! イオもー!

 よしよしと撫で回した僕に擦り寄りつつ、テトはちらっとイオくんの様子を伺った。さあ撫でるがよいという視線である。もちろんイオくんはその意図を正しく読み取って、僕と入れ違いでテトの頭をわしわしと撫でるのであった。

「テト有能だな」

「なぜ僕を見ながらいいますかイオくん」

「いや……飼い主に似てよかったな?」

「なんで棒読みですかイオくん……!」

 褒められてるんだか誤魔化されてるんだかわからない……! でも確かにテトは有能なので、もっと褒めるが良いよ! ほらもっと豪快に撫でるが良いよ!

 ナツはかいぬしじゃなくてけいやくぬしなのー。だいじなとこだからまちがえちゃだめなのー!

「テトさんそこ気になるんだ? イオくん、テトが飼い主じゃなくて契約主だから間違えちゃだめだって」

「それはすまんな。撫でるから許せ」

 ゆるすー!


 まあ、テトが嬉しそうなのでなんでもいいか。

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本当にこの作品読んでると、心が安らぐ
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