36日目:ダナルさんのおごりで!
ロミー♪
と楽しそうに大きなお馬さんにすり寄る巨大白猫。ロミちゃんもまんざらではなさそうなので、友情はしっかり育まれている模様。
「ロミちゃんのために大きな庭があるんですね」
「うん。馬はやっぱり走れないとストレスが溜まってしまうからね。ここからなら浜辺も近くて良いよ」
さあどうぞ、とテラスのテーブルセットに案内してくれたダナルさんに従い、木製のベンチに座る。ここは「シェルライト」のすぐ左側、店舗に隣接する工房兼ダナルさんのご自宅である。
テトがロミちゃんに会いたくて暴走したあと、店員さんがダナルさんを呼んできてくれてなんとか事なきを得た僕ら。そのまま流れで隣の工房まで連れてきてもらったというわけだ。ちなみに、暴走テトさんが飛び込んだ店舗の方は、やはり女性客がターゲットなのだそうで。
ダナルさんは経営には関わってないから、店構えとかにも意見は出してなくて、自分の店が男性には入りにくい雰囲気だってことは全く頭になかったっぽい。
「妹に引っ張られてアクセサリーショップとか行ったことはありますけど……場違い感が、ちょっと」
と遠い目をする如月くん。だいぶ付き合わされているっぽいな、お兄ちゃん。まあ如月くんほどの面倒見の良さがあれば、頼られるのもやむなしだと思う。兄力が高い。
「基本は避けるタイプの店」
とはイオくん。女性苦手で母親ともそこまで折り合いの良くない、兄弟は全員男のイオくんにはそりゃあ縁がない店でしょうよ。かくいう僕も、お母さんの誕生日プレゼントと母の日のプレゼントを買いに行った事があるくらいかなあ。
「でもテトさんは流石に似合っていたねえ」
なあにー?
「テト、ダナルさんが、テトにはパステルカラーが似合ってたって」
ありがとー? テト、しろとむらさきがすきー。
己の好き嫌いはしっかり主張するテトである。人の意見に流されないしっかりものである。そして好きな色に僕の色である紫を入れてくれる優しさ、プライスレス……。
僕がテトの優しさを噛み締めていると、その間にイオくんたちがダナルさんに聞きたいことをちゃんと聞いてくれている。
「ダナル、武器の強化をしたいんだが、おすすめの武器屋があったら教えてほしい」
「武器屋……イオさんは剣で、如月さんが双剣、ナツさんが杖だね。俺の知り合いで剣の専門のドワーフなら紹介できるけど、杖はわからないな。紹介するドワーフに聞いてみてもらえるかい?」
「ああ、わかった。助かる」
イオくんと如月くんは、しっかりと良さそうな武器屋さんを紹介してもらえたようだ。紹介状ってほどでもないけど、ダナルさんが紹介したのでよろしく、というようなことを書き記したメモも一緒に渡している。どれどれ? と横から覗き込むと、「ラドン工房」というお店が北門の近くにあるようだ。ラドンさんって人のお店なのかな。
「杖の強化できる店、ナムーノに聞けたら良かったな」
「確かに。でもナムーノさんが魔法使えるってわかったの別れ際だしねえ。しかもナムーノさんは追われてたわけだし、流石に無理だったよ」
あの勢いの研究員さんたちが襲ってくる中で、のんびり武器屋さんの話はできない。思いついたとしても多分無理だったと思うよ。
イオくんは他にも色々聞きたいことがあったみたいで、あれはこれはと質問している。今日移動しながら色々考えてたのかな、さすがだなあ。
僕もなにか聞くことあったっけ……と考えてみたけど、唯一思いついた教会の場所はイオくんがしっかり聞いててくれたみたいなので、全部お任せしてしまおう。
ナツー! ロミとのきょうそういつー?
