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36日目:満足の夜なのだ

 おーいしーい♪


 にゃああん♪ とご機嫌の鳴き声を上げたテトに、店員さんの目尻も下がる今日このごろである。当然僕の目尻は下がりっぱなしだけれども。

 そんなテトさんがちまちまと舐めているスープは、全員が注文しているアサリの塩スープ。どれどれ、僕も一口……うん、美味しい!

「めっちゃ良い出汁出てる、味付けは塩のみでシンプルなのが素材の美味しさを引き立てて、実に上品なお味……!」

「あっさりめだな。美味い」

 イオくんも気に入っている様子だ。お昼があの激うまスープでなかったら、もっと感動できたかもしれないけれども。でも具材量からしても向こうの圧勝だし、こっちはあくまでメインではなく、海鮮丼のお供。役割が違うのだ。

「あ、マグロめっちゃ美味いですよ。口の中で溶ける……!」

 一足先にメイン料理に手を伸ばした如月くんは、目を輝かせてそんな食レポを披露してくれた。如月くんも僕達と同じで魚より肉派なんだけど、それでもこの顔になるということは相当美味しいのだろう。では、僕もおまかせ海鮮丼を早速……!


 箸を構えてタレをかけ、まずは……当然ホタテ!

「柔らかい……! そしてタレの爽やかな感じ、何か柑橘系のフルーツ入ってそう。リアルでよくあるタレと違うけど、すごくさっぱりしてていくらでも食べられそうな感じ……! 量多いかなと思ったけどこれなら全部食べられる……!」

「相変わらず食レポうまいな……」

「イオくんも早く食べなよ! これすごいよ! 噛めば噛むほど味が広がる……! あとタレが素材の味を邪魔しなくて良い感じに調和する!」

 ホタテは最高なんだ、僕は知ってるんだ。バター醤油で焼くとぷりっとした弾力がめっちゃ良いし、刺し身でいただくと柔らかくてこれもまた良し。食べごたえがあって、さっぱりしたタレによく合う!

「くっ、このタレ意外とお米にも合うじゃん、卑怯だよこんなの」

「胡椒も入ってるかこれ? 美味いな」

「でしょう」

 あ、ダナルさんもちょっと得意げな顔をした。自分が美味しいと思っているお店を褒められたら嬉しいよね、わかる。僕も街ゆく誰かがヴェダルさんのお店を褒めてたら、めっちゃドヤってしまうと思う。

「でも、こんなに美味しい生魚を食べられるのはゴーラだけだから、そこは気を付けて。魚は鮮度が良くないと、生では食べられないからね」

「それはよくわかる。俺が市場で買った魚を生で食べようと思ったら、なにか注意することはあるか?」

「必ず【クリーン】を魚にかけること、かな。体に悪いものを除去してくれるよ」

「なるほど、勉強になる」

 お、イオくんお刺身も作ってくれる予定かな? 楽しみが増えたね!



「お腹いっぱーい!」

 おいしかったのー♪


 お店の外に出たときには、すでに周辺はすっかり夜だった。星空がきれいだなーとしばし見とれて、幸せな気持ちに浸ってみる。

「めちゃくちゃ美味しかったです、ダナルさんごちそうさまでした!」

 如月くんが礼儀正しくお礼を言うのに便乗して、僕達もお礼を言うと、ダナルさんはちょっと照れくさそうに頭を掻いた。「どういたしまして」と控えめに微笑んでから、海の方へ視線を移す。

「夜の海辺も、なかなか美しいよ。運が良いとホタルイカの光が遠方に見えるんだ」

「ホタルイカ……! って美味しい?」

「美味いぞ」

「お二人共……いや、食べられるかどうかは大事ですけども」

 如月くんにはちょっと呆れられましたが、食べられるかどうかはとても重要なので……! でも遠方ってことは捕まえるのは無理そうだなあ。近場だったら、テトにちょっと乗せてもらって【フロート】を使ってゲット……とかも考えたんだけれども。


 ナツー! テトおさんぽいきたいのー♪

「うむ、テトのお望みとあらば! イオくん、浜辺に散歩行こう。如月くんも一緒にどう?」

「お供します」

「しゃあねえな」

 テトのかわいいおねだりに勝てる理由もなく、僕達はダナルさんと別れて浜辺に降りることにした。思えば今日ずっと港にいるなあ。まあ、そのためにゴーラに来たようなもんだし、楽しいから良いんだけど。

 海岸通りを抜けて港へ出ると、夜の港は静まり返っていた。まだ暗い早朝が一番活気があるらしく、夜の漁をするような船は夕方にはもう出港するってナムーノさんも言ってたっけ。ってことは、今の時間帯が一番静かなタイミングかもね。

「テト、浜辺に行くのか?」

 すなはまー!

「砂浜行きたいって」

「ロミちゃんと競争する約束してましたもんね。予行練習ですか」

 あ、なるほど。競争会場の下見か、テトも勤勉だねえ。


 意気揚々と先頭をゆくテトさんは、尻尾ぴーんと立てたご機嫌な様子で港南方の砂浜を目指す。時々ちらっと後ろを振り返って、僕達が後ろにいることを確認して満足そうな顔をするのであった。行列を率いてる隊長気分なのかな? 

