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37日目:孤児院にはお土産が必要です。

「スペルシア教会に差し入れが必要ではないでしょうか!」

「出た、敬語」

「提案なので!」

 美味しいお昼ご飯を食べ終わって、僕達は店の外に出た。そのまま北門まで道を北上してから、さあそれじゃあスペルシア教会に行くか、という話になる。

 だがちょっとまってほしい。

 イチヤの教会に行ったときも差し入れは持参したではないか。つまり、何か持ってくべきでは? 食べ物でも良いし、お札でも良いと思うんだけど、手ぶらは良くないと思うんだよ。

 それに!

 教会には孤児院が併設されているものだから!

 子どもたちに差し入れをするのは当然だと思います!

 

「俺、一応家庭用常備薬っぽいのはたくさん作ってありますよ」

「如月くんえらい! 多分すごく喜ばれると思う!」

「ナツはお札か?」

「一応、家屋安全のお札と防火のお札は用意してる!」

 無病息災のお札は、実は10名以上が暮らす施設では効果がないんだ。<鑑定>レベルが上がったら追加情報が出てきてわかった。一般家庭用であって、孤児院とかの施設用じゃないらしいんだよね。

 大規模施設用のは、護符にあるって聞いてるけど……<高度魔術式>ではまだ拾えてない。ゴーラに入ってから拾ったのは、「錆止めのお札」と、「防水のお札」、「防水のお守り」、そしてグレーアウトしてまだ作れない「不沈」の護符。どれも船関連かな?

 「錆止めのお札」は、船にも家にも使えるお札で、海風のせいで劣化しがちな船や家を守るお札。このお札はどこのお店にも飾ってあったから、ゴーラには<魔術式>持ちの護符作成師がいるみたいだ。

 「防水のお札」は主に船用。船全体を防水して、長持ちさせるためのお札らしい。「防水のお守り」は、一定期間服や靴に防水効果を付与するお守り。トラベラーは雨に濡れない設定とかできるから、主に住人さん用だ。

 最後の「不沈」がすっごいやつで、文字通り船が沈むような嵐やトラブルから船を守り、沈ませないための護符になる。一度効果を発動したら消滅してしまうから、使い切りではあるんだけど、船と人員を守れるならぜひ欲しい護符だろう。

 僕はまだ作れないけど、「不沈」って単語めっちゃかっこよくない? ロマンに溢れているなあ。


「ナツはお札、如月は常備薬か」

 イオはおいしいのもってくとよいのー。

「イオくん、テトが美味しいの持っていくといいって」

「そんなに大量に作ってるものはねえぞ。食い物が無難か?」

 難しい顔をしたイオくんがインベントリを確認していると、

「ねえ」

 と近くから誰かの声がする。

 ……うん? 今僕達に声かけた? と思って周辺を確認すると、いつの間にかテトと如月くんの間にちびっこがしれっと混ざっていた。ブカブカの帽子をかぶった小さな少年だ。……ドワーフとはまたちょっと違う……? 妖精類さんかな?

「こんにちは! 僕達になにか用かな?」

 小さい子には愛想よく! がモットーなので、即座に笑顔で尋ねてみると、少年は僕を見上げて「うん」と小さく頷いてみせる。


「僕はナツ、こっちのクールなイケメンは親友のイオくん。隣の緑色の髪の好青年は如月くん。君の隣にいる猫さんはテトっていうんだ、よろしく!」

「……僕、コロボックルのセス。教会にいる」

 あ、なるほど。教会って単語を聞きつけて来たのか。なにか差し入れのリクエストがあるのかな?

「セスくんっていうんだ。教会ってことは、孤児院だよね? 差し入れされて嬉しいものってある?」

「うん。僕、猫さんと遊びたい」

 じっとテトを見上げるセスくん。瞳がキラキラと輝いている……あ、なるほど妖精類だから……理解。

「テト、孤児院の子どもたちと遊んでくれる?」

 かけっこー?

