37日目:石にも色々あるもので
ロミがねー、すてきっていみだよーっておしえてくれたのー。
「ロミちゃん情報でしたか……!」
じゃあしょうがないか。友達が使ってる言葉無駄に使いたいときって、僕もよくあるし。なんかこう、イオくんが使ってる単語全部かっこよく聞こえるみたいな……!
判決:マーベラスは無罪。
「それはそれとしてたこ焼きめっちゃ美味しい。とろっとろ」
「関西のたこ焼きはこれらしい。店主が言ってた」
「こだわりなんだなあ」
トラベラーさんの屋台、最近では結構見るようになっている。イチヤが一番多いみたいだけど、ロクトとかあんまり食品関係が良くないらしく、今だんだん増えていっているのだとか。特にお祭りで食べられるような食べ物が人気で、りんご飴はイチヤで大ブレイク中らしい。
「サンガは?」
「サンガはもともと屋台多いし、競争率高いからトラベラーはあんまり出店してないらしいな」
「あー確かに。屋台多いし美味しいお店も多いしで、売れにくいかもね」
せっかく屋台を出すならば、いっぱい売れてほしいよね。だったらわざわざ競争率高いところに挑まなくても、もっと売れるところで……ってなるのは理解できる。
「んで、ゴーラは海産物を使った店が多い、と」
「たこ焼き最高!」
たこやきおいしー!
本場の食べ物が一番美味しい、ってことだね!
そんな感じにわいわいしていると、たこ焼きはパスして飴を食べていた如月くんが「あ」と声を上げた。
「お店、開きましたよ」
と教えてくれるので、僕も慌ててたこ焼きの最後の一個を口の中に押し込む。程よく冷めていたそれを急いで噛んで飲み込んだ。よし。
「9時だ!」
ぴょんっとベンチから立ちあがると、隣のテトもちょっと遅れてぴょいんと飛んだ。イオくんも如月くんも食べ物をインベントリにしまって、僕達のところにやってくる。
「どこから行く?」
「えーと、まずは宝石の原石からかな?」
お値段的に、宝石店よりずっと敷居が低い。それに、店が近いし。
南門から一番近い、宝石の原石のお店。開店したばかりのそのお店は「ジェムランド」。なんか美味しそうな名前だな……って思ってたらイオくんに「ジャムじゃねえからな」と念を押された僕です。なんで分かるかな? イオくんたまに僕より僕の理解度高い。
これなあにー?
と店頭に置いてある石を不思議そうに見つめるテトさんに、「宝石の元になるやつだよー」と返事しつつ、早速中を物色……っと。
加工前の原石も当然あるとして、他にも安価な天然石が結構置いてあった。小さいし、不純物も結構混ざってそうだけど、色とりどりできれいなのでテトも楽しそうに見ている。
「おお、結構アクセサリに使えるやつがあるね。たくさん買いたいかも」
「どんな効果つくとかわかるのか?」
「えーとね、方向性だけだけど、こっちのは魔法に関する何らかの効果とか、体力に関する何らかの効果とか、そんな感じの<鑑定>結果になってる」
「へえ」
アナトラでは、<鑑定>レベルが上がっても、確実にこの効果がつきます!って結果にはならないんだよね。アクセサリもだけど、武器の追加効果とか、強化とかも、「こういう方向性だよ!」までしか教えてくれない。
特定の範囲内で完全ランダムって話もあるし、加工系は奥が深い。
不思議と、住人さんから教えてもらったレシピに限っては、毎回同じ効果になる。僕の<魔術式>もそうだけど、街中で拾った魔術式は住人さんたちが作るものだから、レシピ通りのお守りやお札は効果が固定。でも、自分でオリジナルのお守りとかお札を作る場合は、完成させるまでどの図案でどんな効果になるかはわからない。
お守りとかなら同じ図案で作れば同じ効果になるからまだいいけど、アクセサリは同じ素材を使って作っても、毎回効果が違うから、完全に一点物になるらしい。そうなると、狙った効果がつくまで同じ素材で粘る人も出てくるだろう。
こういうの、実は僕よりイオくんのほうがこだわるんだよなあ。
「同じ形状で別の効果が乗るのは沼」
「イオくん今からでも<細工>覚えない?」
「俺の睡眠時間がなくなるからやめとく」
「だよねえ……」
イオくん、納得行くまで試行錯誤し続けるからな。僕はそこそこ良いのができたらそこですぐ妥協するけど。如月くんはどう? と聞いてみると、「俺もこだわっちゃう方ですねー」とのお返事でした。むむ、妥協しない姿勢、とてもえらいと思います。
「テトは欲しいものあるー? 天然石ほしかったら買おうか?」
んー。このむらさきのー。あめ……じすとー?