「おお、ナツさん、向こうにぼんやり光が見えますよ」

「え、どれどれ? ……ほんとだー!」

「ホタルイカかあれ? 船の灯りじゃねえかな」

 如月くんが沖の方を指差すのでそっちを見ると、確かに、かなり遠方で光がゆらゆらと揺れているのが見えた。イオくんが言うように、結構はっきりした光なので、船の光かも。夜に光を掲げて漁をするのって、イカ漁じゃなかったっけ? ぽつぽつといくつも光が浮かんでいて、ちょっと幻想的だね。

「テトー、向こうに船の灯りが見えるよー」

 どれー?

 先ゆくテトに声をかけると、テトはわざわざ僕達のところまで戻ってきて、指差す方を見る。夜に浮かぶ船の光を見つけて、にゃわっと目を輝かせた。

 きらきらー!

「ねー、きれいだね」

 すてきー! うみってきれいー。

 うっとりするテトさんである。確かに、昼間の海も太陽の光を反射して輝いてるし、夜も漁船の灯りがあるし、夕暮れ時の太陽が沈みゆく景色もすごく良いだろうなあ。

 うん、海ってきれいだね。


 そんなきれいな海の景色を堪能しつつ、砂浜に到着。

 砂の上はぐにゃぐにゃして歩きにくいけど、【サンドウォーク】使うのもなんか風情がないし、このままでいいか。テトは足が砂に埋まるのが面白いらしく、ぴょんっと飛んでみたり、しゃかしゃか砂を掘ってみたり、ちょっとはしゃいでいる。

「砂被ってるぞテト」

 イオくんが苦笑しつつテトに近づいていくので、僕も……と思ったその時、なにかが視界の端に引っかかった。うん? と思って海の方へ視線を戻すと、近場の浅瀬に、なにかぼんやりと光るものがあるような……ないような……?

 蛍光塗料みたいなぼんやりとした光があるような気もするけど、ここからじゃよくわからないな。

「ナツさん? なにかありました?」

「如月くん、あの辺になんか光ってない?」

「え?」

 僕の指差す方向をじっと見つめる如月くんも、「光ってると言われれば光っているような……?」という微妙な反応である。

 うーん、もやもやする。確認しようにも海の底では……あ、待てよ。僕の優秀な杖のユーグくん、あのへんで光ってるものがあったら捕捉してー!

「【フロート】」

 

 割とダメ元で風魔法を使ってみると、ぼんやりと光る何かが水面にばしゃりと浮かび上がった。

「お、さすがユーグくん、優秀!」

 僕にもぼんやりとしか捉えられてなかったものをきちんと補足するとは、できる杖である。あとでしっかりぴかぴかに磨いておこう。さて、それじゃあ何が光って……うーん、暗くてよく見えない! 形からすると貝、かな……?

「如月くん何に見える?」

「巻き貝っぽく見えますね」

 如月くんにも貝に見えるなら、もう貝で間違いないだろう。ちょっと離れてるから近くに持ってきたいけど、横移動させるような魔法はないんだよなあ……。<原初の魔法>でなんとかしないと。

 えーと、でも【移動】じゃ僕の手元まで引き寄せるのは無理かも。吸引……はなんか違う、吸い込まないし。引寄……? なんかもっとすぱっと手元に来そうな2文字の漢字……うーん。

 考えていると、いつの間にかテトとイオくんも近くに来ていた。僕が【フロート】で浮かせているほんのり光る貝を見て、イオくんが目を凝らす。

「<鑑定>……魔光貝って、レストが土産にほしいって言ってたやつじゃなかったか?」

「え、あれ魔光貝なの?」

 確かにレストさんからお土産リクエストもらってた貝が、魔力を込めると光るっていう魔光貝なんだけれども。魔力込めてないのにほんのり光ってるのはなんか違うんじゃ?


「レストさんが言うには、最近研究されてる貝って話じゃなかったっけ?」

「確かにそんなこと言ってたな。でも<鑑定>結果には魔光貝って出るぞ」

「うーん? 珍しいものだと思ってたけど、実はそんなでもないのかな。どうにかしてインベントリに入れたいんだけど……」

 うーん、【収納】って叫んだらインベントリに入らないかなあ? と思ったけど、なんか僕のカンが無理そうって言ってる。どうにかあれを手元に持ってくる手段は……。

 あ!

「ひらめいた! えーと」

 僕はとっさに足元に落ちていた平べったい貝殻を拾い上げて、手のひらに乗せる。

「ユーグくん、この貝と、あそこに浮いてる光る貝を……【置換】!」

 唱えた瞬間、手元の貝がシュッと消えて、次の瞬間ほんのり輝く巻き貝が手のひらに乗った。よっしゃ思った通り! 僕割と頭いいことしたのでは!

 と喜んだのもつかの間、ふらっと意識が遠のく。

 ……あれ? もしかしてこれ、MP切れかな?

 確かHPが尽きると死亡になって蘇生が入るけど、MPが切れるとその場で気絶になって回復するまで起き上がれなくなる、だったっけ。死んでないのでセーフ、ではあるけれど……。


 僕、今MP満タンで残ってたはず。

 しかも<原初の魔法>は、使う魔力の半分を周囲の自然から補うっていう、自前のMP消費量がとても少ない、コスパの良い魔法だ。そんな魔法で、一瞬でMP切れになるってことは、今の呪文でめちゃくちゃMPを消費したってことである。

 転移系の魔法が滅んだのって、絶対MPバカ食いするからでは? ちょっと察したぞ。


 ナツー! 

 

 意識がブラックアウトする寸前、慌てたように僕を支えるイオくんと、そんな僕に必死のお顔で飛びかかってくるテトさんが見えた。

 あ、待って待って、僕はか弱いエルフだかr……ぐえ。


 ナツー! しっかりするのー! しんじゃだめなのー!

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