「かけっこでもかくれんぼでもいいよ。セスくん、子どもたちって何人くらいいるの?」

「えっと、今は……10人と、6人」

 セスくんは一生懸命指を折って数を数えている。算数習ったばっかりなのかな? 10まで数えてまた1から数え直すとは、幼いながらに賢い子である。

「結構多いんだ? じゃあテトみんなと追いかけっこして遊ぶといいよ」

 テトのはやさについてこれるかしょうぶなのー!

「テトさん、子供が相手だからお手柔らかにね……!」

 流石にテトが本気出したら追いつける子供はいないと思うよ僕は。うーん、それにしてもイチヤでは孤児院にいる子供の人数は少ないし、12歳になったらみんなすぐ住み込みの仕事を見つけて独り立ちしちゃうって聞いたような。ゴーラは方針が違うのかな。それとも、単純に孤児が多い?


 不思議に思ったのでセスくんに聞いてみると、ゴーラは船乗りたちの街だから、船が沈んだり航海に出たまま帰らない船が稀にあって、その影響で孤児も多いと説明してくれた。

 護符を作成する人も一応いるから、昔に比べたら海での犠牲者は減ったらしいんだけど。それでも遠洋に行く船は、魔物からの襲撃があったりするから絶対に無事とは言い切れないものらしい。船が沈むほどの災難に、立て続けに遭遇するってことも皆無ではないからね……。

 同時に、船乗りの仕事は子供でもできることがあるから、ゴーラでも12歳くらいになると船乗りの見習いになって孤児院を出ていく。今孤児院にいる16人は、全員10歳以下の子どもたちなのだとか。

「説明ありがとう、色々知っててえらいね!」

「う、うん」

 えらいえらいと頭を撫でたら、セスくんは帽子をぎゅっと握って戸惑ったような顔をした。この帽子はお気に入りなのかな? と思ったらコロボックル族は帽子がないと落ち着かないんだって。へー、そういう種族なんだ、なにか理由あるのかな。

「コロボックルって「フキの下の人」って意味だったよな。リアルでも葉っぱ持って傘みたいに差してる姿で表現されてるだろ? だから葉っぱの代わりに帽子なんじゃないか?」

「あ、そういう……イオくん本当に何でも知ってるな!?」

 いや、ほんとに何でも知ってるな!? コロボックルってどこの妖精? あ、アイヌのってことは北海道かー! 勝手に外国の妖精さんかと思ってたよ。


 おぼうしすてきー。テトのぼうしもあるかなー?

「猫用の帽子かあ、あると良いね、探してみようか」

 しろいのがいいなー。ナツもおそろいにしよー?

「うーん、見つかったらそうしたいねえ」

 どこかで契約獣専用アクセサリとか売ってないだろうか。人間用の帽子は探せばあると思うんだけど、テトにぴったりの帽子はなかなか難しいぞ。

「セスくんは何歳なんですか?」

「僕、7歳」

 僕がテトとほっこりしている間に、如月くんがセスくんに話しかけている。へー、7歳かあ。外見はすごく小柄だけど、しっかりしてる感じがするもんねえ。

「ゴーラは、海が近いから、食べ物はたくさんある。だから、お薬とお札は、とても良いと思う」

「他に欲しいものとかない?」

「よくわかんない。遊ぶもの?」

 おもちゃかあ。うーん、残念ながら僕の手持ちに遊びにつかえそうなものは……。あ、待って本がある。ラリーさんのところで買った「基本の契約獣」と、「鉱石の輝き」。ねずみくんの冒険はテトのお気に入りだからあげられないけど、この2つは僕が趣味で買った本だし、もう読み終わってるから寄付してもいいかも。どうしても手元に置きたいなら、サンガに戻ったときに買い直せばいいし。


「孤児院のみんな、文字は読めるかな?」

「んと、6歳から文字習う」

「じゃあ大丈夫かな」

 ラリーさんのところの本、全部ちゃんとふりがなをふってあるし、この2冊の本はイラストが大きいから、文章が読めなくても楽しめるやつだと思うんだよね。一応イオくんに相談してみると、「いいんじゃないか? 喜ばれそうだ」とGOサインをもらえたので、これも差し入れに決定。

