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4日目:パワフルなお願い

「イオくん、しんみりしました。なんかこう、うがーっと暴れたいです」

「杖の試運転に行くか。まあ、うん。しんみりしたな」


 午後4時頃、トスカさんのところをお暇した僕たちは、そのまま東門へ向かうことにした。新しい杖の調子を見るためと、多少の資金稼ぎと、経験値稼ぎのために。後なんかこう、やるせないこの気持ちをふっとばしたくて。

 アナトラは戦後の世界。わかってるんだけどなあ。不意打ちでああいう話出されると、無力感を感じるというか。亡くなった人はもう戻らないんだっていう、当たり前のことを突きつけられる。

 切ない!

 会ってみたかった! あのイライザさんを口説いたエイクさんにも、あのトスカさんがずっと隣りにいたくてドワーフになりたいとまで願ったガルさんにも! だって絶対いい人たちじゃん!

「はー、戦後の話だってわかってるんだけど、もう戻らない人たちはなんでこんなに輝かしいのか」

「真理だな。そりゃ、一番輝かせてくれるパートナーがそばにいたからじゃねえかと思うけど」

「あー。イライザさんもトスカさんも素敵な人だからねえ」

 そりゃ素敵な人には素敵な人が寄り添うもんだ。うむ、納得。


 のろのろとギルド前通りに向かっていると、

「ナツさーん! イオさーん!」

 と、後ろから声をかけられた。途中から姿を消していたエルモさんだ。お茶をいれてこいって言われてから、部屋を出て結局戻ってこなかったっけ。

 察するに、トスカさんが「お茶を」と言ったらそれは、エルモさんにちょっと「部屋を出てしばらく戻らないでくれ」、って意味なんだろうな。

「おうエルモ。挨拶もせずに帰って悪かったな」

 いち早く足を止めたイオくんが先にエルモさんに声をかける。僕も足を止めて振り返った。走ってきたらしいエルモさんは、軽く息を切らしつつ勢いよく頭を下げた。何突然。

「エルモさん?」

「あの! 師匠からなんか探してくれって言われたと思うんですけど!」

「ああ、ガルさんの杖……」

「ぜひ! ぜひぜひ! 私からもお願いします!」

 がばりと顔を上げたエルモさんは、自分の胸の前でぐっと両手を握る。強い意志を感じる眼差しが、まっすぐにこちらに向けられた。

「師匠が走り続けているのは、ガル恩師のおかげなんです!」

「……えっと、恩師って何?」

「恩のある師と書いて恩師。師匠の師匠なら恩師でしょう!」

 いやわからんけど。

 わからんけどなんかこのパワフルさに押されて「まあいっか」って気持ちになるな。


「エルモが杖作成師ガルに恩を感じている、ということか?」

 イオくんが一応、という感じで確認すると、当然のようにエルモさんは力強く頷く。

「当然です! 会ったことないですけど!」

「あ、ないんだ」

「ないですね! 一度も!」

 いやそんなことを力強く言い切られても。まあ、エルモさんは僕と同じ……いや、僕より年下かな? 年齢が16歳から19歳くらいだと予測する。ということは、10年前の終戦時にはすでに生まれていたはず。エルモさんって、いつからトスカさんの弟子をやってるんだろう。

 いや、今はそれよりも聞きたいことがある。

「どうして、エルモさんがガルさんに恩を感じるの?」

「トスカ師匠の原動力だからですよ!」

「えっと……?」

 確か……私の目指す頂、もう二度と見ることのない光……だったっけ。トスカさんがガルさんを目指す頂点として定めているのはわかる。目標が高ければ高いほど燃えるタイプの人がいるけど、多分トスカさんはそういうタイプなんじゃないかな。

 僕は目標が高すぎるとなんかやる気をなくすので、小さい目標を連続で設定するほうがやる気が出るけど。


「師匠はできる女なんです。誰よりできる女なんです、あんなんですけど。ガサツで乱暴で大雑把で、それなのにすっごい繊細な、素晴らしい杖を作るんです。めちゃくちゃすごいのに、全然満足してない。ずっと足りない足りないって言って、ずっと前を見てる。ずっと走り続けているんです。私は、そんな師匠に憧れるし、追いかけたいし、追いつきたい!」

 エルモさんのパワフルな声が、キラキラと輝く瞳が、まっすぐに向けられる。なにかにまっすぐに打ち込む人の眼差しだな、と思う。なにか遠くにあるものを追い続ける人の表情。

 なんて情熱的。

「トスカさん、すごい杖作成師だもんね」

「そうなんですよ!」

 トスカさんへの賛辞を受け取って、エルモさんは嬉しそうに笑う。

「師匠はすごいんです! それで、師匠をすごくしているのは、ガル恩師なんです。師匠の胸のうちにガル恩師がいる限り、師匠はずっと走り続けるでしょう。そういう人ですから。ガル恩師に追いつくために、その高みに至るために、師匠は、これからももーっとすごくなるんです」

