34日目:ゴーラでやることをまとめるのだ
モーンブラーン♪
テト、久々のモンブランの歌。心弾むような楽しげな声である。
そんなテトさんのために、イオくんに頼んでイチヤで買ったモンブランを出してもらっている今日このごろ、いかがお過ごしですか。僕はまだアイスラビットの肉の衝撃から立ち直れてないです。美味しいもの世の中にあふれてて人生楽しい。
「はー、ひんやりしてるお肉、とろけるお肉……。生肉特有の歯切れの悪さもなく、噛むだけでほぐれるお肉……」
「アイスラビットの生息地、ヨンドの北らしいぞ」
「ゴーラの次に行けるね、楽しみが増えた! あと、地理的にゴーラに輸出されてる可能性もある!」
「それは一応期待したい」
イオくんもあのお肉の美味しさを認めてくれたようなので、店売りの肉を見かけたら快く買ってくれることでしょう。
さて、ところでモンブランだけど。
イチヤの喫茶店で買っておいたやつを、ロミちゃんとテトに1個ずつ出してあげようと思ったんだけど、テトは「はんぶんこするのー!」と強く主張した。たくさん食べたらいいんじゃない? と聞いてみたんだけど、テトはキリッとしたお顔でこう答えたのである。
ナツいつもはんぶんこしてくれるのー! テトはねー、ナツとはんぶんこするのすきー。しあわせなきもちー。
……家の猫最高に可愛いと思いませんかイオくん。はんぶんこすると幸せな気持ちらしいよ、いくらでもしましょうとも! これからも美味しいものたくさん食べようね!!
僕がわしゃわしゃとテトを撫で回している間に、イオくんがモンブランを真っ二つにしてくれたのであった。さあお食べ、甘いものの威力をロミちゃんも知ると良いよ……!
「みなさんは変わっているね」
おいしー! と大はしゃぎでモンブランにかぶりつくテトを見て、そんな感想を告げたのはダナルさん。なんとか夕飯を食べ終えたので、今は如月くんの作った解熱剤を飲んだところだ。今日はこのまま如月くんのテントで眠って貰う予定になっている。
「あ、テトですか? 僕が食いしん坊なので、美味しいもの分けてあげてたらすっかりテトも食いしん坊になっちゃって」
「契約獣は多少、契約主に似るらしいよ。ロミも、多少俺に似ているとよく言われるね」
「確かにダナルさんとロミちゃんって、クールな感じですね!」
「うん。契約獣は魔力だけで大丈夫だと契約獣屋が言っていたから、俺はロミに食べ物をあげたことはないよ。ロミもほしいと言ったことはなかったしね」
「普通はそうなんですねー」
「だから、自分から食べたいとねだるテトは、ちょっと変わっていると思ってね」
「あはは」
それは本当にそう。僕の場合は最初から一緒に美味しいもの食べてくれる子を探したから、もともと食事に興味があるテトが手を上げてくれたんだと思うんだけど。普通は契約獣さんたちは食事をするって発想もないらしいし。
でもねー、興味のない子でも、たまに何か分けてあげるのは良いと思うんだよ。だってさ。
「ダナルさん、あれ見て」
「うん?」
「ロミちゃん、嬉しそうでしょ」
テトのあまりにも美味しそうな顔につられて、恐る恐るって感じにモンブランを頬張るロミちゃん。そのクールな眼差しが、ぱあっと無邪気に輝く。
おいしいでしょー! テトのおきにいりなのー。
とドヤ顔をするテトさんに頷きながら、何か会話してる様子がそこにある。ロミちゃんも甘いもの好きな子でよかったなあ、苦手な子もいるだろうし、味には好みがあるからね。
「……そうか」
ダナルさんは、そんなロミちゃんをじっと見つめて、優しく目を細めた。
「ロミは、ケーキが好きだったんだな。一つ、いいことを知れたよ」
我が子を可愛がる親みたいな声だった。良い関係を築いているんだなあと言うのがそれだけでわかって、僕はほっこりしてしまう。信頼関係、大事だと思います。
さて、夕飯も食べ終わったところで、ダナルさんは速攻お休みコースだ。明日には熱も下がるでしょう、という如月先生の予測なので、一緒にゴーラへ向かおうと話がついている。
僕達も、どうせ正道沿いを歩くなら正道を通っても同じだし、ダナルさんは病み上がりだから心配だしね。あと家のテトが、ロミちゃんにとっても懐いてるみたいだから一緒がいいよね。
ダナルさんがテントで就寝すると、ロミちゃんはそのテントに寄り添って待機の姿勢なので、テトはてててっと僕の隣に戻ってきた。
「ロミちゃん、モンブラン美味しいって?」
きにいってくれたのー。やはりモンブランはしこうのたべもの、くりはいだいなのー!
