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35日目:幻の貝

 昼休憩やおやつ休憩を挟みつつ、ダナルさんの体調を気遣いつつスピードを緩めたりしながら進んだ馬車は、ついにゴーラのすぐ手前のキャンプスペースに滑り込んだ。時刻は午後7時半ちょっと過ぎ、惜しかったけど、門は夜7時には閉まってしまうので、今日はここで一泊だ。


「ロミちゃん、ダナルさん、如月くんもお疲れー!」

「おつかれさん。夕食は任せろ」

 おつかれさまなのー。ロミいっぱいはしってえらいのー!

 口々にそんな事を言いつつ荷台から降りる僕達。ロミちゃんは相変わらずクールな感じで何かテトと会話している。テトがえらいえらいってたくさん褒めているので、まんざらでもなさそう。

「うーん、惜しかったね。もう少しで中に入れたんだけれど」

 とちょっと悔しげなのはダナルさん。本気で今日中に街に戻ることを計画してたみたいなんだけど、隣のドクター如月からストップが入ったのである。

 途中びっくりするくらいスピード出てて、如月くんが「ストーップ!! 速すぎですから!! ドクターストップ!!」って大声で静止してたのちょっと面白かった。ダナルさんは熱中すると周囲が見えなくなるタイプのスピード狂なのかもしれない。

「あんまりヒヤヒヤさせないでくださいよ、ほんとに……」

 と呆れ顔する如月くんである。


 だんだん元気を取り戻しつつあるとは言え、ダナルさんはあくまで病み上がり。昼食もあまり食べる量は増えなかったし、ドクターストップも仕方ないよね。

 早々に駆け抜けてゴーラでゆっくりしてもらうってのも、考えなくはなかったんだけど……ロミちゃんが反対したらしいので、僕達はいつだってロミちゃんの味方なのである。かわいいお馬さんの頼みでは仕方がないのだ。

 夕飯はイオくんがその場で作ったスープを使って、ダナルさんだけお米を煮込み、僕達はチャーハンっぽいのをいただいた。ありあわせで作ったとか言いつつ美味しいので、やはりイオくんは天才なのである。ケチャップ入りの洋風チャーハン的な? ケチャップライスとはちょっとちがうんだよなー、そこまで大量に入ってないし。うまく説明できないけどほんのり洋風な炒め飯です、うまい。

 

 ダナルさんも食べる量が増えたみたいで、如月くんが満足そうに頷いている。昨日は食べたらすぐ寝てたけど、今日はまだ元気みたいだから、イオくんが全員に珈琲を入れてくれたよ。

「ナツはカフェオレな」

「知ってた」

「テトはホットミルク」

 わーい! すてきー!

 まず真っ先に僕達に甘い飲み物を差し出すイオくんである。美味しいのは知ってるのでいいんだけど。いいんだけどね!

 テト、ホットミルクすきー。

「美味しいねー!」

 おいしいのー!

 僕とテトはこれで良いんだなってしみじみ思うよね、イオくんと如月くんはブラックだけど。ハッ、まさかダナルさんも……!? あ、よかったミルク入れてるのでセーフ。


「そう言えば、ダナルはサンガに何を売りに行ったんだ?」

 クッキーを差し出しながら、珍しくイオくんが雑談を振った。いつも雑談する係の僕とテトが飲み物に夢中になっているからだろう。相変わらず気の利くイケメンである。

「俺は工房を持っていてね、貝殻を加工したアクセサリや小物を売っているよ」

「貝か」

「あ、俺知ってますよ、らでん……? ってやつですよね」

 如月くんも会話に参戦した。んー? 螺鈿は聞いたことあるけど、あれって貝なんだ? なんかこう、淡くキラキラしている感じのやつだよね。博物館とかで小物入れになってるイメージだけど。伝統工芸っていうやつ?