「エルモさんは、トスカさんのことが大好きなんだねえ」

「憧れで目標ですとも!」

「あんな態度なのに……」

「めっちゃすごい人ですけど、あんなんですからね!」

 力強く言い切ることではないんじゃない? と思ったけど、エルモさんがトスカさんをすごく尊敬していることは、伝わってきたよ。


「だから、ぜひ! 師匠の探しているもの、一緒に探してください! お願いします!」


 ぺこっと勢いよく頭を下げたエルモさんの三つ編みが、ぴょんと跳ねる。

 一緒に探して、というところに、僕はとても好感を持った。人任せにするんじゃなくて、自分も一緒に! といってもらったほうが、僕はやる気が出る。

「分かった、僕たちもできるだけ探してみるね!」

「どうせついでだ、任せろ」

 イオくんと僕の肯定の返事に、エルモさんはがばっと頭を上げて、満面の笑みを見せた。


「ありがとうございます!」





「パワフル……」

 すごい勢いで走って言ったエルモさんを見送りながら、とりあえず感想をつぶやく僕。

「それ二度目」

 と、よく覚えているイオくん。

「だってなんかもうパワフルとしか言えなくない?」

「そういうやつなんだろう」

「僕も偶にあんなふうにパワーフルチャージになりたい」

「偶にでいいのか」

「常にあんなんだったら疲れるでしょ」

「ナツが常にあんな感じだったら距離取らせてもらうかな」

「ほらね、偶にでいいんだよ偶にで」

 僕もイオくんが常にあんなんだったら距離取ると思う。太陽って間近で見るものじゃないじゃん、遠くから眺めるものでしょ。


 さて、そしてクエスト一覧をチェックして、増えているクエストをチェック。ガルさんの作った杖をどこかで見つけたら、トスカさんに見せよう、というような内容なんだけど、依頼主が「トスカ杖工房」になってる。エルモさんとトスカさん両方からの依頼ってことになるんだろうなあ。あの師弟は末永く仲良しでいてほしい。

「期限ないやつだ、よかったー」

 と呟いたら、

「期限あるクエストとか、存在するのか?」

 と首をかしげるイオくん。あ、たしかにアナトラではまだ見たことないな。

「今までのゲームでは割りと期限付きクエストあったから、ついあるものだと思ってたよ」

「ああ」

 イオくんは瞬時に眉間にシワを寄せた。予定を崩されるから好きじゃないんだよね期限付き。たまーになら良いんだけど、連発されるとちょっとね。


「エルモさんのお陰でしんみりした空気が押し流された感じだね、良かった良かった」

「そうだな。じゃあ、憂いなくチーフでも狩りに行くか」

「はーい!」

 東門まではすぐなので、ちゃっちゃと門番さんに挨拶してフィールドに出る。

 今日の門番さんはいつぞや見た女性兵士さん。ちょっと手を振ってくれたので顔を覚えられているっぽいのが嬉しいね。あの人の名前も聞きたいんだけど、どうやって今更名乗れば良いんだろうか。ちょっと真剣に考えたい。

 とりあえず今日は、杖の使い勝手を確かめることが優先!

「そんじゃイオくん、イビルドッグ釣ってきてー!」

「おう、ウォール用意しとけよ」

「了解!」


 で、戦ってみて思ったのが、初心者の杖とは比べ物にならないくらい魔法の発動がしやすいってことだ。

 今までは、発動可能な呪文を選んで発動しようとすると、呪文を発することで必要MPが杖に流れて魔法の発動、と言う流れだったんだけど、発動しようとする⇒実際に発動する間には5秒くらいのタイムラグがあった。

 魔法名が呪文に当たるから、【ファイアアロー】と唱えてから実際に杖を介してファイアアローが敵に飛んでいくまでのラグが5秒ってことね。この5秒は戦闘中だと意外と長い。

 新しい杖だと、ここのタイムラグがほぼ無い。呪文を唱えたら即座に発動、なんなら呪文言い切る前に発動してるのでは? ってくらいの素早さ。このレスポンスの良さはめちゃめちゃ助かる。

 あと、杖の性能が上がったからか、魔法再発動までのクールタイムもなんか微妙に短くなってる気がするんだよね。検証は面倒だからしないけど、文句なしに強くなったと思う。

 ついでに、魔法発動の時紫水晶がぱあっと淡く輝くのが結構綺麗。いやもうほんと、これなんで僕が持ってるんだ……? 女性が持ってたら映えただろうになー。


 と、愚痴ったところ、イオくんはげらげら笑った。

「いやだって今お前エルフじゃん!」

「あっ」

「線の細い中性的なエルフ、色合いも淡い。ナツは口を開くと親しみしかないけど、黙ってにっこりしてたら十分華やかだし、その杖も似合うぞ」

「な、なるほど? そういえば今の僕は3割増しで美化されたエルフ……」

「このゲームのアバター作成ソフト、優秀だしな。トラベラーはみんな美形にまとまってるし、ぶっちゃけ筋骨隆々でなけりゃ誰が持っててもさほど違和感ない」

「あー、そういえばそうだね」

 すれ違う人たち、美形ばっかりだもんなあ。確かに、そう考えると無難なデザインなのかなー。四六時中視界に入るイオくんがあんまり現実と変わりばえないから、自分が現実と全然違う外見になってるって発想が抜けてたな。

 今の僕は3割増しの僕。綺麗な杖を持っていても問題ないのか。

「今のナツは結構、黙ってれば上品な感じだぞ? 口を開くと一気に庶民的になるけど、黙ってる分にはな。だから白を推奨してるんだが」

「謎のこだわりの根拠発見……っ!」

「口を開けばナツでしかないけどなー」

 ぐ、ぐぬぬ。

 そりゃ口を開けば僕でしかないよ! なんか悔しいのでイオくんが忘れた頃に1日口を開かずニコニコ笑ってるだけの日を開催してやるんだからな! 

「さて、3匹のチーフを倒したってことは、プラス30匹のイビルドッグを倒したという事で、そろそろ戻るか」

「はーい。素材はいくらになるかな」

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