 そうと決まれば、さっきからテトにそっと触ったりしつつそわそわしているセスくんに、スペルシア教会とそれに併設の孤児院までご案内していただきましょうか。

「テト、セスくんのこと教会まで乗せてあげてくれる?」

 いいよー! ナツがおねがいするならとくべつねー。

 にゃーんとご機嫌に了承してくれるテトさん、おおらかで良い子だと思います。なんだかんだお願いすれば断らない、うちの子とってもえらい。

「乗せてくれる?」

 ぱあっと表情を輝かせたセスくんを、如月くんがひょいっと抱えあげてテトの上に乗せてくれる。ふわっふわのテトの上に乗っかったセスくんは、わあっと歓声をあげた。視界が高くなったのが楽しいらしい。

「じゃあセスくん、教会まで一緒に行こう!」



「ヴェール? それ、たぶん、ルーア姉ちゃんのだ」

 テトの背中でセスくんはだいぶはしゃいでいたので、会話もはずんだ。孤児院ではやっている遊びとか、人気の職業とか……意外なことに漁師より職人系の職業のほうが人気らしい……どんな勉強をするかとか。

 その流れで僕達がサンガからヴェールを届けに来たんだよって話をしたところ、セスくんには心当たりがあったみたいだ。

「ルーアさん?」

「うん。今、出張中だって。もう少しで戻ってくるけど」

「出張……あ、もしかして、湯の里に?」

「湯の……? わかんない。鬼人さんたちの集落って聞いた」

「湯の里だあ」

 なんか聞いたことある名前だな? と思ったら、湯の里の教会にいたシスターさんだ! 黒髪で小柄な……きのこご飯に熱い眼差しを向けていたシスターさん。確かルーアさんって名乗ってたはず。

 僕達がシスターさんって呼んでも通じるんだけど、この世界の住人さんたちは「教会の管理者」って頑なに言うので、僕達の話す言葉も自動翻訳されてるんだろうなあ。確か、湯の里の教会にはサンガから2人、ゴーラから2人の管理者さんが来てるって話だったっけ。


「僕達、湯の里でルーアさんに会ったよ。新しい教会に派遣された人かと思ってたけど」

「ルーア姉ちゃんは、結婚があるから。教育? のために短い間だけって言ってた。けど……」

 セスくんはなにか言い淀んで、しょんぼりと肩を落とした。もうすぐ結婚なんておめでたい話題のときにする表情じゃないな。

「なにかあった?」

 ちょっと声のボリュームを落として問いかけてみると、「うん……」と頷いたセスくん。周囲に誰もいないことを確認してから、小さな声で応えた。

「ルーア姉ちゃんの結婚相手。まだ、帰って来ないんだ」

「帰って来ない……?」

「海から。……なんか、タコの化物が出たって」

 ……あー! ヴォレックさんが言ってた「タコ野郎」だ! 沖の方の海に、巨大なタコの魔物が出たってやつ! こんなところで話題に出るとは思わなかった。

 あれ、でも待って。あの魔物のせいで海から帰ってこないって、それってつまり。

「そ、遭難……!? あ、いや海だから海難事故!?」

 それって結構まずい話なのでは?

 と思ってイオくんに視線を移すと、眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。ついでに如月くんにも視線を向けると、「それは心配ですね……」とこれまた難しい顔をしている。


 まいごー? テトさがしてあげようかー?

 こてーんと首をかしげたテト、なんて心優しい猫なんだ。撫でましょう。でも海はすごく広いから、闇雲に探しに行っても見つからないと思うよ。

 むむー。テトできるもんー!

「まあまあおちついて。海に詳しい人に話を聞いてからにしようね」

 いや、でも思ってたより重い話になってきた。ルーアさんの恋人さん、大丈夫だろうか……?

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