「職人さんの手作りですか?」

 僕も気になる話題だったので加わってみる。作ってるところちょっと見てみたいよね、伝統工芸品って。寄せ木細工とか切子ガラスとか、職人さんに取材した動画、面白いんだー。

「その、らでんというのはよくわからないけど、主に女性用の小物やアクセサリを作っているよ。魔法で複製しているアクセサリもあるけど、家の工房のものは一点物だね」

「おお、それはぜひ見に行きたいですね、お店の場所後で教えて下さい!」

「もちろん。これを渡しておこうかな」

 すっとダナルさんが差し出したのはショップカードだ。やったー! 里では全然もらえなかったから、久々に入手した気がする!

 喜んで受け取ると、すぐにショップカードファイルに収録されてしまうので、ステータス画面を開いてショップカードを確認。あ、かわいい。カラフルでポップな貝殻がたくさん散りばめられたデザインである。「アクセサリ・小物の店 シェルライト」、名前もなんかかわいいな。

 ぜひとも、プリンさんと一緒に行かねば。


「ダナルさんがオーナーさんなんですか?」

「まあ、一応。ドワーフはみんなものづくりが得意なんだけど、俺は細工師だからね。ただ、作るのと運ぶのは得意だけど、経営はあんまり得意じゃないから、そこは人任せなんだけれど」

「経営は別の人がやってるんですね。だからダナルさんが気軽に荷運びとかしちゃうのかあ」

「うん。そんなに大きな店じゃないからね」

 なるほどー、と納得していると、視界の隅っこでイオくんがなにか言いたげな顔をしている。イオくんがこういう顔するときはたいてい、僕がなんか忘れてるときなんだよな……。えーと、なんだろう。ダナルさんのさっきの会話から察するに、お店とか、貝とか……その辺で忘れてること……?

 ……あ。

 あった! たぶんあれだ。

 僕、なんか貝殻のアクセサリをどっかで拾ったような……! えーっと、インベントリのどっかに……。


 あった、これだ!

 ルミナスシェルの首飾り!


「ダナルさん! ここに来る途中で拾ったものなんですけど、これ、心当たりありませんか?」

 インベントリから首飾りを取り出して、テーブルの上に置いてみる。焚き火に照らされて淡く輝くようなその貝殻を見て、ダナルさんは大きく目を見開いた。

「ルミナスシェル……!」

 あ、やっぱり知ってるみたいだ。螺鈿細工とはちょっと違うかもだけど、ルミナスシェルの首飾りも淡く輝く感じですごくきれいだし、こんな貝があったらそりゃアクセサリにしたくなるよね。貝のアクセサリを拾ったと思ったら貝のアクセサリを作ってる職人さんに出会うとか、確実に連続クエストっぽい。

 ダナルさんに会えたのも、これを拾ったから、だったりして?

 割とあり得るなあ。

「知ってるんですか、ダナルさん」

 横から如月くんも話を促してくれる。イオくんは、すっかりこっちにお任せで珈琲飲んでるけど。イオくんも会話混ざってくれていいんだよ? って視線を送ってみたけど、笑顔でスルーされました、むむむ。人見知りめー。


 ダナルさんはポケットから手袋を取り出し、ペンダントを手にとってじっくりと眺めたあと、そっとテーブルの上に戻す。すごく慎重に扱ってるな……と思ったら、傷つきやすい貝なのだそうで。そうだったのか……僕思いっきり無造作に扱ってたな。気をつけなきゃ。

 でも、しっかりルミナスシェルを観察したダナルさんは、「本物だね」と少し興奮気味に呟いた。本物なのは僕も<鑑定>で知ってたけど、ダナルさんの反応的にかなり良いものなんだろうか……?

