34日目:美味しいは衝撃
ところでこのストラップ、品質が高いほど吊るしておける鍵が増えるそうです。
「……ナツのうっかりを危惧した救済措置だな」
「イオくんが居るから大丈夫と思うけど、うっかりしそうな自分を決して否定出来ないのである……!」
ストラップを見せたイオくんの反応はこんな感じでした。まああれだよ、イオくんと別行動しているときだってあるんだし、正直なところ保険はいくつあっても良いので……! ありがとう<グッドラック>さん!
僕が<グッドラック>さんに感謝を捧げている間に、テトさんはきらきらのバングルをみて嬉しそう。「きらきらすてきー」とのコメントをいただきました、ありがとうありがとう。
「なんか<細工>楽しそうですね。俺も取ろうかな」
「え、如月くんのSPは回復した?」
「いえ全く」
ダメでは? という言葉はグッと飲み込んでおく。如月くんは常にSPカツカツだけど、今にもっと大量のSPを要求するような便利スキルが出てくると思うので、頑張ってためてほしい。
「あ、待てコラ。お前なんでよりによって最大HP増やすお守り枠捨ててんだ!?」
「期限切れてたので……」
「新しいの装備しろ? 今のお前に一番必要なところを捨てるんじゃねえよ」
「いや、でも他は外せないし……!」
僕の現在のアクセサリ枠は4枠。上位職に転職できれば2枠ずつ増える。……でもさー、「光魔法のピンズ」は外せないじゃん? 魔法防御力+5なのは置いといて、光魔法効果+10%は大きいし。かといって同じお守り枠でも、「身体保護のお守り」は絶対外せない、明確に利点があるもんね。最後の枠は「若葉のペンダント」だけど……幸運さんを重視する僕としては、幸運+5の効果は外したくないわけで。
「消去法で最大HP増やすお守りを外すしかないのである」
「それも外せるわけねえだろ現実を見ろ?」
いや現実は見てるんだよ? 僕の素ステータスの物理防御は20だからHPは200、お守りONだと20%増量で240まで伸びる。確かに大きい。でも、それでも、である。
「そもそも僕、そこまでピンチに陥ったことなくない? できる親友のおかげで」
「俺のおかげってところはわかってんだな……」
「いつもありがとうイオくん!」
「くっそ、どういたしまして」
これだから文句も言えねえ、とか言うイオくんですが、今の今まで文句言われてた気がします。うーん、でも確かに前衛にプレッシャーをかけ続けるのはあんまりよろしくないので、えーと、確か取得可能スキル一覧に……。
「イオくん、ここでSP5の固定スキル<最大HP上昇(小)>というものがありまして」
「今すぐ取得」
「即断即決するじゃん……!」
まあ取るけど。SPは今47あるから、5くらいなら痛くない。で、取得すると(小)ってどのくらい? って話なんだけど、これはわかりやすく5%だ。
「(小)取ったら(中)が出てる可能性があるから検索してみろよ」
「さすがイオくん詳しい。……ありました!」
「今すぐ取得」
「ハイ」
ちなみに、レベルのある基本スキルや発展スキルと固定スキルは共存できるけど、固定スキルと同じ効果の固定スキル同士は共存できないので、効果の高い方に上書きとなる。<最大HP上昇(中)>はSP10も使うけど、背に腹は変えられないのである。
「中は10%上昇であります!」
「お守りの半分じゃねえか」
むむっと顔をしかめるイオくんだけど、220もHPがあったらもう十分だと思うよ僕は。それに、条件を満たしたら(大)も出てくると思うし。いや、もしかしてもう出てるかも? と思って探してみたけど、(大)は文字だけ出ていてグレーアウトしていた。まだ取得できないという意味である。だが逆に、文字列がすでに取得可能スキル一覧にあるということは、もうすぐ取得できるという意味でもある。
それに、スキルならお守りと違って、期限切れがないもんね、お得お得。
「これ取得条件長押しで見れたよね、確か。えーと……物理防御と魔法防御の数値差が3倍になったら(大)が取れるらしいから……あと11かな」
「ふむ。ナツの物理防御は20だから、60までは魔法防御優先で数値振って、可及的速やかに取得するように」
「了解であります!」
「ちなみに、固定スキルで段階を踏んで数値が大きくなっている系のスキルは、段階が進むごとに消費SPが多くなる。SPをしっかり貯めておけよ」
「はーい」
今ごそっと減ったけど、まだ30は残ってるからね、どんとこい。……あ、待ってもしかして他の固定スキルでも進化系が取れる物があったりしませんかこれ? と思って探してみたら、出てたよ<ヘイト軽減Ⅱ>が。でもこれ、最初にⅠで20%も軽減されるのに、Ⅱをとっても軽減率は25%にしかならないんですが、しょぼくない? しかもそのしょぼさでSPを10も取るらしい。えー?