僕が暇になったと判断したらしいテトさんは、ロミちゃんを引き連れて僕達のところまでやってきた。よっぽど競争したかったらしいけど、もう夕方だから今日はだめかな。
「競争なら、よく見えるように昼間がいいね。午前中は港には人がたくさんいるから、午後のほうが良いかな? 今日はもう暗くなるから、また後でにしようね」
ざんねんだけどわかったのー。くらいとナツころんじゃうかもー。
テトがしょぼんとするとロミちゃんがなだめるように顔を擦り寄せている。仲良しだなあ……。別に僕は暗くても転んだりしないと思うけども。テトがわかってくれるのであればまあいいか……。
「あとでダナルさんにも聞いて、ロミちゃん誘いに来ようね」
わかったのー!
無断で外に連れ出すわけには行かないので、ちゃんとダナルさんに筋を通さねば。急に来ても、ロミちゃんがお仕事中で遊べないこともあるだろうし。
「ありがとうダナル。参考になった」
「どういたしまして」
お、イオくんのお話も終わったみたいだね。そろそろ会話に混ざっても大丈夫かな?
「ダナルさん、後でロミちゃんと遊んでも良い日があったら教えて下さい! テトが競争したいって言ってるので」
「うん。2週間位は次の外出はないから、大体いつでも大丈夫だよ。先に俺に声をかけて」
「わかりました、じゃあまたこっちの工房の方にお邪魔しますね」
お店には行かないぞ。今日ちょっと気まずい思いをしたからね……! 店員さんたちが白い目で見たりはしないだろうけど、僕がちょっと気になっちゃうからな。
「日程はあとで調整するか。それよりナツ、海鮮丼と海産物系のピザだったらどっち食いたい?」
「生魚!」
「海鮮丼だな、よし、夕飯決定!」
「やったー!」
わーい!
僕が喜ぶと、僕大好きなテトさんもぴょいんぴょいんしながら喜んでくれる。この子はずっと僕が嬉しいなら嬉しいスタンスなのでめっちゃ優しいなって思います。契約獣の鑑ではあるまいか。えらいので撫でます。
わしゃわしゃとテトを撫で回していると、ロミちゃんも控えめにそっと頭を近づけてきたので、そっちもまとめて撫でる。お馬さんもかわいいなー! めっちゃブラッシングしたいけど、これから夕飯なので我慢しましょう。
「ロミちゃんもお仕事頑張っててえらいねー! 足早くてすごいぞー!」
褒めながらわしゃっていたら、何故かテトさんは胸を張ってドヤ顔を披露しておりました。友達が褒められて誇らしいのかな。君も友達思いでえらい!
「おーい、ナツ。テトとロミに埋もれてんなよ、もう行くぞ」
「はーい! ロミちゃんも一緒に行くの?」
ダナルさんはちょっと申し訳無さそうに首を振った。ロミちゃんは体が大きいからお店に入ると場所を取っちゃうから……という理由で連れて行ったことがないらしい。言われてみるとそれはそうだね、テトだってロミちゃんよりはだいぶ小さいけど、それでも人1人分の席は占拠するわけだし……。
「小さくなれたらよかったんだけどね」
「それは難しいですね……!」
むむー。ロミ、きょうそうするときはイオのごはんいっしょにたべようねー。
お、テトさんそれはとっても良いフォローだぞ。許可が出たら、イオくんの美味しいシチュー出してもらっちゃおうか? あれは貴重な食材だけど僕はエリクサー使っちゃうタイプだし、テトの大事な友達だもん、許可が出る可能性は高いと見た。
名残惜しくもロミちゃんに別れを告げ、ダナルさんが案内してくれたお店は同じ海岸通り沿いにあった。もっとギルド前通りよりの小さなお店で、「海の夢亭」というロマンチックな名前がついている。
ダナルさんの知り合いがやってる店で、テーブル席が3つとカウンター席しかないから、ピーク時には結構並ぶらしい。
「今の時間帯なら、まだ座れると思うよ」