きらきらの眼差しではしゃぐテトさん、栗に対する絶大な信頼が感じられる。お友達が自分の好きなものを好きだと思ってくれるのは嬉しいことだね。
「明日はロミちゃんたちと一緒にゴーラに向かうと思うよ。次はマロングラッセにしようか」
さつまいももすてがたいのー。なやましいのー。
「スイートポテトもいいねえ」
むむーっと一生懸命考え込んでいるテトを横目に、テントから戻ってきた如月くんと僕に食後のコーヒーを入れてくれるイオくん。テトにも「牛乳飲むか?」と聞いてくれる優しさ、さすがだと思います。「あったかくてあまくしてー!」とリクエストするテトの声も弾むってなものである。
「ホットミルクが良いそうです、お砂糖入り!」
「はちみつ入れてやるよ」
わーい!
テトはその場で喜びの舞を踊り、ぴょいんぴょいんと嬉しそうにはしゃぐのであった。
「ヴォレックさんの言ってたタコ野郎ですけど、ゴーラで今話題になってるみたいですよ」
コーヒーを片手に、そう切り出したのは如月くんである。
「ダナルさんが急いでゴーラに帰ろうとしてたのも、そのせいらしいです。なんでも弟さんが漁師で、そのタコ野郎のせいで船が出せないとかなんとか」
「そうなんだ。ヴォレックさんは沖の海って言ってたし、ダナルさんの弟さんは遠洋漁業の方?」
「いえ、別の大陸との連絡船だそうです」
「あー、それは死活問題だねえ」
「近場の漁だけなら問題ないみたいですよ。今、トラベラーで<操船>スキルをゲットした人が居るみたいで、その人がゴーラ沖合の島巡りツアーやりたいって掲示板で募集してました」
「それはすごいね!」
船を運転できるスキルかー、ロマンだね。男ならやはり「面舵いっぱーい!」と言いながら操舵輪を回したいもんだよ、一度は憧れるやつじゃん。
「メタ言うと、まだ隣の大陸には行けないっていう制限だろうけどな」
「イオくんそんな身も蓋もない」
まあそうだろうけれども! そもそもナルバン王国をまだ全く回れてないのに、他の大陸に行こうとは思わないよ。敵の強さも違うと思うし。
「ゴーラではプリンさんが色々お店紹介してくれる予定だし、しばらくは街の探索でしょ。ちょっと船は乗ってみたいけど、街を堪能してからだよ」
「金を貯めるんだったな」
「クエスト頑張ろう」
「あー、倉庫のためにですか? 俺も貯金しないとって思ってたんですけど」
「まさにそれ」
如月くんも本サービス開始と同時に実装予定の「倉庫サービス」のことは当然知っていたらしい。具体的にいくらかかるかの料金設定がまだ公開されてないから、蓋を開けてみれば思ってたより安いこともあるとは思うんだけど。でも時間停止機能だけは絶対につけたいからなー。
「いくら貯めればいいのかわかんないけど、実装されたら可及的速やかに借りたいもんね」
「同感です」
しみじみ頷き合う僕達なのだった。
イオくんにもらったホットミルクを「あまーい♪」とご機嫌に舐めるテトを見てほのぼのしながら、そう言えばゴーラにはお届け物のクエストがあったなーと思い出す。えーと、なんだっけ。箱を預かった記憶。
なんか色々忘れてそうな気がしてきたな……よし、こういうときは行動予定のまとめをしよう。
「イオくん、如月くん、テト、みんな注目!」
「おう」
「はい!」
はーい!