という衝撃の事実をイオくんに投げかけてみたところ、「確かに」と頷いたイオくんである。
「固定スキルでローマ数字のⅠとかⅡとか付いてるやつは全部そうなんだよ。Ⅰで20%まで上がるくせに、それ以降は5%ずつしか上がらない。最大値がⅤで最高40%まであがるけど、Ⅱ以降全部SP10だ」
「SP重いね」
「だからⅠ以降は取らないってやつが多いな」
俺は取ったけど、とイオくんが言う。何を取ったのかというと、<ヘイト増幅Ⅱ>という、ある意味イオくんの必須スキルである。イオくんとしては、これをⅤまで上げて40%増にしたいらしい。
うーん、だとしたら僕が無理して<ヘイト軽減Ⅱ>を取らなくても良さそう。他になんかあったかな……と確認していたら<MP軽減Ⅱ>を見つけたので、こっちにSP10を突っ込んで取得した。これは僕もⅤまで取得したい。
「固定スキルかあ……俺固定スキルほとんど取ってないんですよねー」
と嘆くのは如月くん。固定スキルはスキルレベルがないので、SPが欲しい如月くんから見ればあんまり魅力がないのかもしれない。長い目で見ればスキルレベル上げてSPの還元があったほうがお得だしね。
「如月、<剣技>取ってないのか? あれあると便利だぞ」
「あー、それほしいとは思ってるんですけど、SP10を貯めるところから始めないと」
「取捨選択をしろ?」
「がんばります……!」
正論パンチを繰り出したイオくんは、その後「そろそろ飯だぞ」と言い残してテーブルへ戻っていった。そう言えばもうすっかり周囲も暗くなっているし、お腹も空いたな! 如月くんが「俺、ダナルさん起こしてきますね」と言って自分のテントへ向かい、僕は右側にすっと視線を落とす。きらきらのオパールアイと当然のように目が合った。
むずかしいおはなしおわったー?
ずっと隣で待機していた空気の読めるテトさんがにゃあんとすり寄ってくるので、「待ててえらい!」と褒めつつわしゃわしゃと撫で回してみる。テトはちゃんと空気読めるので、スキルの話とかリアルの話とかしてると会話に入ってこないんだよね、賢い!
「そう言えばロミちゃんはご飯どうするのかな? イオくんに出してもらう?」
ロミはねー、たべたことないからわかんないっていうのー。だからねー、イオにおねがいしてモンブランをだしてもらうのー! おいしいのきわみをあじわうとよいのー!
ふんすっと気合を入れるテトさん、自分が食べて一番美味しかったものを最初に食べさせようとは、出し惜しみしないテトさんらしくてとてもよろしい。でもヴェダルさんのモンブランは残数少ないんだよねえ。
「いきなり一番美味しいのを食べてもらうのは、ちょっと刺激が強すぎるかもしれないよテト……!」
むむー? それはいちりあるの。あのしょうげきをさいしょにあじわってしまったらもどれないかもしれないの……。
「最初だからね、これからたくさん美味しいものを知ってもらうためにも、マイルドなところから食べてもらおうか」
おいしいものたくさんある……。イオきょうなにつくったかなー?
「一緒に見に行こう」
ということで、料理人のもとへ向かう僕達である。決してお腹すいたので催促している訳では無いけれども、イオくんの晩ごはんに期待するなという方が無茶というもの。わくわくしちゃうのは仕方ないよね!
