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37日目:お昼は豚肉料理

 南門前から、南北通りを北へと進む。

 朝南下してきたときには閉まっていた店が開いてたりして、家具の店や布地の店を興味深く冷やかしながら、ギルド前通りと交差する地点まで戻った。

 港は相変わらず人が多いけど、もう11時近いから帰る人も多い。そんな人の流れを横切って、南北通りの北方面経と足を運んだ。こっちは魚介以外の食材の店とか、服屋さんとか、喫茶店なんかもちらほら。

「ゴーラは建物が全部真っ白の壁で統一感あるから、すごく見栄えがするよねえ」

「昨日も思いましたけど、リアルだと地中海の町並みっぽいですよね」

 そうそう、昨日西門から見下ろした町並みがまさにそれっぽかった。僕は海外に行ったことないから旅行番組の情報だけど、リゾート地っぽいよね。

「あ、貝殻に彫刻刻まれてる! すごい細かい」

「ナツ、この辺土産物屋だぞ。お前サンガで色々頼まれてなかったか?」

「うーん、本があったら欲しいけど……」


 そう言えば昨日ぶっ倒れた原因になった、魔光貝。ちゃんとインベントリに入ってたから<鑑定>してみたんだけど、かなり品質が低かったのでお土産にはもっと良いものを選びたいな。レストさんには普段からお世話になってるし……今日もテトビタを納品しなければ。

 テトビタの売上、結構馬鹿にならないくらいあるんだよね。副収入があるのって地味に助かる。クエスト何もできなくても、絶望的にお金がない! とかにならないので。

「そう言えば、テトがモデルになったテトビタDの瓶、可愛くて好評だったから別のデザインを作るんだって」

 テトのびんー!

「瓶のデザインを描いてくれたサリーさんっていたでしょ? テト覚えてるかな? あの人がレストさんのお店にテトビタを買いに行って、ミィティさんに出会って意気投合したらしくてね」

 レストさんからは結構頻繁にフレンドメールが届くんだけど、最近俺の店がかしましいんだよぉ……と愚痴っぽく書かれていた。常連さんに女性が増えたのは華やかで良いんじゃないかと思うんだけれども。

 ミーアさんとの進展どうなったのかとか聞きたいのに、そっちは全然教えてくれないんだよなー。照れ屋さんめー。

 あたらしいびんもほしいのー。

「僕も欲しいから、次サンガに行ったら買いに行こうね」


 そんな話をしながら、いくつか気になった店を冷やかして行く。イオくんがヨンド直送乳製品のお店で動かなくなったりとか、如月くんが双剣ホルダーを見つけて真剣に悩んだりしながら、サンガとの違いを楽しんだ。

 サンガは全体的に、小洒落たお店が多い。デザインに凝ってる、センスがあるなあって思えるような外観の店が人気らしくて、それぞれに趣向を凝らした感じ。

 それに比べるとゴーラは全部同じ壁の色だからってのもあるんだろうけど、街全体が統一感ある代わりに、1つ1つの店はシンプル。外から見て何のお店なのかわかりやすくするためなのか、扉が開け放たれて中が見えるようになっている店が多い。ザ・開放感って感じ。

 お昼ご飯を食べる店も探していたら、港から引き上げてきた漁師さんたちが「今日の白浜の風亭のスープはトマトスープ」という噂話を耳にしてしまった。トマトスープか、じゃあ新規開拓のほうがいいかな。僕個人的にはトマトの酸味のあるスープ大好きだけど、酸っぱいとテトが飛び上がっちゃうからな……!

 今日のお昼は……できればお肉がいいなあ。海の幸が美味しいのはわかってるけど、昨日はずっと海鮮だったからさあ。美味しいものでも食べ続けると飽きちゃうから、適度に違う味を挟みたい。

「ナツ、そんなに腹減った顔するなら、なんかつまんでおけよ」

「ぐっ、思わず顔に出てしまったか……!」

 ナツはらぺこさんなのー? テトもー!

