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4日目:杖に名前をつけてみる


 イビルドッグのドロップ品とツノチキンを売り払ったお金で、ギルド前通り東側でキャンプ用品を買う。と言ってもあくまでセーフゾーンでの安全なログアウト場所とか、夜飛ばし用としての購入だから、テントとかはそんなに凝ったものを買う必要はない。必要はないけど、高性能なものがあったら欲しくなるものだよね。テントなんて防具や武器に比べたらやすいし。

 ここはちょっといいもの買っても許されるでしょう!

 イオくんが欲しがったアウトドア調理器具については、魔道コンロと折り畳み式のテーブルセットのみ許可しておいた。初級調理セットで基本的な鍋やフライパンなんかはそろってるし。

 僕たちは乗合馬車に乗っていくつもりなので、本格的なキャンプ道具は要らないんだよね。って話を道具屋さんでしていたら、道具屋の店員さんが「馬車に乗るならクッションが必要ですよ!」と教えてくれたので、クッションは買っておいた。

 リアルでもよくある低反発クッションみたいなやつ。ロクトで開発されたマッドスライムの素材らしい。マッドスライム……泥? ゴーラのウミスライムはビニール袋になるし、この世界のスライムって便利だな。


 その後はキガラさんのところへ滑り込んで、お札用の木材を購入。前に来た時買っておけばよかったんだけど、うっかり忘れてたんだよね。プレイヤー用のアクセサリとして使うならお守りの方が小さくて邪魔にならなそうだし、お札に関しては要検証だなあ。

 ついでに、美味しいお店をキガラさんに聞いてみる。すぐ近くのパスタの店を紹介してもらったので、夕飯はそこで食べることにした。すぐ近くと言ってもキガラさんの店の横から入る空白地帯で、住宅街の中にある家庭料理のお店って感じらしい。その名も『小麦畑の風亭』。パスタなら小麦か。


「あ。新しい<魔術式>覚えてる」

 お店にたどり着いて座ったところで、ステータス画面を開いてみたら<魔術式>がチカチカ光っていた。何かなーと思って開いてみたら、お札をいくつか覚えたっぽい。

 多分、<彫刻>の時にお札や護符の魔術式を覚えられるかどうかは確率だったんじゃないかな。<上級彫刻>になったから覚えられるものが全部記録されたって感じだと思う。

 増えていたのは「結界のお守り」、「無病息災のお札」、「家屋安全のお札」、「保全のお札」の4種類だ。

 「結界のお守り」は、敵からの特殊攻撃を一定ダメージ分防ぐというもの。ただし無効ではないので、結界の許容範囲を超えた分はダメージを食らう。一撃が痛い敵などに有効かな? 通常攻撃が対象外なのも使い勝手が良いので、プレイヤー向けに売りたい。

 お札は全部家に設置するもので、「無病息災のお札」はその家に住んでいる人が病気にかからないお札。「家屋安全のお札」は、自然災害等から家を守るお札。「保全のお札」は、家の外壁を汚れから守るお札。

 完全に住人向けだなあ。作ってみて、孤児院に寄付しようかな。


「って感じなんだけど、イオくんお守りいる?」

「ん-、結界か。今のところ一撃が痛い敵っていないし、まだいいかな」

 会話をしつつ、夕飯はパスタ!

 僕はトマトソース大好き人間なのでミートソース、イオくんはホワイトソース派なのでカルボナーラを注文し、シーフードピザも1枚を分ける。海産物はゴーラからの直送らしいんだけど、間にサンガを挟んでるから、やっぱりちょっと高額になるらしい。プラス、乳製品は高いというわけでピザの価格はパスタの倍だった。でも食べたいし。

 ウエイターさんに聞いてみたところ、サンガからゴーラへ行くのは楽だけど、サンガからヨンドへ行くのは結構険しい山道になるのでしんどいんだって。その結果、ヨンドからゴーラ、ゴーラからサンガ、とゴーラを挟んだ取引になってしまい、ヨンドの乳製品が高額になるんだとか。