「またお前たちは同じ顔してんなあ」
と呆れ顔のイオくんの手元を覗き込むと……むむ、匂いだけならシチューっぽいけど……。
「ミルク粥とリゾットの中間みたいなのが出来た」
「なるほど、美味しそうということだけわかった!」
おいしそうなのー。しろいたべものすてきー。
一応ダナルさんの分だけ味薄めにして、僕達の分は胡椒とバターをしっかり効かせた濃いめの味付けにしているという。そういう気遣いができるところがさすがイオくんである。優しい!
「具はベーコンとブロッコリーのみ、ナツと如月は好みで粉チーズ振ってよし」
「たっぷりかけましょう!」
テトもー! テトもたっぷりー!
「わかったから座れ。ロミはどうするんだ?」
あ、そう言えばロミちゃんにモンブラン食べさせたいというテトをなだめて連れてきたんだった。どうかなテトさん、リゾットなら食べやすいんじゃない? ほらイオくんに1口味見させてもらおうよ。……だよねー! おいしいよねー!
「イチヤの喫茶店で買ったモンブランなら、食後のデザートに出すよ?」
すばらしいプランなのー! ロミよんでくるー!
大満足らしいテトさんは、意気揚々とロミちゃんを呼びに行くのであった。ロミちゃんは、ダナルさんの寝ているテントのそばにずっといるんだよね。テントから出てきたダナルさんたちとも合流してこっちに向かってくるので、僕もテーブルにランチョンマットを広げてスプーンなどを用意しておいた。
「俺達はリゾットだけだと足りないし、おかずはいくつか出しとくから適当に摘んでくれ」
「ありがとうイオくん、さすが万能料理人!」
「料理人じゃねえんだけどなあ」
ぼやきつつサラダをぱぱっと作って、生ハムみたいな肉を乗せるイオくんであった。む、このお肉初めて見るやつだな? と思って<鑑定>したところ、アイスラビットの肉(生食専用)との表示……ああ、ダンジョンで拾ったお肉だったっけ、存在を忘れてたよね。
「生ハムサラダみたいで美味しそう」
「オリーブオイルと塩胡椒にレモン汁で適当にドレッシング作ったから、これで」
「適当にドレッシング作れるイオくんの料理力の高さだよ。さすがイオくん、手際が良い」
しみじみ感心する僕である。ドレッシングを手作りするという発想がまずえらい。イオくんはマヨネーズもドレッシングもやろうと思えば作れるらしい。やっぱりプロじゃん。
「夏場はやらん。食中毒とか怖い」
「なにそれ怖い」
そっかー、手作り品は保存が効かないもんね、そりゃ怖いね。
「すっかり甘えてしまって、申し訳ないね」
と謝罪の言葉から入ったのはダナルさん。まだ少し顔が赤いかな? 熱が完全に下がったわけではなさそうだ。そんなダナルさんを心配そうに見つめつつ、ロミちゃんは椅子の隣に座り込む。
ロミちゃんは体が大きいし、椅子に座るのは難しそうだからそこでよいとして、ダナルさんの隣には如月くんが、そして向かい側にテト、僕、イオくんが座る。リゾットはすでに配り終わっていた。
「ほら、ロミにもやれって家のテトから」
深めのボウル皿にリゾットを入れてロミちゃんの前に置くイオくん。ロミちゃんは上品に頭を下げて、お礼を言っているかのようだ。もちろんテトには猫のお皿にリゾットを入れてもらっている。あ、はい【適温】。テトは猫舌だもんねー。
しかし、なんか人数が増えると勝手に手を付けるのがためらわれてしまうな。誰かが掛け声を入れないと……良し!
「美味しそう! いただきます!」
食いしん坊代表として僕が先陣を切りましょう! さあクリーミーなリゾットよ、僕を楽しませるのだ……! って、これめっちゃ美味しいな!? チーズとバターと胡椒の組み合わせでまずい訳ないって知ってるけど、なにこれいくらでも食べれる……! あ、サラダありがとう、アイスラビットの肉……う、うまあい!? えー!? 生ハムと全然違うこれとろけるよ! 舌の上で肉がとろけるとか嘘でしょ、衝撃、衝撃です!
「アイスラビットの肉緊急入荷希望!」
「どこで手に入るのか調べてから再提出しろ?」
そういえばこれダンジョン産じゃん。え、アイスラビットってどこに居るの?