との言葉通り、なんとか3つあるテーブルの1つが空いていたので、そこに滑り込む事ができた。一番大きなテーブルで6人がけの席だったので、テトと僕で右側、他の3人で左側に座らせてもらう。
ナツのとなりー♪
ご機嫌なテトさん、ソファ席だったのでのびのびと座れている。よしよしとその毛並みを撫でながら、お品書きに目を通した。
海鮮丼は上に乗せる具材を2種類から選べて、1つは料理人がその日市場で買ってきた鮮魚をメインにした「おまかせ海鮮丼」。何が上に乗っかるかわからないという……まあガチャだね。スープもそうだったけど、ゴーラってこういうの多いのかな? 毎日水揚げされる魚が違うからだろうけど、個人的にこういうの大好きなのでどんどんやってほしい。
もう一つが、決まった具材を乗せる普通の海鮮丼。比較的安定して入荷できる魚をメインにしているらしいんだけど、マグロ、イクラ、イカにウニという結構定番の具材となっている。
これらの海鮮丼の他には、メニューに乗っているのはアサリの塩スープと刺し身のみだ。
「おおー、完全に生魚専門店ですね」
これは期待できるな! とわくわくする。どっちの海鮮丼にしようかな……と迷っていると、向かいの席で如月くんがダナルさんに尋ねた。
「ゴーラでは、生魚は普通に食べるんですか?」
「うん。マリネやカルパッチョにして昔から食べていたよ」
リアルでいうと、生魚は食べる国が少ないんだよね。日本は海に囲まれているから普通に食べるけど、海に面している国でも食べる国と食べない国がある。だから生魚食べるのは怖い、って海外の人結構いるもんねえ。
「この店の料理、海鮮丼や刺し身は、トラベラーさんの国から伝わったものらしいね。醤油はまだ珍しい調味料だけど、サンガを経由して入ってくるよ。刺し身には絶対に必要な調味料だって力説した人がいたらしいね」
「確かに、刺し身には醤油だな」
うむ、と頷くイオくんであった。料理人イオくんは「おまかせ」の方の海鮮丼を頼むらしいので、僕もそっちにしよう。ダナルさんと如月くんは、悩んだ末に定番の海鮮丼の方にしていた。あ、アサリの塩スープも頼みたいな。
「テト、スープ飲む? テトの分も一個頼もうか」
からいのー?
「大丈夫! このスープは辛くないよ」
じゃあ、おねがいするのー。てきおんってしてねー。
全員の注文を終えると、料理はすぐに運ばれてきた。わあ、丼がでっかい……! 食べ応えありそうで最高だな!
「でかいな。ラーメン丼かよ」
「イオくん、このお皿のタレをかけて食べるんだって! 配るよー」
「おう、サンキュ。わさびは流石にないか。ナツ、テトのスープ冷ましてやってくれ」
「はーい、【適温】!」
わーい♪ ありがとー!
ぱぱぱっと運ばれてきたものを注文した人に渡して、お箸の準備もOK。この海鮮丼、器も大きいけど、具材がとにかくこれでもかってほど乗っかっててすごく食べごたえがありそうだ。お値段は丼がどっちも2,000Gだったからディナーとしては高くないし、なんかお得感があるね!
イオくんはタレをちょっとだけ舐めて、「醤油ベースだけどよくわからんな」と呟いている。多分、アナトラ世界特有のものも入ってるのかな?
おまかせ丼の中身は、マグロとサーモン、タイにイクラ……そしてホタテ! ホタテだやったー! イオくんこのおまかせ丼大当たりだよ!
「わかったわかった。後でバター醤油焼きも作るから待ってろ」
「ありがとう最高! イオくんに大感謝!」
偉大なる料理人イオくんを拝む僕である。ホタテは最高に美味しいんだ……!
「さあ、どうぞ。今日は俺のおごりだよ」
「ダナルさんありがとう! いただきます!」
「ありがたくいただく」
「気を使わせちゃって申し訳ないですね。でも遠慮なくいただきます!」
ダナルありがとー♪
さあ、ゴーラの生魚はどんな感じかな?