「お客さんたちも、ヨンドに行くならゴーラから行った方が楽ですよー」

 と教えてくれたウエイターさんに感謝しつつ、ピザが美味しいのでとても満足。

 家庭料理の店なだけあって、なんかほっとする味だった。なんか昔、小学校の給食で食べたミートソースみたいな、ちょっと甘めの味だ。


「ヨンドに行ったらたくさん乳製品を買おう。イオくんならピザも作ってくれそうだし」

「俺も乳製品は欲しい。イチヤじゃ買えないもんな」

 正確には買えないわけじゃないけど高いんだよねえ、チーズとか牛乳とかバターとか。イオくんがあんまりお菓子を作らないのもその辺が原因なのだ。

 バターがたくさん買えたら、ぜひぜひクッキーを焼いてほしい。僕も型抜きなら手伝えるし。

 なんて話をしつつ、夕飯を終えたらまたギルドへ行って地道に生産。イオくんの<調理>をレベルMAXにしたいとやる気だ。


「今日は色々種類を作る!」

「旅支度でもあるしねー。お願いします!」

 と言うわけで今回もテーブルを分けてそれぞれ作業。

 僕は新しく覚えた<魔術式>を作ろうかな。今は財布の中身がそれなりにあるから、高いお札やお守りを作る必要はないし。

 あ、その前に。

 僕は今日入手したばかりの杖をじっと見つめる。こいつとは長い付き合いにしたいので、なんか良い感じに成長してほしい。そのためには、幸運を上げるだけでいいのか。

 他に何か、自分にとって良い効果がつくような要素があったのではないか。

 ……そういえば昔、スマホに搭載してたAIが持ち主とコミュニケーションをとることで興味・関心を把握して色々提案する、とかあったよね。もしやこの杖、コミュニケーションが取れるのでは?

 いや、でも杖はしゃべんないし。……ん? でも待って、でもこっちから話しかけ続ければ何らかの反応が生まれる可能性もあるのでは……? 杖は無機物だけど、でもほらこの世界ってリアルとは違うし!

 まあやってみてもいいよね。


「えーと、杖と呼ぶのも微妙なので、杖に名前を付けたいと思います」

 とりあえず杖に向かって宣言すると、イオくんがなんか笑った。

「イオくんも剣に名前つけてあげればいいじゃん! 氷雪の剣じゃなくてさ! 氷雪のエクスカリバーとかなんかそういうのを!」

「待て待て、パクリはよくない」

「アーサーとかランスロットとかジークフリートとか!」

「アーサー王物語は詳しくないんだよな。それにイギリスってあんまり雪のイメージ無い」

「あー、雪って言ったらロシアとかフィンランドとか?」

「って言うか俺の剣は氷雪が名前みたいなもんだろ。ナツはなんで杖に名前を付けようと思ったんだ?」

 む。そういわれると確かに氷雪は名前みたいなものかも?

 僕の杖が「マギホワイトカリンの魔法杖」なのは素材の名称なわけで、イオくんの剣は別に雪や氷でできているわけではないので、素材名ではない……つまり名前の可能性がある。

 僕はさっき考えたこと……僕に有益な効果を杖につけるために、ある程度僕の希望を杖に教えておく必要があるのではないか、についてイオくんに説明した。

 つまり、対話だ。杖と対話をするのである。


「で、話しかけるなら名前が無いと不便だなと」

「いやー、さすがナツ。発想が斜め上」

「でも話しといたほうがいいでしょ?」

「まあやらないよりは……? 効果あるかわからんけど。別に損はないな」

「そうそれ。やれることはやってみようと思ってさ。だってこの世界って魔法がある世界じゃん、杖に意志だって宿るかもしれないし!」

「ロマンあるな」

 そうでしょうそうでしょう!

 日本には付喪神って概念があるわけだし、そういうのもワンチャンあり得ると踏んだわけですよ! ただし僕にネーミングセンスは無いのである!