「良い子のお返事でえらい! えーと、明日の予定を確認します。まず移動から、如月くん!」
「はい。ダナルさんがゴーラまで馬車に乗せてくれるそうです。微熱は朝までに下がると思いますが無理をさせたくないので、俺も御者台に乗ってケアする予定です」
「気遣いのできる如月くん、とてもえらいと思います。無理させないように休憩挟みながら行こう、正直ゴーラまで乗せてもらえるのはとてもありがたいし」
「ロミがすごく速い馬らしいんですよ。だから、明日の夜にはゴーラにつくってダナルさんは言ってますね」
「はやいなあ!」
ロミちゃんは大きいし、足も6本あるし、見るからに早そう。イチヤからサンガへ行くときのお馬さんより、倍くらい大きいんだよロミちゃん。きっと力強い走りを見せてくれるでしょう……!
「無理せず、門が閉まるまでにたどり着けなくても、門のすぐそばにキャンプスペースがあるし、ダナルさんの様子見ながら行こう。次、ゴーラについたらやることをイオくん!」
「クエストの達成」
「大事!」
「グロリアから渡されたヴェールを届けるやつがあるだろ。あれはまっ先に終わらせたい」
「それだ! なんか地味に忘れかけてたやつ!」
そうだった、グロリアさんから3ヶ月以内で預かってたやつだよ! いや別に完全に忘れたわけじゃないし、多分もう少し考えたら思い出せてたと思うけど、さすがイオくんすんなり出てくる。記憶力が良くてとても素晴らしいと思います。
「あれ時限クエストだからな」
「あ、なんかもらえるやつだ。えーと、時の欠片! あれも5個集まったら何ができるのか楽しみだね。じゃあ次に……テト!」
ゴーラいったらねー、ロミときょうそうするのー!
「そう言えば昼間そんな話してたね。浜辺で思いっきり競争するといいよ!」
まけないのー!
ふんすっと気合を入れるテトである。ぜひ頑張って欲しいところ、僕は全力で応援する!
「じゃあ一巡して如月くん! ゴーラでやることは?」
「契約獣選び……ですかね」
「それもあったね! 僕とテトも協力します」
「よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げる如月くんである。卵を選びたいというチャレンジャーには協力を惜しむまい。僕も張り切るけど、テトも目をキラキラさせて如月くんに体を擦り寄せた。
きさらぎはねー、なでるのじょうずだからねこのさいのうがあるのー。なでられじょうずなけいやくじゅうをえらぶとよいとおもうのー!
「おお、テトが如月くんは猫の才能があるって言ってるよ」
「猫を満足させる才能があるってことですかね?」
「多分……? テトー、僕はー?」
ナツはテトにすかれるさいのうがあるのー。
「それは素晴らしい才能だね! テトも僕に好かれる才能があるし!」
にゃふふー。
嬉しそうな顔をするテトさんに、真顔でイオくんが迫る。
「俺は?」
お、おおっと。威圧感を無意識に出してしまうので、小動物に好かれないけど小動物大好きなイオくん、ちょっと必死な表情だな。イオくんも最近ではテトに大分好かれているわけだし、十分な才能があると見るべきではなかろうか……!
イオはねー、あんまりねこのさいのうはないのー。でもとってもすごいりょうりにんのさいのうがあるからもんだいないとおもうのー。
「なるほど。イオくんは猫の才能はあんまりだけど、料理人としての才能がたくさんあるから大丈夫だって」
「よし」
大きく頷くイオくんである。良かったねー。
「如月くんの卵選びも大イベントだけど、僕もサンガで仲良くなった人たちにお土産をしっかり選ばないとなあ。あ、あと大事なの忘れてた。ラメラさんのところに遊びに行く!」
ラメラー!
「ああ、お前がサンガで助けた竜か……」
「エクラさんからも蜜花を届けてほしいって預かってるんだよ」
おつかいもあるし、遊びにおいでって言ってもらったし、まだ鱗一枚も使えてないけど、たくさん鱗もらったからね。お土産もちゃんと準備してあるから訪問の準備はバッチリだよ。
「ついでにその首から下げてるブルーアクセスカードもな」
「確かに。どうせ海に行くんだし、誰に会えるか楽しみだね」
エクラさんは「大いなる海原の王」っていうのが誰なのか知ってるみたいだったけど、どんな王様が出てくるのかな? 神獣さんだということしかわからないけど、仲良くなれるといいな。
「こうやってまとめるとワクワクしてくるね。テト、他に何かある?」
んーとねー。
こてんと首をかしげた白猫さんは、何か思いついたようにぱっと表情を明るくした。にゃあん、と楽しそうに弾む声が言う。
ディーネがねー、ゴーラついたらあそびましょーっていってたのー。
「待ってそれ僕初耳ですが!?」