「テト、一緒に飴食べようね」


 わーいと喜ぶテトにさっき買った猫の飴をあげて、自分も1つ食べる。お昼ご飯までのつなぎだけど甘いものは幸せを呼んでくれるのでいつ食べても良いものです。

 そんな僕達に、如月くんが近くのお店を指さしてくれた。

「あ、こことかどうですか? ファミレスっぽい」

「お肉ある?」

「ナツ、お前……」

 若干呆れた顔するイオくんだけど、イオくんもどっちかといえば魚より肉派なのは知ってるのである。えーと、メニューの看板を読むと……パスタとかオムレツとか、洋食屋さんかな? 無難な感じがする。

「うーん、アサリのパスタとか美味しそうではあるけど、今日は肉が食べたい気持ち……」

 ここも魚介系のメニューがメインだなーと思って呟くと、如月くんが「わかります」と頷いてくれた。

「俺もどっちかって言うと肉がいいです。魚は昨日食べたので」

 お肉に2票目が投じられたので、イオくんに視線を移すと、

「俺はどっちでもいい」

 というシンプルな返事をもらった。では、多数決でお肉でよろしいか。じゃあまた店探しを再開……と思ったら、2件隣にあったよ、肉料理出してる店が。


「ワイルドピッグ専門店あるじゃん!」

「おー、豚肉料理か」

「やった、ソテー!」

 そう、南門の近くに出るというワイルドピッグ。その肉を使った料理の専門店が堂々と店を構えていた……! これは入るしか無くないですかイオくん! と意見を求めてみると、イオくんは僕と如月くんの表情を見て鷹揚に頷くのであった。これは……許された!


 今日のお昼ご飯は、ワイルドピッグ専門店「ワイルドハート」に決定! 


「俺はジンジャーソテーで!」

 席に案内されてメニューを開くなり、即決したのは如月くんである。如月くんって何か決めるとき色々迷う慎重派のイメージだったけど、お肉に関しては迷いがないな。

「俺はアスパラの肉巻きにするかな。ナツは?」

「チーズロールカツ……! 絶対美味しいやつ!」

 僕も今回ばかりは迷うまい。チーズと豚肉を揚げたら美味しいに決まっているのである。

 「ワイルドハート」はお肉の専門店なので、客入りはそこまで多くない。ゴーラは新鮮魚介類が流通しているのもあって、あまりお肉の人気がないらしい。それでもちらほらトラベラーさんの姿が見えることを考えると、今後はお客さんも増えそうな気がするね。

 お店の従業員さんは、テトの姿を見ると奥の方の半個室の席に案内してくれた。6人がけの大きな席にゆったりテトがくつろげる、とても素晴らしい心遣いに感謝しかない。テト用にゼリー出してもいいですか? って聞いたら笑顔で了承してもらえたし、良いお店だなあ。


「はい、テトはゼリーだよ。全部食べてね」

 きらきらのゼリー! ありがとー!

「なんだそのゼリー。どこかで売ってたか?」

「イオくん、これはね。宝石店の店主さんがテトにってくれたゼリーです」

「ああ、なるほど」

 まじまじとゼリーを見つめるイオくん。見た目がきれいなフルーツゼリーだから、興味が湧いたのかもしれない。イオくんの場合、作ってみるかなって方向の興味だと思うけど。

「寒天はあるだろうと思ってたが、ゼラチンもあるのか」

「……僕、その2つの違いわかんないけど、あるんじゃないかな? このゼリー日持ちしないと思うし」

 絶対ゴーラで作られてるものだと思うんだよね。マレイさんの手作りかもしれないけど、このクオリティの高さだったらお店で売っているものの可能性が高いんじゃないかな?

 お菓子類を売っているお店は、ゴーラの表通りにはあんまりなかった。裏通りにあるのかもしれないけど、そうなると誰かに教えてもらわないとなあ。

 と、思っていたところ。


「あら、満月堂のゼリーですね。きれい」

 と、料理を運んできてくれた店員さんが言った。……早速情報が手に入りそうだね?