「アメジストかー。天然石の代表格だねえ」
僕でも知ってるパワーストーンである。厄除けに使われてたこともあるんだったかな? 別名紫水晶……ということで、僕の杖ユーグくんにも使われている。と教えてあげたところ、テトさんは目をきらきらさせて「ユーグせんぱいとおそろいー!」と喜んだ。うむ、先輩後輩仲良しでよろしい。
とりあえずステータス画面から辞書機能を使って調べつつ、良さげな天然石をいくつか買った。もちろん、テト用にアメジストも買ってあげたところ、早速影から宝箱を呼び出して大事にしまい込んでいたよ。大事にしてね。
「なんか全部似たような名前だから、何がなんだか。とりあえず色がきれいなのを適当に買ったけど」
効果とか石言葉とかあるんだ? よくわかんない……石の世界、なんか深いなあ。
「ナツさん、ちなみにそのアメジストは薬になる石の一種です」
「えっ!?」
「まあ昔の話ですけど。リアルでは不老不死の薬だったとか?」
「如月くんなんでそんなこと知ってるの? 天才か」
「え、いやいやいや。普通に辞書で調べました!」
なんか必死で手を横に振る如月くんである。素直に褒められていればよいのに、正直者め。
「アナトラ世界でも薬の材料になる?」
「一応レシピはあるっぽいですけど、俺のスキルレベルじゃまだまだ使えませんね」
「あるんだ……」
調薬、なんかゆくゆくはすごいもの作り出せそう。如月くんがスーパードクターになる日もそう遠くないかもしれない。
イオくんが包丁用の砥石に夢中になっているので、僕達はそれぞれ好きなお店に入って1時間後に再集合することにした。テトはもちろん僕と一緒に来てくれるとても良い子である。そのテトの大プッシュがあって、見るからにきらきらした、高級そうな宝石店にそーっと足を踏み入れる僕である。
ここならまだ大丈夫、高級感は、場違いだとは感じるけど恥ずかしくはない。ダナルさんのお店みたいな完全女性向けファンシーに比べたら、上品で敷居は高いけど、拒否感はないのだ。
「いらっしゃい」
カランときれいな音を立てて開いたドアの向こうから、落ち着いた女性の声がかけられる。すらっと背の高い獣人さん……羊さんかな? くるっと円形に丸まったような角を持った、きれいな女の人がいた。エレガントな白いドレスみたいなのを着ていて、上流階級の雰囲気を醸し出している。
「あら……随分可愛らしいお客様ね」
うわー、すごく上品。なんかこう、付け焼き刃のマナーとか笑い飛ばされそうなレベル。ちょっとだけ態度を取り繕うかどうしようか迷ったけど、イオくんならまだしも僕に品とか求めるほうが間違い、と思い直して普段通りに元気なご挨拶をすることにした。
「こんにちは! 僕はトラベラーのナツ、この可愛い白猫さんは僕の契約獣のテトです、よろしく!」
テトだよー。おねーさんしろいおようふくすてきー!