「僕の杖だから僕が名前を付けるべきなんだけど、さっぱり思い浮かばないからなんかヒントありませんかイオくん」

「なんで敬語……って思ったけどナツは頼み事するとき急に礼儀正しくなることがある」

「お願いするという気持ち……!」

「そういうの大事だよなー」

 うんうん、と頷くイオくんである。

 そう、人としてね、礼儀とか大事だからね。あとお願いしている立場であるという自覚とか。なんかやってもらうことが当たり前になったらいけないのです。

「杖っぽい単語か。やっぱ木の名前じゃないのか? 世界樹みたいなの。ユグドラシルだっけ」

「おー、ファンタジーっぽい。北欧神話だけど」

「日本だと御神木とかになっちゃうからな」

「御神木は世界観的に……! じゃあユグドラシルからとって、ユーグでどう?」

 ユグドラシル、ってつけたら長いからね!

 呼びやすさ重視にするなら3文字以内が良いと思うんだ、個人的に。男性名っぽいかもしれないけど、杖に性別は無いんだし、多分問題ないでしょ。


「どう? ユーグでいい?」

「……」

 まあ杖だからね。当然返事は無いね。

 それはわかっているので別に無反応でも大丈夫。とりあえず一方的でいいから、こちらの要望だけは伝えておかねば。

「成長するなら、敵に不利な効果か、僕に有利な効果をつけるんだよ。頼むからいい感じのをお願い。もし迷ったら僕に聞いてくれれば僕が選ぶから」

 言ってみたけどもちろん返事はない。知ってた。

「とにかく本当によろしくね」

 うーん、全然返事がない。当然なんだけど。

 これ一人で杖に向かって喋る変な人だな僕。人前では絶対にやらないようにしないと。


 もし了承してくれてたらなんか変化あるかな? と思って一応<鑑定>。名称が「魔法杖ユーグ」に変わっていた。おお、これはOK気に入ったよってことだよね!

 やったーと思いながら一応<装飾品鑑定>も。杖では宝石が大事ってトスカさんが言ってたし、ってことは杖の意思を司る部分って宝石なんじゃない? って思うんだけど。その辺どうなの?

 名前を持った杖、ってはなってたけど、意志を持ったという表記はなかった、残念。まあ根気よく話しかけ続ければそのうち……? ワンチャンあるかもだ、続けることにしよう。

 なんかいい効果が付きますように!


 無事に名前をつけられたので、その後は当初の予定通りにお守りとお札を作って、当然アシスト使って作ったので最初の1つは全部★1で出来上がった。新しく覚えた4種類は全部ギルドで売ることにして、孤児院に寄付する用のお札を何とか★3にしたい。

 ★3以下は全部売る。そういうつもりで作ってるんだけど、お守りより面積が広くなった分、集中力が切れやすくなったよね。おまけにイオくんが隣で美味しそうな匂いさせてるしさー。炊き込みご飯じゃんそれ、炊き込みご飯ー!

 ツノチキンとキノコの炊き込みご飯、★5だって! ちょっと味見させてもらったけど、めっちゃ美味しかった。ほんのり洋風ではあるんだけど、白ワインでもそれはそれでいいんじゃない?

「ナツは食い物ならなんでも褒めるから参考にならない」

 とかイオくんが苦笑してるけど、美味しい物はそりゃ褒めるでしょうよ。

 イオくんはその後も美味しそうな匂いをさせ続けて、てきぱきと料理を作っていく。<調理>もやっぱり新しく作る方が経験値効率がいいらしい。やがてようやく僕が★3の「無病息災のお札」、「家屋安全のお札」、「保全のお札」を作り終えたころ、シャケのホイル焼きを作り終わったイオくんが<調理>レベルカンストとなった。


「おめでとー!」

「おう。それで、上位スキルなんだけど」

「何があった?」

「<上級調理>か<料理>なんだよ」

 何それ? って思ったけど、いわゆるバフ料理が作れるのが<上級調理>、味を突き詰めていくのが<料理>らしい。<料理>の方を選ぶと、★6~9くらいの品質の料理ができる確率が高くなるし、品質が高い食材を使ったときの劣化率が抑えられるんだとか。

「なるほど! 迷う必要ないね!」

「ナツならそう言うと思った!じゃあ<料理>で!」

「当然!」


 戦闘の前にバフ料理? 別に要りませんね。

 そんなことより美味しいもの食べたい!

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― 新着の感想 ―
バフ料理になると必要なバフに応じて毎回同じメニューになりがちだしエンジョイ勢ならやる気UPの料理いいねいいね
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