「満月堂、ですか?」

「ええ、一つ裏の通りの有名店なんですよ。季節ごとに色々なゼリーが売ってて、見た目にもきれいでなので。女性に特に人気があるので、男性は少し入りづらいかもしれませんけど」

 店員さんはそう言って、僕にショップカードを1枚渡してくれた。水彩画のような夜空の絵が描かれたショップカードには、「甘味・満月堂 夜空通り3番地」という文字が白抜きで入っている。レアカードではないみたい。

「夜空通り……きれいな名前の通りですね!」

「ゴーラの通りの名前は、自然や景観からつけられた名前が多いんです。夕暮れ通りとか、海風通りなんかもありますよ」

「へえ! いいですねえ」

 海が近いから、自然を身近に感じるのかな? そういうのも街の特徴みたいな感じで良いよね。もう少し詳しい話を聞きたかったんだけど、店員さんは忙しいみたいですぐ離れてしまった。むむむ、残念。


「お店の店員さんって名前聞きづらいな……!」

「昼の飲食店の店員は無理だと思うぞ、ナツ」

「それもそうか……!」

 飲食店ってそうでなくても忙しいもんなあ。もっとゆったりしたお店なら、雑談も気軽にふれるんだけど。店員のお姉さんの名前は聞けなかったけど、代わりにショップカードを手に入れたから、まあいいか。後で必ずこの宝石のようなきらきらゼリーを入手しなければ。

「まあ、ゼリーは後でな。料理来たから食べるぞ」

「はーい、いただきます!」

「いただきます」

 いただくのー。

 うん、テトさんはゼリーをまた飽きずに眺めているけれど……。お店の場所を聞いたから、そのゼリーは今食べちゃってください。

 わかったのー。

「よろしい。後で一緒にゼリー買いに行こうね」

 わーい!


 ところで、豚肉と言うとどんな料理を思い浮かべる?

 僕はダントツにカツ丼。やっぱ豚肉は揚げて食べるのがうんまいのだ。ジューシーなロースカツをそのままサクッといただくのも美味しいけれど、玉ねぎといっしょに甘じょっぱく煮込んで卵を絡める……至高の料理ではあるまいか。やはりカツ丼が優勝。米と一緒にいくらでも食えるのである。

「俺は生姜焼き派だな」

「あー、イオくんは焼き派かー! いやわかる、うまいよね生姜焼き。濃いめの味付けがまた米によく合う……!」

「イオさんなんでジンジャーソテー頼まなかったんですか! めっちゃうまいですよこれ!」

「生姜焼きは薄切りが好きなんだよ」

「あー!」

 如月くんの注文したジンジャーソテー、薄切りというにはちょっと厚みのある豚肉だもんなあ。イオくんが生姜焼き作ってくれるときは、いつも薄めのお肉を使っているんだよ、そっちのほうが味染みてうまいんだって。僕は薄くても厚くても美味いと思います。

「如月くんは? 豚肉と言えば」

「トンカツですね、カツ丼もうまいんですけど、俺はあのサクサク衣派です」

「それもわかるー!」


 僕個人としましても、サクサク衣のトンカツと味染み満点のカツ丼は甲乙捨てがたいものだと思うのだ。でも好みの問題としてカツ丼派。なぜなら紅生姜を添えて七味を振ると味変ができて、2度楽しめるので。

「でもそれはそれとしてチーズロールカツもめっちゃ美味しい。チーズの味がすごく良い。特に、この特製のソースが素晴らしい仕事してるんだよイオくん、これ再現できる? 揚げ物全般何にでも合いそうで売ってたらぜひ買いたいレベルなんだけど」

「どれ、ちょっとくれ」

 スプーンでちょっとだけソースをすくっていくイオくんである、料理人の行動は素早い。ソースは別皿で出すタイプのお店で良かった。

「リアルで売ってる一般的なソースより、なんだろう、野菜の甘味が強いのかな? でもそれだけじゃなくてなんかこの国特有のスパイスが入ってる気がする。甘めなのにちょっと後味ピリっとする」

「面白い味だな、これ再現できたら捗る」

「ぜひお願いします!」


 やった、食卓の揚げ物が一段階進化するぞ!

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― 新着の感想 ―
わー!トンカツおいしいですよねぇ。私は気分次第かもしれません。 サクサクの衣がほしいときとお出汁の味がほしいときがあるので。 トンカツはロースカツよりもヒレカツ派です。カツ丼はとろとろ卵が大事。
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