「あらあら。トラベラーさんなのね、ようこそ『エタンセル』へ。私は店主のマレイ、どうぞよろしくね」
羊獣人さんだと思うけど、髪も真っ白で、瞳だけが深いオリーブグリーンだ。同じ白同士、テトには多少近しいものを感じてくれたのか、機嫌良さそうに巨大猫の毛並みを撫でてくれている。
「このお店絶対に高いんだろうなあとは思ったんですが、家の可愛いテトがどうしても入りたいというので見に来ました。冷やかしですみません」
とりあえず正直にそう言ってみると、マレイさんは「あら、うふふ」と実に品よく笑ってみせた。うーん、お城が似合いそう。すっと流し目が僕に向けられ、続いてテトに視線が移る。
「テトちゃんは宝石がお好きなのかしら」
だいすきー! きらきらしてるのみるとねー、うっとりーってなるのー。
「キラキラしてるものが何でも大好きなんです。うっとりしちゃうって」
「まあ、わかっているじゃない。よろしいわ、軽く見せて差し上げる。でも、オイタはだめよ? このお店にあるものは、御存知の通りとってもお高いの」
マレイさんはきらびやかな店内の奥にある、商談用のテーブルセットを指さした。「あちらへどうぞ」と促されて、テトが嬉しそうについていくので、僕も契約主としてその後に続く。
……お金あんまりないからね、テトさん。ここでねだられても何も買えないから、そこんとこよろしくね……!!
僕の祈りが通じているのかいないのか、テトはキラキラに囲まれて夢心地のようだ。天井からぶら下がっているシャンデリアにさえ、「すてきー」と呟いている。う、うーん。どうしよう、将来的に拠点が持てたとして、僕自分の家をここまでキラキラにできる自信はないぞ……!
せめてなんか素敵なランプは探そうと心に誓いつつ、シックな革張りのソファにそっと座るのであった。
……この場違い感よ……!
テトさん、爪は引っ込めといてね……! わかってる? えらい!
「ロクトは鉱石の街、宝石も金属も無尽蔵に採掘できる素晴らしい金脈なのだけれど、ロクトの恵みが何から来ているか、トラベラーさんはご存知かしら?」
音もなく静かに向かいに座ったマレイさんは、そんな問いかけをしてきた。無尽蔵に採掘できる、ってうのは初めて知ったけど、もし本当にそうなのだとしたら多分なにかすごい人が力を貸しているんじゃないかな?
「神獣さんや、聖獣さんが関わってるんでしょうか?」
僕が答えると、マレイさんは「正解よ」と微笑んだ。良かった、当てずっぽうでも当たれば勝ちである。
「ロクトの地中深くには、地竜様が眠っておられると言うわ。ロクトに様々な鉱石が生まれるのも、その地竜様のおかげ。地竜様はその力のすべてを大地に注ぎ続けている、故に、ずっと眠ったままお目覚めにならない……と言われているのよ」
「へえ!」
ロクトにいるのは地竜さんかあ。可能なら会いに行きたいけど、ずっと眠っているんじゃ無理かな? ラメラさんに知り合いか聞いてみよう。ラメラさんが知らなくても、ルーチェさんが知ってるかもしれないし、グランさんやエクラさんにも聞けるかも。
「そんなロクトでも、10年に1度しかお目にかかれないという幻の宝石があるの。とてつもないお値段だけど、とてもキラキラしているから特別に見せて差し上げるわ。テトちゃんはキラキラしたものが好きなんでしょう? きっと気に入るでしょうから」
きらきらー?
「え、見せてもらっちゃって良いんですか?」
「うふふ。だってとても素敵なんだもの、誰かに見せびらかして自慢したいわ。とても高価だからゴーラでは買い手がつかないの、ここからヨンドへ渡って、ナナミへ引き渡され、星の民が求めるでしょう」
「貴族さんしか買えないほどのお値段かあ……」
「あなたはぼんやりして見えるけどそれなりに頭も回るわねえ」
にっこりと微笑むマレイさん。その微笑みの意味って何……? って思う僕である。でもなんかよくわかんないけどマレイさんがすごく珍しいものを見せてくれるっていうので、ぜひ見せてもらっちゃおう。
人の好意に遠慮はしない!
「その宝石って、なんて名前なんですか?」
僕の質問に、マレイさんはそれはそれは美しい微笑みで応えた。
「この世で最も尊いものが太陽ならば、その光の恵みを受けて輝く星こそが、民の求めうる至上の光。夜空に輝く一等星の名を授かることこそ、宝石の最上位である証とされるわ。だから……その石は『シリウス』と。昔、昔の王様が名付けたの」