 丁寧に返された首飾りをインベントリに戻すと、そわそわと落ち着かない様子のダナルさんに、

「比較的最近作られたものだね。それはどこで見つけたのかな?」

 と問いかけられた。正直に魔物と戦ったら出てきて、という話をしたけど、それはダナルさんの求める情報とは違ったみたいだ。

「できれば、作成者を知りたかったね。ルミナスシェルは本当に貴重なものだから」

「珍しい貝なんですか?」

「珍しいというか……これは、加工品なんだよ」

「加工品……?」

「そう、作り方を誰も知らないんだ」


 ダナルさんの説明によると。

 ルミナスシェルというのは、戦前にたった1つの工房で極秘技術で作られていた特別な貝、なのだそうで。それがどういった工程で、どうやって作られるのかは、その工房の職人しか知らなかったんだって。

 当時からとても貴重で高価なものだったから、王室に献上されたりもしていたらしい。でも、戦争を経て作り方を知る人は誰もいなくなってしまった。

 今でもゴーラではルミナスシェルを再現しようという試みがあるけど、どれもうまく行っていない、とのことだ。

「こうして実物を見ても、どうやって作るのかわからない。せめて作り手の情報があればと思ったんだ」

 作り手の情報……は、僕、見れるけど……。

 勝手に教えてしまったら、迷惑がかかる可能性があるね。この首飾りの制作者さんも、秘密にしてるかもしれないし。あ、でもダナルさんはこれを最近作られたものって言ってたし、年代鑑定は持ってるっぽいな。僕の<鑑定>でも、このペンダントは作られて1年以内のものって出てくるんだよなあ。

「これは重大事件だよ、ナツさん。ルミナスシェルは、あまり人前に出さないほうが良いね」

 ダナルさんは静かにそう言う。

「失われた技術を再現することに、成功した誰かがいるってことだよ」

「それは、すごいですね……!」


 なんかそう言われるとめちゃくちゃロマンを感じるな……!

 誰かに教えるかどうかは本人の意思を尊重するとして、とりあえず作者のミクスさんって人にはどこかで会ってみたいな。品質のよい首飾りを作れるくらいだから、きっとすごい職人さんだろうし。

「ロマンがあるなあ」

 まろんー?

「ロマンだよテトさん、夢と希望となんかきらきらしたものだよ」

 きらきらしてるものはよいものなのー。

 うむっと納得しているテトさんである。君は本当にきらきらが好きだね。

「うーん、失われた技術の再興ですか……。でも、住人さんたちも<鑑定>スキルを持っている人たちって多いですよね。そんな人達が調べても、わからないものなんでしょうか」

 首をかしげて問いかけたのは如月くんだ。そんな如月くんに「そうなんだ」とダナルさんは大きく頷く。

「不思議なことに、どんな<鑑定>を持っていても、作り方まではわからないんだ。ゴーラでもたくさんの人たちがルミナスシェルの秘密を調べようと奮闘したんだけれどね」

「それは不思議ですね」

「だからこそ余計に神秘性が感じられて、人工物とわかっていても高価なんだよ」


 なるほど。

 普通、天然ものと養殖があったら、天然もののほうが高いよね。真珠とかうなぎとか、アワビとかさ。高級品を手頃な価格で楽しむために養殖されるって意味合いもあるんだろうけど。

 そう考えると、最初から天然ものじゃないってわかっているルミナスシェルが高価なのって、ちょっと違和感あったんだけど……その素材すらわからないっていうのが、魅力の一つってことか。

「ちなみになんですけど、さっきの首飾り、お店で買おうとしたらどのくらいしますか?」

 好奇心にかられてそんなことを聞いてみると、ダナルさんは真顔で即答した。

「5,000,000Gからは下がらないだろうね」

「……お、おうふ……」

「すごいなそれは」

「高価ですね、本当に……」

 如月くんがなんかドン引きした顔をしてるんですが僕のせいじゃないです!!

 え、いやまじでかなり高価なものだった……こんな小さな首飾りなのに。ちょっと怖くなったのでインベントリから出すのは今後なるべく控えよう……!

「流石に高すぎないか? 下手な宝石の何倍もするぞ」

 と疑問を口にしたイオくんに、ダナルさんは笑ってこう答えた。


「ルミナスシェルには、身につけるものに力を与えるという、特別な効果があるんだよ」

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